歯槽膿漏と歯肉炎はどう違うの?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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歯茎の症状として「歯槽膿漏」や「歯肉炎」という言葉を耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。

 

実は、歯槽膿漏と歯肉炎は別の病気ではなく、歯茎の炎症がどれくらい進行しているかによる違いです。この記事では、歯槽膿漏と歯肉炎の違いやそれぞれの概要、進行を防ぐ方法などを解説します。

目次

1.歯周病と歯槽膿漏・歯肉炎の関係

歯槽膿漏と歯肉炎は、歯周病の進行度合いの違いで区別されます。ここでは、歯周病の概要や進行について解説します。

1‐1.歯周病とは

歯周病とは、歯茎などの歯周組織が歯周病菌に感染して起こる炎症性疾患の総称です。歯磨きなどのメンテナンスが不充分だと、歯垢などの汚れが「歯周ポケット」と呼ばれる歯と歯茎の間の溝に溜まります。歯垢には歯周病菌が多く潜んでおり、その菌が歯周組織にうつり毒素を産生することにより炎症が起こります。

 

炎症が起こると、赤く腫れる・出血する・痛むなどの症状が出ます。歯周病が進行すると、歯周ポケットが深くなり歯垢が溜まりやすくなり、炎症が悪化していきます。

 

さらに、歯を支えるあごの骨である「歯槽骨(しそうこつ)」にまで炎症が及ぶと、骨が溶けて歯がグラつくようになります。最悪の場合、歯が抜けて落ちてしまう恐ろしい病気です。

 

歯周病患者は非常に多く、厚生労働省が実施した「平成28年歯科疾患実態調査」では、30代以上の日本人の3人に2人が歯周病だという結果が報告されています。

 

また、公益財団法人8020推進財団が2018年に行った「永久歯の抜歯原因調査報告」によると、日本人が歯を失う原因は、虫歯をおさえて歯周病が1位という結果が出ており、全体の約40%を占めています。

1‐2.歯周病の進行

歯周病は、(1)歯肉炎(2)軽度歯周炎(3)中等度歯周炎(4)歯槽膿漏の4段階で進行します。多くの場合、急速に悪化するのではなく徐々に進行していくので、歯科クリニックで定期健診を受け、早めに治療するようにしましょう。

 

(1)歯肉炎:歯周ポケットの深さ1~3mm

歯茎に軽い炎症が起きて赤く腫れた状態です。歯磨き時に出血することがあります。また、健康な状態の歯茎と比べ、歯肉の溝が深くなります。

 

(2)軽度歯周炎:歯周ポケットの深さ4mm未満

歯肉の炎症があごの骨にまで広がり、歯槽骨や歯槽骨と歯根の間でクッションの役割を担う「歯根膜(しこんまく)」が溶け始めています。歯茎が腫れ、冷たいものがしみる、口臭が強くなるなどの自覚症状があらわれます。

 

(3)中等度歯周炎:歯周ポケットの深さ4~6mm未満

あごの骨の破壊が進み、3~5割ほど溶けてしまっている状態です。歯茎の腫れや出血、膿、歯のぐらつきが見られます。

 

(4)歯槽膿漏:歯周ポケットの深さ6mm以上

「重度歯周炎」とも呼ばれ、歯槽骨が半分以上溶けてしまっている状態です。歯のぐらつきが大きくなる、膿が出る、歯の根元がむきだしになるなどの症状が見られ、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。

2.歯肉炎について詳しく解説

歯肉炎は歯周病の初期段階で、早めに治療すれば元通りの健康な歯茎を取り戻せます。症状や治療法を解説します。

 

2-1.歯肉炎の症状

歯肉炎は、歯周病菌によって歯茎のみが炎症を起こしている状態です。この段階では、歯槽骨など他の組織に炎症は起きていません。

 

