虫歯が重症化して歯の神経にまで達すると、歯を残すための「根管治療(こんかんちりょう)」をするか、抜歯してインプラントを入れるかを選ばなければならないケースもあります。
しかし「どんな治療かよくわからない」「根管治療とインプラントは何が違うの」と判断に迷う方も少なくありません。この記事では、根管治療とインプラントがどんな治療かとそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。
目次
- 1.根管治療とは
- 2.インプラントとは
- 3.根管治療のメリット・デメリット
- 3-1.根管治療のメリット
- 3-2.根管治療のデメリット
- 4.インプラントのメリット・デメリット
- 4-1.インプラントのメリット
- 4-2.インプラントのデメリット
- 5.根管治療とインプラントどちらがいいかは歯科クリニックで相談しよう!
1.根管治療とは
根管治療は、一般的には「歯の神経の治療」とも呼ばれます。歯根の中には「根管」と呼ばれる管があり、神経と血管が通っています。神経と血管は合わせて「歯髄(しずい)」と言います。
重度の虫歯や歯が折れるなどの外傷・歯周病・以前治療した根管の再感染などが原因で、根管が細菌感染を起こすと、強い痛みや歯根周辺の組織の炎症などが生じ、重症化した場合は歯の神経が腐ってしまう可能性があります。
そのため、根管が感染した場合は根管治療を行い、歯髄を取り除き、歯根の中をきれいにしなければいけません。
根管治療では、専用の器具を使って歯髄を少しずつ除去し、細菌感染している部分を削り取ります。その後、薬剤を使用して根管を徹底的に殺菌・洗浄します。感染物質を完全に取り除くことで、再治療のリスクを軽減できます。
殺菌・洗浄した部分に細菌が侵入しないよう、消毒液を詰めて仮にふたをします。殺菌・洗浄を数回繰り返して細菌を完全に取り除いたら、細菌感染を防ぐために根管の先まで隙間なく詰め物をします。最後に、人工歯をセメントで隙間なく接着し、治療完了です。
2.インプラントとは
インプラントとは、重度の虫歯・歯周病・事故などで失った歯を補う治療法です。歯根の代わりとなるインプラント体をあごの骨に埋め込み、3~6か月ほど経過してインプラント体とあごの骨が結合してから、人工歯を取り付けます。
インプラント体を埋め込む際に、歯ぐきの切開やドリルによるあごの骨の穴開けといった外科処置が伴います。
3.根管治療のメリット・デメリット
根管治療とインプラントどちらが良いか検討するには、それぞれのメリット・デメリットを知る必要があります。ここでは、根管治療のメリット・デメリットについて解説します。
3-1.根管治療のメリット
根管治療の主なメリットは下記のとおりです。
(1)自分の歯を残せる
根管治療の最大のメリットは、自分の天然歯を残せることです。インプラントも歯の機能や見た目を天然歯と変わらないレベルにまで回復できます。
しかし、なるべく自分の歯を守りたい、自分の歯で食事をしたいと考えるのは自然なことです。さらに、人工歯は天然歯よりも感染に弱いなどのデメリットもあります。
インプラントにするために歯を抜くと元には戻せないため、根管治療を選ぶ人も少なくありません。
(2)インプラントなど失った歯を補う治療を先送りにできる
根管治療をすることで天然歯の寿命を伸ばせば、インプラント・入れ歯・ブリッジといった失った歯を補う治療を受けるのを先送りにできます。とりあえず根管治療を受け、その後の経過を見て、治療方針を考えることもできます。
(3)治療費をおさえられる
保険適用で行う根管治療の費用は、1本あたり2,000〜5,000円程度が目安です。根管治療の方が費用をおさえられます。
3-2.根管治療のデメリット
根管治療は、重度の虫歯を残す効果的な方法ですが、次のようなデメリットもあります。
(1)治療しても早く抜歯が必要になるケースがある
歯を残すために根管治療をしたとしても、歯が折れてしまうなどのトラブルにより、早く抜歯が必要になるケースも少なくありません。根管治療から1年も経たずに歯が折れる場合もあるほどです。根管治療をして後悔しないよう、長持ちしないリスクがあると知っておきましょう。
(2)成功率が低い
根管は非常に複雑な形をしておりサイズも小さいため、根管治療の難易度は高いといわれています。
根管内に細菌が残っている・根管の詰め物やかぶせものに隙間がある・根管内に穴があいているといった場合は、根管が再感染を起こし、痛みや腫れなどが生じます。
再感染した根管の治療はさらに難易度が高く、治療しても結果的に、抜歯せざるを得ないケースが少なくありません。
根管治療の実績が豊富・マイクロスコープなどの最先端の設備が整っている・感染対策を徹底しているといった歯科クリニックを選ぶことで、成功しやすくなります。
(3)歯の寿命が短くなる
根管治療によって歯の神経や血管を取り除くため、歯に必要な栄養や酸素が十分に活き届かなくなります。その結果、歯がもろく割れやすくなり、寿命が短くなります。
歯の神経がないため痛みを感じず、歯にトラブルが発生しても気づくことができません。気がついたら虫歯が悪化して、抜歯せざるを得なくなるケースもあるので要注意です。
根管治療後は、それまで以上に歯磨きなどのメンテナンスをしっかりするようにしましょう。
(4)治療に時間・お金がかかる
