前歯はインプラントできないのですか?!

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプ ラントは、インプラント体をあごの骨に埋め込んで人工歯を装着する治療法で、かむ機能や見た目が優れています。

 

「前歯をインプラントにしたいけどできる?」と疑問に思っている人もいますが、結論から言いますと、前歯も他の部位の歯と同じくインプラント治療ができます

 

しかし、前歯のインプラントは難易度が高く全てのケースに適用できるわけではありません。また、トラブルが多いと言われています。

 

この記事では、前歯のインプラントが難しい理由やメリット、注意点などを解説します。

目次

1.インプラントが受けられない場合って?

インプラントを入れる場所に関係なく、下記の項目に当てはまる場合はインプラントが受けられない可能性があります。

1-1.あごの骨量が少ない

インプラントは、あごの骨に歯根の代わりとなる「インプラント体」を埋め込み、上部構造である人工歯を装着する治療法です。

 

あごの骨の厚みが最低でも、5㎜ほどないとインプラントを支えられません。骨の量が不充分な状態でインプラントを入れると、インプラント体と骨が結合しにくい、骨の厚さや幅が足りずインプラントの先端が歯ぐきに飛び出て口内のケガや細菌感染を起こす、頬の裏側の空洞である「上顎洞(じょうがくどう)」に突き抜けて炎症が生じるといったリスクがあります。

 

あごの骨量が不足している場合は、再生治療を行い、骨の量を増やしてからインプラントを入れます。しかし、骨の再生治療に対応している歯科医師が限られている、費用や時間がかかるといった点がネックです。

 

ドリルを使わずにあごの骨に穴を開ける「OAMインプラント」など、骨量が少なくてもできるインプラント治療もありますが、難易度が高く、導入している歯科クリニックは少数です。

1-2.18歳未満である

あごの骨の成長が終わる前にインプラントを入れると、かみ合わせや歯並びなどに影響が出るため、発達が終わってから治療します

 

上あごの成長は12歳前後、下あごの成長は18歳前後で終わるため、インプラント治療は18歳になってから受けるのがよいでしょう。

 

ただし、発達には個人差があるので、インプラントを受けられるのかは、最終的に歯科医師が診断します。

1-3.糖尿病や骨粗しょう症などの全身疾患がある

糖尿病や骨粗しょう症などの全身疾患があると、傷が治りにくい、服用している薬がインプラント治療に悪影響を及ぼすといった理由で、インプラントが難しいケースがあります

 

ただし、一時的に薬の服用を休む、体調管理を徹底するといった方法で、インプラントができる可能性もあるので、まずは全身疾患の担当医と歯科医師どちらにも相談しましょう。

1-4.妊娠中である

妊娠中は、お腹の赤ちゃんへの影響を防ぐため、手術時の麻酔や手術後の痛み止めなどを使用できない可能性があり、インプラントには不向きです

 

歯を失った部分は入れ歯で補い、出産後にインプラントを入れる方法がよいでしょう。

1-5.虫歯や歯周病がある

虫歯や歯周病を治療しないままインプラントを入れると、細菌感染を起こし「インプラント周囲炎」などのトラブルにつながりかねません

 

また、インプラントをした箇所が細菌に侵されると、痛みやインプラントの脱落が起き、再治療となるリスクがあります。虫歯や歯周病を治療してから、インプラントを行います。

2.前歯のインプラントが難しい理由とは

一般的に前歯のインプラントは、他の場所よりも難しいといわれています。場合によっては差し歯やブリッジ、部分入れ歯といった他の治療法を提案されるかもしれません。

 

歯科医師のスキルや方針によって判断が異なるため、診断に納得がいかない場合は、セカンドオピニオンを受けるのも方法のひとつです。

 

ここでは、前歯のインプラントが難しい主な理由を紹介します。

2-1.あごの骨や歯ぐきが薄い

インプラントを成功させるには、あごの骨や歯ぐきに充分な厚みが必要です。前歯は、あごの骨や歯ぐきが薄い場合が多く、歯ぐきが下がりやすいため、状態によってはインプラントが難しいでしょう

 

他の部位でもあごの骨や歯ぐきが薄くインプラントに適さないケースがありますが、前歯の場合はより可能性が高いといえます。

 

他の部位と同じく、骨量を増やす治療をすれば、インプラントができる可能性があるので、まずは歯科医師に相談してみるのをおすすめします。

2-2.見た目に与える影響が大きい

前歯は人目につきやすく、見た目の印象を大きく左右します。そのため、他の部分のインプラント以上に、さまざまな配慮が必要です

 

例えば、前歯を1本だけインプラントにした場合、人工歯の色や形が周りの天然の歯と異なると、違和感が出てしまいます。

 

自然な見た目にするには、歯科医師と歯科技工士のスキルや美的センスが優れていなければいけません。また、オールセラミックなど見た目の調整がしやすい素材で人工歯をつくるのも大切です

 

さらに、歯ぐきが薄い人の場合、「アバットメント」が透けて見える場合があります。アバットメントとは、あご骨に埋め込んだインプラント体と人工歯をつなげる金属製のパーツです。アバットメントの色が透けると、歯ぐきが黒ずんで見え、外見を損なうケースがあります。白いジルコニア製のアバットメントを使用することで、見た目の影響を軽減できます。

