「麻酔」なしでインプラント治療できる?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療を検討するうえで、「麻酔のリスクが気になる」「できれば麻酔なしで治療したい」と考えている人もいるのではないでしょうか。

 

この記事では、インプラント治療における麻酔について知りたい人向けに、麻酔が必要なのかや主な麻酔の種類、特徴などを解説します。インプラント治療を検討する際に、ぜひ参考にしてください。

目次

1.インプラント治療には麻酔が必要

インプラント手術は一般的に、歯ぐきをメスで切開し、あごの骨にドリルで穴を開け、インプラント体を埋め込んで、歯ぐきを縫合するという流れで行われる治療法です。

 

切開・縫合を伴う外科手術なので、麻酔をしなければ非常に強い痛みを感じます。そのため、麻酔なしでインプラント手術を行うことはありません。

 

インプラント手術では、基本的に虫歯治療でも使われる「局所麻酔」を行います。また、手術への恐怖心が大きい患者には、局所麻酔と併用して「静脈内鎮静(セデーション)」と呼ばれる麻酔をする場合もあります。

2.局所麻酔

インプラント治療で行われる局所麻酔について解説します。

2-1.局所麻酔とは

局所麻酔とは、麻酔薬を少しずつ体内に注入することで、手術箇所周辺の「末梢神経」に作用し、痛みを軽減する麻酔法です。

 

局所麻酔は大きく3種類にわかれます。

 

・表面麻酔

軟膏やゼリー状、テープ状の麻酔を塗り、表面の感覚を麻痺させる麻酔法です。口の中の粘膜は皮膚よりも痛みを感じやすいため、最初に表面麻酔を行い、麻酔注射の痛みを軽減します。麻酔を塗って一定時間放置することで、粘膜に薬剤が浸透し効果を発揮します。効果の持続時間は短く、10~20分ほどで効果が薄れてきます。

 

・浸潤麻酔

歯科治療で最も一般的に行われる麻酔法で、治療部位の歯ぐきに麻酔薬を注射します。痛みに不安を感じる人もいるかもしれませんが、細い注射針を使用する・麻酔の温度を適温に管理するなどの工夫により、近年は痛みが軽減されています。さらに事前に表面麻酔をするため、そこまで痛みを気にする必要はないでしょう。一般的な浸潤麻酔薬の場合、効果の持続時間は、2~3時間が目安です。

 

・伝達麻酔

奥歯の治療時など浸潤麻酔が効きにくい場合や長時間にわたり麻酔の効果を持続させる必要がある場合に行われる麻酔法です。末梢神経やその周辺に麻酔薬を注入し、痛みを感じる経路をブロックするため、広範囲に効果があり、歯ぐきだけではなく舌や下唇も麻痺します。効果の持続時間は4~6時間ほどと長く、体質によっては効果が切れるなど約半日ほどかかります。

2-2.局所麻酔のメリット

インプラント治療で局所麻酔をする主なメリットは下記の通りです。

 

(1)副作用などのリスクが少ない

局所麻酔は、治療箇所周辺の限られた部位にのみ作用するため、副作用などのリスクが少ない麻酔法です。全身に影響を及ぼす麻酔法ではないため、呼吸や心拍数の変動、血圧の低下などを防げます。

 

まれに麻酔薬へのアレルギー反応により、発疹・かゆみ・呼吸困難などを起こす場合もあります。しかし、これまで歯科治療で局所麻酔を打ったときに問題がなければ、あまり心配はいりません。

 

(2)麻酔への恐怖感を軽減できる

局所麻酔は歯科治療で広く行われている麻酔法なので、インプラント手術を受ける患者の多くが受けた経験があります。他の麻酔方法よりもなじみがあるため、比較的、恐怖感や抵抗感が少ないでしょう。

 

(3)回復までの時間が短い

局所麻酔は、身体の一部にしか作用しないため、手術後すぐに状態が回復し、日常生活に戻れます。

2-3.局所麻酔のデメリット

リスクが少ないなどメリットの多い局所麻酔ですが、デメリットもあります。

 

(1)意識や感覚がはっきりしている

局所麻酔は、手術による痛みは軽減できても、恐怖心は和らげられないのがデメリットです。

 

手術箇所以外には作用せず、意識や感覚ははっきりしています。ドリルで骨を削る音や医師の声が聞こえたり、周りの様子が見えたりすることで、不安や緊張感が高まる人も少なくありません。

 

(2)頬や舌を噛んでしまう場合がある

手術後も麻酔の効果が完全に切れるまでは、手術箇所の感覚が戻らないため、誤って頬や舌を噛んでしまう場合があるので要注意です。

3.静脈内鎮静法

インプラント治療における静脈内鎮静法について解説します。

3-1.静脈内鎮静法とは

静脈内鎮静法は、点滴によって麻酔薬や鎮静剤を身体に投与し、半分眠っているような状態をつくる麻酔法です。

 

不安・緊張・恐怖心が和らぎ、リラックスして手術を受けられます。ただし、痛みをおさえる作用はないため、鎮痛効果のある局所麻酔との併用が必要です。

 

効果があらわれるまでに1〜2分、最大の効果があらわれるまでには5〜10分ほどかかります。効果は40〜60分持続します。

3-2.静脈内鎮静法のメリット

インプラント治療で静脈内鎮静法を行う主なメリットを紹介します。

 

(1)精神的な負担を軽減できる

歯科治療や手術に恐怖心が大きい患者の場合、インプラント手術による精神的な負担はかなりのものです。

 

静脈内鎮静法で意識をぼんやりさせることで、精神的な不安を大幅に軽減でき、リラックスして治療を受けられます。不安や緊張が大きい患者でも、「気がついたら手術が終わっていた」と感じるケースが少なくありません。

