インプラント治療後に「膿」が出たらどうすればいい?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療後に、歯ぐきなどが炎症を起こし、膿が出るケースがあります。膿が出た時に正しい対応をしなければ、炎症が悪化し、インプラントが使えなくなってしまうかもしれません。

 

この記事では、インプラント治療後に膿が出る原因や対策、予防法などを解説します。インプラントをトラブルから守るためにぜひ参考にしてください。

目次

1.インプラント治療後に膿が出る原因

膿は 、体内に侵入した細菌・異物を攻撃する「免疫細胞」・破壊された組織・死んだ細菌などを含む粘液です。不透明な黄白色や黄緑色をしている場合が多く、嫌な臭いがする場合もあります。

 

膿は細菌感染などで炎症が起きた時に出る場合が多く、身体を異常から守るためにつくられる物質です。膿が多くたまると、痛みを感じる、周囲の組織が圧迫されてさまざまな症状の原因になるといったトラブルが生じかねません。

 

インプラント治療後に膿が出る主な原因は、手術の傷口に細菌が感染している、またはインプラント周囲炎が発症しているの2つです。

1-1.手術の傷口に細菌が感染している

インプラント手術は、歯ぐきを切り開きあごの骨に穴を開け、歯根の代わりとなるインプラント体を埋め込み、歯ぐきを縫合するという流れで行います。

 

手術による傷口に細菌が感染すると、あごの骨とインプラント体の間に炎症が起き、腫れや痛みが生じ、膿が出るケースがあります。

 

細菌感染した場合は、インプラント体と骨の結合が上手く進まず、最悪の場合は結合せずインプラント治療が失敗に終わるかもしれません。

 

細菌感染の原因としては、手術中の感染対策や手術後のケアが不充分である、患者本人の免疫力の低下などがあげられます。

1-2.インプラント周囲炎が発症している

「インプラント周囲炎」とは、歯ぐきなどインプラントを入れた場所の周辺の組織が歯周病菌に感染して起きる病気です。歯周病とよく似た病気で、初期症状は歯ぐきの腫れ・赤みが出る程度ですが、徐々に進行し、出血や膿が見られるようになります。

 

また症状が重くなるにつれて、歯ぐきだけではなく歯を支えるあごの骨である「歯槽骨(しそうこつ)」にまで炎症が拡大し、組織を破壊してしまいます。

 

あごの骨が破壊された結果、インプラント体を支えきれなくなり、ぐらつきが生じ、最終的には抜け落ちてしまうケースも少なくありません。

 

インプラント周囲炎が起きる原因は、日々のメンテナンス不足によって口内の衛生状況が悪い、定期メンテナンスに行っていない、噛み合わせ・噛み癖が原因で歯ぐきに過剰な負担がかかっている、免疫力が低下しているなどが考えられます。

2.インプラント治療後に膿が出た場合にすべきこと

インプ ラント治療後に膿が出るということは、炎症などなんらかのトラブルがある証拠です。そのままにせず、下記のような対応をしましょう。

2-1.歯科クリニックに行く

歯ぐきから膿が出ている場合、そのままにしていても回復することはほぼありません。インプラント治療後に膿が出た場合は、すみやかに歯科クリニックを受診しましょう。

 

放置すると、炎症が悪化して腫れや痛みが激しくなる、インプラントと骨が結合せず脱落してしまう、あごの骨量が減りインプラントを取り除かざるを得なくなるなど、さまざまな悪影響が考えられます。

 

時間が経過するほど重症化し、大がかりな治療が必要となり、治療費も高額になります。初期であれば、消毒・洗浄など簡単な処置で治るケースも少なくありません。

 

異常が出てから受診まで時間が空きすぎると、多くの時間や費用を掛けてインプラントを入れたのにもかかわらず、使えなくなってしまう可能性があります。

2-2.診察を受けられない場合は歯科クリニックに相談する

すぐに診察を受けられない場合は、インプラント治療を受けた歯科クリニックに電話などで相談して下さい。症状に応じて、アドバイスがもらえます。

 

休診日などで担当医と連絡が取れない場合は、インプラント治療に対応している他の歯科クリニックか、休日・夜間の歯科診療所に相談してみましょう。症状を緩和する処置をしてもらえる場合もあります。

2-3.口の中を清潔に保つ

すぐに歯科クリニックを受診するのが一番よいのですが、仕事や家庭の都合などですぐに行けない場合は、さらなる感染を防ぐために、歯磨きやうがいをして口の中を清潔に保つようにしましょう。

 

膿が出ている箇所を刺激しないように、優しく歯磨き・うがいをすることが大切です。

2-4.食べ物に気をつける

治療箇所に刺激を与えると炎症が強くなり、膿が増えたり痛みが増したりします。硬いものや辛いもの、熱すぎるものといった刺激物は避けた方が無難です。

 

