- この記事の監修者
-
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/
インプラント治療後に雑菌が入ると、インプラント周囲炎が発症する、インプラント箇所に炎症が出てインプラント体と骨の結合に影響するなどのリスクがあります。
なかでもインプラント周囲炎は、非常に多いトラブルです。この記事では、インプラント周囲炎の概要や原因、治療法、予防法などを解説します。
目次
- 1.インプラント治療後に雑菌が入るとどうなるのか
- 1‐1.インプラント周囲炎
- 1‐2.インプラント周囲炎以外のトラブル
- 2.インプラント周囲炎の原因とは
- 2-1.口の中が不衛生である
- 2-2.喫煙している
- 2-3.糖尿病などの持病がある
- 2-4.歯周病にかかっている
- 3.インプラント周囲炎の治療方法
- 3-1.歯のクリーニング
- 3-2.殺菌療法
- 3-3.抗菌療法
- 3-4.切除法
- 3-5.再生療法
- 3-6.インプラントの除去
- 4.インプラント周囲炎を防ぐ方法
- 4-1.感染対策を徹底した歯科クリニックで治療を受ける
- 4-2.定期メンテナンスに欠かさず通う
- 4-3.セルフケアを徹底する
- 4-4.禁煙する
- 4-5.持病を治療する
- 5.インプラント治療後の感染に注意!インプラント周囲炎のリスクも
1.インプラント治療後に雑菌が入るとどうなるのか
ここでは、インプラント周囲炎の概要と、その他のトラブルについて解説します。
1‐1.インプラント周囲炎
インプラント周囲炎とは、インプラント周辺の組織が歯周病菌に感染し、炎症を起こす病気です。歯肉の腫れや赤みなど比較的軽い症状からはじまり、進行するとあごの骨や歯ぐきといった歯周組織が破壊されていきます。
歯ぐきが破壊されるため、症状の進行に伴い「歯周ポケット」と呼ばれるインプラントと歯ぐきの間の溝が深くなっていきます。
重度になると、あごの骨量の減少により、インプラントがぐらつく、膿が出るといった症状が生じます。また、歯ぐきがやせてしまい、歯根の代わりにあごの骨に埋めた「インプラント体」が露出してしまう場合もあります。最終的には、インプラントを支えるためのあごの骨が不足し、抜け落ちてしまう恐ろしい病気です。
インプラント周囲炎は、歯周病とよく似ていますが、歯根とあごの骨の間にある「歯根膜(しこんまく)」がないため、炎症があごの骨に到達しやすく、進行スピードが早いという特徴があります。さらに、人工物であるインプラントを入れていると、天然歯と比べて異変に気がつきにくいため、気がついたときには重症化しているケースが少なくありません。
1‐2.インプラント周囲炎以外のトラブル
細菌感染によって起きるインプラント周囲炎以外のトラブルとして、炎症によりインプラント部位が腫れる・異常なほど痛む・熱が出る・傷口が治らないなどがあります。
炎症が起こると、インプラントとあごの骨が結合せずに抜け落ちてしまうことがあるので、手術直後に異常が発生した場合は、すぐに歯科医師に相談しましょう。
2.インプラント周囲炎の原因とは
インプラント周囲炎の主な原因を解説します。
2-1.口の中が不衛生である
食べかす・歯垢・歯石などが溜まった不衛生な状態が続くと、口の中で歯周病菌などの雑菌が繁殖しやすくなり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。
歯磨きをあまりしていない、正しい歯磨きができていない、歯科クリニックでのクリーニングを受けていないといった場合は、口の中が不衛生な状態になっている可能性があるので、注意しましょう。
2-2.喫煙している
タバコに含まれる「ニコチン」や「一酸化炭素」は、血管を収縮させて血液の流れを妨げる作用がある成分です。血液の流れが滞ると、歯ぐきなどの歯周組織に必要な酸素・栄養がいきわたらずに、免疫力が低下します。
喫煙により免疫力が低下すると、歯周病菌への抵抗力が弱まり、インプラント周囲炎のリスクが増し、進行も早くなります。
2-3.糖尿病などの持病がある
糖尿病や貧血といった持病があると、インプラント周囲炎のリスクが高まります。
・糖尿病
糖尿病にかかると、免疫力や治癒力が低下し、術後の傷口が治るのが遅れたり、インプラントとあごの骨が結合しにくくなったりするリスクがあります。その結果、インプラント周囲炎にかかりやすくなります。
・貧血
貧血によって、インプラントの周りの組織に酸素が充分届かなくなると、抵抗力が低下します。歯周病菌に感染しやすくなり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。
2-4.歯周病にかかっている
インプラント手術前に歯周病にかかっている人は、口の中に歯周病菌が多く生息しているため、インプラント周囲炎のリスクが高い状態です。
本来であれば歯周病治療を行い、治ってからインプラント手術をしなければいけません。しかし、歯周病を治療しないまま、インプラント手術をしてしまうケースがあります。
3.インプラント周囲炎の治療方法
イン プラント周囲炎は、そのままにしておいても自然に治ることはありません。すぐに治療を開始し、歯肉やあごの骨といった組織の破壊を食い止める必要があります。主な治療方法は、下記の通りです。
3-1.歯のクリーニング
インプラント周囲炎の原因は歯周病菌なので、まずは細菌の塊である歯垢や歯石を取り除くことから治療をスタートします。必要に応じて、かぶせものである人工歯を取り外し、専用の器具で歯垢や歯石を取り除きます。