 

(2)血圧や心拍数が安定した状態で手術を受けられる

リラックスした状態をつくることで、手術への不安や緊張による血圧・心拍数の乱れをおさえられます。高血圧や糖尿病といった持病のある人でも、安心して手術を受けられるでしょう。

 

(3)手術時間が短く感じる

静脈内鎮静法には、麻酔が効いている間の記憶を忘れさせる作用があるため、手術時間が短く感じます。さらに、治療に関する嫌な記憶もほぼ残りません。

 

多くのインプラントを埋め込む場合など手術に時間がかかる場合は、静脈内鎮静法をした方が快適に治療を受けられるでしょう。

 

(4)嘔吐反射をおさえられる

歯科治療の時などに強い吐き気を感じる現象を「嘔吐反射」といいます。嘔吐反射は、歯科治療への不安・恐怖心が大きく影響しているため、静脈内鎮静法によりリラックスすることで嘔吐反射をおさえられます。

 

(5)日帰りできる

全身麻酔とは異なり一時的に意識をぼんやりさせるだけなので、一定時間休憩した後は、ほとんどの場合、そのまま帰宅できます。

3-3.静脈内鎮静法のデメリット

静脈内鎮静法には、下記のようなデメリットもあるので注意が必要です。

 

(1)当日は車の運転ができない

静脈内鎮静法をした後は、眠気が残る場合があります。事故を防ぐため、手術当日は

車の運転ができません。

 

家族が運転する車またはタクシーで帰宅するようにしましょう。徒歩や電車で帰宅する方法もありますが、事故などのリスクを防ぐために、家族などに同伴してもらった方が安全です。

 

(2)当日は安静にしていなければいけない

鎮静剤や麻酔薬の影響で、眠気やふらつきが起こるため、当日は安静を心がけましょう。激しい運動や遠くへの外出も控えてください。判断力が低下しているため、仕事など重大な決断も避けた方が無難です。

 

ほとんどの場合、翌日には静脈内鎮静法の影響はなくなり、普段通りに生活できます。

 

(3)追加料金がかかる場合がある

静脈内鎮静法はインプラント治療の料金に含まれていないケースが多く、追加料金がかかります。静脈内鎮静法の料金の相場は50,000円前後です。

 

しかし、保険が適用されない自由診療のため、歯科クリニックによって料金は異なります。事前に見積りを取り、確認しておくとよいでしょう。

 

(4)対応できる歯科クリニックが限られている

鎮痛剤の影響により、まれに呼吸や血圧に影響する場合があります。そのため、血圧・心拍数・酸素飽和度など身体の状態を確認しながら手術を行うため、全ての歯科クリニックで対応できるわけではありません。

4.インプラント治療で使用するその他の麻酔

インプラント治療では、局所麻酔と静脈内鎮静法以外に、「全身麻酔」「笑気麻酔」行う場合もあります。それぞれ解説します。

4-1.全身麻酔

全身麻酔とは、麻酔薬を投与することで、脳を含む全身の神経細胞の活動をおさえ、意識を失った状態にする麻酔法です。痛みを感じなくなるだけではなく、身体は動かず、記憶も残りません。

 

インプラント手術は、全身麻酔が必要なほど身体へのダメージが大きくないため、基本的に全身麻酔ではなく、局所麻酔で対応します。

 

全身の機能を一時的に停止させるため身体への負担が大きく、副作用などのリスクが高い・回復が遅い・ほとんどのケースで入院が必要であるといったデメリットがあるからです。

 

自発呼吸ができないため、手術中の呼吸管理が必要です。麻酔科医のもと、高度な医療機器を使用して行われる麻酔法なので、一般の歯科クリニックでは難しいでしょう。

 

ただし、患者から要望があれば、全身麻酔に対応できる大学病院や医療施設を紹介してくれる歯科クリニックもあります。

 

また、高度な管理をするための費用や入院費がかかるため、全身麻酔には高額の費用が必要です。

4-2.笑気麻酔

笑気麻酔とは、鎮静作用のある「笑気ガス」を吸入させ、不安やストレス、痛みを軽減する麻酔法です。笑気ガスを吸い込むだけでリラックスした状態になり、治療後すぐに効果が切れます。

 

笑気麻酔だけではインプラント治療による痛みをカバーしきれない場合がほとんどなので、局所麻酔と併用するのが一般的です。

 

静脈内鎮静法とは異なり手軽な麻酔法で、歯科医師1人でも対応できます。ただし、効果がおだやかなので、手術に対する恐怖心が強い場合や長時間に及ぶ手術の場合は、静脈内鎮静法で行う場合が多いといわれています。

5.インプラント治療に麻酔は必須!痛みをしっかりおさえよう

インプラント治療では、歯ぐきの切開などの外科処置をするため、麻酔は必須です。

 

インプラント治療で最も多く行われる麻酔は、手術箇所とその周辺の痛みをおさえる局所麻酔です。また、手術への恐怖・不安・緊張を和らげる目的で、静脈内鎮静法を併用するケースもあります。

 

身体への負担などを考慮し、全身麻酔は基本的に行いません。また、リラックスした状態をつくるために、笑気麻酔を局所麻酔と併用するケースもあります。

 

麻酔に不安を感じる人もいるかもしれませんが、局所麻酔は虫歯治療などでも広く行われており、副作用などのリスクが低い麻酔法です。

 

他の麻酔法に関しても、適切に行えば安全に手術の痛みや精神的ストレスを軽減できるので、検討の価値は充分あります。歯科医師と相談し、自分に合った麻酔法を選びましょう。

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