歯周病で手術が必要になるケースとは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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30歳以上の方に限定すれば、約8割が歯周病を持っていると言われています。

このことから、日本では国民疾患ともいえる歯周病

進行すると、歯を失う原因にもなります。

 

それでも、虫歯などの他の歯科疾患と比べると、治療するとしたらどのような治療になるのか知らない人も多い疾患でもあります。

基本的な歯周病治療は、ブラッシングの改善やプラーク・歯石の除去などがメインとなります。

また、マウスピースを作製して噛み合わせを整えたり、生活習慣の改善指導も治療として行われることがあります。

 

しかし、これらの治療を行っても、歯周病が進む、改善が見られない場合は歯周外科治療、つまり手術を伴う治療を行うケースがあります。

歯周病で外科手術が必要となるとは、驚く人もいるのではないでしょうか。

 

今回は歯周病で手術が必要になるケースとは、どの程度歯周病の進行が進んだ状態であるのか、またどのような手術をするのかについて紹介します。

 

目次

1.歯周病の進行度はどのような検査で分かる?

歯周病は1度なると完治させることは難しい疾患と言われています。

しかし、歯周病の症状が出ないようにコントロールしたり、これ以上進行しないように止めたりすることは可能です。

そのため、できるだけ軽度の歯周病であるうちに対策しておきたいものですが、歯周病の進行度はどのように分かるのでしょうか。

まずは検査の方法を見ていきましょう。

1-1.動揺度の検査

歯周病により歯根膜に炎症ができると、歯と骨の結合が緩むため、歯が揺れ動き始めます。

歯周病ではなくても、正常な状態でも歯が揺れることはあるので、歯が揺れている=歯周病ではありませんが、定期検査などでも歯の動揺度を見ることは多いです。

 

動揺度は0度~3度(またはM0~M3)で評価されます。

 

・0度:0.2㎜以内の生理的な揺れ

・1度:0.2~1mmのわずかな揺れ

・2度:1~2mmの揺れ(頬舌・近遠心的な揺れ)

・3度:2mm以上の揺れ(頬舌・近遠心的な揺れに加えて歯軸方向にも揺れる)

 

当然ながら、数値が大きくなればなるほど、歯周病の進行が大きいと考えられます。

1-2.歯垢の付着量の検査

歯周病の原因である歯垢(プラーク)がどの程度ついているかを検査します。

染色液による染め出しや、専用の器具を用いて歯垢の付着率を調べます。

歯垢が多く付着している箇所はブラッシングが不十分であることが考えられるので、なぜそこに歯垢が溜まりやすいか(噛み合わせ等の問題がないか)を確認し、ブラッシング指導で改善できそうであれば、指導が行われます。

1-3.歯周ポケットの検査

プロービング検査とも言われる歯周ポケットの検査も、歯周病検査として重要な検査です。

歯周病菌は酸素を嫌うため、歯と歯肉の境目の歯周ポケットに入り込み、そのポケットの深さが深いほど増殖します。

 

歯周ポケットの深さは、ポケットプローブという器具で測定します。

歯と歯肉の境目の溝の深さは正常でも1~2mmありますが、3mm以上の場合を歯周ポケットと呼び、P1~P3という深さの程度で表されます。

 

・P1:0~3mmの正常の深さ~軽度の歯周病

・P2:3~6mmの中等度の歯周病

・P3:7mm以上の重度の歯周病

 

歯周ポケットが深く、歯周病菌が増殖すると、歯周組織が破壊されて更に歯周ポケットが深くなるという悪循環に陥りやすいです。

また、深さを測るときに出血の程度も調べます。

1-4.レントゲン検査

歯周病検査ではレントゲン検査も行われます。

レントゲン撮影では、主に歯を支えている歯槽骨の状態を調べます。

歯周病は顎の骨が吸収されていく疾患。

歯槽骨の量が少なければ、歯周病が進行しているということだからです。

 

以下のような基準で歯周病の進行度を検査します。

 

・0~5%の骨吸収が見られた場合:正常もしくは歯肉炎・軽度の歯周病

・30%の骨吸収が見られた場合:中等度の歯周病

・80%以上の骨吸収が見られた場合:重度の歯周病

 

また、骨の量とともに、質もレントゲン検査で調べることができます。

2.歯周病で外科手術が必要となるケース

以上のような検査で歯周病の進行度を検査しますが、進行度がどのようなケースで外科施術が必要になるのでしょうか。

2-1.歯周病の基本的治療

歯周病の治療ではまず、次のような基本的治療を行うことが多いです。

 

2-1-1.プラークコントロール

まずは歯周病の原因と言われる歯垢(プラーク)をコントロールするための治療をします。

歯垢の付着率が多いのであれば、歯科医院で歯垢を取り除きます。

また、歯垢がつきやすい箇所があるのであれば、なぜそこへ溜まるのかの原因も究明しながら、ブラッシング指導を受けます。

歯垢の溜まる原因が噛み合わせ等であるならば、歯列矯正等を検討するのもいいかもしれません。

 

ブラッシング指導を受けて丁寧にブラッシングしたとしても、歯垢が溜まってしまうこともあるので、定期的に歯科医院でクリーニングしてもらいながらプラークコントロールすることが大切です。

 

2-1-2.スケーリング

スケーリングとは、スケーラーという歯科器具を使い、歯肉縁上や歯周ポケット内に溜まっている歯石の除去を行う治療です。

歯のクリーニングに似ていますが、クリーニングで落とすことのできない歯石や歯垢の除去がスケーリングの目的です。

 

