奥歯におすすめの入れ歯とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「奥歯は見えないから大丈夫」と虫歯や歯周病などが原因で奥歯を失っても、そのままにしている方が少なくありません。

 

しかし、奥歯がないままだとものを噛むことや会話がしにくくなり、歯並びにも影響します。奥歯を失った場合、早めに入れ歯などで補う必要があります。

 

この記事では、奥歯の入れ歯の重要性や奥歯におすすめの入れ歯について解説します。適切な入れ歯を選ぶために、ぜひ参考にしてください。

目次

1.奥歯の入れ歯の必要性って?

奥歯に入れ歯を入れる必要性について、奥歯の持つ役割や奥歯を失ったまま放置するリスクの観点から解説します。

1-1.奥歯の持つ役割とは

奥歯は、食べ物を噛み砕いたり、すりつぶしたりする役割を持ち、食事をするうえで非常に重要な歯です。また、奥歯は前歯やあごの関節である「顎関節(がくかんせつ)」と連動して噛み合わせを行うため、奥歯を失うと噛み合わせが崩れてしまいます。奥歯を失うと、噛む力が30~40%失われるといわれるほど重要性が高い歯なのです。

 

特に歯並びの中心から数えて6番目に位置する第1大臼歯は、全ての歯のなかで最も大きく噛む力が強く、歯並びの基本となります。

 

このように非常に重要な役割を担う奥歯ですが、奥の方にあるため見にくく、歯ブラシも届きにくいので、虫歯になりやすい歯でもあります。また、噛む力が大きくかかる歯なので、負担が大きく抜けやすいという特徴があります。

 

そのため、日ごろから歯磨きや歯科医院でのクリーニングなどを行い、失った場合は早めの対処が必要となるでしょう。

1-2.奥歯を失ったまま放置するリスクとは

奥歯を失ったまま放置すると、下記のようなリスクが考えられます。見た目に影響がなくても、さまざまな悪影響があるので、放置せずに治療を受けるのをおすすめします。

 

(1)歯並びが崩れる

失った奥歯と噛み合わせの対になる歯は、噛み合う歯がないため少しずつ伸びてしまいます。また、歯を失った状態が続くとそのスペースを埋めるため、少しずつ両隣の歯が隙間に傾いてきます。さらに長期間放置すると、さらに隣の歯も傾いていき、なかには骨ごと変形するケースもあります。

 

歯並びが崩れることにより、入れ歯を入れようとしてもスペースが足りず、治療法が限られてしまうかもしれません。

 

また、奥歯を失った歯と逆側でばかり噛むようになり、噛み合わせが崩れることで「顎関節症」になる恐れもあります。顎関節症になると、あごの骨がカクカク鳴ったり、口を開きにくくなったりします。

 

(2)虫歯・歯周病のリスクが高まる

噛み合わせが崩れると、歯の隙間や歯並びの凹凸が増え「歯垢」が溜まりやすくなります。細菌のかたまりである歯垢が増えると、歯や歯茎が感染し、虫歯や歯周病になるリスクがあります。虫歯や歯周病にかかると、他の健康だった歯を失うことにもなりかねません。

 

(3)消化器官に負担がかかる

奥歯を失って噛む力が低下すると、食べ物を充分に噛まないまま飲みこむことになります。胃や腸に消化しにくい状態の食べ物が送られるため、消化器官の負担が大きくなります。また、噛む回数が減少するため唾液の分泌量が不足し、消化しにくくなります。

 

(4)顔のバランスが歪む

歯を失うと噛む力が低下するため、反対側で噛む癖がつき、噛まない側の顔の筋肉が衰えていくため、顔の左右のバランスが崩れて歪んでしまいます。

 

(5)発音に影響する

歯が一本でも掛けてしまうと、その部分から息が漏れるため、発音しにくくなってしまいます。また、筋肉のつき方や舌の当たる場所が変わり、これまで通りに話していても、発音が不明瞭になる可能性もあります。

2.奥歯におすすめの入れ歯って?

奥歯の入れ歯は大きくわけて、保険適用の入れ歯と保険適用外の入れ歯があります。保険適用外の入れ歯のなかでも、近年注目を集めているのが「テレスコープ」の入れ歯です。

 

保険適用の入れ歯とテレスコープの入れ歯について解説します。

2-1.保険適用の入れ歯

保険適用の入れ歯は、プラスチックの樹脂を使用してつくられる入れ歯です。奥歯だけを失った場合などに使用する部分入れ歯には、金属製のバネである「クラスプ」がついており、周囲の歯に掛けて固定します。

 

保険適用の入れ歯は、噛む機能を補う最低限のものと決められており、素材や機能などを自由に選ぶことはできません。自己負担額3割と、リーズナブルにつくれるのがメリットです。

2-2.テレスコープの入れ歯

テレスコープは、ドイツで開発された入れ歯です。保険適用の部分入れ歯とは異なり、金属のバネを使用せず、口の中にはめ込んで固定します。

 

金属のバネがないため、保険適用の入れ歯と比べて装着時の違和感が少なく、フィット感が高いのが特徴です。また、通常の部分入れ歯やブリッジよりも、土台となる歯の負担を軽減できます。

 

日本で広く使われているテレスコープの入れ歯は「リーゲルテレスコープ」「コーヌステレスコープ」「レジリエンツテレスコープ」の3種類です。

 

(1)リーゲルテレスコープ

リーゲルテレスコープは、かんぬきに似た鍵がついた入れ歯で、自分の歯に鍵をかけて固定します。固定すると鍵は外からは見えず、自分の舌で触っても入れ歯だということはほとんどわかりません。装着時の違和感が少なく、見た目も天然の歯とほぼ変わらないのが特徴です。

 

