「抜歯」後の抗生物質の飲み方は?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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抜歯後は抗生物質を処方されることが多いです。

しかし、この抗生物質の飲み方を正しく知らないという人も多いのではないでしょうか。

そもそもなぜ抜歯後に抗生物質が必要なのか、どうして飲む必要があるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。

今回は抜歯後、抗生物質を飲むことは必要なのか、また正しい飲み方について紹介していきます。

目次

1.抜歯後に抗生物質は必要?

抜歯をすると、マクロライド系の抗生物質が処方されることが多いです。

この抗生物質が処方されるのは、どのような理由からなのでしょうか。

1-1.感染予防のために処方される

抗生物質はほとんどの場合、抜歯後、術後感染症を予防するために処方されます。

抗生物質には痛みの緩和や治癒の促進効果はなく、あくまで口腔内での術後感染を防ぐためのものです。

 

特に抜歯を行うことになったそもそもの原因が、虫歯や歯周病など、口腔内の細菌によるものであれば、抗生物質を処方されることが多くなるかもしれません。

1-2.ドライソケットのリスクを減らすために処方される

抜歯後は通常、抜歯した部分に血餅という血液が凝固したものができ、それが歯茎に空いた穴を塞ぐことで、止血や傷の治癒を促進してくれます。

しかし、その血餅ができず、骨が剥き出しになり、そこに細菌感染が起きてしまうことをドライソケットといいます。

ドライソケットになると、抜歯後数日で強い痛みに襲われることも。

そのリスクを減らすためにも、抗生物質を服用することを推奨されるケースもあります。

 

そのほか、抜歯後うがいを何度もしないこと、患部を触らないこと、運動や長風呂を控えることもドライソケットの予防につながります。

1-3.化膿、腫れを防ぐために飲む

また、抜歯した部分が化膿したり、腫れたりするのを防ぐ目的で処方されることもあります。

抗生物質を服用すると、これらの症状の改善も促されます。

1-4.感染の症状がなければ飲まなくてもOKなケースも

以上2つの理由から、昔は抜歯後に抗生物質が処方されるのが当たり前のようになっていました。

しかし、近年では細菌感染のリスクが少ない場合は、処方されないこともあります。

抗生物質はあくまで薬です。

あまりに薬に頼りすぎると、いざ本当に抗生物質の効果を発揮してもらいたい治療の際に、効きにくい、効かないということもあります。

そのため、抗生物質を飲まなくても感染のリスクがあまりないケースでは、抗生物質を処方しないという歯科医師も増えてきています。

処方されるかどうかは主治医の判断によって異なるので、抜歯前に事前に処方されるか気になる方は主治医に尋ねてみましょう。

1-5.リスクの高い方は服用が必須

ただし、高齢者、基礎疾患、心内膜炎などのリスクがある方や、通常の抜歯以外の歯科手術、炎症を起こした歯牙の抜歯の場合は、服用が必須となることがあります。

手術の程度や、口内の清潔度などを総合的に判断し、感染予防のための処方日数やどの抗生物質を処方するかを決める歯科医師が多いようです。

2.抗生物質の服用のデメリットはある?

抗生物質は主に感染予防のために処方されるということがわかりました。

では服用することでデメリットなどはあるのでしょうか。

2-1. 耐性菌ができる

先述したように、抗生物質を飲みすぎたり、途中で飲むのを止めたりすると、体に耐性菌というものができます。

耐性菌とは、薬に強い細菌のこと。

本来、抗生物質は服用することで細菌感染の原因菌を殺す役割がありますが、飲み過ぎたり、中途半端に抗生物質を飲んでしまったりすると、薬が効かない細菌ができてしまいやすいのです。

その結果、本当に抗生物質が必要な時に、抗生物質の効果を発揮しないということがあります。

 

抗生物質は歯科治療だけでなく、風邪などの病気などの際にも処方されることが多いです。

本当に細菌感染を防ぎたい場面で、効果が発揮されないと困りますよね。

日本は海外に比べて、抗生物質の投与機会が多いと言われおり、耐性菌ができやすいことが問題になりつつあります。

そのため最近では、抜歯後むやみに処方することを避けている歯科医院もあります。

2-2.腹痛や下痢の症状が出ることも

抗生物質を服用すると、腹痛や下痢の症状が副作用として出る人もいます。

程度も人によりますが、抗生物質により腸内細菌のバランスが崩れることによって、このような副作用が出やすいと言われています。

3.抗生物質の正しい飲み方

3-1.全て飲み切る

抜歯後、抗生物質は1日2回または3回のものが、3日分出ることが多いです。

痛みがないと、薬を飲まないという人もいますが、抗生物質は痛み止めではありません。

痛みがなくても、抗生物質は全て飲みきるようにして下さい。

抗生物質は適切な濃度、かつ適切な期間で飲み切ることで、細菌感染の予防効果が期待されます。

 