歯周ポケットが深い場合や、スケーリングでの改善が見られないケースでは、「キュレット」という歯科器具を使い、深い部分の歯石や歯垢を取り除きます。

2-2.歯周病中等度から重度のケースの中手術が必要となるケース

中等度以上の歯周病の中には、上記のような基本的な治療で症状が改善されない場合があります。

その際には、外科治療が必要になる場合があります。

先述したように、歯周病は歯周ポケットの深さが深くなるほど、歯周病菌が増殖しやすいため、簡単に治療できなくなるためです。

3.歯周病の外科治療

歯周病の外科的治療とはどのような手術でしょうか。

3-1.歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)

まず歯周病の手術として行われることが多いのが、歯肉剥離掻爬術と言われるものです。

フラップ手術とも呼ばれる手術で、スケーリング等で除去しきれなかった歯石や歯垢を取り除く手術です。

 

歯肉剥離掻爬術は次のような流れで行われます。

 

①治療する箇所に麻酔をする

②歯肉を切開し、歯槽骨から剥がす

③歯根についた歯石・歯石を徹底的に清掃・除去する

④歯肉を元に戻し、縫合

⑤1週間~10日後に抜糸をする

 

奥深くまで入り込んだ歯石や歯垢を徹底的に除去することで、歯周病の進行を防ぎます。

歯肉剥離掻爬術で歯周病の約7割程度は改善すると言われています。

3-2.歯周組織再生療法.

歯槽骨が吸収され始めている場合の歯周病に歯、歯槽骨を正す歯周組織再生療法という治療を行うことがあります。

歯周組織の破壊が進んでしまっている重度の歯周病の場合は、歯肉剥離掻爬術などで歯石や歯垢を綺麗に取り去ったとしても、歯槽骨まで完全に復活させられることはありません。

プラークコントロールされたとしても、歯槽骨がしっかりしていなければ歯が安定せず、抜けてしまうことがあるので、歯槽骨を作り直す治療が必要となるのです。

 

歯周組織再生療法の流れは途中までは歯肉剥離掻爬術と同じですが、きれいに歯石や歯垢を取り除いた後、歯周組織再生材料を注入してから縫合します。

歯周組織再生材料とは、歯槽骨の再生を促進させるものです。

3-3.遊離歯肉移植術

歯周病が進行していくと、歯肉組織の破壊や歯槽骨の吸収が始まり、歯肉の位置が下がって、歯が長く見えるようになります。

更に進行すると、歯根部分が見えるようになることも。

その歯肉が下がった部分に、別の場所の歯肉を移植する手術を遊離歯肉移植術と言います。

 

手術は次のような手順で行われます。

 

  • 採取部位と移植先に麻酔をする
  • 上顎の口蓋から上皮組織と結合組織を切り取る
  • 移植先に縫合して固定
  • 術部の感染を防止するためと治癒を促進するために、歯周パックで保護
  • 手術後、1週間後にパックを外し、1~2週間後に抜糸を行う

 

移植部分は周囲の歯肉と、色の違いが見られる場合もあります。

3-4.結合組織移植術

結合組織移植術は、遊離歯肉移植術と同じように、歯肉が下がった部分に上顎の口蓋から移植を行う手術のことです。

遊離歯肉移植術と異なる点は、結合組織移植術では名前の通り、結合組織のみの移植となる点です。

 

手術の流れは次のような手順が一般的です。

 

  • 採取部位と移植先に麻酔をする
  • 上顎の口蓋から上皮組織の内側にある結合組織を切り取る
  • 移植先の上皮組織と骨膜の間に移植
  • 移植先に元々あった上皮組織を移植した組織の上から被せ縫合
  • 術部の感染を防止するためと治癒を促進するために、歯周パックで保護
  • 手術後、1週間後にパックを外し、1~2週間後に抜糸を行う

 

移植先に元々あった上皮組織を被せてから縫合するため、周囲の歯肉との色の違いが少なく、見た目に目立つ前歯などの治療に向いています。

4.歯周外科手術の注意点

歯周外科手術には、次のような注意点があります。

4-1.治療できないケースもある

歯周病の外科治療はできないケースもあります。

外科手術ができない持病を持っている方や、抗血栓薬を服用している方、また高齢の方など手術が難しい方は手術ができません。

また、歯周病が重度で今にも抜けそうな状態など、残念ながら治療しても改善が見込めないこともあります。

4-2.知覚過敏の症状が起こることも

手術によって歯周病は改善したものの、歯肉が下がり、知覚過敏の症状が起こることもあります。

一時的なもので、自然に落ち着いてくることが多いですが、治らない場合は知覚過敏の治療が必要となる場合も。

4-3.保険適応外の治療もある

歯周病の治療は基本的に健康保険が適応されますが、外科手術の中では保険適応外で自費診療となるものもあります。

治療前に医師に確認しましょう。

5.歯周病治療は手術を伴う場合も!進行に注意し、定期検診を

歯周病は30歳以上の方の約8割の方が疾患していると言われている、誰しもが他人事ではない歯科疾患です。

軽度の場合は自覚症状がない場合も多いですが、治療も簡易的な治療で完了します。

しかし、歯周病が進行すると、手術を伴う治療が必要となるケースもあるので、進行しないように注意することが大切です。

そのためには定期的に歯科検診を受け、ブラッシング指導やクリーニングを受けながら、上手にプラークコントロールを行っていきましょう。

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