歯茎の赤い腫れや歯磨き時の出血などの症状はありますが、痛みなどのはっきりした自覚症状がなく、気がつかないうちに進行してしまう場合があります。

 

歯科クリニックで定期チェックをしてもらうと、早期発見につながります。

2-2.歯肉炎の治療

歯肉炎の治療は、通常のブラッシングでは取り除けない歯石を専用の器具で取り除く「スケーリング」がメインです。口内環境を整えることで、歯周病菌を減らし歯肉炎を改善します。

 

また、正しいブラッシングの指導も受けられます。日ごろのセルフケアを見直すことで、歯肉炎の改善や進行の予防につながります。

 

3.歯槽膿漏について詳しく解説

歯槽膿漏は、歯周病が最も進行した状態で、口内環境を改善しても失った歯周組織は元に戻りません。主な症状や全身疾患との関係、治療法などを解説します。

3-1.歯槽膿漏の主な症状

歯槽膿漏の主な症状は下記の通りです。当てはまる項目がある場合は、なるべく早く歯科クリニックで治療を受け、歯を守りましょう。

 

・膿が出る

人間の身体は細菌に感染すると、免疫システムが働き細菌を殺します。細菌は死ぬと膿となり、体外へ排出されます。歯槽膿漏になると、多くの歯周病菌が歯周ポケットで死に、膿となって排出されるのです。

 

・口臭

歯槽膿漏が悪化すると、歯周病菌が分泌する「メチルメルカプタン」や「硫化水素」などの悪臭成分により、生ごみや卵が腐ったような口臭がする場合があります。また、膿も悪臭の原因となります。

 

・出血

炎症が起こると血管が拡張し、出血しやすくなります。歯槽膿漏の場合、歯磨きや食事などをしなくても出血する傾向にあります。

 

・歯のぐらつき

歯槽骨や歯根膜といった歯を支える組織が大きく破壊されているため、歯がぐらついてしまいます。そのまま放置した場合、歯が抜けてしまいかねません。

 

このように、歯槽膿漏になるとさまざまな症状が出て、食事に支障が出たり、臭い見た目が気になったりと多くの悪影響があります。

3-2.歯槽膿漏と全身疾患の関係

歯槽膿漏は、口の中の症状だけではなく、全身疾患の引き金にもなります。代表的な3つの疾患を紹介します。

 

・糖尿病

歯槽膿漏になると、血糖値を下げる作用がある「インスリン」が働きにくくなり、血糖値の高い状態が続きます。血糖値が高い状態が続くことで、糖尿病にかかったり、悪化したりするリスクがあります。

 

・心筋梗塞

インスリンが働きにくくなり血糖値が高い状態が続くと、血管にダメージが蓄積されます。そのため、血管のつまりや破裂が起きやすくなります。また、動脈の壁が厚く硬くなるため、心筋梗塞のリスクが高まります。

 

さらに、歯茎の出血した部位から歯周病菌から体内に入ると、心筋梗塞が起きやすくなるので注意が必要です。

 

・脳梗塞

心筋梗塞と同様、血管へのダメージや体内に入った歯周病菌が原因で、脳梗塞が起こりやすくなります。

 

その他、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」や「骨粗しょう症」など、歯槽膿漏はさまざまな全身疾患と関係しています。健康や命を守るためにも、歯槽膿漏の早期治療は重要です。

3-3.歯槽膿漏の治療法

歯槽膿漏の主な治療法は以下の通りです。

 

・スケーリング

歯肉炎と同様、スケーリングを行います。歯周ポケットの歯垢や歯石を取り除き、歯周病菌を減らすことで、進行を食い止めます。

 

・歯のぐらつきをおさえる

歯槽膿漏によってぐらぐらしている歯を使い続けると、歯や歯茎に負担がかかるため、ぐらつきを改善する治療をします。口内環境の改善や噛み合わせの調整などをしてもぐらぐらする場合は、周りの健康な歯と連結し安定させる治療が必要です。

