インプラントをダメにしない為「マウスピース」の使い方

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラントは、9割以上が治療から10年経過しても使え、数十年にわたり使用できるケースも少なくありません。しかし、口の中の状態やメンテナンスの仕方などによっては、早くにインプラントがダメになってしまいます。

 

「歯ぎしり」や「食いしばり」といった噛み癖も、インプラントの寿命を縮める原因のひとつです。インプラントを噛み癖によるダメージから守り長持ちさせるには、マウスピースが効果的です。

 

この記事では、インプラントの寿命と噛み癖の関係や噛み癖によるトラブル、マウスピースの役割や使い方について解説します。

目次

1.インプラントは噛む力によるダメージを受けやすい

天 然歯には、歯根と歯を支えるあごの骨の間に「歯根膜(しこんまく)」と呼ばれる膜が存在します。歯根膜の主な役割は2つです。

 

1つは、ものを噛んだ時にかかる衝撃が歯からあごの骨に直接伝わらないようにするクッションのような役割。もう1つは、歯にかかる力を感じるセンサーのような役割です。歯根膜があることで、歯に力がかからないよう意識したり、衝撃を和らげたりでき、歯やあごの骨をダメージから守れます。

 

インプラントは、チタンという金属などでつくった「インプラント体」をあごの骨に埋め、歯根の代わりにする治療法です。インプラントはあごの骨としっかり結合していますが、天然歯とは異なり、歯根膜が存在しません。そのため、インプラントは、天然歯よりも噛む力による悪影響を受けやすい状態です。

 

噛む力が過剰にかかると、インプラントがダメになってしまう場合も少なくありません。

 

2.インプラントにダメージを与える噛み癖とは

歯ぎしり・食いしばりといっ た噛み癖があると、噛む力が過剰にかかり、インプラントの寿命が短くなるので要注意です。

 

・歯ぎしり

寝ている間に、上下の歯をすり合わせることを指します。ギリギリと摩擦音がするため、家族の指摘で気がつく人も多いといわれています。

 

・食いしばり

何かに集中している時や寝ている時に、上下の歯を強く噛みしめることを指します。音がしないため気づかれにくいのが特徴です。意識的に噛む時と比べ、約数倍の力がインプラントにかかるといわれています。

 

実は、食事中などを除く、リラックスしている時は、上下の歯は触れあっておらず、約1mm~3mmすき間があります。1日のうちほんの少しの間しか上下の歯は接触せず、インプラントに噛む力はほぼかかっていません。

 

しかし、歯ぎしりや食いしばりといった噛み癖があると本来は噛む力がかからない時も、ダメージを受け続けることになります。

 

噛み癖が起こる原因は、はっきり判明していませんが、ストレス・噛み合わせや骨格・習慣などが考えられます。最も多い原因は、ストレスです。

 

3.噛む力がインプラントに及ぼす影響

噛む力がインプラントに過剰にかかると、下記のような悪影響が生じます。

 

 

3-1.人工歯が外れる

インプラントは、歯根の代わりとしてあごの骨に埋め込む「インプラント体」と上部構造である「人工歯」、インプラント体と人工歯をつなぐ「アバットメント」で構成されています。

 

インプラントには歯根膜がないため、噛む力が人工歯に直接かかります。その結果、人工歯をアバットメントに固定するネジがゆるんで、人工歯が外れてしまう場合があります。

 

人工歯が外れた場合は、歯科クリニックでネジを締め直してもらわなければいけません。

3-2.人工歯が破損する

一般的にインプラントに使用する人工歯は、陶器と同じ材質である「セラミック」でできています。セラミックは、金属アレルギーが起こりにくい・見た目が自然で美しい・変色しにくいといったメリットがある反面、大きな衝撃に弱い素材です。

 

噛み合わせや噛み癖の影響で、人工歯に大きな負荷がかかり続けると、少しずつ人工歯がもろくなってしまいます。最終的には噛む力に耐えきれず、割れたり欠けたりする可能性があります。

 

人工歯が破損した場合は、歯科クリニックで修理またはつくり直しをしてもらいましょう。

3-3.インプラントが抜け落ちる

あごの骨に埋め込んだインプラント体は、時間の経過により骨と結合することで、しっかり固定される仕組みです。インプラントに噛む力が過剰にかかると、あごの骨にも直接ダメージが伝わり、骨がやせてしまいます。

 

あごの骨がやせると、インプラントと骨の結合がスムーズに進まない、もしくは結合している場所が弱くなります。その結果、インプラントがぐらぐらしたり、抜け落ちたりして、再手術が必要になるかもしれません。

4.インプラントを守るマウスピースの使い方

インプ ラントを噛む力によるダメージから守る方法として、マウスピースがあります。マウスピースの概要・種類・費用・手入れ方法など詳しく解説します。

 

 

4-1.マウスピースの概要・使い方・効果

マウスピースとは、ゴムやレジンといった弾力性のある素材でつくられた入れ歯のような器具です。

 

