誤嚥性肺炎と歯周病の関係性

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「Floss or Die」という言葉があります。

 

デンタルフロスをしますか?それとも死を選びますか?という意味です。

1997年にアメリカの歯周病学会の歯周病予防のスローガンに使われていた言葉です。

 

デンタルフロスをしないことで死ぬわけではありませんが、無関係ではないのをこの言葉が教えてくれています。

 

なぜなら、歯周病は口に悪影響を及ぼすだけでなく、全身の健康に影響が出るからです。

 

特にここ数年は、高齢者の死亡原因として多い誤嚥性肺炎も歯周病と深い関係があるのがわかっています。

 

そこで今回は、誤嚥性肺炎と歯周病の関係性について解説していきます。

目次

1 誤嚥性肺炎の怖さ

そもそも人は、食べ物や唾液などを飲み込むときに嚥下という動作を行います。

口の中の食べ物を飲み込んで、食道を通って胃に運ばれるのが正常な嚥下です。

 

一方で誤嚥とは、この嚥下が正しくできていないことを言います。

 

誤嚥では、食べ物や唾液などを飲み込んだ後に食道ではなく、気管を通って肺の中に入ってしまいます。

 

その後、何度も誤嚥を繰り返すと誤嚥性肺炎を引き起こします。

 

つまり誤嚥性肺炎は、誤嚥によって唾液や細菌が肺の中に入るのが原因で、肺炎を起こすことです。

 

肺炎は、2,011年の厚生労働省が公表している死因別・死亡率データで、1位のガン(悪性新生物)、2位の心疾患に続いて3位になるほどです。※1

参考資料 :※1平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況

 

特に75歳以上の方の約94%は、肺炎が死亡原因です。

90歳以上の場合には、肺炎の死亡順位が2位になっています。

 

この結果から、誤嚥性肺炎は高齢になるほど、命を落とす危険性のある病気になります。

2 嚥下機能が弱くなる原因

厚生労働省の結果からもわかるように、肺炎で亡くなる方のほとんどが高齢の方です。

 

それは、高齢になるにつれて、嚥下反射や咳反射(異物が気管に入ったときに外に出そうとする反射)の低下が原因です。

 

例えば、喉頭蓋(こうとうがい)という部分は、嚥下する瞬間に気管に蓋をするように倒れ込みます。

 

この時に、食道の入り口が開いて、食べ物や唾液を押し込んでいきます。

 

しかし、食道の開きが不十分だと、食べ物や唾液が気管に侵入してしまい、誤嚥を引き起こします。

 

このように、加齢が原因で体の筋肉量が減少するように、食道の筋力低下や嚥下反射のタイミングのズレによって誤嚥しやすくなります。

 

他にも、加齢で唾液が出にくくなると、飲み込みやすい状態に食べ物をまとめられなかったり、しっかりと噛み砕けずに塊のまま食べ物を飲み込もうとしたりすると、誤嚥を引き起こしやすいです。

 

また、高齢の方は入れ歯を使用している方が多いでしょう。

 

入れ歯の種類によっては、入れ歯が大きく分厚くて舌の動きを制限してしまい、食べ物がうまく飲み込めず嚥下機能が低下してしまう恐れがあります。

3 歯周病が肺炎を引き起こす理由

歯周病は、歯の周りの組織を壊す病気です。

 

「静かなる病気」とも呼ばれていて、自覚症状がないまま歯を支えている顎の骨を溶かしてしていきます。

 

症状が重症化すると、抜歯になるケースも少なくありません。

歯周病の原因は、口のあらゆるところに住み着いている歯周病原因菌です。

 

歯磨き不足で、細菌の塊である歯垢が多く残った状態は、歯周病原因菌を活発化させて重症化させる可能性があります。

 

嚥下機能が衰えている方が歯周病になっている場合は、食事のときに上手く嚥下ができず、食べ物や唾液と一緒に歯周病原因菌も気管に流れやすいです。

 

気管を通って歯周病原因菌が肺の中に侵入した場合には、肺炎や呼吸器疾患を引き起こす可能性があります。

 

