入れ歯のお手入れでやってはいけない3つのこと

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

「最近、入れ歯の噛み合わせが悪くなってきたな……」

「やっぱり自分には入れ歯は合っていないのかもしれない」

「フィッティング調整が失敗しちゃったのかな」

 

入れ歯の摩耗、噛み合わせバランスの変化、歯肉の後退など……入れ歯の噛み合わせが悪くなる理由はさまざまですが、実はその中に、見落とされがちな原因が隠れています。

 

それは「間違った入れ歯の手入れ」です。みなさんは、普段どのようにして入れ歯のクリーニング・保管を行っていますか?

 

入れ歯を使い始めた頃は、医師に教わったお手入れ方法を忠実に守る方は多いのですが、慣れてくると、次第に自己流で入れ歯クリーニングを行う方もしばしばいらっしゃいます。

 

自然の歯とは異なり、入れ歯はあくまでも装具です。材質にもよりますが、基本はアクリル樹脂やプラスチックから出来ていますので、誤った方法で手入れを続けていると、消耗が激しくなったり、変形して噛み合わせが合わなくなったりする恐れがあります。

 

そこで本記事では、少しでも長く快適に入れ歯を使い続けるために、入れ歯のお手入れでNGな方法についてご紹介します。

目次

(1)よくある間違った入れ歯のお手入れ方法

後期高齢者の約8割が何らかの入れ歯をいれているといわれていますが、部分入れ歯・総入れ歯など形はさまざま。

 

基本的には医師に言われた正しいお手入れ方法を実践していれば、長く使い続けることはできますが、面倒になって工程を省いたり、自分の解釈で消毒をしたりすると、摩耗や変形が激しくなってしまいます。

 

以下に、ありがちな入れ歯お手入れのNG例をみていきましょう。

(1-1)入れ歯を熱湯で消毒する

いつも使っている洗浄剤を切らしてしまったり、旅行先に洗浄セットを忘れてしまったりしたときなどには、「熱湯で消毒すれば問題ないだろう」と安易に考えてしまいがちです。

 

確かに「煮沸消毒」は、殺菌効果が科学的に認められています。しかし入れ歯を熱湯で消毒するのは絶対にNGです。金属床の入れ歯だからといって油断してはなりません。歯肉部分は、熱に弱い樹脂から出来ています。

 

実際、「熱湯で消毒したら変形して入れ歯が合わなくなってしまった」という相談は、決して少なくはありません。洗浄剤とブラシ。入れ歯のお手入れは、あくまでもベーシックな方法で行ってください。

(1-2)歯磨き粉で入れ歯をブラッシングする

汚れた入れ歯を見ると、つい綺麗に磨きたくなりますよね。入れ歯の歯は人工物ですが、本物の歯と同じように、プラーク(歯垢)が溜まっていきます。

 

プラーク(歯垢)を放置していると、頑固な歯石となり、見た目を損なったり、口臭を放ったりしてしまいますので、入れ歯の洗浄は欠かさず行いたいところです。

 

ただし、「せっかくだから歯磨きのついでに、入れ歯も歯磨き粉で磨いちゃおう」と安易に考えるのはNGです。実はこれもよくある間違ったお手入れ方法なのです。

 

その理由は、ズバリ「研磨剤」です。歯磨き粉には研磨剤が入っていますので、ブラシで入れ歯をこするとパーツが削れてしまいます。

 

ですから、何の気なしに歯磨き粉で入れ歯を磨く習慣を続けていると、知らず知らずのうちに「入れ歯の噛み合わせが調子悪い」という状態になってしまうのです。

 

歯磨き粉の研磨剤が原因であることに気づかないと、「もしかしたら噛み合わせのバランスが変わったのかもしれない」という予測のもと、またフィッティングをしなければならなくなります。

 

普段は仕事で忙しい方や、遠くてかかりつけの歯科医院に通えないという方にとって、入れ歯のフィッティング作業はかなりの負担です。

 

そうならないためにも、入れ歯の汚れ落としは、歯磨き粉を使うのではなく、専用の洗浄剤やブラシを使って正しい手順でクリーニングすることを強くおすすめします。

(1-3)硬い歯ブラシやスポンジで磨く

色素付着、歯の黄ばみ、歯石など……入れ歯の頑固な汚れはなかなかに厄介です。とくに、前歯のような目立つ部分が入れ歯だと、なんとしても汚れを落としたくなりますよね。

 

しかし入れ歯のためにも、無理はしないでください。毛先の硬いブラシや、研磨性の高いメラミンスポンジを使って頑固な汚れを落とそうとすると、すぐに入れ歯の表面が傷つき、そこから破損につながってしまいます。

 

