インプラント治療後の「光殺菌治療」とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療後に「光殺菌治療(ひかりさっきんちりょう)」という治療を行う場合があります。光殺菌治療は、その名の通り、光を照射して細菌を死滅させる殺菌方法です。

 

インプラント治療後に光殺菌治療をすることで、トラブルを防ぎインプラントの寿命を伸ばす効果が期待できます。

 

この記事では、光殺菌治療の概要や効果、メリット・デメリットを紹介します。よりインプラントを長持ちさせたい人は、ぜひ参考にしてください。

目次

1.光殺菌治療とはそもそもどんなもの?

光殺菌治療の概要や流れ、インプラント治療後に行う理由について解説します。

1-1.光殺菌治療とは

光殺菌治療 とは、細菌に感染した歯肉や歯の神経に「光感受性物質(ひかりかんじゅせいぶっしつ)」を注入し、専用の照射器を使用して光をあて、細菌を死滅させる治療のことです。

 

歯科領域においては新しい治療法ですが、医科では1990年ごろから、早期のがん治療などに使われており、治療効果と安全性の高さで知られています。

 

光感受性物質には、光を吸収すると化学反応を起こし、「活性酸素」という物質を大量につくり出す作用があります。活性酸素は人間の身体のなかで、細菌やウイルスを撃退する役割を持つ物質です。

 

「光感受性ジェル」と呼ばれる光感受性物質を治療箇所に塗ると、細菌の「細胞壁」や「細胞膜」に浸透します。細胞壁と細胞膜は、細胞の内部を守る役割がある部位です。

 

特定の波長の光を光感受性ジェルに照射すると、光に反応し活性酸素が大量に発生。活性酸素によって細菌の細胞壁や細胞膜だけが破壊され、細菌が死滅します。

 

歯科治療における殺菌治療には、殺菌作用のある水でのうがい・歯科用レーザーの照射・殺菌作用のある薬の塗布・抗生物質の服用などがあります。

光殺菌治療は、他の方法と比べ、身体に優しく不快感が少ないなどの理由から注目を集めています。

1-2.光殺菌治療の一般的な流れ

光殺菌治療は下記のような流れで行います。治療時間は20~30分ほどです。

 

【1】感染源を取り除く治療

歯の表面についている歯垢・歯石の除去や根管内の清掃・消毒といった通常の治療を実施し、感染源を取り除きます。

 

【2】光感受性ジェルを注入

光感受性ジェルを、歯根の中や歯と歯茎の間の溝である「歯周ポケット」、粘膜のうえといった患部に注入し、浸透させます。光感受性ジェルは少し甘い味がします。

 

【3】光殺菌

専用の照射器を使って10〜30秒間光をあて、細菌を死滅させます。

 

【4】洗浄

光感受性ジェルや細菌の死骸を洗い流します。

1-3.インプラント治療後に光殺菌治療をする理由

インプラント治療後に光殺菌治療をする一番の目的は、「インプラント周囲炎」の予防・治療です。

 

インプラント周囲炎とは、インプラントの周りの歯ぐきなどの歯周組織に歯周病菌が感染して起きる病気です。

 

インプラント周囲炎は歯周病とよく似た病気で、初期のうちは軽い炎症によって歯ぐきに赤み・腫れが見られる程度です。しかし、症状が進行すると血や膿が出て、炎症があごの骨にまで広がるといった症状があらわれます。

 

あごの骨が炎症によって破壊されると、あごの骨による支えを失ったインプラント体がぐらつき、最終的には抜け落ちてしまう場合もあります。

 

インプラントは天然歯と異なり、歯と歯ぐきの間にある「歯根膜(しこんまく)」という膜がありません。そのため、細菌があごの骨に到達しやすく、歯周病の10~20倍の速度で進行します。

 

インプラントは人工物のため異変に気がつきにくいこともあり、自覚症状が出たころには、骨の破壊が進んでいて、インプラントを取り除かざるを得ないケースもあります。

 

インプラントを長持ちさせるには、歯周病菌の増殖を防ぎ、インプラント周囲炎を予防することが大切です。

 

インプラント後の定期的な光殺菌治療によって、口の中の歯周病菌を減らし、インプラント周囲炎のリスクを軽減できます。さらに、天然歯の虫歯や歯周病を防ぐ効果も期待できるでしょう。

 

また、歯科クリニックによっては、抜歯後すぐにインプラント体を埋め込む場合に、光殺菌治療を行うケースもあります。

 

治療箇所を殺菌することで、感染リスクをおさえ、インプラント体とあごの骨の結合を促進する効果が期待できるためです。

2.光殺菌治療のメリットとは

光殺菌治療は、抗生物質やレーザーなど従来の治療法にはないメリットがあります。代表的なものを紹介します。

2-1.耐性菌をつくらない

「耐性菌」とは、抗生物質が効かない細菌のことです。抗生物質を使い続けると、細菌の変異などが原因で、耐性菌が発生・増殖する可能性があります。

 

耐性菌が発生すると、使用していた抗生物質が効かなくなり細菌が増殖し、インプラント周囲炎の進行につながります。耐性菌が発生した場合、別の抗生物質を使う、レーザー治療をするといった治療方法に切り替える必要があります。

 

