- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント手術では、歯ぐきを切開する・あご骨に穴を開けるといった外科処置を伴うので、痛みを軽減するために「局所麻酔」をします。局所麻酔とは、意識を保ったまま痛みを伝える神経の働きをおさえ、身体の一部の痛みを取り除く方法です。
インプラント手術では、局所麻酔以外にも「静脈内鎮静法」や「全身麻酔」を行うケースがあります。この記事では、静脈内鎮静法と全身麻酔の概要や違いについて解説します。
目次
- 1.静脈内鎮静法ってどんな麻酔?
- 1-1.静脈内鎮静法とは
- 1-2.静脈内鎮静法のメリット
- 1-3.静脈内鎮静法のデメリット
- 2.全身麻酔ってどんな麻酔?
- 2-1.全身麻酔とは
- 2-2.全身麻酔のメリット
- 2-3.全身麻酔のデメリット
- 3.静脈内鎮静法と全身麻酔の違いとは
- 4.自分にあった麻酔を選んで快適なインプラント手術を!
1.静脈内鎮静法ってどんな麻酔?
ここで は静脈内鎮静法の概要やメリット・デメリットについて解説します。
1-1.静脈内鎮静法とは
静脈内鎮静法とは、精神を安定させる作用のある鎮静剤を静脈に点滴し、中枢神経の働きをおさえ、うたた寝をしているような状態にする処置です。自分で呼吸ができ、意識もある程度あるため、会話や意思表示もできます。
局所麻酔は痛みを和らげる効果はありますが、意識がはっきりしているため、心理的負担は解消できません。静脈内鎮静法の併用により、インプラント手術中の恐怖・不安・緊張などのストレスを軽減できます。
外科手術や歯科治療に抵抗がある場合以外にも、基礎疾患や手術範囲・内容を考慮して、静脈内鎮静法を用いるケースがあり、インプラント手術をするうえで重要な処置といえるでしょう。
ちなみに、インプラント手術による心理的負担を和らげる麻酔として、鼻から気体を吸い込む「笑気麻酔」もありますが、静脈内鎮静法の方がよく効きます。
1-2.静脈内鎮静法のメリット
静脈内鎮静法の主なメリットを解説します。
(1)心理的負担が少なくなる
インプラント手術中は、局所麻酔の効果で痛みをほぼ感じないとはいえ、歯肉を切開する・あご骨に穴を開けるといった外科処置に、恐怖や不安を感じる患者は多いでしょう。また、ドリルなどの機器の音・振動がストレスになる場合もあります。
静脈内鎮静法をすることで、意識が通常よりもぼんやりするため心理的負担が軽くなり、快適にインプラント手術を受けられます。
(2)手術の恐怖などが残りにくい
静脈内鎮静法を受けている間の記憶は、あまり残りません。インプラント手術中のことも忘れてしまいやすいため、歯科治療への恐怖心やマイナスイメージが残りにくい傾向にあります。
(3)より安全に手術を受けられる
インプラント手術は安全性の高い治療法ですが、外科処置をするため身体的負担があり、体調が変化する可能性もゼロではありません。
静脈内鎮静法中は、安全管理のために血圧・心電図・酸素飽和度などの数値を常にチェックしています。そのため、インプラント手術中の異変をすぐに察知できます。
また、点滴中は静脈内に針やチューブをつけており、容態の変化によって注射・点滴が必要になった場合も、必要な処置をすばやく行えるのもメリットです。
1-3.静脈内鎮静法のデメリット
静脈内鎮静法はさまざまなメリットがある麻酔ですが、下記のようなデメリットもあります。
(1)回復に時間がかかる
静脈内鎮静法によってぼんやりした意識が元に戻るには、ある程度の時間がかかります。入院する必要はないものの、回復するまで待ってから帰宅しなければいけません。
(2)手術後の行動に制限がある
静脈内鎮静法をした当日は、意識がぼんやりしているため、行動に制限があります。自動車・自転車の運転や仕事・契約といった重要な判断が必要な行為、激しい運動、飲酒はできません。また、多くの病院では帰宅時に付き添いが必要です。
(3)リスクがある
静脈内鎮静法は、自発呼吸ができ、通常よりも低いレベルながら意識もありますが、全くリスクがないわけではありません。
鎮静剤の影響により、まれに呼吸や血圧に異変が起きる可能性があります。しかし、血圧などのチェック・管理をしながら手術するため、万が一の場合もすぐに対応できます。
事前に歯科医師よりリスクの説明を受け、納得のうえ静脈内鎮静法を受けるようにしましょう。
(4)追加費用がかかる
静脈内鎮静法には麻酔科医の立ち合いや全身の状態管理を行う機械の準備などが必要なため、局所麻酔だけを行う場合に比べ、治療費が高くなります。
インプラント手術に伴う静脈内鎮静法には、基本的に保険が適用されません。自由診療のため歯科クリニックによって具体的な費用は異なります。
歯科クリニックによっては、インプラント費用に含まれている場合もあるので、まずは見積りをしてもらいましょう。
2.全身麻酔ってどんな麻酔?
