- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「インプラント」は、失った歯を補う治療法のひとつです。世界初のインプラント手術は、1965年にスウェーデンで行われました。日本では、1980年代頃から少しずつインプラントが普及し始めます。しかし、実は日本の普及率は海外と比べて低いといわれています。
歯の機能性・見かけを大きく回復できる治療であるにもかかわらず、日本でのインプラント普及率が低いのはなぜなのでしょうか。
この記事では、インプラントの普及率や日本と海外との違いについて解説します。
目次
- 1.日本のインプラント普及率はどのくらい?海外との差に注目
- 1-1.日本のインプラント普及率は3%未満
- 1-2.欧米・韓国ではインプラントが一般的
- 2.日本のインプラント普及率が低い理由って?海外と何が違うの?
- 2-1.治療費が高額である
- 2-2.歯に対する意識の違い
- 2-3.インプラントに精通した歯科医師が少ない
- 2-4.インプラントに対するマイナスイメージ
- 2-5.世界的なインプラントメーカーがない
- 3.普及率が低くてもインプラントのメリットは大きい
- 3-1.天然の歯と同じように噛める
- 3-2.健康な歯を守れる
- 3-3.見た目が自然
- 4.日本でのインプラント普及率は3%以下!今後の発展に期待
1.日本のインプラント普及率はどのくらい?海外との差に注目
日本のインプラント普及率や海外における普及率との差について解説します。
1-1.日本のインプラント普及率は3%未満
厚生労働省が実施した『平成28年歯科疾患実態調査』によると、インプラントによって歯を補填している人の割合は約2.7%です。
前回の調査にあたる『平成23年歯科疾患実態調査』では、インプラント装着者の割合は2.6%と、ほぼ横ばいの数値です。『平成28年歯科疾患実態調査』以降、新しい調査はまだ行われていません。
ちなみに、インプラントを使用している人の割合が多い年代は、下記の通りです。
・65~69歳:4.6%
・70~74歳:3.7%
・75~79歳:3.4%
・55~59歳:2.8%
・80~84歳:3.7%
歯を失う人が増える50代ころからインプラント装着者が増加し始め、60~70代でピークを迎えています。
日本でのインプラント普及率は、3%にも満たず、歯を失った人の多くは、ブリッジや部分入れ歯、総入れ歯で歯を補っています。
インプラントの知名度は近年高まっていますが、日本ではまだまだ「ごく当たり前の治療」とはいえないでしょう。
1-2.欧米・韓国ではインプラントが一般的
世界70ヶ国以上で事業展開する世界最大級のインプラントメーカー「ストローマン」の2020年度の年次報告によると、インプラント人口の多い国ランキングで、日本は14位です。最も多い国は韓国、2位はスペイン、3位がイタリアです。
第8位に、人口あたりの普及率が日本の約6倍といわれているスウェーデン。第10位に、4大インプラントメーカーの1つである「ジンマーバイオメット」の本社があるアメリカがランクインしています。
このように、日本は海外と比べてインプラント普及率が低く、インプラント治療では欧米・韓国に大きく遅れを取っているといえるでしょう。
ちなみに、経済大国である中国・インドは、歯科医療に携わる人が不足しているため、インプラント治療ができる場が少なく、普及率が低いといわれています。
2.日本のインプラント普及率が低い理由って?海外と何が違うの?
日本でも「インプラント」という言葉自体は広く知られているのに、なぜ海外と比べて普及率が低いのでしょうか。主な原因を紹介します。
2-1.治療費が高額である
日本では、あごの骨の欠損といった特別な場合を除き、インプラントに健康保険は適用されません。保険治療の範囲は、機能回復のために行う最低限の治療と定められており、ほとんどのインプラントは美容目的とみなされ対象外となります。
日本では「国民皆保険制度」という全国民が公的医療保険に加入するシステムを採用しています。インプラントと同じく歯を補う方法である、入れ歯・部分入れ歯・ブリッジは、保険が適用されます。
入れ歯・部分入れ歯・ブリッジを保険適用で治療した場合、治療費は1本あたり数千~数万円くらいですが、インプラントは1本あたり30~50万円と高額です。そのため日本では、歯を失った場合、入れ歯・部分入れ歯・ブリッジで補う人が多いのです。
インプラント人口が世界で最も多い韓国では、2014年から高齢者を対象に、インプラント費用が一部保険適用とされるようになりました。
韓国以外でも、スウェーデンでは18歳未満の子どもの歯科治療は無料。オーストラリアでは一部の高額な治療を除いた歯科治療に健康保険が全額適用されます。
アメリカのように、費用が全額自己負担にもかかわらずインプラントの普及率の高い国もありますが、インプラントにかかる費用と普及率には深い関係があるといえるでしょう。
2-2.歯に対する意識の違い
インプラント普及率の高い、韓国や欧米と日本では、歯に対する意識が大きく異なります。
欧米では、歯の美しさが見た目の印象を大きく左右するという文化が根づいていて、ホワイトニング、歯科矯正が盛んです。また、口臭予防や歯間ブラシなど、歯磨き以外の手入れにも力を入れています。そのため、見た目が自然なインプラントが選ばれやすいのです。
