歯の神経は再生する?「歯髄再生治療」ってどんな治療法?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

虫歯や歯周病が原因で、歯の神経を取るしかないと言われて悩んでいませんか?
今までは神経まで症状が進んでいると、神経を取る治療が一般的でした。

しかし最近では、神経を再生させる治療が可能になっています。

 

とはいえ、

 

・神経をどうやって再生させるの?

・本当に再生できるの?

 

といった、疑問や不安があると思います。

 

そこで今回は、歯の神経を復活させる歯髄再生治療について解説していきます。

神経を取る治療をする前に、是非この記事を参考にしてください。

目次

1歯髄再生治療とは?

歯髄再生治療とは、乳歯や親知らずといった不要な歯から歯髄幹細胞を取り出し移植して、神経を再生させる方法のことです。

 

つまり、不要な歯にある歯髄(神経)の細胞を、神経を取った歯に移植する治療法になります。

 

歯髄再生治療では、自身の細胞を使用するので、拒否反応が少なく定着しやすいのが特徴です。

1−1:歯髄幹細胞って?

歯髄幹細胞は、歯の神経である歯髄に存在する細胞です。
そもそも幹細胞とは、歯髄や脊髄、脂肪にある細胞のことです。

この幹細胞は、どんな細胞にも変化できる特徴があります。

例えば、脊髄の幹細胞は皮膚や血管などの細胞に変化し、再生することが研究でわかっています。

 

脊髄や脂肪から幹細胞を取るには、大掛かりな外科手術が必要で体への負担が大きくなりがちです。

 

しかし歯髄幹細胞の場合は、使わなくなった親知らずや乳歯などから採取するので、体への負担が少なくすみます。

2歯髄再生治療の流れ

歯髄再生治療は、次のような流れで進めていくのが一般的です。

 

・精密な診査、診断

・不要な歯の抜歯

・根管治療

・細胞移植

・経過観察

・被せ物の作成

 

それぞれの治療の流れについて、解説していきます。

2−1:精密な診査、診断

まずは、神経を取る歯や不要な歯、全身の健康状態などをしっかりと把握していきます。

このときに、血液検査尿検査を受けるよう指示を出す歯医者が多いです。

2−2:不要な歯の抜歯

健康状態や検査結果に問題がない場合は、不要な歯を抜歯します。

 

抜いた歯は、歯髄細胞バンクの会社に送られて、歯髄幹細胞の準備ができるまで1ヶ月ほど待ちます。

2−3:根管治療

細胞を入れる予定の歯に、根管治療をします。

根管治療では、歯の中で細菌感染している部分を取り除いて、無菌化に近い状態にします。

2−4:細胞移植

歯髄幹細胞の準備が整ったら、根管治療が完了している歯に細胞を移植します。

2−5:経過観察

移植した歯の中で歯髄が再生されているか、定期的に確認します。

人によって歯髄の再生力は違い、根管内が歯髄で満たされるまで、約6ヶ月〜1年の期間が必要です。

 

しかし、このときに歯髄が順調に再生しなかった場合には、再生治療を中止することがあります。

2−6:被せ物の作成

歯髄の再生が完了した後は、最終的な被せ物を作成します。

被せ物の見た目や噛み合わせの調整をし、問題がなければ終了です。

3歯髄再生治療のメリット

歯髄再生治療には、次のようなメリットがあります。

 

・歯が変色するのを防ぐ

・歯が長持ちしやすい

・虫歯の重症化を防ぐことができる

・子どもにも適応できる

 

順番に、解説していきます。

3−1:歯が変色するのを防ぐ

神経は虫歯以外にも強い刺激が加わると、死んでしまい茶色や黒色などに変色することがあります。

特に前歯の神経が死んだ場合には、歯の色が目立って見た目が悪くなります。

 

また根管治療後は、神経の代わりに詰めた薬剤が時間の経過と共に劣化して、歯の変色が起きやすいです。

 

一方で歯髄再生治療は、歯に幹細胞を移植して、新しい神経を復活させます。

 

再生した神経には、血液や酸素が流れるようになるので、茶色や黒色などに変色する心配がありません。

3−2:歯が長持ちしやすい

神経は、血管に繋がっていて歯に栄養を送る役割があります。

神経を取ると歯に栄養が送れないので、噛む力に耐えられず歯が割れてしまうことがあります。

 

歯の割れた範囲が広い場合には、抜歯と診断されるケースも少なくありません。

 

歯髄再生治療では、再び歯に栄養や酸素などを送れるため、割れにくい丈夫な歯になります。

 

また、神経にはクッションのように、噛む力を分散させる役割もあります。

強い圧力がかかったときに歯が割れるリスクを軽減し、長持ちすることに繋がります。

3−3:虫歯の重症化を防ぐことができる

痛みやしみるといった感覚は、神経がないと感じません。
神経は、痛みやしみるなどの症状で虫歯があることを知らせてくれます。

 

