「抜歯」と「インプラント手術」どっちが痛い?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「初めてのインプラントだから痛みに耐えられるか不安」といったようにインプラントをしたくても、痛みが不安で踏み出せない人も多いのではないでしょうか?

 

この記事では、初めてインプラント治療を受ける人向けに、インプラント手術による痛みの仕組みやインプラント手術と抜糸の痛みの比較、インプラント手術の痛みを軽減する方法について解説します。

目次

1.インプラント手術の痛みについて解説

イ ンプラント手術とはどんな手術なのかや手術中・手術後の痛みについて解説します。

1-1.インプラント手術とは

インプラントとは、虫歯や歯周病などさまざまな原因で失った歯を補う治療法です。インプラント手術で歯根の代わりとなる「インプラント体」をあごの骨に埋め込み、その上から人工歯を被せて固定します。

 

インプラント手術の一般的な流れは下記の通りです。

(1)局所麻酔

(2)インプラントを入れる場所の歯ぐきを切り開く

(3)あごの骨にドリルで穴を開ける

(4)あご骨にインプラント体を埋め込む

(5)切り開いた歯ぐきを糸で縫い合わせる

(6)あごの骨とインプラント体が結合するまで3ヶ月~6ヶ月待つ

(7)あごの骨とインプラント体が結合したら、歯ぐきを切り開き人工歯を装着する

1-2.インプラント手術中の痛み

インプラント手術中の痛みは、基本的に心配する必要はないでしょう。

 

インプラント手術では、歯ぐきを切り開く・あご骨にドリルで穴を開ける・歯ぐきを縫い合わせるといった処置があります。痛そうなイメージがあると思いますが、痛みを伝える神経の働きをブロックする作用のある薬剤を注射する「局所麻酔」をしてから手術するため、痛みはほとんど感じません。

 

最初に局所麻酔を打つ際に痛みがあるものの、チクッとした針を刺す痛みを少し感じる程度です。手術時間に合わせて麻酔薬を処方するため、手術中に麻酔が切れて痛むリスクはあまりありません。

 

もし、手術中に麻酔が切れた場合は、麻酔薬を追加で打ってカバーします。また、奥歯の治療など麻酔が効きにくく、少し痛む場合も麻酔で調整可能です。

 

痛みがあったとしても、手術中ずっと我慢するといったケースは基本的にありません。インプラント手術の麻酔に不安がある場合は、事前に歯科医師に相談・質問すると安心です。

1-3.インプラント手術後の痛み

インプラント手術中は麻酔の効果で痛みはありませんが、手術後2~3時間が経過して局所麻酔が切れると、痛みや腫れが生じます。特に、インプラントを入れる本数が多い場合や抜歯してからすぐにインプラントをする場合は、痛みが大きくなる傾向にあります。

 

歯科医師の指示に従って痛み止めや腫れ止めを服用することで、症状を軽減できます。

 

インプラント手術による痛みは個人差が大きいですが、ある程度は痛みや腫れがあることは知っておきましょう。

 

手術後、2~3日で痛みがピークに達し、長くても1~2週間でおさまるケースがほとんどです。症状が長引く場合は、感染症などの可能性があるので、早めに歯科医師に相談してください。

 

なかには、痛みを感じやすい・痛み止めが効きにくい体質の人もいます。歯科医師の診察を受け、痛み止めの量を増やす、傷口を消毒するといった処置をすることで、痛みが和らぎます。

 

インプラント手術後の痛みとしては、切り開いた歯ぐきを縫い合わせる処置に使用した糸を抜き取る「抜糸」の痛みもあります。抜糸のタイミングは、歯ぐきの切り口がくっつく手術から1週間~10日後くらいです。

 

抜糸中は、チクチクとした痛みが発生する場合もあります。抜糸時の痛み対策には、治療箇所に塗ることで痛みを軽減する「表面麻酔」があります。

2.インプラント手術と抜歯どちらが痛いの?

抜歯 の概要やインプラント手術と比較した痛みの程度について解説します。

2-1.抜歯とは

抜歯は、虫歯で神経まで腐った・歯周病で歯がグラグラになった・事故で歯が割れたなどの原因で、歯が使えなくなってしまった場合に、歯を抜いて取り除く治療法です。

 

抜糸の一般的な手順は下記の通りです。

 

(1)局所麻酔

(2)歯と歯ぐきを切り離す

(3)「へーベル」と呼ばれる器具を歯とあごの骨の間に入れて、歯と骨を切り離す

(4)ペンチに似た形をした器具である「鉗子(かんし)」で歯を挟んで抜く

(5)炎症により破壊された組織・処置によって割れた歯・歯根などを取り除く

(6)傷口の状況に合わせて歯ぐきを縫い合わせる

(7)10~15分ほどガーゼを噛んで止血する

2-2.抜歯とインプラント手術の痛みはほぼ同じくらい

抜歯は、歯と歯ぐき・歯とあごの骨を切り離したり歯を抜いたりする処置があるため、痛みが大きいイメージがあります。

 

しかし、インプラントと同じく、局所麻酔をするため抜歯中の痛みはほぼありません。また、痛みの程度も、抜歯とインプラントの処置そのものはほぼ変わらないと言われています。

 

しかし、抜歯が必要な場合は、虫歯や歯周病などの影響で、患部に膿がたまっている・腫れがあるなど口内トラブルが起きているケースが少なくありません。すでに痛みや異常が出ている状態で治療を受けるため痛みを感じやすい傾向にあります。

 

インプラントの場合は、口内トラブルがあれば治療してから手術を行うため、健康な状態の分、痛みが出にくいといえるでしょう。

3.インプラント手術による痛みをおさえる方法って?

