歯周病や虫歯は赤ちゃんにうつるの?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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口内のトラブルとして多い、歯周病虫歯

どちらも歯周病菌と虫歯菌という菌が口内で引き起こす感染症です。

しかし、産まれたばかりの赤ちゃんの口内には、これらの菌はいません。

 

では、いつ、どのようなタイミングで口内に菌が入り込むのでしょうか。

実は歯周病菌や虫歯菌は、風邪やインフルエンザなどと同じように、人から人にうつります。

赤ちゃんの場合、よく触れ合うママやパパなどの家族から、歯周病菌や虫歯菌を貰うことが多いです。

歯周病菌や虫歯菌は口内にいるだけでは歯周病や虫歯にすぐなることはありませんが、ご存じの通り口腔ケアが不十分な場合、歯周病や虫歯につながります。

 

そのため、最近では「赤ちゃんがかわいくても口と口のキスはダメ!」「スプーンの共有はダメ!」という話を聞いたことのあるママやパパもいるでしょう。

本当に、キスやスプーンの共有を避けることが、赤ちゃんを歯周病や虫歯から守る最善の策なのでしょうか。

 

今回は口内細菌がどのように感染するのか、また赤ちゃんを口内トラブルから守るために大切なことについてまとめました。

目次

1.歯周病や虫歯は赤ちゃんにうつる?

歯周病や虫歯の原因菌である、歯周病菌や虫歯菌。

これらの菌は周りの家族から赤ちゃんにうつることがあります。

どのようにうつっていくのか、確認してみましょう。

1-1. 歯周病菌・虫歯菌とは?

まず歯周病菌や虫歯菌とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

 

【歯周病菌】

まず、歯周病の原因となるのは、「歯垢」と呼ばれるネバネバとした細菌です。

口腔ケアが不十分であった箇所に付きます。

この歯垢が多くなり、酸素が少ない状態になると、歯垢の中で酸素を嫌う嫌気性菌が多くなります。

 

これが歯周病菌と呼ばれるものです。

歯周病菌が歯と歯茎の間に入り込むと、歯肉に炎症をひき起こし(歯肉炎)、それが進行していくと歯周病となります。

重度ともなれば、歯を支える骨を溶かしていくこともあります。

 

【虫歯菌】

虫歯菌は、歯の表面に住み着く菌です。

そして歯の表面が汚れ、歯垢がつくと、歯垢を巣窟としながら、乳酸を出し、歯を溶かして歯に穴を開けます。

これが虫歯で、進行すると歯が溶けてなくなります。

1-2.「歯周病・虫歯が治る=菌がいない」ではない

歯周病菌や虫歯菌は、歯周病や虫歯を発症していなければ、口の中にいない、というわけではありません。

過去に歯周病や虫歯になったことがあり、治療して今は健康であっても、口の中にはいます。

口腔内の衛生状態が良い状態で保たれているため、菌が悪さをしていないだけ、発症していないだけなのです。

 

そのため、ママやパパが現在、歯周病や虫歯でなければうつらないというわけではありません。

ママやパパの口内には、菌が常在していることが多いので、その菌が赤ちゃんにうつることはあります。

2. 乳歯でも菌に感染する?

乳歯が虫歯になる例はありますが、乳幼児が歯周病になるというのはあまり聞きませんよね。

赤ちゃんが菌に感染するとしたら、いつ頃からなのでしょうか。

2-1.歯が生えていない頃は感染しない

実は、歯周病菌も虫歯菌も、赤ちゃんの歯がないときには感染しません。

歯周病菌は歯と歯茎の間に住み着き、虫歯菌は歯に住み着くので、歯がなければどちらも生きていけないからです。

 

赤ちゃんの歯が生えてくるのは個人差が大きいですが、大体生後半年頃

それまでは口内に歯周病菌や虫歯菌が入ったとしても、生きてはいけません。

しかし、それ以降は注意が必要です。

2-2. 特に注意が必要な時期

生後半年頃と言えば、ちょうど離乳食が始まる頃ですね。

特に注意なのは、生後1歳半頃から2歳半までの歯が生え揃う時期

離乳食から幼児食に変わり、調味料として砂糖を使ったり、甘いおやつを食べたりする機会も増えるかもしれません。

このことから、虫歯菌が悪さをして、虫歯になるリスクが高まります。

 

