歯周病が認知症を悪化させる?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

歯周病は、歯を失うだけでなく脳にも影響を与えるかもしれません。

特に、次の項目に当てはまる方は、注意が必要です。

 

・歯周病治療を途中でやめてしまった

・もう何年も歯医者に行っていない

 

近年では医療の研究も進んでいて、歯周病が認知症を悪化させる可能性がわかっています。

 

この記事では、歯周病と認知症の関係性や、歯周病に効果的な対策などについて簡単に解説していきます。

目次

1歯周病と認知症について

歯周病と認知症の関係性を知る前に、まず歯周病と認知症について簡単に把握しておきましょう。

1−1:認知症とは?

そもそも認知症とは、病気によって脳の神経細胞が破壊されて起こる症状のことです。

 

認知症は、脳の老化とは違います。

脳の老化は、物忘れをしている自覚があり、忘れていてもヒントがあれば思い出すことができます。

しかし、認知症は自覚症状がなく、ヒントがあっても思い出すことができません。

認知症が進行すると、記憶障害言語障害が起こり理解力や判断力が徐々に失われて、日常生活に支障が出るようになります。

認知症にはいくつか種類があって、その中でもアルツハイマー型認知症は全体の約65%以上の割合を占めるほどです。

1ー2:歯周病とは?

歯周病は、歯周病菌による感染症です。

歯周病菌は、唾液や歯の表面についている歯垢の中に存在しています。

 

歯垢は、食べかすではなく細菌の塊です。歯垢がお口の中に長時間あるほど、菌が増殖して炎症力を増していきます。

 

その結果、多くの歯周病菌が歯茎の中に入り込み、歯を支えている骨や組織を溶かしていきます。

歯周病は痛みがなく進行するため、気づいたときには歯がグラグラしていて、抜歯するしかない状態になる場合も少なくありません。

2歯周病が認知症を悪化させる原因になる可能性がある

まず、アルツハイマー型認知症になる原因は、アミロイドベータ(Aβ)といった異常なタンパク質が脳内に蓄積してしまうことです。

このアミロイドベータが脳内に蓄積することで、神経細胞が死んで記憶障害や言語障害などを引き起こします。

今までは、アミロイドベータが脳内に蓄積する原因が不明のままでした。

しかし、最近の研究ではアルツハイマー型の認知症患者さんの脳内から、歯周病菌の一種であるジンジバリス菌(P.gingivalis )が発見されました。

さらに、このジンジバリス菌は、脳に炎症を引き起こすこともわかっています

2017年に九州大学と中国の研究チームが、次のような研究結果を公表しています。

実験で「歯周病菌を腹部に投与したマウス」と「正常なマウス」の2つの状態に分けたところ、歯周病にかかっているマウスは、アルツハイマー認知症の原因物質であるアミロイドベータが、正常なマウスと比べて約10倍に増えていることがわかりました。

また、アミロイドベータが脳に蓄積したマウスは、認知症を発症したこともこの研究でわかっています。

参考:歯周病によるアルツハイマー型認知症への関与解明の新展開

3歯周病がさまざまな病気を引き起こす

歯周病は、認知症の他にもさまざまな病気の原因になることがわかっています。

3−1:歯周病菌が全身の血液を回る?

歯周病菌がどうして認知症や全身的な病気までに発展するかというと、歯周病菌が「菌血症(きんけつしょう)」を引き起こすからです。

 

菌血症とは、血液を通して体の中に菌が入る現象のことです。
歯周病にかかっている歯茎は、炎症を起こしていて歯茎の内部まで傷がある状態です。

この歯茎の状態で何らかの刺激を加えると、傷口から血管の中に歯周病菌が入り込んで全身に回っていきます。

その結果、さまざまな全身疾患を引き起こすようになるのです。

3−2:歯周病が原因で起こる病気

歯周病菌が血管を通り全身に回ることで、認知症以外にも次のような病気を引き起こすことがあります。

・糖尿病

・心臓病

・脳梗塞

・早産・低体重児出産

いくつかの歯周病菌の中でも特に、ジンジバリス菌(P.gingivalis)という菌が、重度の歯周病を引き起こしたり、上記の全身疾患を強力に誘発したりすることが疫学データでわかっています。

