なぜ根管治療の50%以上が失敗してしまうのか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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根管治療は、虫歯治療や歯周病における選択肢の一つです。必ずこの治療を選ばなければならないというわけではありませんが、「抜歯はしたくない」「せめて歯は残したい」という意思があるなら、検討してみる価値はあるでしょう。

 

しかしこの治療は、決して成功率が高いとはいえません。それは一体なぜなのでしょうか。本記事では、みなさんが治療を検討する際の参考として役立ててもらうために、根管治療の本質と現実的な側面について掘り下げていきます。

目次

(1)そもそも根管治療はどんな人に必要な治療なの?

例えば虫歯が著しく進行して重度の状態に至ると、いずれ歯の神経まで達してしまい、激しい痛みに苦しむことになります。腐った神経を放置することで口臭を発したり、他の歯に菌が移ってさらに範囲が拡大したりするケースも考えられますので、たいていは菌に冒された歯を抜いて早々に対処するのが一般的です。

 

抜歯はしっかりと麻酔をかけて行われるため、ほとんど痛みを感じることなく、処置は一瞬で終わります。しかし「これで痛みから解放された」と喜ぶのも束の間、抜歯後の対応を考えなければなりません。

 

インプラント、入れ歯、ブリッジなど……歯を失った部分を何らかの方法でカバーする必要があります。しかし、そのどれもが追加で費用が発生してしまうため、その点が非常にネックだといえるでしょう。

 

そういった状況になることをふまえた上で代替案として挙げられるのが、「根管治療」です。根管治療は、虫歯に侵食された中の部分(神経を含む)のみを「ファイル」と呼ばれる細いヤスリで綺麗に削り取り、歯の“ガワ”だけを残しておく治療方法として知られています。

(2)根管治療を検討する前に知っておきたいこと

「歯を残せるなら残したい」とは、誰しもが思うことです。人工の歯よりも、自然の歯で食事を楽しみたいですよね。しかし根管治療を検討するなら、事前に知っておかなければならない注意点がいくつか存在します。

(2-1)歯が脆くなってしまう可能性

残念ながら「根管治療が成功すれば、その後も歯を維持できる」という保証はありません。根管治療では、菌に冒された神経を抜く際に、一緒に血管も除去します。神経と血管がなくなると、歯に栄養が行き届かなくなり、結果的に歯が脆くなってしまうのです。

(2-2)歯の変色

神経の抜かれた歯は、中に詰め物が入れられているだけで、実質的には「空洞」です。その歯には血が行き渡らなくなるため、人によっては黒ずんで変色してしまうことも……。ただし変色した歯は、ホワイトニングなどの方法で白さを取り戻すことが可能です。

(2-3)治療の際は痛みがある場合も

「根管治療は痛みがない」といわれることがあります。確かに、治療中はしっかりと麻酔を利かせていますし、そもそも根管治療を行うような歯は、すでに神経が死んでしまっている場合がほとんどですので、痛みを感じにくいというのは部分的に正しいといえるでしょう。

 

しかし問題なのは、根管治療の後です。歯の根に膿が溜まる、施術に伴い歯茎が腫れる、根管治療を施した周囲の組織が炎症するなど……これらが原因で、治療後にズキズキとした痛みを感じることがあります。

(2-4)再発を繰り返すことも

菌を完全に除去して歯の中をクリーンにしなければ、虫歯が再発したり炎症したりします。そうなれば当然、何度も歯科医院に通って治療をしなければなりません。仕事で忙しい方はなかなか通院の時間を確保できないため、非常に大変です。

 

かといって、再発した歯を放置しておくと歯肉にまで菌が拡大して、さらに状態が悪化してしまう可能性もあります。根管治療を検討する際は「治療後も再発のリスクがある」という点に留意しておきましょう。

(2-5)根管治療の失敗率は50~70%

これまでの解説をふまえた上でいうと、残念ながら根管治療の成功率は全体的に高くはないというのが現実です。「歯が脆くなる」「歯が黒ずむ」というのは、根管治療後に起こり得る現象であり、これをもって“失敗”とはいえません。

 

根管治療を失敗たらしめてしまうのは、例えば「完全に虫歯を除去したと思っていたが、取り残しがあった」「見えないところに潜んでいた虫歯が繁殖して歯の維持が難しくなった」という状況です。

 

根管内部は人によって様々な形をしています。シンプルな一直線状のタイプもあれば、蟻の巣のように複雑な形をしているタイプも存在します。

 

