インプラント治療後に「歯がしみる」ことはあるか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療後に、歯がしみると感じた場合、「インプラント治療は失敗だったのでは?」「再発してしまったかもしれない」と不安に思う人も多いのではないでしょうか。

 

この記事では、インプラント治療後に歯がしみることがあるのかや原因、対処法など詳しく解説します。

目次

1.インプラント治療後に歯がしみることはあるのか?

結論から言いますと、インプラント治療後に治療箇所の歯がしみることはありません。インプラント治療で入れる人工歯は神経が通っていないため、刺激を知覚できないためです。

 

もし、インプラント治療後に歯がしみるのであれば、神経がある他の歯に原因があると考えられます。

2.歯がしみる主な原因って?

歯がしみる主な原因は、知覚過敏・虫歯・歯周病です。それぞれ解説します。

2-1.知覚過敏

知覚過敏は、熱い・冷たい・甘い・酸味があるといった刺激の強い飲食物を口にすると、歯のしみや痛みが出る状態を指します。

 

知覚過敏は、歯の表面を覆う硬くて丈夫な「エナメル質」が薄くなったり、欠けたりして起きます。エナメル質の内側にある「象牙質」がむき出しになることで、神経が刺激され、歯のしみや痛みを感じるようになります。

 

ちなみに、知覚過敏が起きるのは、主に飲食物を口に入れたタイミングです。常にしみや痛みがある場合は、虫歯や歯周病といった他の原因がある可能性が高いでしょう。

 

2-2.虫歯

虫歯は、口の中で「虫歯菌」という細菌が繁殖し、虫歯菌の出す酸によって歯が溶け、歯に穴が開くなどいろいろな症状が出る病気です。

 

虫歯菌は糖分を食べて増える性質があるため、口の中に糖分を含む食べカスがある時間が長いと、虫歯のリスクが高まります。

 

虫歯が進行すると、食事や歯磨きなどが刺激となり、歯がしみる・痛むといった症状が出るようになります。さらに悪化すると、「歯の神経」と呼ばれる「歯髄」にまで虫歯が達し、激しい痛みなどを伴う「歯髄炎」になる可能性があるため、注意が必要です。

 

2-3.歯周病

歯周病は、歯周病菌が歯ぐきに感染し、炎症を起こし、腫れや赤みを生じるなどの症状を起こす病気です。歯周病の原因は、「歯周ポケット」と呼ばれる歯と歯ぐきの溝に溜まった歯垢です。歯垢は細菌が多く生息しており、細菌の出す毒素により炎症が起きます。

 

歯周病が進行すると、痛みや出血があらわれます。また、空気を嫌う歯周病菌が歯と歯ぐきの間に入り込み、歯周ポケットが次第に深くなっていきます。歯周ポケットが深くなると、温度の変化に敏感な歯の根元がむき出しになり、飲食などの刺激でしみるようになのです。

 

さらに悪化すると、歯を支えるあごの骨が溶け、歯が抜け落ちかねません。

 

インプラント治療後は、歯周病とよく似た病気である「インプラント周囲炎」が起きる可能性があります。インプラント周囲炎は、インプラントの周りの歯ぐきが歯周病菌に感染し、炎症を起こす病気で、進行スピードが早いのが特徴です。歯周病と同じく、悪化すると歯がしみるようになります。

 

歯周病の場合、歯がしみるのであれば、ある程度進行している可能性が高いため、早めに歯科クリニックに相談しましょう。

 

その他、歯に大きな力が加わったのが原因でおきる歯の破損、酸性の食品のとりすぎや胃酸の逆流によって歯が溶けたといった理由も考えられます。

3.歯がしみる場合の治療方法

歯がしみる場合の治療法を原因別に紹介します。知覚過敏であれば、時間が経過し再石灰化により、エナメル層が復活すると症状がおさまるケースもあります。しかし、多くの歯のトラブルは治療を受けなければ解消しません

 