汚れがなかなか落ちない場合は、まずは落ち着いて専用洗剤を試し、それでも難しいときはかかりつけの医師に相談してみましょう。

(2)入れ歯を傷つけない正しいお手入れ方法

入れ歯を製作した際に、すでに医師から正しい入れ歯のお手入れ方法を教えてもらったとは思いますが、ここで今一度、入れ歯のメンテナンス・クリーニング方法について知っておきましょう。

(2-1)毛の柔らかい専用ブラシを使う

市販の歯ブラシで入れ歯を洗浄することが決して悪いわけではありません。硬いブラシを避け、柔らかいタイプの歯ブラシでやさしくブラッシングすれば、入れ歯を傷つけずに汚れを落とすことが可能です。

 

しかし一方では、入れ歯のクリーニングを目的とした専用ブラシも選択肢として考えられます。一般の歯ブラシよりも非常に使い勝手が良く、細かなところを効率よく洗浄することができますので、気になる方は医師に相談してみてください。

 

どんなブラシを使うにせよ、あくまでも基本は「力を入れないでやさしくブラッシングする」ということ。汚れが気になっても、焦らず丁寧にクリーニングを行いましょう。

(2-2)使わないときは水につけておく

「今日は家に人を呼ぶから、恥ずかしくて……」という理由で、入れ歯を水につけておくのを躊躇うこともあると思います。しかし基本的に入れ歯は、水につけて保管しておくのが日頃のメンテナンスの基本です。

 

入れ歯が乾燥すると、ひび割れ・変形のリスクを高めてしまいます。使わないときはこまめに水につけておくことを意識してください。

(2-3)専用の洗浄剤を使う

洗浄剤を使う習慣を身につけておかないと、熱湯で消毒したり、硬いブラシで強くこすったりする誤った方法に向かう可能性があります。基本はあくまで「入れ歯の洗浄=洗浄剤の使用」です。それ以外の方法はあまりおすすめできません。

 

ただし、洗浄剤を切らしてしまったり、旅行先で持って行くのを忘れてしまったりした場合は、洗浄剤の代用品を使うのがおすすめです。食器用の中性洗剤や、リステリンなどの口臭ケア剤は、入れ歯のクリーニングに最適なアイテム。もしものときは活用してみましょう。

(3)その入れ歯は大丈夫?修理や買い換えを検討するべき目安

正しいお手入れ方法を実践していても、入れ歯は消耗品ですので、いつかは修理や買い換えを検討しなければなりません。

 

「自費診療で品質の高い入れ歯を作っているから大丈夫」と考える方もしばしばいらっしゃいますが、部分入れ歯・総入れ歯に関係なく、入れ歯には必ず寿命があります。

 

では、正しい使い方をしている場合、入れ歯の寿命(耐用年数)はどれくらいなのでしょうか。

 

噛む力や噛み合わせによって入れ歯にかかる負担は千差万別で一括りに「〇〇年です」と言い切ることはできませんが、概していうと

 

プラスチック製の入れ歯 3~5年
金属製の入れ歯 5年以上

 

人によっては、入れ歯を10年以上使い続けている方もいらっしゃいますが、衛生上おすすめできません。目に見えない傷に入り込んだ細菌が繁殖し、歯周病を引き起こしたり、強い口臭の原因になったりするリスクが非常に高まってしまいます。

 

それに、長年使い続けると、噛み合わせが合わなくなるという問題もあります。

 

入れ歯を作ったばかりの頃に比べると、古い入れ歯は食事やクリーニングを経て、明らかに摩耗していますし、噛み合わせのクセも変わっていきますので、本来はその人にぴったりの入れ歯として作ったはずなのに、使い続けることでもっとも噛み合わせの合わない入れ歯になってしまう可能性があるのです。

 

噛み合わせの合わない入れ歯を使い続けていると、「虫歯や歯周病になりやすくなる」「口臭がひどくなる」「顔の形が変化する」「顎関節症リスクが高まる」「肩こりや頭痛に悩まされる」といった数々のデメリットが生じてしまいます。

 

耐用年数を目安にして、かかりつけの歯科医院で入れ歯の修理や買い換えを検討してみてください。

(4)まとめ

入れ歯の誤った手入れ方法 理由
熱湯で入れ歯を消毒する 入れ歯が変形して噛み合わせが合わなくなり、最終的に破損する可能性が高まる
歯磨き粉で磨く 歯磨き粉には研磨剤が入っているため、磨くと表面が傷つき、破損してしまう
硬いブラシやメラニンスポンジで磨く 入れ歯の歯肉や歯が削られてひび割れや変形のリスクにつながる

 

 

入れ歯の正しい手入れ方法 理由
毛の柔らかい専用ブラシを使う 入れ歯のクリーニングを前提につくられているため、安全性・使い勝手がよい
使わないときは水につけておく 入れ歯が乾燥するとひび割れや変形がしやすくなってしまう
定期的に洗浄剤で汚れを落とす 入れ歯にもプラーク(歯垢)が付着して歯石になるため、専用洗浄剤が必要

 

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