- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療中は“禁煙”が基本です。
しかし、愛煙家の方にとっては、禁煙をするのが難しい場合もあるでしょう。
そんな中、近年急速に普及してきている、アイコスなどの紙タバコではないタバコ。
紙タバコよりも害が少なく、人気も注目も集めていますが、この紙タバコでないタバコであれば、治療中も吸って問題ないでしょうか。
今回は、インプラント治療とアイコスや電子タバコの関係についてまとめました。
目次
- 1.インプラント治療中はなぜ禁煙?
- 1-1.傷の治癒を遅くする
- 1-2.免疫力の低下
- 1-3.白血球の活動を抑制する
- 1-4.唾液が減少する
- 2.アイコスとはどんなタバコ?
- 2-1.加熱式タバコのメリット・デメリット
- 2-2.電子タバコとの違い
- 3.加熱式タバコとインプラント治療
- 3-1.加熱式タバコもNG
- 3-2.90%以上の有害物質をカットしているアイコスもNG
- 3-3.ニコチンの入っていない電子タバコはOK?
- 4.インプラント治療を考える方は禁煙を
1.インプラント治療中はなぜ禁煙?
インプラント治療中の禁煙は、手術の成功や回復の早さなどにつながります。
もし治療中にタバコを吸ってしまったらどうなるのか、まずは治療中のタバコの害について知っておきましょう。
1-1.傷の治癒を遅くする
インプラント治療では、失った歯の代わりとなる人工歯を支えるための、インプラント体を歯茎の中に埋め込みます。
その際に、外科手術が必要となります。
つまり、その外科手術により傷ができるわけですが、その傷の治癒には酸素や栄養素の供給が必要です。
タバコを吸うと発生する一酸化炭素や、その他の有害物質の影響で、血液中の酸素の濃度が下がります。
また、タバコの中に含まれるニコチンの影響で血管が収縮すると、血液循環が悪くなり、手術部への酸素や栄養素の供給が少なくなるのです。
そのほか、喫煙すると細胞の増殖を妨げてしまうという悪影響もあります。
結果として、傷の治りが遅くなり、なかなか出血が止まらなかったり、腫れや痛みを長引かせたりしてしまうケースも多いです。
1-2.免疫力の低下
タバコに含まれるニコチンは、免疫力に対し悪影響を及ぼすと知られています。
免疫力は健康を保つために重要なものですが、インプラントの手術後は特に、早い段階で免疫機能の働きが重要です。
免疫力が落ちると、インプラント術後に最も避けたい、インプラント周囲炎などの細菌感染症のリスクが高まってしまいます。
インプラント周囲炎にかかると、インプラント体が顎骨に安定せず、最悪抜け落ちてしまうこともあります。
また、免疫力が弱まると、歯周病や虫歯などのリスクも高まります。
短期間で状態が悪化してしまうこともあるので、避けたいところです。
1-3.白血球の活動を抑制する
体に悪影響を及ぼす細菌と戦う役割を担う白血球の活動も、タバコに含まれるニコチンが抑制することがあります。
白血球の活動が弱まっていると、先述したような感染症にかかりやすくなったり、術部の炎症がひどくなったりすることがあります。
1-4.唾液が減少する
喫煙していると、ニコチンや一酸化炭素の働きにより唾液の分泌量も減少します。
唾液には口内の洗浄作用があり、正しく分泌されれば感染症予防や虫歯のリスクを下げますが、唾液が減少すると口内環境は悪化してしまいます。
2.アイコスとはどんなタバコ?
「アイコス」と名前はよく聞きますが、アイコスとは何かご存知ですか?