歯周病の場合は歯が生えると、菌が入り込み住み着くことはあります。

しかし、子どものうちは歯周病を発症することはあまりありません。

18歳以降に発症することが多いですが、歯周病菌をもらいやすいのは、虫歯と同じくママやパパなど他の家族と密接に関わる赤ちゃん時期から幼児期までが多いです。

3.赤ちゃんに菌をうつしてしまう行動とは

赤ちゃんに菌がうつるのは、菌が含まれた唾液を介してだと言われています。

具体的にどんな行動が菌をうつす行動なのでしょうか。

3-1.スプーンの共有

ママやパパなど他の家族と同じスプーンを使う、他の家族が口に入れた箸で赤ちゃんの食べ物を取り分ける、などをした際に歯周病菌や虫歯菌がうつることがあります。

このスプーンやお箸の共有は、菌の問題だけでなく、衛生的にも良くない場合もあるので、別のスプーンや箸を用意するようにしましょう。

3-2.飲み物の回し飲み

コップなどで飲み物を飲み回しすることもありますね。

家族であれば、普通の後継かもしれませんが、この回し飲みでも菌がうつる可能性があります。

3-3.キス

口と口のキスからも、菌がうつると言われています。

赤ちゃんがあまりにもかわいいので、ついついしたくなってしまいますね。

3-4.熱い食べ物をフーフーする

離乳食が始まると、熱い食べ物を息でフーフーと冷ましてからあげることがあるでしょう。

そのフーフーと冷ましているときに、一緒に唾液も飛んでいることがあるかもしれません。

その結果、菌がうつることもあります。

4.親子のキスやスプーンの共有は絶対ダメ?

これまで見てきたように、日常のいろんな場面で、歯周病菌や虫歯菌が赤ちゃんへうつす可能性があります。

これらを完全に防ぐことは難しいこともありますし、何より親子のスキンシップが少なくなるのは寂しいですよね。

 

これらの行動は、将来の赤ちゃんの歯や口内の健康のためには、本当にNG行為なのでしょうか。

結論を言うと、これらの行動はダメでなく、NG行為ではありません。

理由は以下の通りです。

4-1.口内の菌は歯周病菌・虫歯菌だけじゃない

実は、口の中には歯周病菌や虫歯菌だけでなく、800種類以上の菌が常在しています。

菌というと汚いものというイメージもありますが、そのほとんどが存在していても、悪さをする菌ではありません。

口の中だけでなく、私たち人間の体には無数の菌がいて、善玉菌という良い菌のおかげでうまく生命活動を行えている場合もたくさんあります。

 

そのたくさんの菌の中で、トラブルを起こす可能性がある悪玉菌だけをうつさないように気を付けることは不可能です。

歯周病菌や虫歯菌も悪玉菌ですが、条件が揃わなければ歯周病や虫歯を発症しないので、口腔ケア等でうまくコントロールしながら付き合っていく方が良いでしょう。

4-2.親子のスキンシップは大切

親子のスキンシップは赤ちゃんの情操教育にはいい影響があると言われています。

 

かわいい、愛おしいからキスをする。

熱いものを赤ちゃんのためにフーフーと冷ましてあげる。

 

このような行動は人間としても普通の愛情表現。

赤ちゃんが育っていく中で、その愛情をたっぷりと受け、感じることはとても大切なことです。

また、スプーンや箸、コップの共有も、家族間ではついしてしまう場面もあります。

これらを無理に我慢したり、きっちり制限をかけたりすることが本当に赤ちゃんにとっての最善の策であるのか考えてみましょう。

5.赤ちゃんを歯周病・虫歯から守るために大切なこと

キスはしない、スプーンの共有はしない…

これらのことよりも、赤ちゃんを歯周病や虫歯から守るために、大切なことがあります。

5-1.口腔ケア・生活習慣を家族で大切に

何度も言うように、歯周病菌や虫歯菌が口腔内に存在しているとしても、条件が揃わなければ歯周病・虫歯になることはありません。

菌は人の目には見えないので、赤ちゃんにうつしたかうつしていないかを気にしても簡単には分かりません。

どちらにしても、きちんとお口のケアをしていく方が大切なのです。

 