 

・外科処置

歯周ポケットが深くなりすぎて器具で歯石を取り除けない場合は、歯茎を切り開いて歯石を取り除く処置をします。また、歯茎を切開して溜まった膿や細菌を取り除くケースもあります。

 

・再生療法

歯槽膿漏によって失われた歯槽骨などの歯周組織を再生させ、再び歯を支えられるようにする治療法です。

 

歯茎を切り開き「エムドゲイン」という薬剤を塗り、組織の再生を促す方法。歯肉とあごの骨の間に人工膜を挿入し、歯周組織の再生を促す「GTR法」などがあります。

 

3-4.歯槽膿漏で歯を失った場合の治療法

歯槽膿漏が悪化して歯が抜けてしまった場合は、入れ歯やインプラントなど人工歯を入れる治療が必要です。入れ歯は保険適用でつくれますが、インプラントは自由診療なので治療費が高額になります。

 

歯を失うと金銭的にも時間的にも負担が大きくなるので、歯を失う前に早めに治療をスタートしましょう。

4.歯槽膿漏になる前に!おすすめの予防法

歯槽膿漏になると、歯を失う、全身疾患になるなどさまざまなリスクが考えられます。歯科クリニックで治療を受けるのはもちろん、セルフケアをして歯槽膿漏を予防しましょう。

 

4-1.正しい歯磨きをする

歯周病の原因は、歯周ポケットに溜まった歯垢に潜む歯周病菌です。歯垢を取り除くには、毎日の歯磨きが重要です。

 

歯と歯茎の間や歯と歯との隙間は、歯垢が溜まりやすいので丁寧にブラッシングしましょう。ブラッシングするときは、歯ブラシを45度の角度にあて、小刻みに磨くと汚れが落ちやすいです。

 

歯茎の炎症による出血がある場合は、柔らかい歯ブラシで歯茎の根元からマッサージするように磨きます。

4-2.寝る前は必ずケアをする

寝ている間は唾液の分泌量が減るため、歯周病菌が繁殖しやすいタイミングです。寝る前にしっかり歯磨きをして、口の中をきれいにすることで、歯周病菌の繁殖をおさえられます。

4-3.食生活の改善

間食が多い、だらだら長時間食べるといった食生活を送ると、歯周病菌の栄養源が常に口の中にある状態となり、歯周病のリスクが高まります。規則正しい食生活を送るようにしましょう。

 

また、糖分の多い食べ物を摂りすぎると歯垢ができやすくなるので、間食はほどほどにするのをおすすめします。

 

さらによく噛んで食べるようにすると、唾液の分泌が促され、口の中の汚れや菌をきれいにする作用が期待できます。

4-4.タバコをやめる

タバコにはニコチンなどの有害物質が含まれており、歯肉の血流低下を引き起こします。血流が低下すると、歯周病菌が増えやすくなり、歯周組織の免疫力が落ち、歯周病のリスクが高まります。受動喫煙でも歯周病リスクは高まるので、要注意です。

 

5.歯肉炎が進行して歯槽膿漏になる前に対策しよう!

歯茎や歯周組織が歯周病菌によって炎症を起こす病気を歯周病と呼び、歯肉炎は軽度の状態、歯槽膿漏は重度の状態を指します。

 

歯肉炎は歯肉のみが炎症を起こしていますが、歯槽膿漏は歯周組織にも炎症が起こり歯槽骨などの組織が溶けてしまっています。歯肉炎の段階であればスケーリングなどで口内環境を改善すれば健康な歯茎に戻りますが、歯槽膿漏で破壊された組織は口内環境を改善しても元に戻りません。

 

歯槽膿漏になると、歯の脱落や全身疾患を引き起こすリスクがあるため、早めの治療が必要です。歯科クリニックでの治療はもちろん、正しい歯磨きなどのセルフケアを徹底して、歯や歯茎を守りましょう。

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