さらに悪化するリスクがあるため、歯科クリニックに相談し、適切な治療を受けるのが大切です。

 

3-1.知覚過敏の治療法

知覚過敏によって歯がしみる場合の主な治療法は下記の通りです。

 

(1)コーティング

むき出しになっている象牙質をフッ素・セメント・レジン(プラスチック)などでコーティングし、神経に刺激が伝わらないよう保護します。コーティングがはがれてくる場合があるので、症状がおさまるまで定期的な治療が必要です。

 

(2)マウスピース

かみ合わせが原因でエナメル質が欠けたりはがれたりしている場合に、有効な治療法です。マウスピースを就寝時などに装着し、歯を保護します。

 

(3)レーザー治療

象牙質にレーザーを照射し、神経に刺激が伝わりにくくする施術です。レーザー治療をしても、象牙質はむき出しになったままなので、虫歯や歯周病を予防するために、歯磨きなどのケアが必要です。

 

(4)神経を抜く

知覚過敏の症状が重く、生活に支障が出るほどしみたり痛んだりする場合は、神経を取り除く場合があります。

 

しかし、神経を取り除くと、栄養が行き届かなくなる、痛みなどで歯の異変を察知できなくなるなどの理由で、歯を失いやすくなります。また、歯の色が黒ずんで見た目に影響するので、慎重に判断しましょう。

3-2.虫歯の治療法

虫歯は治療をしないと時間が経過しても治らないので、早めの治療が重要です。初期の虫歯であれば、治療の痛みが少なく、時間もかかりません。

 

虫歯の進行度は「C」と「0〜4」の数字の組み合わせであらわされ、数字の値が大きくなるほど重症になります。重症度別に治療法を解説します。

 

(1)C0|エナメル質の成分が溶けている

C0は、エナメル質に含まれている「リン酸ナトリウム」などの成分が溶けだしている状態で、歯が白く濁ったり、茶色くなったりします。

 

フッ素を塗って、溶けたエナメル質が修復する「再石灰化」を促す治療を行えば、削らずに済む場合もあります。また、ブラッシング指導を受け、正しい歯磨きを身につけ、虫歯の進行を防ぐのも大切です。

 

(2)C1|エナメル質が虫歯になっている

歯の表面をコーティングするエナメル質だけに穴ができている、軽度な虫歯です。虫歯の部分を削り、レジンでできた詰め物を入れます。削る範囲が少なく、深さも浅いため、ほとんど痛みを感じずに治療できるでしょう。

 

(3)C2|象牙質に虫歯が達している

エナメル質に覆われた象牙質まで、虫歯になっている状態です。エナメル質の虫歯と同じく、歯を削り詰め物をします

 

ただし、型を取って詰め物をつくるため、虫歯に侵されていない部分も大きく削る必要があります。また、象牙質は刺激を感じる機能があるため、虫歯治療による痛みを感じるかもしれません。治療時に、麻酔注射をし痛みを軽減します。

 

(4)C3|神経まで虫歯が達している

歯の神経まで虫歯が達し、強くしみたり、痛みを感じたりしている状態です。この場合は、「根管治療」をします。

 

根管治療とは、麻酔注射後に歯の神経を取り除き、神経が入っていた管である「根管」の中を徹底的に掃除・消毒し、薬剤を詰めて密封したうえでかぶせものを装着する治療法です。

 

(5)C4 |歯根まで虫歯が達している

歯根にまで虫歯が達して、歯のほとんどが失われた状態です。神経が壊死しているため、痛みは感じないケースが多いでしょう。

 

多くの場合は抜歯をして、入れ歯やブリッジ、インプラントなど人工歯で失った歯を補います。歯を残せる場合は、根管治療を丁寧に行います。

3-3.歯周病の治療法

歯周病治療では、歯の炎症を引き起こす歯垢を除去するのが大切です。主な治療法は下記の通りです。

 

