インプラントが怖い方向けの「静脈内鎮静法(セデーション)」とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラント手術は、失った歯の機能性や見た目を大幅に回復できる治療法です。しかし、痛みへの恐怖からインプラント治療を受ける決断ができない人も少なくありません。

 

「静脈内鎮静法(セデーション)」という処置をすれば、恐怖や不安を軽減でき、インプラントに抵抗がある場合も、リラックスして手術を受けられます。

 

この記事では、静脈内鎮静法について詳しく解説します。

目次

1.静脈内鎮静法とはどんなもの?処置の流れとは

静脈内鎮静法の概要や処置の流れなどについて解説します。

1-1.静脈内鎮静法とは何か

静脈内鎮静法とは、精神安定薬や麻酔薬といった鎮静剤を静脈に点滴して、痛み・不安・恐怖・緊張などを軽減するための処置です。

 

インプラント治療では、局所麻酔を打つため、手術中の痛みはほぼありません。しかし、歯ぐきを切開する・あごの骨に穴をあける・歯ぐきを縫うといった外科処置を伴うため、治療時の音や振動があり、大きなストレスを感じる患者も多数います。

 

痛みへの不安や恐怖からインプラント治療を受けられない、ストレスによって治療がスムーズに進まないといったリスクが高まるのを防ぐために、静脈内鎮静法を行います。

 

静脈内鎮静法では、意識を失わない程度に中枢神経系の働きをおさえ「眠っているような状態」にします。意識を保ったまま、リラックスしてインプラント手術を終えることも可能です。また、治療中のことを忘れる「健忘効果(けんぼうこうか)」も期待できます。

 

以上より、静脈内鎮静法は歯医者や歯科治療に苦手意識のある患者がインプラント治療を受けるにあたり、効果的な方法といえるでしょう。特にインプラントの本数が多いなど、患者にとって負担が大きい手術をする場合は、検討の価値がある処置です。

1-2.静脈内鎮静法の流れ

静脈内鎮静法の流れを紹介します。

 

(1)診察・体調チェック

医師の診察により体調をチェックし、静脈内鎮静法の処置を受けても大丈夫かを判断します。また、診察の結果をもとに、量の調整など手術中のプランを立てます。

 

(2)生体情報モニターの準備

血圧計や心電図、血液中の酸素濃度を測定する「パルスオキシメーター」を装着し、インプラント手術中に常に生体情報を監視できるように準備します。

 

(3)静脈内への鎮静剤投与

鎮静剤を静脈内に点滴し、インプラント手術に適した意識レベルに調整します。効果を確認のうえ、局所麻酔を打ち、インプラント手術をスタートします。

 

手術中は麻酔科医が、生体情報モニターを監視し、血圧や脈拍数、心電図などをチェックして、身体の状態を通常通りに維持します。また、必要に応じて鎮静剤を追加します。

 

(4)点滴の終了

静脈内鎮静法は、点滴を終えると数分ほどで意識が戻ります。そのため、インプラント手術が完了するタイミングで点滴を終えます。

 

(5)手術後の休憩

インプラント手術後は、意識レベルが元通りになり、眠気・ふらつきなどがおさまるまで院内で休憩します。体調不良がなければ、手術後10~30分で家に帰れます。

2.全身麻酔や笑気麻酔との違い

静脈内鎮静法と比べられることの多い麻酔として全身麻酔と「笑気麻酔(しょうきますい)」があります。それぞれ解説します。

2-1.全身麻酔

全身麻酔とは、麻酔ガスを肺に送り込んだり、麻酔薬を点滴で静脈内に投与したりして、脳を含む全身麻酔をかける処置です。麻酔中は、痛みはもちろん治療による音や振動も伝わりません。不安や恐怖心を感じずに手術を受けられます。

 

しかし、意識が完全になくなり、自発呼吸もできないため、麻酔中は慎重に全身の状態を管理する必要があります。また、身体の負担が大きく回復するまで時間がかかるため、入院の必要があります。デメリットや副作用を考慮して、インプラント治療ではあまり使用しません。

2-2.笑気麻酔

笑気麻酔とは、「笑気」という気体を鼻から吸い込む麻酔です。笑気ガスには、鎮静したり、眠気を誘ったり、痛みを鎮めたりする効果があり、痛み・不安・恐怖心をやわらげ、リラックスした状態になります。

 

笑気麻酔をした後の気分には個人差がありますが、全身がぽかぽかしたり、軽く酔っぱらってふわふわしたような感じになったりする場合が多いようです。

 

笑気麻酔によって緊張をほぐしてから局所麻酔を打つため、インプラント手術によるストレスを大幅に軽減できます。

 

笑気麻酔は、静脈内鎮静法と比べて効果がおだやかで、健忘効果もありません。ただし、処置が簡単で、回復時間も短いというメリットがあるため、インプラントの本数が少ない場合などに用いられます。

3.静脈内鎮静法を行うメリット

静脈内鎮静法の主なメリットを紹介します。

3-1.いつの間にかインプラント手術が終わっている

静脈内鎮静法を受けると、患者はうとうとと眠っている状態になるので、恐怖や不安を感じることなく、気が付いたら手術が終わっていると感じます。また、長時間にわたるインプラント手術であっても、体感時間が短いため、ストレスが大幅に軽減されるでしょう。

 

特に恐怖心が強い、不安によりパニックを起こすといった人にとっては、局所麻酔だけで手術を受けるよりもメリットが多いと考えられます。

3-2.手術の辛い記憶が残りにくい

静脈内鎮静法の場合、眠っているような状態ではあるものの意識はあり、治療中も会話ができます。しかし、効果が切れると多くの場合、手術中のことを全く覚えていません。

 