【口腔ケアを習慣に】

歯がない状態では、歯周病菌や虫歯菌に感染することはないので、基本的に口腔ケアは必要ありません。

歯が生えてきたら口腔ケアを始めたいところですが、歯が生える頃には、同時に赤ちゃんの自我が芽生え、強くなる頃。

(※個人差は大きいです。)

口腔ケアをさせようと寝かせると、嫌がって泣いてしまう子もいます。

そのため、離乳食を始める生後5~6ヶ月頃から、離乳食後にはお茶を飲む、ごろんと股の間に寝転がせて口を見せてもらうなどの習慣をつけておくといいでしょう。

まだ歯が生えていなくても、このような習慣を身に着けておくことで、口腔ケアが習慣となり、スムーズにできます。

 

歯が生えてきたら、最初はガーゼで歯を拭き、汚れを取るケアをします。

慣れてきたら、歯ブラシを使って磨いてあげましょう。

赤ちゃんが歯ブラシを持ちたがったら、赤ちゃん用の歯ブラシを持たせてあげ、ママやパパは仕上げ磨き用の歯ブラシで磨いてあげます。

このように口腔ケアを食後の習慣にしていけるといいですね。

 

【生活習慣は家族で見直そう】

歯周病や虫歯の予防に、口腔ケアとともに大切なのが生活習慣です。

お菓子をダラダラ食べる、ジュースをダラダラ飲む、歯磨きを怠るなど、歯周病菌や虫歯菌が口内で増殖しやすい環境を作ってしまうことが、一番危険。

 

ママやパパの生活習慣は、一緒に生活している以上、赤ちゃんにも影響します。

真似してダラダラ食べる癖がついた、嗜好品が糖分を含むものばかリ…など、このようなところは親子で似るものです。

また、いつでもジュースやお菓子を摂取できるような環境で育つと、その子どもが大人になった時、同じ生活環境を作っていく可能性が高まります。

 

ジュースやお菓子は決まった時間にとる、そして食べた後は歯磨きをする。

この習慣を子どもが赤ちゃんの頃から一緒に作っていくことで、一生涯の歯の健康を守ることにつながります。

 

このような生活習慣は、ママだけが徹底していたとしても、もちろん意味がありません。

パパはもちろん、一緒に生活しているおじいちゃんおばあちゃんがいるのであれば、家族みんなで生活習慣に気を付けることで、家族みんなのお口の健康へとつながりますよ。

5-2.ママパパの歯周病・虫歯は治療しよう

歯周病や虫歯の事を考えて親子のスキンシップを控える必要はないものの、ママやパパの歯周病が進行している、虫歯だらけ…という場合は、また別の話です。

ママやパパが疾患中であるということは、歯周病菌や虫歯菌が増殖している状態ということ。

この状態で、キスやスプーンの共有などをすることは、わざと歯周病菌や虫歯菌をたくさんうつそうとしているようなものです。

 

風邪をひいている時に、あえて赤ちゃんの顔の前でゴホゴホと咳はしませんよね。

歯周病や虫歯も風邪と同じ病気です。

そのため、まずは大人の歯周病や虫歯があるのであれば、しっかり治しましょう。

ママやパパの口内の健康も大切ですし、何の心配もない状態で、親子のスキンシップを楽しむのがベストです。

6.かわいい赤ちゃんの口腔健康を守るために

産まれたばかりの赤ちゃんのお口には、菌はいません。

しかし、少しずつママ、パパや周りの家族から菌をもらいます。

歯の生えていないうちは、菌が口に入っても、その菌が悪さをすることはありませんが、歯が生えてきてからは要注意。

だからといって、キスなどのスキンシップや熱い食べ物をフーフーすることを一切やめるというのは難しいですね。

 

その代わりに、口腔ケアはもちろん、食生活などの生活習慣を整えていきましょう。

小さい頃から身に付いた生活習慣は、一生ものと言っても過言ではないので、健康的な生活習慣を赤ちゃんにプレゼントしてあげませんか。

これをきっかけに、ママやパパも習慣を見直すことで、家族みんなで歯周病や虫歯の予防に努められるといいですね。

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