静脈内鎮静法(睡眠麻酔)と全身麻酔の違い

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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歯医者さんの治療と聞くと、なんだか少し恐怖感がありますよね。

治療中の痛みや不快感は、なるべく少なくしたいものです。

今回は、インプラントや親知らずの抜歯、歯周病の手術などの際に、治療の負担を軽くすることができる、「静脈内鎮静法(睡眠麻酔)」と「全身麻酔」の違いについてご紹介します。

目次

静脈内鎮静法(睡眠麻酔)とは

静脈内鎮静法(睡眠麻酔)は、中枢神経系の動きを抑制し、意識を残したまま眠らせて治療する方法です。

腕(場合によっては手の甲)に静脈注射をし、管(ルート)につないで、点滴で体に薬を入れます。

点滴の針はとても細く、普段から注射が苦手な方でも痛みを感じにくいそうですよ。

 

投与する薬は、精神安定剤、腫れ止め・痛み止め、抗生物質などです。

それらの薬には、健忘(治療中のことを覚えていない)や、心地よく眠るために睡眠の質を上げる効果がある他、治療による嘔吐反射(えずき)を抑える効果もあります。

薬の量や種類は、患者さんの体調や治療の内容によって変わり、治療中も必要に応じて追加したり、調整をされます。

それでは、静脈内鎮静法の、メリットとデメリットを見ていきましょう。

静脈内鎮静法のメリット①不安をなくして治療ができる

静脈内鎮静法は、意識を残したまま眠らせる麻酔法のため、リラックスして治療を受けることができます。

ふわふわとした心地よい感覚で、治療による音や振動に対する恐怖心をやわらげてくれますよ。

麻酔の強さは、呼びかけたら応答できる程度にとどめておくことや、完全に眠ってしまうまで強めることができます。

ご自身の持つ恐怖心や、その日の体調、治療の内容や痛みの度合いに合わせて変えられるので、麻酔科専門医師とよく相談してくださいね。

静脈内鎮静法のメリット②治療中の痛みを感じにくい

静脈内鎮静法の薬には、痛み止めが入っているため、治療中の痛みを感じにくくなります。

また、歯茎などに局所麻酔の注射をする際も、麻酔にかかった状態で行うため、チクっとした嫌な痛みを感じることがありません。

(※静脈内鎮静法だけでは麻酔効果は得られないため、局所麻酔を併用して行う必要があります。)

静脈内鎮静法のメリット③治療の嫌な記憶が残りにくい

静脈内鎮静法を行うと、薬の健忘効果により、治療中の記憶はあいまいになります。

苦痛なく歯科治療を受けることができますよ。

数時間に及ぶ治療であっても数十分に感じるなど、「あっと言う間に治療が終わった」と感じる方が多いようです。

長時間の治療も負担なく行えるため、まとめて治療を行って、通院する回数を減らすこともできますね。

静脈内鎮静法のメリット④安全に治療ができる

静脈内鎮静法は、意識を残したまま治療を行うため、呼吸を止めることはしません。

そのため、リスクが少なく、安全に治療を行うことができます。

呼吸を止めることがないため、人工呼吸器などの機械が必要なく、大型の病院でなくても治療を受けることができますよ。

 

また、薬の効果で血圧や心拍数が安定するため、高血圧や心臓病などの疾患を持った方でも、治療を受けることができます。

静脈内鎮静法のメリット⑤日帰りで治療ができる

静脈内鎮静法は、治療後20分程度で薬が代謝して抜けるため、日帰りで治療を受けることができます。(※麻酔が抜けにくい場合は、拮抗薬(麻酔の作用を減弱させる薬)を使うこともあります。)

麻酔が抜けてきても、ふらつきなどを起こすことがあるので、十分に休んでから帰宅してくださいね。

治療後の当日中は、自動車や自転車の運転はできないので、あらかじめ帰りの移動手段を考えておきましょう。

危険や責任が伴う作業も、安全の為に当日は控えてくださいね。

 

 

メリットの多い静脈内鎮静法ですが、デメリットもあります。

静脈内鎮静法のデメリット①効果に個人差がある

静脈内鎮静法は全身麻酔と違い、完全に意識を飛ばさないため、効果に個人差があります。

静脈内鎮静法だけで十分な効果が得られない場合は、鼻から吸引する笑気吸入鎮静法(笑気麻酔)と併用した、ハイブリット鎮静法を利用するのも1つの手段です。

 

 

続いては、全身麻酔についてご紹介します。

全身麻酔とは

全身麻酔は、外科手術などでも使われている、麻酔薬で完全に眠ってしまう麻酔法です。

呼吸も止まってしまうため、人工呼吸器を装着して治療します。

全身麻酔のメリット①意思の疎通が難しい方や、小さな子供も利用できる

全身麻酔は、静脈内鎮静法と違って完全に意識をなくしてしまうため、治療を拒絶してしまう方や、怖がって暴れてしまう小さな子供でも治療ができます。

点滴で麻酔薬を入れるのが難しい場合は、まずマスクを使った吸引麻酔(ガス麻酔)をして眠らせてから行うこともできます。

全身麻酔のメリット②基本的には、局所麻酔の必要がない

全身麻酔は、全身に麻酔をかけることで治療部分への麻酔効果もある為、基本的に局所麻酔の注射をする必要がありません。

点滴で入れる麻酔のみで治療を行うことができます。(※痛みの度合いによっては、局所麻酔を併用して行う場合もあります。)

全身麻酔のメリット③静脈内鎮静法よりも、深い眠りの状態を作ることができる

全身麻酔は、麻酔を入れた後、脳波のモニタリングで完全に眠っているのを確認してから、治療を開始します。

治療をしているという感覚もなく、臭いや味もまったく感じない為、歯科治療に抵抗がある方は、全身麻酔がおすすめです。

 

 

効果の高い全身麻酔ですが、こちらもデメリットがあります。

全身麻酔のデメリット①かかりつけの歯科ではできない場合がある

全身麻酔は、人工呼吸器などの大型機械が必要な為、入院施設のある大きい病院で行う必要があります。

かかりつけの歯科が全身麻酔の治療に対応していない場合は、別の大型病院に移って治療を行うことになります。

全身麻酔のデメリット②事前検査、治療後の入院が必要

全身麻酔を行う場合、事前に内科での血液検査や、レントゲンを撮る必要があります。

また、前日から指定の時間以降は飲食をしないなど、守るべき注意点があります。

 

全身麻酔は静脈内鎮静法に比べて麻酔が抜けにくいので、治療後は入院をして経過観察します。(※治療内容によっては、日帰りで行う場合もあります。)

治療後は嘔吐や、小児の場合は発熱することもあるので、注意が必要です。

 

このように、治療の前後でも時間が必要となるため、多忙で治療に日数がかけられない方は、静脈内鎮静法を選んだ方が無難です。

全身麻酔のデメリット③静脈内鎮静法より費用が高め

歯科治療で麻酔を使う場合は、基本的に国民健康保険が効かない自費診療(自由診療)となります。(※障害のある方など、地域によっては保険適応となる場合もあります。)

そのため、病院によってかかる費用は異なりますが、全身麻酔の方が静脈内鎮静法より治療費が高い傾向にあります。

まとめ

静脈内鎮静法と全身麻酔、どちらもメリット・デメリットがあります。

必ず、治療を受ける歯科選びをしっかり行い、担当歯科医師のカウンセリングを受けてから、どのような方法をとるのか決めてくださいね。

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