「総合治療のすすめ」歯周病や虫歯で歯がボロボロになってしまった方へ

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

歯科治療といえば、「痛みや腫れを治す」「インプラントや入れ歯を入れる」など、今まさに問題が生じている部位のみを対象にした治療をイメージする方が多いと思います。

 

ただ近年はこのような部分的な治療ではなく、お口全体を1つの枠組み(1口腔単位)とし、お口を“0の状態”から作り直す「総合治療」が注目を集めています。

 

総合治療では「虫歯」「歯周病」「インプラント」「矯正」といった小さな枠組みにとらわれず、あらゆる分野から必要な治療だけを厳選し、お口の再建を行っていきます。

 

「歯がボロボロで、どこをどう治療したらいいかわからない」とお悩みの方に、今回は総合治療の特長やメリットなどを詳しくご紹介していきましょう。

目次

1.歯科の「総合治療」とは?

1-1.総合治療はお口の“リノベーション”

総合治療が通常の治療とどのように違うのかを知るうえでは、家の“リフォーム”と“リノベーション”を思い浮かべるとよりわかりやすくなります。

 

リフォームとは一般的に、「汚れた壁紙を張り替える」「古くなったキッチンを新しいものに変える」など、家の中を“部分的に直していくこと”を意味します。私たちが普段受けている「虫歯の治療」や「歯周病の治療」は、このリフォームと同じです。

 

対してリノベーションは、現在そこに住んでいる人のライフスタイルに合わせて「間取り」や「内装」、「配管」などをすべて作り変える、お家全体の修繕です。総合治療とはまさにお口の“リノベーション”に相当し、歯を部分的に治すのではなく、「お口全体を0の状態から作り変える治療」といえます。

1-2.「歯がボロボロになる=歯磨き不足」とは限らない

総合治療は1つの症状や1本の歯だけを診るのではなく、お口の中に生じる問題の根本的な原因を探り、それぞれの原因に対応した治療を行っていきます。

 

虫歯や歯周病の原因はお口の“汚れ”であること、その汚れを取り除く“歯磨き”をきちんと行っていれば、虫歯や歯周病は予防できることは、いまや世の中の常識となっています。

 

そのため私たちは歯が悪くなる原因を“歯をきちんと磨いていない”、つまり「自身の不摂生によるもの」とつい考えてしまいがちです。

 

しかし歯が悪くなる人の中には、日々のセルフケアに熱心に励んでいるにもかかわらず、虫歯や歯周病を繰り返してしまう人も少なくありません。なぜこのように繰り返すのかといえば、それは歯の形や歯並び、噛む力など、汚れ以外にも歯を悪くする原因がお口の中に存在しているからです。

 

総合治療ではこのような歯を悪くしてしまう本来の原因をすべて取り除き、治療後も長く安定した状態を保てるような口腔環境を作り上げていきます。

1-3.専門分野の「たて割り」をなくし、治療のムダを省く

総合治療では、はじめに「お口をどのように作り変えるのか」というゴールを定め、そのゴールに向けた最善の道筋を探していきます。

 

“作り変える”と聞くと「たくさん治療する」と考えがちですが、実は治療のムダを省くことも総合治療を行う目的の1つです。

 

従来の治療では最初に歯を残すための保存治療(虫歯・歯周病の治療)を行い、次にブリッジや入れ歯、インプラントといった補綴(ほてつ)治療を検討するのが一般的です。また矯正治療については、歯並びが気になる希望者のみを治療の対象としています。

 

ただ個々の治療はそれぞれに「病気(虫歯・歯周病)を治す」「噛めるようになる」「見た目を良くする」とゴールが異なり、またその道筋もさまざまです。このようなバラバラの治療ではお口の中に複数のゴールを作ってしまい、治療にもムダが生まれてしまいます。

 

1つのゴールに向けた総合治療では、「保存」「補綴」「矯正」といった専門分野の“たて割り”をなくし、各分野から必要なものだけを厳選して治療を行います。総合治療はこのように治療を必要最小限に抑えることで、結果として治療のムダを省くことができます。

1-4.「力」のコントロールを重視

虫歯や歯周病などで歯がボロボロになってしまう直接的な原因は「プラーク」と呼ばれる細菌の塊ですが、しかしそこにはもう1つ、「力」という要素も加わっています。

 

