出産で歯がボロボロに?赤ちゃんにうつる?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「出産すると歯がボロボロになる」「虫歯が赤ちゃんにうつる」と聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

 

この記事では、妊娠・出産の歯への影響やその理由、赤ちゃんにうつるか、歯科治療におすすめの時期、対策などを解説します。

目次

1.出産すると歯に影響?その原因とは

妊娠・出産を機に、口内環境の悪化などにより、虫歯や歯周病のため歯がボロボロになってしまうケースは多いといわれています。

 

「お母さんのカルシウムがお腹の赤ちゃんにいくから」とよく言われますが、医学的・科学的な根拠はありません。今のところわかっている主な原因をご紹介します。

1‐1.妊娠による食生活の変化

妊娠するとつわりの影響により、食生活が変化し、虫歯や歯周病になりやすいといわれています。主な変化は下記の通りです。

 

・すっぱいものを好む

妊娠中は、トマトやレモンといった酸味の強いものを食べたくなりがちです。すっぱいものを多くとると、口の中が酸性に傾き、歯が溶けて虫歯になりやすくなります。

 

・甘いものを好む

妊娠中の味覚の変化により、甘いものをたくさん食べてしまう方も少なくありません。糖分は虫歯菌の栄養になるので、虫歯になりやすくなります。

 

・間食が多くなる

妊娠中はつわりにより規則正しい食事ができなくなったり、お腹が大きくなると胃が圧迫されて食べられる量が減ったりすることにより、間食の回数が多くなる傾向にあります。間食の回数が多いと、口の中に食べ物がある時間が長くなり、虫歯菌の栄養源となって、虫歯になりやすい状態が続きます。

 

1‐2.妊娠性歯肉炎

妊娠中の歯肉炎は非常に多く見られ、「妊娠性歯肉炎」という名前がついています。妊娠中は身体を妊娠に適した状態に整えるため、「プロゲステロン」「エストロゲン」という2種類の女性ホルモンの分泌量が増加します。

 

プロゲステロンとエストロゲンは、歯周病菌・虫歯菌の栄養源となり、歯肉の血液循環にも影響を与えます。そのため、普段よりも歯周病になりやすくなり、進行スピードも高まるのです。歯肉の腫れが多く見られ、出産後も放置し続けると歯が抜け落ちてしまいかねません。

1‐3.唾液量の減少

妊娠中は、女性ホルモンのバランスの変化や、妊娠による不安・緊張といった気持ちの変化などにより、唾液量が少なくなりがちです。

 

唾液には、口の中の汚れを洗い流し、殺菌する作用があります。唾液量の減少により、細菌が増殖しやすい状態となり、虫歯や歯周病の原因となります。

 

さらに、唾液そのものが酸性に傾くため、虫歯菌がつくる酸をおさえにくくなり、歯が溶けやすくなります。

1‐4.免疫機能の低下

お腹の中の赤ちゃんは、お母さんの身体にとっては「異物」だといえます。そのため、異物を排除する働きを持つ免疫機能から胎児を守るため、「免疫寛容(めんえきかんよう)」と呼ばれる作用が働きます。

 

免疫寛容により、免疫力がおさえられるため、妊娠中は感染症にかかりやすい状態となります。虫歯や歯周病菌にも、通常時と比べてかかりやすくなり、歯がボロボロになる可能性があります。

1‐5.歯のメンテナンスが不充分

妊娠中は、つわりなどの体調不良により充分に歯磨きができなくなる場合が少なくありません。また、出産後も赤ちゃんの世話に追われて、つい歯のメンテナンスは後回しになりがちです。

 

そのため、口の中に汚れが溜まって細菌が増殖しやすい環境になり、虫歯や歯周病のリスクが高まります。

2.歯がボロボロだと赤ちゃんに影響?

「虫歯が赤ちゃんにうつる」と心配されている方も多いのではないでしょうか。ここでは、出産時と出産後に考えられる赤ちゃんへの影響をそれぞれ解説します。

2-1.出産時の赤ちゃんへの影響

お母さんが歯周病にかかっていると、妊娠22週から37週未満で出産する「早産」や、出生体重が2500gで生まれる「低体重児」のリスクが7.5倍にもなるといわれています。

 

出産が近づくと、女性の身体は「プロスタグランジン」と呼ばれる物質を通常時の10~30倍分泌します。プロスタグランジンの増加により、子宮が収縮し分娩が始まるのです。

 

しかし、歯周病にかかっていると歯茎の炎症をおさえるためにプロスタグランジンが分泌され、身体が分娩が始まったと認識し、子宮の収縮が促されます。そのため、準備が完了しないまま出産し、早産・低体重児の原因となるのです。

 

妊娠中の歯周病は放置せず、適切な対策をとる必要があります。

2-2.出産後の赤ちゃんへの影響

虫歯がうつるといっても、お腹の中にいる赤ちゃんにうつるわけではありません。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中に虫歯菌は存在せず、日常生活で両親をはじめ周りの大人から感染します。

 

感染の原因となる主な行動は以下の通りです。

・口移しで食べさせる

・口と口でキスする

・スプーンやはし、ストローの使い回し

・口でふーふー冷まして食べさせる

・同じタオルを使う

 

つい子どもへの愛情やお世話のためにしてしまいがちな行動ですが、大切な歯を守るために、赤ちゃんと大人で使うものをわける、キスはほっぺにするなどの工夫をしましょう。

 

奥歯が生え始める3歳(36カ月)くらいまでは、特に虫歯菌が感染しやすい時期なので、注意が必要です。

3.妊娠中・母乳育児中の歯科治療のタイミング

妊娠中・母乳育児中は、自分の体調や赤ちゃんへの影響が気になって歯科治療をためらう方も少なくありません。

 

