入れ歯は誤嚥しやすいって本当?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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入れ歯を使うと「誤嚥(ごえん)」しやすくなるのではないかと心配な高齢者や介護者も多いのではないでしょうか。誤嚥は、窒息死や誤嚥性肺炎の原因となる恐ろしい症状です。

 

この記事では、誤嚥と入れ歯の関係やリスクを軽減する方法を解説します。

目次

1.高齢者は要注意!誤嚥と誤嚥性肺炎とは

そもそも誤嚥や誤嚥性肺炎とは、どのような状態を指すのでしょうか。詳しく解説します。

1-1.そもそも誤嚥って何?

誤嚥とは、食べ物や異物が誤って気管内に入ってしまうことを指します。通常、口にいれたものは食道を通って消化器官に入ります。しかし、飲み込む力が弱い、気道にものが入ったときにむせたり咳をして排出する反射の働きが弱いといった場合、飲食物や異物が気道に入り込んでしまうのです。

 

ものを飲み込みにくくなる主な原因は「唾液量の減少」「歯の状態」「筋力の低下」です。

 

(1)唾液の減少

食べ物はそのままでは、上手く飲み込めません。食べ物をしっかり噛むことで、唾液と食べ物が混ざった「食塊(しょっかい)」と呼ばれるものができ、喉をスムーズに通るようになります。年齢を重ねると唾液の分泌量が減り、食塊を上手くつくれず、飲み込むのが難しくなります。

 

(2)歯の状態

入れ歯が不安定だったり、歯が欠けていたりして、不安定な状態だと、上手く食べ物を噛めません。しっかり食べ物を噛み砕けていないと、飲み込むのに通常よりも大きな力が必要となります。

 

(3)筋力の低下

食べ物を飲み込むのには、口やのど周辺の多くの筋肉の力が必要です。年齢を重ねることにより、筋力が衰えると、飲み込む力が弱まり、のどに食べ物が引っかかってしまう可能性があります。

 

このように、年齢を重ねると誤嚥しやすくなり、誤嚥による窒息死などの事故は介護・医療現場でも多く発生しているため、注意が必要です。

1-2.誤嚥性肺炎とは

誤嚥により食べ物や唾液と一緒に口のなかやのどの細菌も、気道を通って肺に入ってしまう場合があります。誤嚥により入り込んだ細菌が肺に感染して増殖すると、誤嚥性肺炎を引き起こします。

 

ただし、誤嚥をしたからといって必ずしも誤嚥性肺炎になるわけではありません。免疫力の低下や誤嚥した飲食物の量、誤嚥したものを身体の外に出すための咳がしっかりできているかなどによって、発症リスクは異なります。

 

誤嚥性肺炎になる前は、食事中にせきこむ、常にのどからゴロゴロ鳴る音がする、唾液が飲み込みにくいといったサインが現れる傾向にあります。もし、当てはまる点があれば、より誤嚥への注意が必要です。

 

誤嚥性肺炎を発症すると、発熱や咳、たん、身体のだるさ、重症になった場合は酸素不足による呼吸困難などの症状が現われます。

 

治療法は、原因となった細菌に合わせた抗菌剤の服用やたんの吸引、呼吸困難が重症化した場合は人工呼吸器の使用などです。高齢者は抵抗力が弱まっている、症状が出ていても自分で気づきにくいといった理由から、誤嚥性肺炎が重篤化しやすく、場合によっては命を落とすこともあります。

 

ある調査では入院した患者のうち、80歳代の肺炎患者の約80%、90歳以上の肺炎患者のうち95%以上が誤嚥性肺炎であったと判明しています。

 

肺炎は近年、がん、心疾患に次いで、日本人の死因第3位になっています。誤嚥性肺炎は、多くの高齢者の命を奪っている病気なので、予防や対策が不可欠です。

2.入れ歯と誤嚥の関係って?

しっかり合った入れ歯を使用することで、しっかりものを噛んで食べることができ、スムーズに飲食物を飲み込めるというイメージがあるかもしれません。

 

しかし、飲み込む力が弱くなっている方が入れ歯を上下に入れると、誤嚥の危険性が高まるケースもあります。

 

その理由は、舌の動きです。食べ物を飲み込むときは、舌を上のあごにつけるようにして飲み込むための圧力を発生させ、のどへと送ります。

 

しかし、上下に入れ歯を装着していると、舌が動きにくくなり、飲み込むときに正しいポジションを取れなくなり、圧力が発生しない可能性があります。そのため食べ物を上手く飲み込めず、誤嚥のリスクが高まるのです。

 

また、入れ歯が使用するうちにすり減ったり、破損・変形したりすることで合わなくなると、ものが噛みにくくなり、誤嚥しやすくなる場合があります。

 

さらに、入れ歯自体を誤嚥することで、入れ歯についた細菌が肺に感染し、誤嚥性肺炎を引き起こすケースもあります。特に部分入れ歯の場合、サイズによっては誤嚥しやすいので要注意です。

 

以上より、入れ歯を使用していると誤嚥のリスクは高まるといえるでしょう。

3.誤嚥や誤嚥性肺炎を防ぐ方法とは

入れ歯を装着すると誤嚥のリスクは高まります。しかし、入れ歯を使わないと、食べ物をしっかり噛めない、発音が難しく会話がしにくい、見た目が気になるなど、さまざまなデメリットが発生します。

 