特に歯石は、歯垢が石のように固くなって歯にこびりついているものなので、通常の歯磨きでは除去できません。歯科クリニックで、専用の器具を使って取り除く必要があります。
3-2.殺菌療法
インプラント周囲炎の原因である歯周病菌を取り除くために、クリーニングと併用して薬剤による「殺菌療法」を行うケースも少なくありません。
殺菌療法には、歯周ポケットに殺菌作用がある薬剤を入れて洗い流す、薬剤でうがいをして口の中全体の細菌を取り除くといった方法があります。
3-3.抗菌療法
「抗菌療法」とは、抗生物質を服用する、歯周ポケットに抗生物質を入れる治療法です。腫れや痛みなどの急性炎症をおさえる、細菌が血液中に侵入する「菌血症」を予防するなどの目的で行います。
3-4.切除法
歯のクリーニングや投薬などの治療をしても、インプラント周囲炎が改善しない場合は、外科的治療である切除法を行います。
「切除法」とは、汚染されたインプラント体の表面を露出して、インプラント体の掃除や感染した組織の切除などを行う治療法です。切除法の流れは下記の通りです。
(1)歯ぐきを切り開く
(2)インプラント体の表面を薬剤で拭く
(3)レーザーなどの機器で、インプラント体の表面を削ったり磨いたりする
(4)回復しないと考えられる歯周ポケットなどの組織を取り除く
(5)歯ぐきを縫合して終了
3-5.再生療法
歯のクリーニングや切除療法でインプラント周囲炎の進行を食い止められても、歯ぐきやあごの骨といった破壊した組織は回復しません。再生療法は組織の回復のために行われる治療法です。主な再生療法を紹介します。
・骨移植
患者本人の他の部位から採取した骨や人工骨を移植して、あごの骨量を回復させる治療法です。
・GTR法
インプラント周囲炎で失われたあごの骨は、インプラント周囲炎が治ると自然に再生しようとします。しかし、歯肉の回復のスピードが早いため、骨が再生する場所がなくなってしまいます。
「GTR法」は、「メンブレン」と呼ばれる人工膜で骨を増やしたい場所を覆うことで、再生するスペースを確保し、骨の再生に導く治療法です。
・遊離歯肉移植術(ゆうりしにくいしょくじゅつ)
歯肉は「上皮」と「結合組織」から構成されています。遊離歯肉移植術では、患者の上あごの天井部分にあたる「口蓋(こうがい)」から、上皮がついた結合組織を切り取り、必要な箇所に移植し歯肉の厚みを補います。
・結合組織移植術
歯肉の厚みを足す手術で、患者の口蓋の歯肉から、結合組織だけを切り取って移植する治療法です。
・エムドゲイン法
歯周組織の形成に重要な成分を使用したゲル状の薬剤を、歯根周辺に塗り、骨の再生を誘導する治療法です。
3-6.インプラントの除去
歯のクリーニングや投薬、切除療法、再生療法などの治療をしてもインプラント周囲炎が治らない場合、インプラントを除去せざるを得ません。除去後は、入れ歯などで失った歯を補います。
4.インプラント周囲炎を防ぐ方法
インプラ ント周囲炎を防ぐ主な方法を解説します。
4-1.感染対策を徹底した歯科クリニックで治療を受ける
インプラント治療時の感染対策がしっかりしていれば、歯周病菌などの菌が侵入するリスクを軽減できます。
インプラント治療の際は、減菌された専用手術室の設置や患者ごとのグローブの交換、器具の消毒などの対策を徹底しているところを選びましょう。
インプラント周囲炎の予防だけでなく、感染による腫れ・痛み・インプラントが結合しない事態を防げるといったメリットがあります。
4-2.定期メンテナンスに欠かさず通う
インプラント治療後の歯科クリニックでの定期メンテナンスでは、口の中のチェックや歯のクリーニングなどを行います。
定期メンテナンスに欠かさず通いクリーニングを受けていれば、口の中を衛生的な状態に保て、歯周病菌の増殖を予防できます。
また、チェックを受けることで、インプラント周囲炎にかかっていたとしても重症化する前に発見・治療できるのもメリットです。
4-3.セルフケアを徹底する
インプラント周囲炎の原因である歯周病菌の増殖を防ぐには、毎日の歯磨きなどのセルフケアが重要です。定期メンテナンスの際に、ブラッシング指導を受け、正しい歯磨きを身につけましょう。
また、歯間ブラシやデンタルフロスなどのツールを使い、歯磨きでは落としにくい汚れも取り除くと、より効果的に予防できます。
4-4.禁煙する
タバコに含まれる有害成分は、インプラント周囲炎の発症・重症化リスクを高めてしまいます。インプラントの寿命を伸ばすには、手術前に禁煙するのがベストです。
禁煙が難しい場合は、主治医と相談し、タバコの本数を減らす、禁煙外来に通うなどの対策を取りましょう。
4-5.持病を治療する
糖尿病や貧血などの疾患や服用している薬によって、インプラント周囲炎のリスクが高まる可能性があります。病気にかかっている場合は、インプラント治療をはじめる前に、歯科医師に相談しましょう。持病の主治医と連携するなど、適切な治療方法を考えてもらえます。
5.インプラント治療後の感染に注意!インプラント周囲炎のリスクも
インプラント治療後に、雑菌が侵入するとインプラント周囲炎や治療箇所の炎症といったトラブルになりかねません。
なかでも特に多いトラブルが、インプラント周囲炎です。重症化すると歯ぐき・あごの骨が破壊され、インプラントが脱落する場合があります。
インプラント周囲炎の治療法としては、歯のクリーニングや切除法、再生療法などがあります。予防するには、手術時の衛生管理・定期メンテナンス・セルフケア・禁煙・持病の治療などが大切です。
インプラント治療後の感染は、インプラントの寿命に大きく関わります。しっかり対策して、インプラントを長持ちさせましょう。