しかし、不調があるのにもかかわらず放置し続けると、虫歯・歯周病が進行し、痛みがひどくなる、治療にお金と時間がかかるなどのデメリットがあります。

 

歯科治療に適したタイミングを紹介するので、早めに治療を受けましょう。

3-1.妊娠中の歯科治療のタイミング

妊娠中の歯科治療は、どの時期でも受けられますが、体調が安定している妊娠中期(5~7カ月)がおすすめです。

 

妊娠初期は、つわりや緊張、ストレスなどで気分が悪くなる場合が少なくありません。妊娠後期は、お腹が大きくなるため治療のための姿勢が辛く感じる場合もあるでしょう。また、里帰りなど出産準備が忙しくなる時期でもあるので、妊娠中期の間に治療しておくのがベストです。

 

妊娠中に歯科治療を受ける際は、必ず妊娠中である旨と何カ月かを伝えてください。お腹の赤ちゃんに影響しない薬を使用する、レントゲンなどの放射線を防ぐため防護エプロンを用意する、身体の負担を軽減できるよう体勢を工夫するなどの配慮を受けられます。

3-2.母乳育児中の歯科治療のタイミング

母乳育児中でも歯科治療自体は問題ありません。ただし、母乳への影響を防ぐため、使用できない鎮痛剤や抗生物質があります。診察時に必ず、母乳育児中である旨を伝えましょう。

4.妊娠中・出産後の虫歯予防のコツ

妊娠中はつわりなどの体調不良により充分に歯のケアができない場合が、産後は赤ちゃんの世話に忙しく歯のケアまで手が回らない場合が多いと思います。

 

無理なくできる対策を紹介するので、できるものから取り入れましょう。

 

4-1.できるときに歯磨きをする

つわりなどの体調不良時に、無理に歯磨きする必要はありません。体調が良い時に、しっかり歯磨きをすれば虫歯や歯周病を予防できます。

 

歯ブラシを口に入れると気持ち悪い場合は、子ども用の小さな歯ブラシを使用すると、吐き気が軽減されます。その他、歯磨き粉の臭いが気になる場合は、歯磨き粉をつけずにブラッシングするなど、できる範囲で歯磨きするのが大切です。

 

4-2.朝はなるべく歯を磨く

夜は唾液の量が減り、口の中で菌が増殖しやすい時間帯です。そのため、起床時には口の中に多くの菌が存在します。

 

赤ちゃんの寝かしつけやつわりなどで、前の日の夜に歯を磨けなかった場合は、なるべく朝の歯磨きをするようにしましょう。

4-3.うがいをする

歯磨きが辛い場合や時間が取れない場合は、うがいをするだけでも口の中の汚れを落とせます。特につわりによって吐いてしまった場合、口の中が酸性に傾いているので、うがいで洗い流すとよいでしょう。

 

殺菌作用のあるうがい薬を使用するとより効果的です。

4-4.デンタルフロスや歯間ブラシを使用する

食べ物のかすや汚れが溜まりやすい歯の隙間を効率的に掃除できるよう、デンタルフロスや歯間ブラシを使用するのをおすすめします。

 

ブラッシングだけでは取り除き切れない汚れもきれいにできるので、歯の手入れをコンスタントにできない妊娠中や出産後に、ぜひ取り入れてください。

 

4-5.甘いものを控える

味覚が変わる妊娠中や疲れがたまりやすい育児中は、甘いものが食べたくなる場合があります。しかし、糖分をとりすぎると虫歯の原因になります。ジュースやお菓子はなるべく控えるようにしましょう。

 

お菓子のなかでもチョコレートやラムネといった溶けるものは、口全体に糖分が広がるので特に注意が必要です。

4-6.間食はキシリトール入りのガムにする

間食をしたい時は、無理に我慢するのではなくガムを噛むとよいでしょう。ガムを噛むと口の中が刺激され、唾液量が増え、口の中の汚れを改善できます。

 

ガムを選ぶ際は「キシリトール」入りのものがおすすめです。キシリトールとは、砂糖などとは異なり虫歯の原因にならない天然の甘味料です。虫歯予防のために広く使われていて、安全性も確認されています

4-7.定期検診を受ける

できれば妊娠中から定期検診に行き、歯の状態のチェックやクリーニング、治療を受けるのをおすすめします。

 

体調や忙しさの面から検診に行くのは難しいかもしれませんが、治療や予防をしっかりすることで、赤ちゃんへの影響や虫歯菌の感染を最小限におさえられます。

 

また、かかりつけの歯科クリニックがあれば、赤ちゃんの歯に関する相談もしやすく、いざという時も安心です。自治体によっては妊娠中に無料で歯科検診を受けられる場合もあります。

5.出産によって歯がボロボロになることも!歯科医師に相談して正しい対策を

妊娠中の身体の変化や産後の忙しさによるケア不足などが原因で、出産をきっかけに歯がボロボロになってしまう場合があります。

 

妊娠中に歯周病にかかっていると、早産や低体重児などのリスクが高まります。また出産後に、虫歯のあるお母さんが口移しで食べ物を与えた場合など、周りの人から虫歯菌が赤ちゃんにうつる可能性があります。

 

また、お母さん本人も腫れ・痛み・出血などの症状が出て、最終的には歯を失ってしまうかもしれません。治療費や治療時間も虫歯や悪化すればするほどかかるので、早めの対策が大切です。

 

ブラッシングやうがいなどのセルフケアを心がけるのはもちろん、歯科クリニックでしっかり検診を受けましょう。

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