歯が折れて、インプラント治療をする場合、労災は受けられる?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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仕事中や通勤中、何らかの事故や被災が原因で歯が折れてしまった…

その折れてしまった歯をインプラント治療する場合、労災保険が適応となるのか気になるところですよね。

インプラント治療は、基本的に健康保険は適用外の自由診療です。

そのため、治療費が高額となるので、労災が受けられるとありがたいと思うでしょう。

 

今回はインプラント治療が、労災保険の補償になるのかどうかについてまとめました。

目次

1.労災保険とは

まず、労災保険とはどのようなものなのかを知っておきましょう。

労災保険とは、労働者が勤務中、または通勤中に被災し、負傷や疾病、傷害を負った時、もしくは死亡したときに医療費などが給付されるという保険制度のことです。

また、併せて労働者の社会復帰等の促進事業も行います。

 

これらの保険料は原則事業主が支払う保険料によって賄われています。

 

労災保険の医療費の給付を受け取るには、以下の方法があります。

 

労災指定医療機関を受診する場合

労災指定医療機関とは、その治療に労災が適用される場合、「療養の給付」といって、患者が病院や薬局の窓口で医療費を支払う必要がありません。

医療機関から労災保険の請求を行ってもらいます。

 

非指定医療機関を受診する場合

非指定医療機関は、労災に指定されていない医療機関なので、患者は窓口で一旦医療費を支払う必要があります。

その後、所轄の労働基準監督署長へ所定の療養費用請求書を提出し、医療費を請求することで療養の費用の支給を受けることができます。

 

今回のテーマである、歯科治療を受ける歯科医院は、非指定医療機関であることがほとんどです。

 

その他、ケガの治療などにかかった期間、仕事を休まなければいけなかった場合は休業(補償)給付、障害が残った場合は障害(補償)給付、1年6ヶ月以上傷病の状態が良くならなかったなどの場合は傷病(補償)年金なども労災保険による給付です。

1-1.歯の治療の場合、労災保険は受けられるのか

勤務中に労働者が何らかの事故により歯科治療が必要になった、または通勤途中での事故で歯科治療が必要になった場合、労災保険が適用となることはあります。

 

ただし、あくまで労災は勤務中や通勤中など業務中に起こった事故が原因で、歯や口内に負傷したものが対象です。

事故が起こる前からの不調や、未治療だった箇所などは対象にはなりません。

 

1-1-1.保険適応外の治療の場合は?

労災診療費については健康保険の診療報酬に準拠して算定されます。

そのため、保険適用外の材料を用いた治療の自己負担額については、診療報酬が定められていないので、労災が受けられない場合もあります。

しかし、全ての保険適用外の材料を用いた治療が労災適用外であるわけではありません。

「個別判断」によって、労災保険が支給される場合もあります。

 

また、事故が起こる前に治療した箇所の補綴等が、業務災害や通勤災害により破損した場合、原状復帰するためにかかった費用については労災保険の「療養補償給付」の対象です。

その補綴が保険適用外の材料を用いていた場合でも対象になります。

1-2. 歯科診療の労災診療費算定方法

先述したように、一般的に労災保険において歯科診療の治療費は、健康保険の診療報酬点数表に準じて算定されます。

ただし、一部は労災保険独自の算定基準を定めているものもあります。

労災指定医療機関においての歯科医療費の給付基準は次のようなもので、非労災指定医療機関においても、以下を参考にして算定されることが多いです。

 

・診療単価…12円

・初診料3820円

・救急医療管理加算(入院外)…1250円

・療養の給付請求書取扱料…2000円

・再診料…1400円

・再診時療養指導管理料…920円

2.インプラントの健康保険適用条件

続いて、インプラントの健康保険適用条件について見ていきましょう。

労災は健康保険適用外の材料を用いた治療に対して、適用外となることが多いため、インプラント自体の健康保険適用条件を知っておくことも大切です。

2-1.インプラントに健康保険が適用されるケース

通常のインプラント治療は健康保険適用外です。

しかし、ブリッジや入れ歯治療では、以前のような噛む機能を回復不可能だと判断された症状の場合は、インプラント治療に健康保険が適用されます。

 