アイコスは日本たばこ産業(JT)が開発した加熱式タバコのブランド名です。
加熱式タバコは、通常の紙タバコと異なり、タバコの葉を加熱して蒸気を生成し、その蒸気を吸うというものです。
アイコスは充電式のもので、充電完了後に内部に専用のタバコをセットして使用します。
2-1.加熱式タバコのメリット・デメリット
加熱式タバコは一般的な紙タバコよりも有害物質の量が少ないと言われています。
アイコスの場合、歯が黄色く着色する原因となるタールは含まれていません。
また、紙タバコのデメリットの1つである副流煙は出ないところも、アイコスのメリットだと言われています。
紙タバコから出る副流煙は、喫煙者だけでなく、喫煙者の周りにいる人への健康被害ももたらします。
その点、加熱式タバコの場合、周りの人への影響はほぼないと言えます。
ただし、アイコスをはじめとする加熱式タバコには、ニコチンは含まれており、一酸化炭素、多環式芳香族炭化水素などの有害物質は含まれています。
喫煙者本人には、有害物質による健康被害が及ぶことがあります。
ニコチンによる身体への悪影響は、紙タバコを吸うときと変わりません。
その他、メリットがあるとすれば、喫煙者特有のニコチンが切れた時のイライラ症状を、加熱式タバコは抑えることができる点でしょう。
一般的に喫煙者がまたタバコが吸いたくなる、やめられないのは、そのニコチンが切れることが原因であることがほとんどです。
ニコチンが切れると、ストレスを感じたり、イライラしたりするなどの症状が現れ、吸いたくなるのです。
加熱式タバコには紙タバコと同じようにニコチンが含まれるため、紙タバコを吸うのとあまり変わらない状態でいることができます。
2-2.電子タバコとの違い
アイコスなどの加熱式タバコのことを「電子タバコ」と呼ぶ人もいますが、厳密には異なるものです。
加熱式タバコも電子タバコも火ではなく、電気を使用して蒸気を発生させる点に共通点はありますが、使用する材料に違いがあります。
加熱式タバコの材料はタバコの葉です。
電気の力により、副流煙の量やタールの量を減らすことはできますが、基本的には紙タバコと同じ有害物質が含まれます。
その点、電子タバコはタバコの葉ではなく専用のリキッドを使用します。
フルーツ味やコーラ味などのフレーバーを楽しめるタバコです。
現在、日本製の電子タバコのリキッドには、ニコチンやタールといった物質は含まれていないと言われています。
基本的に人体に入れても問題ない、食用可能な成分でできているようです。
そのため、健康への被害はほとんどないのは良い点ですが、電子タバコを吸っても、ニコチンは吸えないのでイライラの症状やストレスが出る可能性はあります。
紙タバコから卒業し、禁煙を目的とする際、口寂しさを紛らわせるために使用されるのが、電子タバコだと考えてもいいでしょう。
3.加熱式タバコとインプラント治療
アイコスなどの加熱式タバコはインプラント治療を行う際、吸ってもいいのでしょうか。
3-1.加熱式タバコもNG
結論から言うと、加熱式タバコもインプラント治療をするならNGです。
理由は先述したように、加熱式タバコはタバコの葉を電気の力で加熱して吸うものです。
そのため、ニコチンや一酸化炭素などの有害物質は、吸うことになってしまいます。
これらの有害物質がインプラント治療において、傷の治りを遅くしたり、免疫力を弱めたりなど、悪影響を及ぼすことがあるため、加熱式タバコも少なくとも治療前後は避けた方がいいと言えます。
また、歯科医院によっては、そもそも喫煙者へはインプラント治療ができないというところもあります。
インプラントの手術の際には、十分な顎骨の量や厚みが必要になりますが、喫煙者はタバコの影響で歯茎や骨が痩せているケースも見られることから、インプラント手術ができないと判断されることがあるからです。
骨を増やす手術(骨造成手術)をすることもありますが、喫煙者にはこの手術を行ったとしても、将来的にまた骨が痩せていくことを考えると、行っても意味がないと診断されることもあります。
厳しいようですが、インプラント治療を考える際には、できる限りの禁煙を試みることが大切です。
3-2.90%以上の有害物質をカットしているアイコスもNG
加熱式タバコの中でも有名な商品アイコス。
「副流煙が出ない」ことと、「有害物質を90%カット」していることを売りとしていますが、やはり有害物質がゼロではないことは明らかです。
インプラント治療において、喫煙者は非喫煙者と比べて、治療の成功率が10%も下がると言われています。
たった10%と思われる方もいるかもしれませんが、少しでもインプラント治療の成功率を上げたい、インプラントの寿命を延ばしたいと考える場合には、禁煙が必要と言えるでしょう。
3-3.ニコチンの入っていない電子タバコはOK?
タバコの葉を使っていない、ニコチンフリーの電子タバコは、どうでしょうか。
現在、日本で販売されている電子タバコは、ニコチンフリーのものですが、海外の電子タバコにはニコチンが含まれるものがあります。
海外製のものも、日本で電子タバコとして販売されているので、注意が必要です。
また、ニコチン以外の有害物質は含まれている可能性があり、電子タバコの安全性はまだ証明されていません。
インプラント治療中はどちらにしても禁煙を心がけましょう。
4.インプラント治療を考える方は禁煙を
タバコを吸うことが、インプラント治療に与える悪影響は大きく、失敗につながることがあります。
アイコスなどの加熱式タバコも、紙タバコと同じような有害物質が含まれているため、インプラント治療中に使用するのはNGです。
ニコチンやタールが含まれていないとする電子タバコにおいても、まだ安全性が証明されていないところがあります。
インプラント治療の成功率を上げるとともに、自身の今後の健康のことも考え、インプラント治療を視野に入れた時から、できる限りの禁煙を心がけましょう。