全身麻酔の概要やメリット・デメリットについて解説します。
2-1.全身麻酔とは
全身麻酔は、静脈からの麻酔薬の点滴や麻酔薬の吸入によって、脳を含む神経細胞の活動をおさえ情報伝達をブロックすることで、全身の痛みや意識を消失させる処置です。
インプラント手術に伴う恐怖などを全く感じずに治療を受けられるため、長時間の治療でも苦痛がありません。
全身麻酔中は完全に意識や感覚を失い、自発呼吸もできない状態です。そのため、人工呼吸器を装着し、静脈内鎮静法よりもさらに厳重な全身管理が必要です。
血圧・心拍数・心電図・酸素飽和度・終末呼気炭酸ガス分圧・体温などを常に計測し、全身の状態を観察しながら、状況に応じた処置をします。全身麻酔の場合、身体の状態を整えるために手術前後に入院が必要となるケースが多いのも特徴です。
リスクが高く入院が必要となる場合が多いため、インプラント手術で全身麻酔をするケースはあまりありません。基本的に、患者が希望した場合や何らかの理由により静脈内鎮静法では対応できない場合にのみ適用されます。
2-2.全身麻酔のメリット
全身麻酔でインプラント手術を受ける主なメリットを紹介します。
(1)意思疎通の難しい患者にも対応できる
全身麻酔をすると完全に意識がなくなり身体が動かなくなるため、何らかの理由で治療を拒否する患者や治療への恐怖で暴れてしまう小さな子どもでも、安全にインプラント手術ができます。
麻酔薬の点滴が難しいケースでも、マスクを使用してガスを吸い込む「吸引麻酔」で眠らせて対応できるのも大きなメリットです。
(2)局所麻酔が不要なケースが多い
全身麻酔には、全身の感覚を失わせる効果があり、痛みをおさえるために局所麻酔を注射する必要は基本的にありません。静脈内鎮静法の場合は、局所麻酔を併用します。
ただし、強い痛みが伴う場合などは全身麻酔と局所麻酔を併用するケースもあります。
(3)完全に眠った状態で手術を受けられる
全身麻酔を行う場合、脳波のモニタリングで完全に意識を失っているのを確認してから、インプラント手術を始めます。
音・振動・臭い・味などの感覚を全く感じないため、静脈内鎮静法以上に治療による刺激がない状態で処置を受けられます。そのため、歯科治療に強い抵抗のある人でも手術中はストレスを感じません。
(4)長時間の治療に適している
全身麻酔によって完全に眠っているため、長時間の治療でも患者の負担はあまりありません。そのため、多くのインプラントを埋め込むなど、時間のかかる治療を一度に終わらせられます。
2-3.全身麻酔のデメリット
全身麻酔には下記のようなデメリットがあるので、事前にしっかりチェックしておきましょう。
(1)対応できる歯科クリニックが少ない
全身麻酔は、人工呼吸器や血圧・心拍数・心電図・酸素飽和度などの測定器など、多くの機器を必要とする処置です。また、基本的に入院しなければいけません。
全身麻酔に必要な機器や入院施設を備えている歯科クリニックは少なく、かかりつけ医で対応できない場合は、転院してインプラント手術を受ける必要があります。
(2)身体の負担が大きい
全身麻酔中は完全に意識を失うため、局所麻酔や静脈内鎮静法と比べて身体の負担が大きく、リスクが高いといえます。治療後は、嘔吐などの症状がでる可能性もあります。
(3)事前検査や入院が必要
全身麻酔は、血液検査やレントゲン検査などの事前検査が必須です。また、前日の夕食後は絶食するなどの注意点も守らなければいけません。
全身麻酔後は効果が完全に切れるまで時間がかかるため、入院して経過観察をするケースが多いのもデメリットです。治療前後に時間がかかるため、忙しい人の場合、静脈内鎮静法の方がスムーズでしょう。
(4)費用が高い
インプラント手術に伴う全身麻酔は、基本的に保険適用外です。人工呼吸器・全身管理・入院などが必要なため、静脈内鎮静法以上に高額な費用がかかります。
自由診療のため、歯科クリニックによって費用は異なります。決して安くないので、事前に見積りをしてもらい金額を確かめるのをおすすめします。
3.静脈内鎮静法と全身麻酔の違いとは
静脈内鎮静法と全身麻酔の主な違いを表にまとめました。
静脈内鎮静法 | 全身麻酔 | |
意識 | 眠っているような状態 | 完全になくなる |
自発呼吸 | できる | できない |
局所麻酔 | 併用する | 基本的に併用しない |
長時間の治療 | 適していない | 適している |
回復 | 比較的早い | 時間がかかる |
入院 | 不要 | 基本的に必要 |
4.自分にあった麻酔を選んで快適なインプラント手術を!
インプラント手術では多くの場合局所麻酔を打ちますが、静脈内鎮静法と併用する、全身麻酔をするといった方法もあります。
静脈内鎮静法は、鎮静剤を点滴することでうとうと眠っているような状態にし、インプラント手術への恐怖心や緊張を和らげる処置です。
全身麻酔は、麻酔薬によって意識を完全に失わせる方法で、痛みなどの知覚が麻痺し、自発呼吸もできません。そのため、麻酔中は人工呼吸器を装着します。
全身麻酔は、静脈内鎮静法よりも深く眠るため、意思疎通が難しい患者でもインプラント治療ができるなどのメリットがあります。
しかし、対応できる歯科クリニックが少ない・身体的負担が大きい・費用が高いなどのデメリットもあるので、希望する場合はよく検討しましょう。
患者の身体の状態や治療内容などによって、どの麻酔が適しているのかは異なります。担当の歯科医師に相談し、メリット・デメリットを理解したうえで治療を受けることが大切です。