インプラント治療で、「抜歯即時埋入」とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

通常のインプラント治療では、抜歯した箇所の傷が回復してからインプラントを入れる処置をします。「抜歯即時埋入(ばっしそくじまいにゅう)」は、抜歯と同じタイミングでインプラント手術を受けられる画期的な治療法です。

 

手術回数を減らせる、治療期間を短縮できるなどのメリットがあるため、近年、対応している歯科クリニックが増えています。

 

この記事では、抜歯即時埋入について、メリット・デメリットも合わせて解説します。抜歯・インプラントを検討している方は、ぜひ参考にしてください。

目次

1.抜歯即時埋入って何?治療の流れは?

ここでは、抜歯即時埋入の概要や治療の流れを解説します。

1-1.抜歯即時埋入とは

歯が 折れているなど歯根が残っている場合は、抜歯してからインプラントを入れます。抜歯即時埋入とは、歯を抜いた直後にインプラント手術をする方法で、上あごの前歯で行われることが多い傾向にあります。

 

通常、抜歯後にインプラントを入れる場合は、細菌感染などを防ぐため、2~3ヶ月ほど待って歯ぐきや骨が回復してからインプラント手術を行わなければいけません。

 

しかし、近年の歯科医療の進歩により、抜歯と同時にインプラントを入れても適切に治療すれば、その後の経過に差がないことがわかりました。

 

手術回数が少なく済み、治療期間も短縮できるといった理由から、近年は抜歯即時埋入に対応している歯科クリニックも増えてきています。

1-2.抜歯時即埋入ができる場合

抜歯時即埋入をするには、以下の条件をクリアしなければいけません。

 

・治療箇所周辺に虫歯がない

・歯周病にかかっていない

・あごの骨の厚み・高さが充分である

・あごの骨に大きな欠損がない

・インプラントを埋め込んだ直後に、骨とインプラントが結合する可能性が高い

・噛み合わせや噛み癖に問題がない

・糖尿病など傷の治りに影響を及ぼす全身疾患にかかっていない

 

このように、抜歯即時埋入は、歯や歯ぐき、あごの骨の状態などが良好でなければ受けられない治療といえます。

1-3.抜歯即時埋入の流れ

一般的な抜歯即 時埋入の流れは、下記の通りです。

 

(1)診察・治療計画の説明

問診やレントゲン、歯科用CTなど治療に必要な検査を行います。あごの骨の量や幅、高さを測定し、患者に合った治療計画を作成。治療内容や期間、費用、メリット・デメリットなどを説明します。また、仮歯をつくるための型どりもします。

 

(2)抜歯

破損などでダメージを受けて使えなくなった歯を取り除くため、局所麻酔をして抜歯します。

 

(3)インプラント手術

抜歯した場所の洗浄・消毒などを行い、骨周辺をきれいにします。抜歯でできた穴の形をドリルなどで整え、歯根の代わりとなるインプラント体を埋め、すき間に人工骨を積めます。正確な位置にインプラントを埋め込めるよう、デジタル機器で確認しながら処置するのが一般的です。

 

(4)仮歯の装着

インプラント体の頭の部分に、仮歯または専用キャップを取りつけ、骨と歯ぐきの回復を待ちます。上手く固定できなかった場合は、仮歯をつけずに歯ぐきを縫合します。

 

(5)骨とインプラント体の結合を待つ

インプラント体と骨が結合するまで約3〜6ヶ月待ちます。

 

(6)最終的なかぶせものの型どり

インプラント体と骨の結合を確認出来たら、最終的なかぶせものである人工歯の型どりをします。

 

(7)人工歯の装着

完成した人工歯を取りつけ、抜歯後即時埋入法によるインプラント治療は完了です。

2.抜歯待時埋入とは

「抜歯待時埋入(ばっしたいじまいにゅう)」は、従来通りのインプラント方法で、抜歯後に傷口がある程度、治るのを待ってからインプラントを埋め込みます。

 

最近は抜歯即時埋入を行うケースも多いですが、あごの骨や歯ぐきの状態によっては、回復を確認してからインプラントを埋め込む必要があります。

 

例えば、歯周病やケガなどが原因で骨が吸収されている、歯ぐきが傷ついているといった場合は、インプラントを支えるための土台が整っていない状態です。そのままインプラント手術をすると、細菌感染などのリスクが高く、見た目の仕上がりにも影響します。

 

抜歯をした後で、骨を増やす治療や歯ぐきの移植などによって、インプラントに適した状態に整えれば、成功率が高まります。

3.抜歯即時埋入のメリット

抜歯即時埋入の代表的なメリットは、下記の通りです。

3-1.治療期間を短縮できる

抜歯をした後そのままインプラントを埋め込むため、外科手術が1回で済みます。また、歯ぐきや骨の回復を待つ期間がない分、治療期間が短くなり、早期に噛む機能や見た目を回復できます。