片側の奥歯がなくその奥にも歯がないけれど他の歯は無事であるなど、歯の本数がある程度残っている場合に適用されます。支える歯の神経がない場合でも治療可能です。

 

修理がしやすい入れ歯なので、メンテナンスをして長く使えます。

 

(2)コーヌステレスコープ

コーヌステレスコープは、土台となる歯を削って金属冠を固定し、そのうえに人工歯のついた外冠をぴったりとかぶせる二重構造の入れ歯です。茶筒の本体とフタが摩擦力により密着してなかなか外れないのと同じく、内冠と外冠がしっかり固定されます。

 

金属のバネを使用しないため見た目が自然である、メンテナンスにより長期間使える、歯周病などでぐらついている歯をしっかり固定できるなどのメリットがあります。

 

残っている歯の本数が少なくても治療できますが、神経のない歯を土台にすることはできません。

 

(3)レジリエンツテレスコープ

レジリエンツテレスコープは、総入れ歯と同じように入れ歯であごを全て覆うタイプの入れ歯です。ガラスとガラスの間に水を入れるとガラス同士が密着する「ウォーターフィルム現象」を応用し、口の粘膜で入れ歯を支えます。

 

残っている歯が3本以内の患者または、他のテレスコープでは治療できない患者に行います。噛む力による歯の負担を軽減し、入れ歯の横揺れも防げる入れ歯です。

3.テレスコープのメリット

テレスコープにはさまざまなメリットがありますが、代表的な5つをご紹介します。

3-1.他の健康な歯を残しやすい

保険適用の部分入れ歯はバネを掛けて固定するため、両隣の歯に負担がかかり、他の健康な歯を失う原因となりかねません。

 

テレスコープであれば、全体の歯で入れ歯を支えるため負担が分散され、他の歯への影響を軽減できます。大切な天然の歯を残せる可能性を高める有効な選択肢といえます。

3-2.きれいな状態を保ちやすい

テレスコープは保険適用の入れ歯と比べ、入れ歯のピンクの部分の表面が滑らかにつくられているため、菌や汚れが付着しにくいのが特徴です。

 

最も汚れやすい部分であるピンク色の部分を清潔に保てるので、メンテナンスがしやすいといえるでしょう。汚れた入れ歯を使用していると、飲食物と一緒に菌も飲みこんでしまい、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」などのリスクが高まります。

3-3.入れ歯をつけたまま寝られる

入れ歯は寝る時に外すイメージがあるかと思いますが、テレスコープの入れ歯はつけたまま寝ることができます。保険適用の入れ歯の場合と比べ高い精度でフィットしているため、装着したまま寝ても違和感がありません。旅行中など入れ歯を外したくない場面でも安心して使えます。

 

また、就寝中に歯がない部分があると、その部分に刺激がない状態が続き、口周りの筋肉が衰え、ほうれい線が出るなど見た目の変化が起きるリスクがあります。さらに、口の中が歯で刺激されないため、唾液の分泌量が減り、口が乾燥し虫歯や歯周病の原因となる菌が繁殖しやすい環境になります。就寝中に入れ歯を装着することで、これらの悪影響を避けられます。

3-4.自分の希望に合った入れ歯を選べる

保険適用の入れ歯は、素材や部品、つくり方などが厳しく定められているため、患者の希望はほぼ反映されません。

 

しかし、テレスコープの入れ歯は自由診療のため、希望や状態に合わせて、3タイプから選び、より自分に合った入れ歯をつくれます。使用する素材や部品も高品質なため、違和感が少なくフィット感が高いので、快適に装着できます。

3-5.見た目が自然

保険適用の部分入れ歯は、金属の部品を見える位置で使用するため、目につきやすいというデメリットがあります。そのため、人との会話や食事にためらいを覚える方も少なくありません。

 

テレスコープの入れ歯であれば、金具が見えず使用する素材も優れているので、天然の歯と見わけがつかない自然な見た目になります。

4.テレスコープのデメリット

機能性や見た目に優れ、今ある歯を残すのに有効なテレスコープですが、デメリットもあります。

4-1.費用が高い

テレスコープは自費診療のため、保険適用の入れ歯に比べて治療費が高額になります。

 

保険適用の入れ歯の自己負担額は、3割負担の場合は約3,600〜7,500円、総入れ歯の場合は約9,000円です。

 

テレスコープは自由診療のため、歯科医院や歯の状態によって費用は異なりますが、リーゲルテレスコープは80万円以上、コーヌステレスコープは150万円以上、レジリエンツテレスコープは150万円以上が目安です。

 

保険適用の入れ歯と比較すると高額ですが、機能や見た目を考えるとメリットは大きいでしょう。

4-2.治療期間が長い

テレスコープは、患者一人ひとりの口にぴったり合うよう完全オーダーメイトでつくります。そのため、完成まで最低でも3ヶ月かかり、治療期間が長くなる傾向にあります。

 

保険適用の入れ歯であれば、1ヶ月くらいが目安なので、デメリットに感じる場合もあるでしょう。

4-3.治療できる歯科医師が限られる

テレスコープの入れ歯は、一般的な入れ歯に比べて精密さが要求され、難易度が高いのが特徴です。治療できる歯科医師は限られているので、テレスコープに精通した歯科医師探しに苦労する可能性があります。

5.奥歯の入れ歯にはテレスコープがおすすめ

奥歯がないまま放置すると、歯並びが崩れる、虫歯や歯周病のリスクが高まるといったデメリットがあります。

 

奥歯の入れ歯は保険適用でつくることもできますが、おすすめなのがテレスコープの入れ歯です。他の健康な歯を残しやすく、清潔な状態を保ちやすいなどのメリットがあります。治療費が高額などのデメリットもありますが、検討の価値のある治療法です。

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