例えば1本の歯が虫歯または歯周病になると、その歯は以前と同じようには噛む力を維持することができません。

 

するとその分の力を、残っている他の歯が肩代わりせざるをえなくなります。力の差はほんのわずかですが、その状態が長く続けば、残っている歯には私たちが想像する以上の負担となります。

 

お口の健康を維持していくうえでは、虫歯や歯周病の原因となる「細菌」と、歯に加わる「力」の両方をうまくコントロールしていくことがとても重要です。総合治療ではこの「力」のコントロールに重点をおき、隣り合う歯や噛み合わせる歯とのバランス、またお口全体にかかる力の大きさなどを考慮しながら治療を進めていきます。

2.総合治療を受けるメリット

2-1.もう一度「よく噛める」「見た目がよくなる」

総合治療では一部の歯を治すのではなく、虫歯・歯周病の改善から歯の形や歯並び、噛み合わせの修復まで、あらゆる方面からアプローチしてお口全体を再生させます。すでに食べ物が満足に噛めない状態であっても、そこから新たな構造を作り直し、もう一度よく噛め、見た目もキレイなお口へと仕上げていきます。

2-2.自分の歯が維持しやすくなる

総合治療の最終ゴールは現状の回復ではなく、生涯を通じてお口の健康を維持できる口腔環境を作り上げることです。総合治療では噛む機能や見た目のほかに、歯磨きがしやすい歯の形態や歯並び、バランスのよい噛み合わせなどにも配慮して治療を行っていきます。これにより治療後も自身で管理しやすく、トラブルの少ないお口の環境を整えることができます。

2-3.長期的にみた“医療費の削減”につながる

一見すると膨大な時間や費用がかかると思われがちな総合治療ですが、長い目で考えると「悪くなったら治す」というやり方ほうが、かえって通院回数や医療費を増大させます。悪い所を一度で治し、さらに予後も安定しやすくなる総合医療は、結果的に将来の医療費や時間の削減にもつながります。

3.どういう人に総合治療はおすすめ?

3-1.歯がボロボロで、どこから治していいかわからない人

虫歯や歯周病がお口全体に広がり、食べ物が満足に噛めないほど歯がボロボロになってしまった人にとって、総合治療はまさに“救いの手”となります。「もう治療はムリ」とあきらめず、総合治療で新たな口腔環境を作り上げましょう。

3-2.歯医者さんに通っているのに、なかなか治らない・治療が終わらない人

歯科治療が長引いてしまう要因の1つに、歯が悪くなる根本の原因が改善されていないことが考えられます。歯医者さんに長く通っているのに「なかなか治らない」、あるいは別のところが悪くなって「治療が終わらない」という方は、ぜひ総合治療を検討してみましょう。

3-3.いつも同じところが悪くなる人

治療をしても、時間が経つとまた同じところこが悪くなるケースも、悪くなる本当の原因がお口の中に残っている可能性が高いでしょう。総合治療ではこのような繰り返す虫歯や歯周病についても、その大元となる原因の追究と改善に努めていきます。

4.総合治療の難しさ

近年は「歯周病専門」「インプラント専門」「矯正専門」というように、ある治療分野に特化した歯科医院が増えています。このような専門医院のメリットは、それぞれの分野で高度な技術を有した歯科医師によるハイレベルな治療が受けられること、またその治療成績も良好であることです。

 

ただお口全体で考えると、歯周病を治してからインプラント、さらに矯正治療という方法は効率が悪く、治療に多大な時間や費用を要してしまうケースも少なくありません。

 

総合治療の利点はこのような専門治療の中から必要なものだけを選び抜き、お口全体を必要最小限の治療で効率よく治していけることです。

 

一方で総合治療の難しさは、1人の歯科医師が各分野の治療に精通し、それぞれのケースに応じて適切な治療を選択して治療する技量を持たなければならない点にあります。専門医院にくらべ、総合治療を提供する歯科医院がいまだ少ないのもこのためです。

 

総合治療を検討する際は、受診する歯科医院が総合治療(または包括的歯科治療)を提供しているかどうかをまず確認しておくことが大切です。あわせてホームページなど参考に、これまでの治療実績や治療例などもチェックしておきましょう。

5.まとめ

この記事が気に入ったら「評価」ボタンを押してください!

★★★★★

評価する