≪インプラント治療で健康保険が適用となる条件≫

インプラント治療に健康保険が適用されるケースには、適用される症状と、その症状の改善治療を受ける病院に条件があります。

 

【適用される症状】

・腫瘍や顎骨骨髄炎などの病気や事故の外傷などによって、広範囲にわたり、顎の骨を失ってしまった状態

・顎骨を失ってしまったけれど、骨移植によって顎の骨が再建された状態

・先天性疾患と診断され、顎骨の1/3以上が連続して欠損している状態

・顎の骨の形成不全

 

このように、顎の骨が広範囲で欠損すると、ブリッジや入れ歯では元通りにするのは難しいです。

しかし、インプラント治療では、先に人工骨などを用いた骨移植により、顎骨再生、顎骨造成をすることで、インプラント治療が可能になることがあります。

 

【治療を受ける病院の条件】

・歯科または歯科口腔外科の病院での治療

・5年以上の経験がある、または、3年以上のインプラント治療の経験がある常勤医師が2名以上配置されている歯科または歯科口腔外科での治療

・当直体制が整備されている病院での治療

・医療機器や医薬品の安全確保のための体制が整備されている病院での治療

 

症状の条件と、その症状を治療する病院の条件が揃えば、インプラント治療であっても健康保険が適用になります。

2-2.インプラント治療はなぜ健康保険が適用されない?

インプラント治療はなぜ自由診療で、なぜ健康保険が適用されないのでしょうか。

その理由は失った歯の機能を取り戻す目的はありますが、審美性向上の意味合いの強い、保険適用外の材料を用いた治療だと判断されているからです。

また、インプラント治療は外科治療を伴うなど、専門性の高い治療であること、治療のために使用する機材や設備にコストがかかることなどから、基本は保険適用外の治療とされています。

3.インプラント治療と労災

インプラント治療は基本的に健康保険が適用されないと分かりましたが、それに伴い、やはり労災設けられないのでしょうか。

3-1.基本的には適用外

インプラント治療は健康保険が適用されないため、労災も適用外です。

インプラント以外のブリッジや入れ歯治療でも、折れた歯を治療できると考えられる場合は、そちらが優先されます。

他の治療でも治療可能だと判断されたけれど、自らインプラント治療を希望した場合には、治療費に対する医療費の給付はありません。

3-2.症状によってはインプラント治療も労災が受けられる

ただし、元の噛む機能を回復するにはインプラント治療しかできない症状、状態の場合は、健康保険が適用されるので、それに伴い、労災が受けられることがあります。

3-3.療養補償給付は対象とされる場合も

また、先述もしましたが、事故が起こる前にインプラント治療していた場合、その治療した箇所が、災害により破損した場合、原状復帰するためにかかった費用が労災保険の「療養補償給付」の対象となります。

その原状復帰のために使った材料が、健康保険適用外のものでも対象です。

 

療養補償給付は「1本あたり原則8万円」を上限とされています。

3-4.後遺障害の場合

勤務中、通勤中の事故などにより、口の機能に障害が残った時、後遺障害等級に応じて労災保険が支給されます。

 

以下のような後遺障害が残ったケースです。

・咀嚼および言語機能障害

・歯牙障害

・嚥下障害

・味覚障害

4.インプラント治療は基本的に労災適用外!それでも納得のいく治療を

勤務中や通勤中などの不慮の事故で歯を失った場合、インプラント治療以外でも治療が可能な場合は労災が適用されません。

インプラントの治療費は比較的高額なので、労災も健康保険も適用されないとなると、負担が大きいと感じる人もいるでしょう。

しかし、歯や口はこれから生きていく中で欠かすことのできない部分です。

治療費のことを考えることも大切ですが、事故に遭う前のような生活を送るためにも、自分の納得のいく方法で治療を受けるのが一番

歯科医師とも相談しながら、どの治療を受けるのか検討してみてください。

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