また、アルコールは血行を促進する作用があるため、炎症の悪化につながります。症状が落ち着くまでお酒は控えましょう。

3.インプラント治療後に膿が出た場合の治療方法

イ ンプラント治療後に膿が出た場合、原因や口の中の状況によって歯科クリニックでの対処方法が異なります。ここでは代表的な治療方法を紹介します。

3-1.清掃・消毒

症状が軽い場合は、口の中の清掃・消毒を繰り返し、炎症の原因である細菌を取り除くことで、膿がおさまる可能性が高いでしょう。

3-2.抗生物質の服用

細菌の活動をおさえる作用のある抗生物質を服用することで、炎症を抑える治療方法です。抗生物質の種類や患者の身体の状態によりますが、服用開始から2~3日程度で効果が出はじめます。

3-3.歯肉の切開を伴う洗浄・消毒

ある程度症状が進行している場合は、歯肉を切り開いて徹底的に洗浄・消毒しなければいけません。歯ぐきの奥やインプラント体に付着した細菌を取り除けるため、通常の洗浄・消毒よりも高い効果が期待できます。

3-4.インプラント体の除去

インプラント周囲炎が重症化して歯槽骨の量が著しく減少している、インプラント体とあごの骨が結合しないといった場合は、リカバリーが難しく、インプラント体を取り除かざるを得ません。

 

あごの骨を再生する治療などで状態を回復してから、再度インプラント治療を行う場合もあります。

4.インプラント治療後に膿が出るのを予防する方法

インプラ ント治療後に膿が出ると、最悪の場合はインプラントを使えなくなってしまいます。口の中の健康を保ち、インプラントを長く使うためには、炎症の原因となる細菌感染を予防するのが大切です。主な対策は下記の通りです。

4-1.感染対策を徹底している歯科クリニックを選ぶ

インプラント手術による細菌感染を防ぐには、歯科クリニック選びが非常に重要です。衛生管理を徹底した専用の手術室がある、手術器具の消毒をこまめにしている、掃除が行き届いているといった歯科クリニックであれば、感染リスクは比較的低いでしょう。

4-2.歯科医師の指示を守る

インプラント手術をした直後は、細菌感染を防ぐために抗生物質を処方されます。痛みや腫れが軽いからといって、薬を飲まなかったり量を減らしたりすると、薬の効果が充分に発揮されず、細菌に感染するリスクが高まるので要注意です。

 

また、飲酒・激しい運動・サウナ・入浴といった血行を促進する行動を取ると、炎症が悪化し、膿が出やすくなります。インプラント治療後の過ごし方について歯科医師の指示があるはずなので、しっかり守るようにしましょう。

4-3.禁煙する

タバコには、外部から侵入した細菌と戦う「白血球」の働きを低下させる作用があります。白血球の働きの低下により、歯ぐきの炎症が起きやすくなります。

 

また、タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血流を妨げる性質がある成分です。血流が悪くなると、必要な酸素や栄養素が行き届かなくなり、免疫のバランスが崩れ、細菌感染のリスクが高まります。

 

インプラント治療を決めたら、禁煙するようにしましょう。禁煙が難しい場合は、歯科医師と相談し、本数を減らす、禁煙外来に通うなどの対策をするのをおすすめします。

4-4.セルフケアを徹底する

手術中に感染対策を徹底しても、セルフケアを怠ると口の中で細菌が増殖し、感染リスクが高くなります。朝・昼・晩、毎食後に歯磨きをして、歯の裏表、噛み合わせの部分などを丁寧にブラッシングしましょう。

 

インプラント手術直後は、傷口を刺激しないよう歯磨きを控える患者もいますが、感染の原因となりかねません。歯科医師の指示に従って、傷口を避けつつ歯磨きをしっかり行うようにしましょう。

4-5.定期メンテナンスを受ける

定期メンテナンスでは、専門の器具を使ってクリーニングし、歯垢や歯石を取り除きます。歯垢や歯石には細菌が多く潜んでいるため、クリーニングによって感染リスクを軽減できます。

 

歯磨きをしっかりしていても、全ての歯垢を落とせるわけではありません。歯石は固いため通常の歯磨きでは取り除けず、プロによるメンテナンスが必須です。

 

また、歯科医師による定期健診を受けることで、インプラント周囲炎などの異常を早めに発見できるのも大きなメリットです。インプラント周囲炎は初期のうちは自覚症状が少なく、進行が早いため、気がついたときにはあごの骨の破壊が進んでいるケースがあるからです。

5.インプラント治療後に膿が出たらなるべく早く歯科クリニックへ!

インプラント治療後に膿が出る主な理由は、治療時の傷口に細菌が感染している、インプラント周囲炎にかかっているの2つです。

 

そのまま放置すると、痛みや膿だけではなく、インプラント体と歯槽骨の結合が進まない、あごの骨が破壊されてインプラント体を支えきれなくなるなど重大な症状が出る可能性があります。最悪の場合は、手術で入れたインプラント体を取り除かなければいけません。

 

膿が出た場合は早めに歯科クリニックで診察を受け、清掃・消毒などの処置をすることが大切です。

 

予防法としては、感染対策を徹底している歯科クリニックを選ぶ、歯科医師の指示を守る、禁煙する、セルフケアを徹底するなどがあります。正しい対策・予防を行い、インプラントを長持ちさせましょう。

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