根管治療は数回にわたって通院が必要なため、時間や費用の負担は少なくありません。治療回数が多い分、何度も歯科クリニックに通わなければならず、インプラント治療ほどではないものの一般的な歯科治療より費用がかかるケースがあります。
(5)将来的にインプラントを受けられない可能性がある
根管治療を受けてインプラントを先延ばしにしたために、インプラント治療を受けられなくなる・治療の難易度が上がる・インプラントが長持ちしないといった事態が生じる可能性もあるので、要注意です。
インプラント治療が成功するかどうかは、虫歯や歯周病など口の中の状態・あごの骨量・治療後のメンテナンスをはじめとする生活習慣・糖尿病をはじめとする全身疾患の有無などによって、大きく左右されます。
根管治療を受けて10年・20年経過した時に、年齢を重ねることであごの骨量が減少するなど、インプラント治療に適さない状態に変化するリスクがある点は知っておきましょう。
4.インプラントのメリット・デメリット
根管治療と同じく、インプラントのもメリット・デメリットがあります。主なものを紹介します。
4-1.インプラントのメリット
インプラントの代表的なメリットは、下記のとおりです。
(1)機能・見た目が天然歯とほぼ変わらない
インプラントは、人工歯根をあごの骨に埋め込んで人工歯を支える治療法のため、安定感があり、天然歯とほぼ変わらないレベルまで噛む機能を回復できます。食材を問わず食べられ、食事を気兼ねなく楽しめるのは大きなメリットです。
天然歯と同じく、歯ぐきから歯が生えているように見え、人工歯の色も周りの天然歯と同じような色にでき、自然な仕上がりになります。
自分の歯と近い機能・見た目のため、抜歯に抵抗がある患者にとっても、満足度の高い治療法です。
(2)長持ちしやすい
インプラントの寿命は一般的に、10~15年です。適切なメンテナンスをしていれば、インプラント治療から10~15年経過しても、約9割がインプラントを使い続けられるといわれています。
正しいメンテナンスを続け、あごの骨の健康を維持した患者のなかには、40年以上インプラントを使用できたケースもあるほどです。なるべく再治療をしたくない患者にとって、適した治療法といえます。
(3)虫歯にならない
インプラントは人工物のため、天然歯と異なり、虫歯になりません。虫歯は、虫歯菌がつくり出す酸が歯の表面にある「エナメル質」を溶かすことで発生します。人工歯には、エナメル質が存在しないため、酸で溶けることはなく、虫歯にならないのです。
ただし、歯磨きなどのメンテナンスを怠ると、歯周病と良く似た病気である「インプラント周囲炎」などのトラブルが起きる可能性があります。虫歯にならないからといって油断せずに、しっかりお手入れしましょう。
4-2.インプラントのデメリット
インプラントは、歯の噛む機能・見た目が天然歯とほぼ変わらないなど、多くのメリットがある治療法です。しかし、下記のようなデメリットもあるので、よく検討しましょう。
(1)治療を受けられないケースがある
歯周病・骨粗しょう症・加齢などが原因であごの骨の量が足りない患者や、糖尿病・高血圧などの全身疾患がある患者、妊娠している患者などは、インプラントを受けられない場合があります。まずは歯科医師に相談して、インプラント治療を受けられるかどうか確認しましょう。
(2)治療費が高い
インプラントは、基本的に保険適用にならず、全額自己負担で治療を受けなければいけません。
骨量を増やす処置が必要な場合や高品質な素材でインプラントをつくる場合など、さらに高額の費用がかかるケースもあります。
(3)治療期間が長い
インプラント体とあごの骨が結合するまでの期間は、治療個所や患者の状態によって異なりますが、3~4か月ほどです。そのため、インプラントの治療期間は、トータルで半年から一年以上かかります。
インプラント手術そのものは1日で終わりますが、治療期間が長く、通院回数も多い治療法です。
(4)定期メンテナンスに通う必要がある
インプラント治療後は、歯科医師の指示のもと、定期メンテナンスに通わなければいけません。定期メンテナンスでは、インプラント周囲炎・虫歯・嚙み合わせの乱れといった口の中のトラブルのチェックやクリーニングなどを行います。
日頃の歯磨きだけでは、口の中の歯垢や歯石を十分に落とすことはできません。定期メンテナンスを怠ると、インプラント周囲炎などのトラブルが起こりやすくなり、インプラントの寿命が縮まってしまう可能性があります。
5.根管治療とインプラントどちらがいいか、歯科クリニックで相談しよう!
ご紹介したように、根管治療とインプラントにはそれぞれメリット・デメリットがあります。
歯の神経の状態によっては、根管治療をすれば抜く必要はありません。自分の歯を残したい場合は、根管治療を検討しましょう。ただし、成功率が低いなどのデメリットもあるので要注意です。
虫歯が重度で抜歯せざるを得ない場合や長持ちする治療を希望する場合は、インプラント治療が適しています。治療を受けられないケースがある、費用が高いといったデメリットはありますが、噛む機能や見た目を天然歯とほぼ変わらないほど回復でき、長持ちする治療法です。
根管治療とインプラント治療どちらが良いかは、歯科医師によって判断が異なる場合があります。
どちらが適しているかだけではなく、理由などをしっかり聞いたうえで比較検討しましょう。また、不安や疑問がある場合は他の歯科クリニックでセカンドオピニオンを受けるのも方法のひとつです。