歯ぎしり対策のマウスピースは、歯科クリニックで本人の歯型を取り、歯の大きさ・形・傾きなどに合わせ、フィットするよう製作します。

 

噛み癖対策用以外にも、歯列矯正を目的としたマウスピースなども存在します。噛み癖対策用マウスピースは「ナイトガード」とも呼ばれ、主に無意識に歯ぎしりなどをしてしまう就寝中に装着するものです。食事時などは、つける必要はありません。

 

マウスピースには、噛む力を吸収し和らげる働きがあり、歯ぎしりや食いしばりなどによるダメージからインプラントや人工歯を守ってくれます。また、天然歯のすり減りをおさえたり、顎関節の負担を軽減したりするのにも効果的です。

 

マウスピースで対策するメリットは、つけるだけでインプラントにかかる力を軽減できることです。すぐにダメージを軽減できるため、噛み癖があるとわかったら早めに歯科クリニックでつくってもらいましょう。

 

デメリットとしては、装着時の違和感があげられます。最初のうちは無意識のうちに外してしまうかもしれませんが、使ううちに慣れる場合がほとんどです。

4-2.マウスピースの種類

噛み癖対策用のマウスピースは、大きくわけてソフトタイプとハードタイプの2種類があります。

 

・ソフトタイプ

ゴム製の柔らかいマウスピースです。装着時の違和感が少ないのですが、柔らかい分、耐久力は低めです。噛み癖による力が強くかかると削れて、穴が開く場合もあります。装着することにより、噛み癖がさらに強くなる可能性があるので注意が必要です。

 

・ハードタイプ

プラスチックの一種であるレジンでできた、硬いマウスピースです。耐久性が高く、噛み癖によるダメージを受けても、破損することはほぼありません。硬い素材でできているため、慣れないうちは装着時の違和感が大きい傾向にあります。

 

ハードタイプの方が、噛み癖によるダメージから効果的にインプラントを守れます。ただし、違和感が強いため、最初はソフトタイプを使い、慣れてきたらハードタイプに移行するという方法を取る場合もあります。

 

歯科クリニックでつくるマウスピース以外にも、市販のスポーツ用のものや自分でつくるレジン製のマウスピースもありますが、噛み癖対策には適していません。

 

自分の歯並びや歯の大きさなどと合わず、かえって噛み合わせのバランスが崩れて、インプラント・歯・あごの負担が増えるリスクがあります。

4-3.マウスピースの費用

噛み癖による負担を軽減するためのマウスピースは、保険が適用される場合があります。3割負担の治療費は、3,000〜5,000円ほどです。さらに、マウスピースのメンテナンス費用などもかかります。

 

さらに、個人差はありますがマウスピースの耐用年数は2~3年ほどなので、定期的につくり直さなければいけません。

 

しかし、インプラントは、1本あたり30万~40万円が相場です。高い費用をかけて入れたインプラントを守れると考えると、マウスピースの費用は安いといえるでしょう。

 

4-4.マウスピースの正しい手入れ

マウスピースは、歯に直接装着するものなので、衛生的かつ快適に使えるよう、しっかり手入れすることが大切です。

 

マウスピースを外し、水を流しながら指か柔らかい歯ブラシで、丁寧に汚れを落とします。熱湯を使うと、熱で変形する可能性があるので要注意です。

 

研磨剤入りの歯磨き粉で磨くとマウスピースが傷つくことがあるので、使用しないようにしましょう。小さな傷でも、雑菌が入り繁殖するリスクがあります。専用の洗浄剤を使うと、目に見えない汚れや細菌を取り除けます。

 

保管時は、紛失や破損を防ぐために、専用のプラスチックケースを使うのがおすすめです。

 

また、マウスピースは、噛む力によりすり減ったり、穴が開いたりする場合があります。インプラントの定期メンテナンス時に、マウスピースの状態もチェックしてもらいましょう。

5.マウスピースを活用してインプラントの寿命を伸ばそう

インプラントには、歯根とあごの骨の間でクッションのような役割を担う歯根膜がないため、噛む力によるダメージを受けやすいという欠点があります。

 

特に、歯ぎしりや食いしばりといった噛み癖があると、本来であれば噛む力がかからないタイミングでも負荷がかかります。その結果、人工歯が外れる・人工歯が破損する・インプラントが抜け落ちるなどのトラブルになりかねません。

 

インプラントを守るためには、マウスピースを装着するのが効果的です。マウスピースを装着することで、噛む力を吸収でき、インプラントへのダメージが和らぎます。噛み癖対策のマウスピースは、主に就寝時に装着します。

 

マウスピースを使用する場合は、定期的に破損がないかチェックする・しっかり洗う・専用のケースに保管するの3点が重要です。

 

インプラントがダメになると、治療費や治療期間など大きな負担がかかります。マウスピースを活用して、インプラントを長持ちさせましょう。

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