誤嚥や誤嚥性肺炎の対策をして、リスクをおさえましょう。

3-1.最初は上あごだけに入れ歯を装着する

飲み込む力が弱まっていても誤嚥しないよう、最初は上あごにだけ入れ歯を装着して、食事する練習を行い、飲み込む力が回復するのを待ちましょう。

 

上あごに入れ歯を入れた状態で上手く飲み込めるようになってから、上下に入れ歯を装着すると誤嚥のリスクを軽減できます。

3-2.自分の飲み込む力に合ったものを食べる

食べ物を充分に噛めていないと、飲み込む力が大きくないと誤嚥してしまう可能性があります。

 

飲み込む力が弱い場合は、硬いものを避けて柔らかいものを食べる、ミキサーなどで飲み込みやすく加工したものを食べるといった工夫をしましょう。

3-3.食事中・食後の姿勢に注意する

食事中に、あごを引き、猫背にならないよう姿勢をまっすぐにすることで、ものを噛んだり飲み込んだりするのに大切な舌の圧力が大きくなります。

 

また、足の裏をしっかり地面に着けると、飲み込むときに使う首周りの筋肉が、効率良く働くこともわかっています。食事中はなるべく良い姿勢を意識して、誤嚥リスクを軽減しましょう。

 

さらに、食後にすぐ横になると、食べたものが胃から逆流して、誤嚥を引き起こす場合があります。食後2時間は横になるのを避けてください。

3-4.ながら食べはNG

テレビやスマートフォンを見ながら食事をする習慣がついている方もいるかもしれませんが、ながら食べは誤嚥の原因となります。

 

食事よりも画面に集中してしまうため、噛む回数が減ってしまい、誤嚥しやすくなります。誤嚥が心配な場合は、食事中はテレビやスマートフォンを見ずに、食べることに集中しましょう。

3-5.マッサージやトレーニングを行う

あごの下や耳の前には、唾液を分泌する機能を持つ「唾液腺」があります。唾液は、食塊をつくるのに必要なだけでなく、口の中の細菌が増殖するのをおさえる役割を持っています。あごの下や耳の前を指先で優しくマッサージすると、唾液腺が刺激され、唾液の分泌量を増やすことができます。

 

また、口を大きく動かして「あ」「い」「う」「べ」と発音する「あいうべ体操」など、口やのどの筋肉を鍛えると、飲み込む力を高められます。トレーニング以外では、歌を歌うのも口やのどの筋肉を鍛えるのに効果的です。

3-6.口の中や入れ歯の手入れを徹底する

誤嚥性肺炎の原因は、誤嚥によって口の中の細菌が肺に入って感染することです。日々のメンテナンスにより、口の中の細菌を減らせば、誤嚥性肺炎のリスクを軽減できます。

 

誤嚥性肺炎の原因となる細菌は、歯や歯茎に溜まった歯垢・歯石にすみついています。毎日しっかり歯磨きをしてきれいにし、定期的に歯科クリニックでクリーニングして歯垢・歯石を取り除くことで、細菌の増殖をおさえられます。

 

また、入れ歯も天然の歯と同じように歯垢や歯石が溜めるので、お手入れが必要です。入れ歯につく歯垢は「デンチャープラーク」と呼ばれ、特にレジン製の入れ歯に付着しやすいです。

 

できれば、毎食後に入れ歯を外し、流水の下で入れ歯専用の歯磨きで丁寧に磨きましょう。部分入れ歯の金具の部分など細かい部分は汚れが溜まりやすいので、特に念入りにブラッシングするのをおすすめします。

 

入れ歯についた汚れはブラッシングだけでは除去しきれないので、毎日寝る前に入れ歯洗浄剤を使って洗うのが大切です。

3-7.誤嚥しにくい入れ歯をつくる

舌がんなどで発音機能に障害が出た人向けの特殊な入れ歯には、噛んだり飲み込んだりする機能を改善する機能もあります。

 

年齢を重ねてものを飲み込みにくくなった場合にも使用でき、口の中の状態に合わせて調整できるため、誤嚥のリスクを軽減できます。

3-8.インプラントを入れる

インプラントは、歯と歯茎を支えるあごの骨に人工歯根を埋め込み、上から人工歯をかぶせる治療法です。入れ歯と比べて噛む力が強いため、しっかり噛み砕け、誤嚥しにくくなります。

 

また、正しく噛めるようになるため、舌の筋肉が鍛えられ、飲み込むのに必要な圧力を充分出せるようになります。

 

さらに、インプラントは入れ歯と比べて通常の歯磨きだけで清潔な状態を保ちやすいので、誤嚥性肺炎のリスクも減らせるでしょう。

4.入れ歯の誤嚥への影響が気になる場合は歯科医師に相談しよう!

入れ歯を使用していると、舌の動きが制限される、口の中に細菌が増殖しやすいなどの理由で、誤嚥や誤嚥性肺炎の危険性が高まります。誤嚥による窒息や誤嚥性肺炎の悪化によって、最悪の場合は死に至る可能性があります。

 

誤嚥や誤嚥性肺炎の危険性を軽減する方法は、上あごにだけ入れ歯を装着して訓練する、口のなかや入れ歯のメンテナンスをしっかりする、インプラントを入れるなどさまざまです。

 

高齢の方が入れ歯を入れる場合は、歯科クリニックで誤嚥対策について相談すると良いでしょう。一人ひとりの状況に合わせて、適切なアドバイスをもらえるはずです。

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