歯周病原因菌は、他の口の中の細菌とは違い炎症性物質を出すため、肺炎が悪化する傾向があります。

4 誤嚥性肺炎の対策

誤嚥性肺炎を予防するためには、次の方法が効果的です。

4−1:セルフケア

セルフケアは、自宅で行う歯磨きです。

歯周病原因菌は、歯垢を住処にしています。

 

しっかりと歯磨きで歯垢を除去するのが、歯周病予防に効果的です。

とはいえ、高齢の方の場合には、自分で歯磨きをするのが難しい方もいます。

 

例えば、加齢による腕の筋肉の低下で上手く歯ブラシが動かせない方がいるとおもいます。

 

そんな場合には、電動歯ブラシがオススメです。

歯に当てるだけで汚れを落としてくれるので、効率的に歯磨きができます。

 

最近では、腕の負担にならない軽量タイプの電動歯ブラシがあり、疲れにくくなっています。

4−2:定期的な検診

歯科医院での定期的な検診は、歯周病の早期治療、早期発見に繋がります。

 

歯周病は痛みがないため、気づいたときには症状が深刻化しているケースも少なくありません。

 

定期的に検診に通っている場合には、初期段階の歯周病に気づくことができ、重症化する前に対処が可能です。

 

特に、高齢の方は自身で磨きにくい部分がでてきて、磨き残しが多くなる傾向があります。

 

定期的にプロのクリーニングを受けて、口の中を清潔に保ちましょう。

4−3:食事中の姿勢

誤嚥を起こさないように、食事中の姿勢にも気をつけることが大切です。

 

例えば、片側だけに麻痺があっても椅子に座れる場合には、麻痺している腕を机の上に置いて傾かないようにします。

 

また、背中がまるまった状態では顎がズレてしっかりと咀嚼できないので、背中にクッションを引いておきます。

 

食べ物を口の中に入れた後に、顎をあげてしまうと、誤嚥を起こす可能性が高いです。

 

そのため、口の中に食べ物を入れたあとは、顎をひいた状態でゆっくりと噛むのが良いでしょう。

4−4:口の筋肉のトレーニング

嚥下するときには、口を閉じているのが基本です。

 

しかし、口周りの筋肉が低下している場合には、口がしっかりと閉じずに少し開いた状態で食べ物を飲み込もうとするので、喉の奥まで食べ物が送り込まれずに手前の気管の中に入ってしまいます。

 

そういったトラブルが起きないように、口の周りの筋肉を鍛える口腔機能訓練を実施している歯科医院が増えています。

 

例えば、唇の閉鎖訓練では、指で舌に負荷をかけながら「パ」「タ」「カ」「ラ」と言いながら発生するブローイングという方法があります。

 

他にも、ストローを使って息を吹く練習をして、唇周辺の筋肉を鍛えていきます。

 

また、嚥下体操といって食事前の準備体操があります。

 

食事前の習慣として体操をすることで、体や脳にこれから食事をする意識が芽生えて、誤嚥防止になります。

 

嚥下体操は首や肩、口の中の筋肉など、摂食や嚥下機能に関係ある部分を動かしてリラックスした状態で、スムーズに食事ができるようにするのが目的です。

 

体操の内容は、姿勢→呼吸→首→肩→口→頬→舌→発声→咳払いといった流れで、順番に体を動かしていきます。

 

首や肩などを強く動かしすぎると、痛める原因になります。

担当医の指導を守って運動するようにしましょう。

 

こういったトレーニングや体操は、口の中の唾液量を増やす効果があります。

 

唾液には、汚れを洗い流す洗浄作用や、細菌の増殖を抑える効果があり、歯周病予防に繋がります。

5 歯周病予防は全身の健康にもなる

歯周病は、誤嚥性肺炎と深い関係にあります。

 

特に、歯周病原因菌が誤嚥で肺の中に侵入してしまうと、重篤な肺炎や呼吸器疾患を引き起こす可能性があります。

 

自宅での歯磨きケアと、歯科医院でのプロのケアの両方をしっかりと行い、健康な口の状態を管理していくのが歯周病予防に効果的です。

 

歯周病予防をして、口だけでなく体の健康も守っていきましょう。

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