 

通常のインプラント治療の場合、10ヶ月ほどかかるのに対し、抜歯即時埋入の場合は4ヶ月程度で治療が完了するケースが少なくありません。

3-2.身体の負担が少ない

歯ぐきを切開するなどの外科処置をすると、どうしても身体の負担が大きくなり、腫れや痛みといったリスクが生じます。抜歯即時埋入であれば、外科手術の回数が少ない分、患者の身体の負担を軽減できます。

 

また、外科手術後は安静にする必要があるので、手術回数が減れば、その分行動に制限がある期間が少なくなるのもメリットです。

3-3.骨の吸収をおさえられる

歯が抜けると噛むことによる刺激がなくなるため、時間が経つにつれ、歯を支えていたあごの骨が少しずつ吸収されていきます。あごの骨量が減った結果、厚みや高さが足りずに、インプラント治療の前に骨を増やす治療が必要となる場合があります。

 

抜歯即時埋入の場合は、歯を失った直後にインプラントを埋め込むため、骨の吸収をおさえられます。また、骨量が多い状態でインプラントをすることで安定し、長持ちしやすくなるでしょう。

3-4.歯ぐきがやせるのを防げる

抜歯からインプラントを入れるまでの間が空くと、あごの骨と同じく歯ぐきもやせていきます。

 

歯ぐきがやせると、虫歯・知覚過敏・歯周病になりやすい、歯が長く見えるなど、さまざまなデメリットが生じます。抜歯してすぐにインプラントを埋め込むことで、歯ぐきの状態を良好に保てるでしょう。

3-5.傷口の治りが早い

抜歯直後は自然治癒力が高まるため、2回にわけて治療した場合と比べ、傷口が早く治る傾向があります。痛みや腫れといった症状が早くおさまるのに加え、感染症のリスクの軽減にもつながります。

4.抜歯即時埋入のデメリット

抜歯 即時埋入には、治療期間の短縮などのメリットがあります。しかし、下記のようなデメリットもあるため、抜歯待時埋入とどちらが適しているか歯科医師と相談のうえ判断しましょう。

4-1.対応できる歯科クリニックが限られている

抜歯即時埋入は、感染リスクが高く、通常のインプラント治療よりも高度な専門知識や治療スキルが求められる方法です。そのため、対応していないクリニックも多いのが現状です。

 

通常のインプラント治療と比べて歴史が浅いこともあり、実績が豊富な歯科クリニックを探すのに苦労するかもしれません。

4-2.細菌感染のリスクが高い

抜歯による傷口が回復していない状態でインプラントを埋め込むため、抜歯待時埋入よりも厳密な感染対策が重要です。

 

細菌感染が起きると、異常な痛みや腫れが生じたり、インプラントと骨が上手く結合しなかったりする可能性があります。インプラントと骨が結合しない場合は、再治療などの処置をしなければいけません。

 

高レベルの滅菌システムを備えた手術室がある、器具や歯科医師のグローブの消毒を徹底しているなど、対策に力を入れている歯科クリニックで治療を受け、リスクを軽減するのをおすすめします。

4-3.適用できないケースが多い

抜歯即時埋入を受けるには、あごの骨の厚さ・幅が充分にあり、さらに全身の健康状態が良いなどさまざまな条件を満たす必要があります。そのため、適用しないケースも少なくありません。

 

抜歯即時埋入を希望する場合は、早めに歯科医師に相談し、適用できるか確認しておきましょう。

4-4.インプラントメーカーが限定される

一部のインプラントは、抜歯即時埋入に対応していません。歯科クリニックによって取り扱っているインプラントの種類が異なるため、抜歯即時埋入をすることで、選択肢が狭まってしまう可能性もあります。

5.抜歯即時埋入ならインプラント治療の期間を短縮できる!

抜歯即時埋入は、抜歯と同じタイミングでインプラントを埋め込む治療法です。抜歯即時埋入の登場により、それまで約10ヶ月かかっていた治療期間が、4ヶ月ほどまで短縮されました。

 

抜歯即時埋入は、治療期間の短縮だけでなく、患者の身体的な負担の軽減や骨・歯ぐきのやせ防止など多くのメリットがあります。

 

その一方、対応できる歯科クリニックが少ない、感染リスクが高いといったデメリットもある治療法です。

 

抜歯即時埋入を希望する場合は、抜歯が必要になった時点で抜歯即時埋入の経験が豊富な歯科クリニックを探すとスムーズです。メリット・デメリットをしっかり説明してもらい、自分に合った治療法か見極めましょう。

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