2-3.神経と位置が近い

前歯は、下あごに存在する神経などが通っている管である「下顎管(かがくかん)」や上顎洞に近く、状態によっては、インプラント手術により組織や神経を傷つけてしまうリスクがあります。神経を傷つけた場合、麻痺がおこる可能性があるでしょう。

 

そのため、インプラント手術前に骨を増やす処置が必要なケースが少なくありません。ただし、骨の状態や歯科医師のスキル・方針によって、骨を増やす処置をせずにインプラント治療を受けられるケースもあります。

3.前歯をインプラントにするメリット

前歯の インプラントは難易度が高い治療ですが、下記のようなメリットがあります。

3-1.見た目が自然

前歯は目立つ部分なので、不自然な見た目だと会話や食事の際に気になってしまう場合が少なくありません。インプラントであれば、入れ歯・ブリッジ・差し歯よりも、天然の歯に近い外見を実現できます

 

優れた技術を持つ歯科医師・歯科技工士が手掛ける人工歯は、色・形が自然で、天然の歯とほぼ見分けがつかないほどです。

 

きれいに仕上げられる技術を持つ歯科クリニックを選べば、インプラントは見た目が重要な前歯に向いた治療だといえるでしょう。

3-2.他の歯に影響を与えない

ブリッジや部分入れ歯は、両隣の健康な歯を削って入れるケースが多く、影響が大きい治療法です。インプラントであれば、あごの骨にインプラント体を埋めて人工歯を装着するため、他の歯にほぼダメージを与えません。また、人工歯は細菌に感染しないため、周囲の歯が虫歯になるリスクを防げます。

3-3.かむ力が天然の歯とほぼ変わらない

インプラントは、あご骨にインプラント体を埋め込む治療のため、土台がしっかりしており、かむ力を天然の歯と同じくらいまで回復できます

 

前歯は、食べ物を最初に食いちぎり咀嚼しやすいサイズにするという重要な役割を担っています。前歯で食いちぎった後に奥歯ですりつぶして飲み込むという流れなので、前歯のかむ力が不充分だと、咀嚼が不充分となり、消化が滞る可能性があります。

 

特に肉類などかみちぎりにくい食材を食べる場合は、前歯でしっかりかめるかが重要です。

4.前歯をインプラントにする際の注意点

メリッ トの大きい前歯のインプラントですが、下記のような注意点があります。満足のいく治療結果になるよう、ぜひ参考にしてください。

4-1.しっかり対応できる歯科クリニックが限られている

前歯のインプラントは、骨や歯ぐきが薄いため難易度が高く、仕上がりの美しさも考慮した治療が求められます。

 

また、骨移植などの再生療法が必要な場合があり、他の部位のインプラント治療よりも対応できる歯科医師が少ないでしょう。

 

前歯のインプラント実績が豊富だったり、歯科技工士との協力体制が整っていたりする歯科クリニックを選ぶのをおすすめします

4-2.費用が高額になりやすい

インプラントは基本的に保険適用外です。前歯のインプラントは、技術的な難易度が高く、骨移植など骨量を増やす処置が必要な場合が多いため、他の部位よりもさらに費用が高額になる可能性があります

 

ただし、歯ぐきやあごの骨の厚みが充分であれば、他の部位と同じくらいの治療費でおさまります。診察時に、見積りをしてもらい、およその金額を確認しておきましょう。

4-3.治療期間が長くなりやすい

骨を増やす処置をすると、その分、治療期間が長くなります。前歯のインプラントは骨を増やす処置が必要なケースが多く、治療期間も伸びる傾向にあります。例えば、骨移植の場合は、充分な骨量になるまで4ヶ月~半年ほどかかるといわれており、一般的なインプラントの治療期間よりも4ヶ月~半年ほど。

4-4.歯がない状態で放置してはいけない

骨は常に、部分的に破壊・吸収される「骨吸収」と生成を繰り返してしまいます。歯を失った状態のまま放置すると、あごの骨の骨吸収が進み、インプラントを支えるための骨量が不足してしまうかもしれません。

 

特に前歯を支えるあごの骨は薄いため、骨吸収によって骨量が不足しやすい場所です。前歯を失ったら、そのままにせずになるべく早めにインプラント治療をするようにしましょう

5.前歯はインプラントできる!歯を失ったら早めに歯科クリニックへ

前歯も他の部位と同じく、あごの骨の量が不足している・18歳未満であるといった場合を除き、インプラントを入れられます

 

ただし、歯ぐきやあごの骨が薄い、見た目への影響が大きい、神経の近くに入れるといった特徴があり、他の部位のインプラント治療と比べて難易度は高めです

 

あごの骨量を増やす処置をするなどの対策によって、満足のいく治療を受けられるケースも多いので、まずは歯科クリニックに相談しましょう。

 

歯を失ってから時間が経つとあごの骨が減ってしまうリスクがあるので、放置せずになるべく早めに診察を受けるのが大切です

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