しかし、途中でやめてしまうと、細菌が死なない程度での耐性を獲得し、先述した耐性菌ができやすくなるのです。

そうなると、次に抗生物質が必要な時に薬が効かず、細菌感染の予防にならないケースがあります。

3-2.飲み忘れても2回分飲まない

意識していても、たまに飲み忘れてしまうことがあるでしょう。

そんな場合、抗生物質は飲み切ることが大切だからと言い、一気に2回分服用してしまう方もいます。

しかし、その服用の仕方は危険ですのでやめてください。

体内で薬の濃度が上がり、強く副作用が出てしまうことがあります。

 

飲み忘れてしまった際には、飲み忘れに気付いた時点で1回分を飲み、その次の服用時間まで、少し時間を開けるようにしましょう。

また、次の服用時間の方が近い場合に気付いた時には、次の服用時間まで待って1回分だけ飲みます。

それ以降はできるだけ決められた時間に飲み忘れがないように服用し、最後まで飲み切ってください。

 

飲み忘れにより、服用の仕方が分からなくなった場合は、歯科医院のスタッフや医師に相談し、指示を仰ぐといいでしょう。

3-3.お薬手帳を歯科医師に見せる

日常的に服用している別の薬がある方は、事前に歯科医師に相談してください。

抗生物質は飲み合わせによって、その効果が薄れる場合があるからです。

 

お薬手帳があると、それを歯科医師に見せるといいでしょう。

それを踏まえた処方を考えてくれます。

 

また、お薬にアレルギーがある方も事前に医師に伝えましょう。

3-4.副作用が気になったら医師へ相談

先述したように、抗生物質の服用でお腹が痛くなったり、下痢をしたりなどの副作用が出る場合があります。

他にも気分が悪いなど、何か気になる症状があれば、医師に相談してください。

4.痛み止めの正しい飲み方

抜歯後は抗生物質と共に、痛み止め薬(鎮痛薬)を処方されることもあります。

特に歯茎を切開しての抜歯などでは、術後痛みが伴うことが多いため、処方されることが多いかもしれません。

4-1.麻酔が切れる前に飲む

痛み止めは術後麻酔が切れる前に飲むのがよいでしょう。

痛み止めの効果が発揮されるのが、服用してから大体30分以降であるためです。

麻酔が切れ、痛み始めてから飲むと、効果が現れるまで痛い思いをしなければなりません。

できるだけ麻酔の切れる前に飲みましょう。

4-2.決められた量だけ飲む

痛み止めは1回〇錠、飲んだ後は〇時間空ける、など服用の際に指示がある場合が多いです。

そのため、その指示通り、決められた量だけ飲みましょう。

痛むからと言って飲み過ぎないように気を付けてください。

4-3.痛みがなければ止めてもOK

痛み止めは抗生物質と異なり、全て飲み切らなくてもOK。

むしろ、痛みがなければ服用する必要もありません。

我慢できる痛み程度であれば、飲まないという選択も大丈夫です。

4-4.痛み止めが効かない場合は?

まれに処方された痛み止めが効かず、ずっと痛みが続く、痛みが強くなるということもあります。

そんな時は抜歯治療を行った歯科医院で、医師に相談しましょう。

痛み止めの種類を変えてもらったり、抜歯した箇所に何らかのトラブルが起きている場合はその対処治療を行ったりします。

我慢し過ぎず、相談するようにしてください。

5.抗生物質は最後まで飲み切ることが大切!

抜歯後になぜ抗生物質が処方されることがあるのか、また抗生物質のデメリット、正しい飲み方について紹介しました。

抗生物質は必ず処方されるものではありません。

医師の判断によるものなので、処方されるかどうか知りたい場合は事前に質問し、気になることは聞いておきましょう。

また、処方された場合は中途半端に飲み、途中で服用を止めると、耐性ができやすくなります。

耐性菌ができると、抗生物質を飲んでも聞かない細菌が存在することになり、今後歯科治療だけでなく、本当に感染予防として抗生物質が必要な治療の際に効き目が薄れる場合があるため、必ず飲み切るようにしましょう。

抜歯後の経過にトラブルが起きないよう、ぜひ正しい飲み方を意識してください。

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