インプラント治療を「成功」させるために/優秀な「歯科技工士」との連携

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

歯科技工士は、被せ物や入れ歯、さらに矯正装置などを作製する歯科医療の技術職です。手先の器用さや芸術センスが問われる仕事と思われがちですが、そこに確かな専門知識や技術を身につけた者でなければ、歯科技工士の資格は与えられません。

 

とくにすべてが「人工物」で構成されるインプラントにおいては、その設計や作製において歯科技工士にも高い専門性とスキルが求められます。

 

今回は歯科医療を陰で支える歯科技工士にスポットを当て、インプラント治療における歯科技工士の役割についてご紹介します。

目次

1.歯科技工士はインプラント治療の”陰の立役者“

インプラントは骨の中に埋め込む「インプラント体」とその上に被せる「上部構造」、さらにその2つをつなぐ「アバットメント」の3つのパーツから構成されます。歯科技工士は主に上部構造の設計や作製でその能力を発揮していきます。

 

インプラントの中で実際に“歯”の代わりを果たす上部構造は、形や色のみならず、歯の重要な働きである「噛む」という機能も天然歯と同様に再現させなければなりません。

 

もし上部構造の噛み合わせに不備があれば、それはインプラントが早期に抜け落ちたり、グラついたりする原因になります。

 

歯科医師がどんなに精巧な治療を行ったとしても、最後に装着する上部構造の精度によっては、その治療のすべてが台無しとなってしまうおそれもあるのです。

 

そのうえで歯科技工士には、単に天然歯の色や形を“真似る”のではなく、科学的な根拠に基づいた専門知識と、それらに裏付けられた精密な技術が必要になります。

 

私たちと接する機会は少ないながらも、インプラント治療はこのような歯科技工士たちの洗練された技能によって支えられています。

2.通常の被せ物とインプラントの被せ物との違い

通常の被せ物は天然歯(自身の歯)を削って被せ物を装着しますが、その天然歯の歯根には、骨との間に「歯根膜(しこんまく)」という組織が存在しています。

 

歯根膜には歯にかかる力を吸収して和らげるクッションの働きのほか、歯に過剰な力が加わった際に、それを“痛み”として感じるセンサーが備わっています。

 

例えば、新しい被せ物で噛んだ時に何となく違和感を覚えるのは、歯根膜のセンサーが噛み合わせのわずかな変化に敏感に反応しているからです。この歯根膜のおかげで天然歯に入れる被せ物はある程度の融通が利き、調整もスムーズに行いやすくなります。

 

一方のインプラントは、インプラント本体が直接骨に結合しているため、被せ物に加わった力がダイレクトに骨に伝わってしまいます。さらに歯根膜を有さないインプラントは、被せ物に過大な力が加わっても、それを“痛み”や“違和感”として察知する感覚も天然歯より劣ってしまいます。

 

インプラント治療では、このような天然歯との違いを理解しないまま作製された上部構造によって、後に様々なトラブルに見舞われることも実は少なくありません。

 

インプラントに加わる過剰な力はその周囲の骨を破壊するため、治療後にインプラントがグラついたり、抜け落ちたりする原因になります。

 

したがってインプラントの上部構造の作製では、従来よりもさらに”慎重さ“や”精密さ“が求められます。

3.進化するインプラント治療と歯科技工士の重要性

3-1.「診査・診断」から必要とされる歯科技工士の手腕

これまでのインプラント治療では、事前の診査・診断をもとに歯科医師が1人で治療計画を立て、歯科技工士はそれに従いながら被せ物を作製するのが一般的でした。

 

しかしインプラント治療にコンピュータ技術が導入されるのにしたがい、歯科技工士に求められる技能も変わりつつあります。

 

近年発展したインプラン治療のコンピュータガイドシステムでは、事前の画像データ(CT画像など)をもとに、治療の最終段階までのシミュレーションが可能となっています。

 

簡単にいうと、コンピュータの画面に患者さんのお口の中を立体画像として再現し、その画像上で模擬的なインプラント治療(シミュレーション)が行えるわけです。

 

ガイドシステムでは上部構造の作製や装着についても治療前にシミュレーションし、その形状や向き、位置などを予測することができます。

 

またかつては模型上でしか再現できなかった顎の動きや噛み合わせなどもモニター上でより精密に映し出され、それらの情報を歯科医師と共有できるようになっています。

 

このようなデジタル技術の進化によって、歯科医師も診査・診断の段階から歯科技工士に専門的なアドバイスを求めるようになってきています。

3-2.「インプラント専門歯科技工士」の存在

インプラント治療の進歩にともない、歯科技工士の中にもインプラントの知識や技術に精通し、より専門的な立場からインプラント治療に携わる人も増えています。

 

なかでも近年注目されるのが、日本口腔インプラント学会より資格の認定を受けた「インプラント専門歯科技工士」の存在です。

 

この資格を得るためには、「上部構造の作製に3年以上携わっていること」「上部構造の作製の経験が10例以上あること」など、いくつかの条件を満たす必要があります。

 

またこれらの条件を満たしていても、学会が指定した試験をパスしなければ資格は取得できません。高度化するインプラント治療の中で、このようなインプラント技工のプロフェッショナルの存在は、歯科医師のみならず、治療受ける患者さんにもさらなる恩恵を与えてくれるでしょう。

4.まとめ

歯科技工士は歯科医療における“モノづくりのプロ”ですが、そのベースを支えるのは手先の器用さやセンスではなく、科学的根拠に裏付けされた高度な知識と技術です。

 

正確さと精密さが求められるインプラント治療では、歯科技工士も歯科医師と対等に意見しあい、患者さんにとって最善の治療法をともに模索していきます。

 

日頃は接する機会の少ない歯科技工士ですが、その陰で歯科医療にはなくてはならない存在であることを、ぜひみなさんにも知っていただければと思います。

この記事が気に入ったら「評価」ボタンを押してください!

★★★★★

評価する