また、アメリカは経済的な格差が大きいため、白く美しい歯が歯を整えられる裕福な家の出身であるというステイタスになっている側面もあります。そのため、高額な治療費を払ってでもインプラントを希望する人が少なくありません。
韓国の場合は、整形手術など美容に関する関心が高く、その一環として白く美しい歯を手に入れられるインプラントが注目されています。
2-3.インプラントに精通した歯科医師が少ない
インプラントを成功させるには、基本的な歯科治療のスキルだけでなく、インプラント専用の機材に関する深い知見やインプラント手術の技術・経験、口腔外科の知識なども求められます。
日本では近年まで、インプラント教育を本格的に実施している歯科大学は少数でした。国内で学ぶ場が少ないため、インプラント治療が進んでいる海外で技術を学ぶ歯科医師が多かったようです。
そのため、日本ではインプラントに精通した歯科医師はまだまだ少なく、インプラントに対応できるクリニックは、全体の50%に満たないとされています。韓国では約90%の歯科クリニックでインプラント治療を行っており、それだけ治療を受けやすい環境だといえるでしょう。
インプラント治療ができる歯科クリニックが増えれば、日本のインプラント普及率が向上する可能性があります。
2-4.インプラントに対するマイナスイメージ
日本初のインプラントは、1978年に日本で開発された「サファイアインプラント」というものです。海外のインプラントはチタン製が主流でしたが、サファイアインプラントは人工サファイアでできています。
そのため、強度が充分ではなくあごの骨に埋めたインプラントが折れるケースも少なくありませんでした。また、両隣の健康な歯を削らないと装着できないため、削った歯が虫歯になるなどのトラブルも多発したのです。
その結果、歯科医師の間でインプラントに対するマイナスイメージが定着しました。後にチタン製のインプラントが導入された後も、インプラントを否定する人が多く、普及が遅れる一因となりました。
2-5.世界的なインプラントメーカーがない
日本には、世界的なインプラントメーカーがなく、海外製のインプラント治療で使用するケースが主流です。
世界4大メーカーと呼ばれているのは、スイスの「ストローマン」、スウェーデンの「ノーベルバイオケアー」と「アストラテック」、アメリカの「ジンマーバイオメット」と、全て欧米の企業です。
また、韓国でもインプラント開発はさかんに行われており、「オステム」は世界第6位と大きなシェアを獲得しています。
海外製のインプラントは、取り寄せるのに時間がかかる、欧米人の骨格に合わせてつくっているためあごの骨が小さい日本人には合わないなど、デメリットもあります。インプラントのサイズが合わないとしても調整はできますが、その分治療期間が長引きます。
入手がしやすく、日本人の骨格に適した国内製インプラントが増えれば、よりインプラントが身近になるかもしれません。
3.普及率が低くてもインプラントのメリットは大きい
日本での普及率が低く、費用も高額なため「インプラントではなく入れ歯・部分入れ歯・ブリッジの方がいい」と考える人も少なくありません。
しかし、インプラントには入れ歯・部分入れ歯・ブリッジにはないメリットがあります。
3-1.天然の歯と同じように噛める
インプラントは、あごの骨に人工歯根を埋め込んで人工歯を装着する治療なので、入れ歯・ブリッジと比べて、しっかり固定できます。
そのため噛む機能は、天然の歯とほぼ変わりません。硬いものや噛みにくいものも今まで通り食べられます。さらに入れ歯とは違い、味を感じる口の中の粘膜部分を覆わないため、おいしさを損なわずに食事ができます。
また、高齢者の場合、しっかり噛むことで認知症リスクを軽減できるのもメリットです。
3-2.健康な歯を守れる
ブリッジは人工歯を橋のように両隣の歯にかける施術で、健康な歯を削って固定しなければいけません。また、部分入れ歯も両隣の歯を削って固定する必要があります。
そのため、健康な歯が虫歯になりやすく、さらに人工歯の分の噛む力も全てかかるので、寿命が短くなる傾向にあります。
インプラントであれば、人工歯根をあごの骨に埋めて人工歯を支えるため、他の歯にはほとんど負担がかかりません。
3-3.見た目が自然
インプラントは、1本ずつ人工歯根をあごの骨に埋め込むため、歯ぐきと人工歯の境目が自然で、違和感がほぼありません。また、一人ひとりの歯の色に合わせて人工歯に色を塗るため、天然の歯と色の差がなく、自然な印象になります。
4.日本でのインプラント普及率は3%以下!今後の発展に期待
厚生労働省が実施した『平成28年度歯科疾患実態調査』によると、日本でのインプラント普及率は約2.7%で、入れ歯やブリッジと比べ大幅に低いという結果でした。
世界的インプラントメーカー「ストローマン」による世界のインプラント人口ランキングでは、1位が韓国で残りの上位は欧米が中心で、日本は14位という結果でした。世界的に見ると、日本のインプラントはまだまだ発展途上なのが現状です。
普及が遅れている原因としては、インプラントの費用が入れ歯・ブリッジと比べて高額である・歯に対する意識の違い・インプラントに対応できる歯科医師の不足・インプラントに対するマイナスイメージなどがあげられます。
しかし、インプラントは、噛む機能や審美性に優れている・健康な歯にダメージを与えにくいといったメリットがあります。
インプラント対応ができる歯科クリニックの増加・治療技術の発展・高齢化による歯を失う人の増加に伴い、日本のインプラント普及率は高まっていくと予想されます。