多くのケースで歯科治療に苦手意識を持ち診察をためらうのは、「治療が痛かったり辛かったりした記憶」を覚えているのが原因です。静脈内鎮静法であれば、治療の記憶がほとんどないため、インプラント治療への苦手意識がつきにくく、今後の歯科治療がスムーズになるでしょう。

3-3.リラックスした結果リスクを軽減できる

手術中に過度に緊張すると、局所麻酔の効果が出にくくなる、神経性ショックなどの異変が起きやすくなるといったリスクが高まります。

 

静脈内鎮静法によって緊張をやわらげることで、インプラント手術によるトラブルを減らせるでしょう。

3-4.全身疾患がある場合トラブルに対応しやすい

糖尿病や高血圧症をはじめとする全身疾患にかかると、全身の状態が変化しやすい状態になります。インプラント手術はメスでの切開など外科処置を含むため、体の負担が大きく、異変を起こすリスクが高いと考えられるでしょう。

 

静脈内鎮静法では、血圧・脈拍・呼吸といった全身の状態を確認しながらインプラント手術を行うため、万が一トラブルが起きた場合もすぐに対応できます。また、点滴を受けているので、何かあった場合はすぐに薬剤を投与できます。

 

持病のある人や高齢の人は静脈内鎮静法により、インプラント手術に伴うリスクを軽減できるといえるでしょう。

3-5.嘔吐反射を防げる

「嘔吐反射」とは、口の中にものを入れたり、触られたりした時に、吐き気を引き起こすことを指します。

 

インプラント手術をはじめとする歯科治療では、口の中に器具を入れて処置するため、どうしても嘔吐反射が起きやすい状況です。

 

嘔吐反射は身体を守るための反応で、それまでの歯科治療で感じた不安や恐怖などの心理的要因が影響していると考えられます。

 

静脈内鎮静法によって、不安や恐怖をやわらげ、リラックスした状態で手術を受けられるため、嘔吐反射を防げます。

4.静脈内鎮静法を行うデメリット

静脈内鎮静法はメリットの多い麻酔ですが、デメリットもあります。主なものを紹介するので、静脈内鎮静法を受けるかどうかの参考にしてください。

4-1.副作用のリスクがある

静脈内鎮静法は、多くのインプラント手術で用いられ、全身麻酔などと比べ安全性が高い方法です。しかし、まれに呼吸や血圧に影響を及ぼす場合もあります

 

歯科医師より副作用・リスクの説明を受け、納得したうえで処置を受けましょう。

4-2.健康上の理由などで静脈内鎮静法を受けられない場合がある

静脈内鎮静法は安全性が高い麻酔方法ですが、副作用などのリスクもあります。そのため、下記に該当する場合は、受けられない可能性があります。

 

・18歳未満である

・妊娠中である

・気道確保が難しい障害がある

・心臓・肝臓・腎臓のいずれかに重い疾患があり専門医が難しいと判断した場合

・使用する麻酔薬にアレルギーがある

・向精神薬を服用している など

 

その他、持病など健康上の問題がある、薬を服用しているといった場合は、必ず歯科医師に相談しましょう。

4-3.費用がかかる

インプラント手術に伴う静脈内鎮静法は、保険適用になりません。自由診療となり、全額自己負担になります。

 

歯科クリニックによって診療報酬は異なりますが、インプラント手術に上乗せして費用がかかるので、診察時に見積りをしてもらいましょう。

4-4.治療時間が長くなる

静脈内鎮静法をする場合、手術前に行う健康状態のチェックや生体情報を測定する器具の装着など、通常のインプラント手術にはない工程が加わります。さらに、手術後はある程度意識がはっきりし、体調が戻るまで、休憩しなければいけません。

 

手術の前後それぞれ30分くらい、余分に時間がかかる可能性が高いでしょう。

4-5.当日の行動に制限がある

静脈内鎮静法をすると、頭がぼーっとするなど体調の変化があるため、下記のように当日の行動に制限があります。

 

(1)治療前の食事制限

治療中にお手洗いに行きたくなったり、吐き気を感じたりするのを防ぐため、手術の5~6時間前からは食事をとらないようにしましょう。お茶やポカリスエットなどの飲み物に関しては、3時間前までは飲んでも問題ありません。

 

(2)治療後に自動車や自転車の運転はできません

静脈内鎮静法後は、眠くなる可能性があるため、安全のために自動車や自転車の運転はできません。バスや電車など公共交通機関やタクシー、付き添いの人の送り迎えなどで帰宅しましょう。

 

また、1人で帰るのではなく、可能であれば付き添いの人と一緒に帰宅すると安全です。

 

(3)なるべく安静にする

インプラント手術後は、体力が消耗しているのに加え、静脈内鎮静法の作用で頭がぼんやりした状態です。スムーズに回復し、トラブルを防ぐために、当日は激しい運動や重要な用事などを入れずに、なるべく安静にするのをおすすめします。

5.インプラントに恐怖心があるなら静脈内鎮静法も方法のひとつ!

インプラント手術中は、局所麻酔を打つため痛みはほぼ感じません。しかし、恐怖心からインプラント手術をためらう人もいるでしょう。

 

そこで検討したいのが、静脈内鎮静法です。鎮静剤などを点滴することで、恐怖心や緊張を緩和し、リラックスしてインプラント手術を受けられます。

 

長い手術時間が短く感じる・手術の辛い記憶が残りにくい・リスクを軽減できるなどのメリットがあります。しかし、副作用がある・健康状態によっては受けられない・費用や時間がかかるといったデメリットもあるので、歯科医師とよく相談しましょう。

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