虫歯を削り落とすのは「ファイル」と呼ばれる細いヤスリですから、これが届かないところは、菌を除去することが非常に難しくなってしまうのです。

 

統計によると、根管治療の失敗率は50~70%。虫歯治療の中でも、根管治療は非常に高い技術が要求されます。熟練の歯科医師であっても、菌を完全に取り切ることが難しいのです。治療に臨む際は、「いつかは抜歯をしなければならない」という覚悟をしなければなりません。

(3)根管治療を成功へと導くための方法

根管治療の歯を少しでも長く維持するためには、どうしたらよいのでしょうか。根管治療の成否を左右するのは、やはり菌の除去率です。理論上、菌を100%取り除くことは難しいとしても、100%に近づけることはできます。

(3-1)根管治療に適した設備環境の充実

根管治療を成功へと導く第一の秘訣は、やはり何と言っても「設備環境の充実度」が挙げられるでしょう。

 

もともと歯の根管は非常に小さくて細い穴をしておりますので、目視で菌を確認することは間違いなく不可能です。

 

一昔前の根管治療では、基本的には歯科医師の経験に大きく委ねられていました。レントゲン写真などを駆使しながら「根管はこれくらいの深さで、このような形をしているだろう」という医師の予測が頼りだったため、精度の面で難点があったのです。

 

現在では医療技術が発達し、マイクロスコープによる精度の高い根管治療が可能となりました。設備環境が整っていれば、それだけ成功率は上がります。

 

根管治療にあまり熱心ではなく、重度の虫歯に対して抜歯の治療を行うスタイルをとっている歯科医院は、設備があまり充実していない可能性があります。

(3-2)セカンドオピニオンの活用

歯科医師が根管治療にあまり積極的な反応を示さなかった場合、次の理由が考えられます。

 

①単純に根管治療に自信がない

根管治療に多くの実績と経験を持つ医師もいれば、インプラントのように「歯を残す」ではなく「歯を作り直す」というテーマで施術を行っている医師もいます。

 

根管治療を相談したときに相手があまりいい反応をしなかった場合は、すぐに他の歯科医院をあたってみることをおすすめします。歯科医院によって、治療の得意・不得意があるからです。

 

②インプラントや入れ歯のほうが儲かる

先述したように、根管治療は成功率が決して高いとはいえません。だからといって、患者の「挑戦したい」という要望を無視して、他の治療を提案するのは少々強引といえます。

 

「根管治療はどうせ失敗するから、抜歯をしてインプラントにしたほうがいい」と提案されたときは、一旦相談のまま保留にしておき、他の歯科医院に話を伺ってみましょう。入れ歯やインプラントにしたほうが儲かるという理由で、根管治療をしない方向で話をまとめようとしている可能性があります。

 

③根管治療が難しいレベルで症状が進行している

虫歯の進行具合によっては、「根管治療をするよりも抜歯をしたほうがいい」と冷静に判断される場合もあります。歯科医師の説明を聞いても納得がいかないなら、遠慮なくセカンドオピニオンで他の医師に話を伺ってみましょう。

(3-3)自由診療で限界まで治療の可能性を追う

根管治療を成功へと導きたいのなら、費用は出し惜しみせず、「自由診療」の選択をおすすめします。

 

というのは、保険適用内で行う根管治療には、対応できる治療方法に限界があるからです。歯科医院によって根管治療における保険診療・自由診療の範囲は様々ですが、成功率を高めたいなら、菌の除去を完全に近づけるための努力を限界まで引き出すのが一番です。

 

根管治療を相談する際は、自由診療でどのような処置を行ってくれるのかよく調べておくとよいでしょう。

(4)まとめ

根管治療は、虫歯に冒された神経を除去して、歯を残す治療方法。抜歯に抵抗のある方や歯を残したい方は、選択肢の一つとしてぜひ検討してみてください。

 

 

根管治療の特徴
メリット

 

・自分の歯を残せる

・インプラントや入れ歯にする費用が浮く

 

デメリット

 

・歯が変色する可能性がある

・歯が脆くなりやすい

・治療後に痛みが発生することも

・虫歯が再発するリスクが常にある

・根管治療の失敗率は50~70%ほど

 

成功率を高めるポイント

 

・マイクロスコープなどの最新設備が整っている

・セカンドオピニオンを活用する

・自由診療を選択して限界まで治療の可能性を追う

 

 

 

ただし根管治療の成功率は決して高くないため、いずれは抜歯をしてインプラントや入れ歯を行う可能性があることを常に念頭に置いておきましょう。

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