インプラント手術による痛みは、対策することで軽減できる場合があります。おすすめの方法を紹介します。

3-1.麻酔の仕方を工夫する

インプラント手術中は、局所麻酔によりほとんど痛みを感じません。しかし、痛みへの恐怖・不安が大きい人もいるのではないでしょうか。

 

そういった場合は「静脈内鎮静法」が効果的です。静脈内鎮静法とは、鎮静剤を静脈に投与することで、うとうとと半分眠っているような状態をつくる麻酔のことです。痛みを緩和する作用はないので局所麻酔との併用は必須ですが、リラックスした状態で手術を受けられます。

 

局所麻酔の注射の痛みについても、局所麻酔を打つ前に表面麻酔を塗る・局所麻酔の薬剤の温度を常温にする・局所麻酔の薬剤をゆっくり注入するといった工夫をすることで、おさえられます。

3-2.手術した場所を冷やす

手術後の痛みや腫れを軽減するには、患部を冷やすのがおすすめです。しかし、冷やしすぎると血流が悪くなり、傷口の治りが遅れる・インプラント体とあごの骨の結合が進みにくくなるといったデメリットが生じます。

 

氷を直接あてるといった方法は避け、水に濡らして絞ったタオルやタオルで包んだ保冷剤などで冷やすようにしましょう。また、手術から48時間以上経過すると、冷やしてもあまり効果はありません。

3-3.手術した場所を刺激しない

インプラント手術後に、手術した場所の様子が気になって舌や指で触ってしまう人がいますが、なるべく触らないようにしましょう。

 

刺激になって痛みが増したり、舌や指が触れることで細菌感染を起こしたりとトラブルの原因となりかねません。

 

ほほづえをつくのも手術部位を圧迫するので避けた方が無難です。

 

また、歯磨きする場合は患部を避け、優しくブラッシングしてください。傷の状態が気になって歯磨きをしない人もいますが、口の中に汚れがたまると細菌感染のリスクが高まります。歯科医師に確認し、しっかり歯磨きをするようにしましょう。

3-4.硬いものを食べないようにする

手術した場所はデリケートな状態なので、硬いものを食べると刺激になるため、なるべく避けましょう。また、熱いものや辛い物も刺激になる可能性があります。よく煮込んだうどんやおかゆ、ヨーグルトといった、やわらかいものがおすすめです。

 

傷口が治った後も、インプラント体とあご骨が結合する重要な時期である手術後1ヶ月間は、やわらかいものを取るようにし、手術した側の歯で噛まないようにしましょう。

3-5.お酒・激しい運動は避ける

お酒や激しい運動は、血流を促進し、痛みを悪化させてしまうかもしれません。また、傷口からの大量出血や傷口で血が固まらないことによる細菌感染などのリスクも考えられます。

 

飲酒の再開は手術から3日~2週間後、運動の再開は2~3日後が目安ですが、個人差が大きいため歯科医師とよく相談しましょう。

3-6.タバコをすわない

喫煙すると、タバコに含まれる成分により歯ぐきの毛細血管が委縮したり、口の中が乾燥してだ液量が減ったりします。

 

血管の萎縮によって傷口の回復に必要な血液が行き届かなくなるうえに、だ液量の減少が原因で口の中の細菌が増殖するため、感染リスクが高まります。

 

傷口が感染することで痛みが増すだけでなく、インプラント体とあごの骨の結合の妨げになる可能性があるので、手術前後はもちろん、傷口が回復してからも禁煙する方がよいでしょう。

4.抜歯とインプラント手術の痛みは同じくらい!対策することで痛みを和らげよう

抜歯とインプラント手術の痛みは、一般的には同じくらいです。ただし、抜歯が必要な時は炎症が起きているケースが多く、炎症が原因でインプラント手術時よりも痛みを強く感じる可能性があります。

 

どちらも局所麻酔を打つため、処置中は痛みをほとんど感じません。麻酔が切れた後に、痛みが出ますが、痛み止めを服用することで和らげられます。

 

インプラント手術による痛みを軽減する主な方法には、麻酔の仕方を工夫する・手術した場所を冷やす・手術した場所を刺激しない・硬いものを食べないようにするなどがあります。

 

もし痛みへの不安が大きい場合は、手術前に歯科医師に相談しましょう。麻酔をはじめとする治療法の工夫や痛みを軽減するための指示などをしてもらえます。

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