光殺菌治療は、抗生物質と異なり光エネルギーにより細菌を破壊する仕組みなので、耐性菌ができることはありません。

2-2.耐性菌にも効く

光感受性ジェルは、ほとんどの細菌の細胞壁や細胞膜に浸透します。そのため、すでに耐性菌に変化した細菌にも効果が期待できます。

2-3.痛みや副作用がほとんどない

光殺菌治療は、光感受性ジェルを塗り、照射器で光を当てるだけなので、人間の身体に直接影響を与えることはほぼありません。

 

治療中に少し熱や振動を感じるものの、基本的に痛みや副作用がなく、繰り返し受けてもリスクが低い治療法です。

 

同じ光を照射する治療でも、熱エネルギーで細菌を破壊するレーザー治療とは異なり、歯ぐきや歯の神経などが熱くならず、健康な部分への影響はほとんどないでしょう。

 

そのため、妊娠中など他の治療法が難しいケースでも、光殺菌治療であれば受けられる可能性があります。

2-4.歯周ポケットが改善する

光殺菌治療では、クリーニングなど物理的な方法で細菌を取り除くのが難しい、深いところや複雑な形の場所にいる歯周病菌も殺菌できます。

 

歯周ポケットの奥の歯周病菌まで取り除けるため、歯肉が自然治癒力を取り戻し、歯周ポケットの改善につながります。

2-5.歯周病菌以外の菌にも効果がある

光殺菌治療は、基本的に細菌の種類を問わず効果がある治療法です。歯の根の治療や重度の虫歯など、細菌が原因で起こる口の中のトラブルのほとんどに対応できます。

2-6.2~3ヶ月効果が持続する

光殺菌治療によって、今いる細菌を死滅させるだけではなく、免疫力の向上により継続的に殺菌効果が生まれることが、研究で明らかになってきています。

 

個人差はありますが、歯磨きなど適切なセルフケアをしている場合、細菌の増殖をおさえる効果は2~3ヶ月続きます。

3.光殺菌治療のデメリットとは

耐性菌が発生しないなどメリットの多い光殺菌治療ですが、少ないながらデメリットも存在します。

3-1.光過敏性発作の患者には適用できない

光を照射する治療法のため、「光過敏性発作」の患者には適用できません。光過敏性発作とは、目に入った光による刺激で、けいれん・ひきつけ・意識障害などが起きる病気です。

 

光過敏性発作がある場合は、歯科医師に相談し適切な治療法を提案してもらいましょう。

3-2.光殺菌治療だけでは完治が難しい

光殺菌治療は、セルフメンテナンスや歯石の除去をはじめとする基本的な治療と組み合わせることで、インプラント周囲炎のリスクを大幅に軽減できます。しかし、光殺菌治療だけで完治するわけではありません。

 

あくまで継続的なメンテナンスの一環として、より高い予防効果を求めて行う治療という位置づけです。

3-3.光感受性ジェルが触れないと効果がない

抗生物質は、血液中に成分が溶け込んで運ばれることで、全身の細菌に効果を発揮します。しかし、光殺菌治療は、光を照射しても光感受性ジェルが触れている細菌にしか効果はありません。

 

そのため治療箇所にムラなく塗る必要があります。

3-4.照射もれがあると効果がない

光感受性ジェルは光が届くことで効果を発揮し、細菌を死滅させます。適切に光を届けるための専用チップが用意されていますが、施術者がムラなく照射しないと光が届かず、充分に殺菌できない可能性があります。

3-5.費用がかかる

光殺菌治療は、保険適用にならず全額自己負担です。歯科クリニックによって治療費は異なりますが、1回あたり2,000~3,000円が相場です。

 

インプラント周囲炎を予防するには継続的な治療が大切なので、無理なく続けられるよう、事前に見積りを確認してから治療を決めましょう。

3-6.実施している歯科クリニックが限られている

光殺菌治療は、歯科治療において最近行われるようになった治療法です。専用の器具や薬剤が必要なので、実施していない歯科クリニックも少なくありません。

 

インプラント後のメンテナンスは、インプラント手術をした歯科クリニックで行うのが一般的です。光殺菌治療を希望する場合、インプラント治療を受ける歯科クリニックを選ぶ際に、光殺菌治療を実施しているか確認するとスムーズです。

 

4.光殺菌治療でインプラント周囲炎を予防しよう!

光殺菌治療とは、細菌に感染した歯肉や歯の神経に光感受性ジェルを塗り、特定の波長の光を照射することで、細菌を死滅させる治療法です。

 

インプラント治療後に光殺菌治療を行うと、歯周病菌を除去でき、インプラント周囲炎のリスクをおさえられます。

 

光殺菌治療は、耐性菌をつくらない・耐性菌にも効果がある・痛みや副作用がないといったメリットがある治療法です。抗生物質やレーザーなど従来の殺菌方法の欠点を補う方法として注目されています。

 

ただし、光過敏性発作の患者には適用できない・光殺菌治療だけでは完治が難しいといったデメリットもあります。

 

とはいえ、歯磨きやクリーニングなど他のメンテナンスと組み合わせることで、インプラント周囲炎の予防に大きな効果を発揮する治療法なのは事実です。

 

インプラントを長持ちさせるために、歯科医師と相談の上、メンテナンスの一環として取り入れてみてはいかがでしょうか。

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