しかし神経を取った歯は、痛みを感じるセンサーを失うため、気づかない内に虫歯が進行していることがあります。

 

一方、歯髄再生治療では、神経の感覚機能も復活できます。

 

虫歯ができたときには、痛みやしみるといった症状が出て、重症化する前に対処が可能です。

3−4:子どもにも適応できる

歯髄再生治療は、子どもにも適応可能です。

 

例えば、スポーツでの転倒やぶつかった衝撃で、神経が死んで黒く変色することがあります。

 

そのまま放置していると、根の中で細菌感染を起こして根の先に膿が溜まり、痛みの原因になります。

 

抜けた乳歯の歯髄幹細胞を移植することで、神経を再生し見た目や痛みを改善できます。

4歯髄再生治療のデメリット

髄再生治療は画期的な方法ですが、次のようなデメリットもあります。

 

・治療期間が長くなりやすい

・適応症が限られる

・費用が高額になりやすい

・不要な歯の状態によっては治療できないことがある

・治療できる歯医者が限られる

 

それぞれについて、解説していきます。

 

4−1:治療期間が長い

細胞の移植は、すぐにはできません。
抜いた歯は、歯医者と提携している歯髄細胞バンクといった会社に一度預けます。

そこで歯髄幹細胞の準備を整えてから、神経のない歯に移植をします。

抜歯をしてから歯髄幹細胞の準備ができるまで、約1ヶ月かかるのが一般的です。

 

また、歯髄幹細胞を移植してから神経や周辺の組織などが完全に再生するまでは、約6ヶ月〜1年の期間がかかります。

 

その後、歯髄が完成したのを確認してから被せ物を作るため、人によっては1年以上の治療期間がかかるケースもあります。

4−2:適応症が限られる

歯髄再生治療は、全ての方に適応する治療法ではありません。
次のような条件が揃っている場合は、歯髄再生治療が可能です。

 

・年齢が7歳以上

・親知らずや乳歯などの不要な歯がある

・神経を取る歯が大きく割れていない

 

反対に次の条件に当てはまる方は、歯髄再生治療ができないことがあります。

 

・年齢が7歳以下

・親知らずや乳歯といった不要な歯がない

・歯科の麻酔でアレルギーが出たことがある

・妊娠の可能性がある、または妊娠中である

・重度の全身疾患がある(糖尿病、心疾患、高血圧など)

4−3:費用が高額になりやすい

歯髄再生治療は、保険適応外で自費診療になります。

歯髄再生治療は、奥歯になるほど費用が高額になる傾向があります。

それは、奥歯になるほど根の本数が増えるからです。

 

神経を取る歯の中は、無菌化といって細菌がほとんどいない状態にする必要があります。

 

細菌が多く残っている歯の中に幹細胞を移植すると、神経が再生されず失敗に終わる可能性があるからです。

 

根管治療をするときには、精度の高い精密根管治療(自費治療)をするため、費用が高額になります。

 

また歯医者によっては、血液検査やMRI検査などの費用が別途で必要になることがあります。

 

治療を始める前には必ず、総額でいくら費用が必要になるのかを確認しておきましょう。

4−4:不要な歯の状態によって治療できないことがある

不要な歯の状態によっては、歯髄再生治療ができないことがあります。

例えば、親知らずが歯茎の中に埋まっていたり斜めに生えていたりする場合は、歯を割って抜くことが多いです。

 

そうなると、歯の中にある神経を傷つけてしまうため、再生治療はできません。

4−5:治療のできる歯医者が限られる

歯髄再生治療は、高度な技術や設備などが必要です。

その他にも、歯髄幹細胞を保存する歯髄バンクの会社との連携も必要になります。

 

そのため、歯髄再生治療を取り入れているところは少なく、限られた歯医者でしか治療できないのが現状です。

5歯髄再生治療は、神経を復活させる治療法

歯髄再生治療は、神経を取った歯に幹細胞を移植して、神経を復活させる方法です。
歯髄再生治療には、次のようなメリット・デメリットがあります。

 

メリット デメリット
・歯が変色するのを防ぐ ・治療期間が長くなりやすい
・歯が長持ちしやすい ・適応症が限られる
・虫歯の重症化を防ぐことができる ・費用が高額になりやすい
・子どもにも適応できる ・不要な歯の状態によっては治療ができないことがある
・治療できる歯医者が限られる

 

今までは一度神経を取ると、元の状態に戻すことができませんでした。

しかし、歯髄再生治療では神経を復活させて、歯の健康を維持することが可能です。

 

とはいえ、この方法は高度な技術や設備などが必要で、限られた歯医者でしか治療できません。

 

・神経を取りたくない

・自分の歯を長持ちさせたい

 

と考えている方は、まずは担当医に相談することから始めてみましょう。

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