(1)スケーリング

初期の歯周病治療や予防に有効な治療です。専用の器具を使って、歯の表面や歯周ポケットの浅い部分などに付着している歯垢や歯石を取り除く処置です。

 

(2)ルートプレーニング

歯周病の進行に伴い歯周ポケットが深くなると、歯垢や歯石が奥の方まで溜まりスケーリングでは取り除けなくなる場合があります。ループトーニングは、歯周ポケットの奥のある歯垢・歯石を除去し、歯の表面を磨いて歯垢が再びつかないようにする治療です。

 

(3)歯周ポケット掻爬(そうは)術

麻酔をして、歯根に付着している歯石や汚れを取り除き、なめらかにします。さらに、歯周ポケットの内側にある細菌に感染した組織も除去する外科的な処置です。

 

(4)フラップ手術

歯周ポケットが深くなり、他の方法では歯垢や歯石が取り除けなくなった場合に行う外科処置です。麻酔後に、メスで歯ぐきを切開して歯根をむき出しにし、歯科医師が目視しながら、歯垢・歯石・感染した組織を除去していきます

 

(5)再生療法

重度の歯周病によって、歯を支えるあごの骨である「歯槽骨(しそうこつ)」やクッションのような役割をする「歯根膜(しこんまく)」などの歯周組織が破壊された場合に行います。薬剤や人工の膜などを使用し、歯周組織の再生を促進します。

4.歯がしみる場合の応急処置

すぐに歯科クリニックを受診できない場合は、次のような応急処置で症状をやわらげるのをおすすめします。

 

ただし、応急処置をしたからといって、そのまま放置すると、最悪の場合は他の歯も失いかねません。早めに歯科クリニックに相談し、治療を受けましょう。

4-1.冷水やお湯を避ける

冷たいものや熱いもので歯がしみた場合は、冷水やお湯を避け、常温もしくはぬるま湯を口にするのをおすすめします。うがいや歯磨きのすすぎの時も、冷水は避けましょう。

4-2.優しく歯を磨く

しみている歯はデリケートなので、強い力で歯を磨くと刺激や負荷になって、よりしみるようになってしまう可能性があります。

 

しかし、歯を磨かないと虫歯や歯周病の原因となる歯垢が溜まるため、優しくブラッシングして、清潔な状態を保ちましょう

 

知覚過敏が原因の場合は、知覚過敏用の歯磨き粉を使うのもおすすめです。硝酸カリウムの働きにより、神経細胞の働きをおさえ痛みが伝わりにくくなります。

4-3.市販の鎮痛剤を服用する

強くしみて痛む場合は、市販の鎮痛剤を服用し、痛みをおさえるのも有効です。さまざまな原因で起きるしみや痛みに効果があり、苦痛がやわらぎます。

 

ただし、鎮痛剤の効果はあくまで一時的なものです。鎮痛剤で痛みを軽減できていても、放置すると症状が進行する可能性が高いので、できるだけ早く歯科クリニックの診察を受けましょう。

5.インプラント治療後に歯がしみるのは、知覚過敏・虫歯・歯周病の可能性あり!

インプラント治療で装着する人工歯は、神経を持たないためしみることはありません。もし、インプラント治療後にしみる場合は、他の歯に知覚過敏・虫歯・歯周病などの異変がある可能性が高いでしょう。

 

知覚過敏は、時間の経過とともに症状が改善する場合があります。しかし、他の異常の場合は、放置していても基本的に治らないので、歯科クリニックで原因を突き止め、適切な治療を受けましょう。悪化すると、しみや痛みに悩まされるだけでなく、健康な歯を失ったり、インプラントが抜け落ちたりする場合もあります。

 

すぐに歯科クリニックに行けない場合は、冷たいもの・熱いものを避ける、優しく歯を磨く、市販の鎮痛剤を服用するといった応急処置が有効です。

 

応急処置によりしみがやわらいでも、原因は解消していないので、早めに歯科クリニックで相談しましょう

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