参考:歯周病の地球規模の疫学とリスクファクター

4歯周病に効果的な「3つの対策」

歯周病の改善や予防に効果的な対策は、次の3つです。

4−1:歯周病治療

まず歯周病には、次のような段階があります。

歯周病の段階 症状・状態
軽度歯周病 ・歯茎が赤く腫れていて、歯磨きのときに出血がある。

 

・歯の周りの骨が溶け始めている状態。

 

中度歯周病 ・歯茎の中に細菌が入り込んで、骨が半分ほど溶けている状態。

 

・歯茎が下がって歯が長く見える。

 

 

重度歯周病 ・歯を支えている骨がほとんど溶かされている状態。

 

・歯がグラグラと揺れる。

 

・膿がでることがある。

 

・強い口臭が発生する。

軽度の歯周病の場合は、歯磨きで炎症が改善することが多いです。

しかし、中度〜重度歯周病の場合は、菌が歯茎の中に入り込んでいて歯磨きだけでは除去できません。

そこで歯周病治療では、歯の根にこびりついた歯垢や歯石などを取って、菌の数を減らしていきます

歯茎内の細菌が減少すれば、内部にできていた傷が修復して、自然と治るようになります。

つまり、歯茎内に歯垢や歯石がある状態では、歯周病は改善せず悪化していく傾向があります。

歯周病治療が必要と言われた場合には、最後まで治療を受けるようにしましょう。

4−2:正しい歯磨きを身につけてサポート道具を使う

菌が血管の中を通って全身に回る菌血症は、歯磨きや歯石除去などの刺激でも起きるケースがあります

そのため、歯茎の状態や歯周病の進行状況によって、歯磨きのやり方を変える必要があります。

例えば、歯茎の炎症が強く出ているときは、硬い歯ブラシでゴシゴシと歯茎を磨いてしまうと傷ができて、そこから菌が血管を通して全身に回る可能性があります。

歯茎の炎症が強い場合には、柔らかめの歯ブラシを使って優しく歯磨きをするのがオススメです。

また、歯周病を改善し予防するには、歯についている歯垢をしっかりと落とすことが大事になります。

歯科医院では、お口の状態に合った歯磨きの方法を教えてくれるので、正しい歯磨きの仕方を身につけることが可能です。

他にも歯科医院では、歯磨きの仕方だけでなくデンタルフロスや歯間ブラシといった、サポート道具の必要性や使い方も教えてくれます。

4−3:定期的なメインテナンス

毎日の歯磨きと同様に、定期的なメインテナンスは歯周病予防に効果的です。

メインテナンスでは普段のケアでは、取れない汚れを除去したり、今のお口の状態を把握できたりします。

従来では、歯が痛くなってからや噛めなくなってきてから歯医者に行くのが一般的でした。

しかし、それでは症状が進行して歯を残すことが手遅れになってしまいます。

特に歯周病は、痛みがなく気づきにくいので、早めの治療をするかによって歯の運命が決まってきます。

歯磨きで血が出てきたときは、歯茎からの警告サインなので、お口の状態を早めに歯科医院で診てもらうのがオススメです。

5歯周病予防は認知症予防に繋がる可能性がある

歯周病は、認知症を引き起こしたり、悪化させる可能性があります。

歯周病を治療せずに放置していると、歯だけでなく全身の健康を失うことも考えられます。

逆に、歯周病治療や予防をすることで、認知症を防ぐ可能性もあるということです。

将来を健康で楽しく過ごすためにも治療を途中で放置せず、毎日の歯磨きや定期的なメインテナンスで歯周病予防をしていきましょう。

この記事が気に入ったら「評価」ボタンを押してください!

★★★★★

評価する