なぜ入れ歯は痛くなってしまうのか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

「食べ物を噛むと入れ歯が口の中に当たって痛む」

「顎を動かすたびに入れ歯が擦れる……」

 

こうしたお悩みを抱える方は多いです。

そのため「入れ歯って痛いんでしょう?」「あまり使いたくないな……」など、入れ歯に対してネガティブなイメージを抱く方も少なくありません。

 

そこで本記事では、入れ歯が痛くなる主な原因を概説しつつ、入れ歯を馴染ませるためのポイントや、自由診療による「痛くない入れ歯」インプラント」の選択肢を提案していきます。

目次

(1)入れ歯が痛くなってしまう理由3つ

入れ歯は本来、「使うと痛い装具」ではありません。正しい用法に従って使えば、快適に装着することができます。

 

それではなぜ、多くの使用者が「入れ歯が痛い」と訴えるのでしょうか。以下に3つの原因についてみていきましょう。

(1-1)入れ歯が変形して口の形に合わなくなっている

「装着していると入れ歯の一部が歯茎に当たる」という典型的なケースでは、「何らかの理由で入れ歯が口の形に合わなくなっている」という理由が考えられます。

 

そもそも入れ歯は、材質にもよりますが、多くの場合はプラスチックや樹脂で出来ています。そのため、長期間の使用や噛む力の加わり方によって、入れ歯は不可避的に変形していきます。

 

ですから、製作当初はピッタリ合っていたはずの入れ歯も、やがて「噛むと痛い」入れ歯になってしまうのです。

 

対策としては、入れ歯の定期的な検診が最も現実的です。

 

「一度入れ歯のフィッティングを行えば不自由なく使い続けられる」という発想は捨てて、半年に一回はかかりつけの歯科医院で噛み合わせのチェックをしてもらいましょう。

(1-2)嚙み合わせがズレている

先ほどは、入れ歯の形が変わってしまうことによる痛みの発生について説明しました。次に気を付けなければならないのは、使用者自身の嚙み合わせが変化することによる痛みです。

 

食生活・ライフスタイル・加齢などが要因となり、実は私たちの嚙み合わせというのも日々刻々と変化しています。入れ歯自体が変形していなくても、噛み方の“クセ”が変わる場合も十分に考えられるわけです。

 

「ものを噛むときによく使っていた歯を失って入れ歯になって以降、その部分であまり咀嚼しなくなった」という方がしばしばいらっしゃいます。

 

そうなると当然ですが、入れ歯を製作した当初に前提としていた噛み合わせとは異なる部分に負荷がかかるようになりますので、入れ歯を使い続けているうちに「嚙み合わせがズレているな」という違和感が生じるというトラブルが起こってしまうのです。

 

ポイントは、「嚙み合わせは変わるもの」という認識。

 

このようなことから、嚙み合わせのズレによる痛みのトラブルには、やはり基本的には「定期的に歯科医院で入れ歯の嚙み合わせをチェックする」のが最も現実的な対策方法だといえます。

(1-3)金具がゆるむ

部分入れ歯にありがちな痛みの原因は、ずばり「金具のゆるみ」です。ゆるんだ金具が歯茎を擦ったり傷つけたりするため、入れ歯の使用が非常に不快になってしまいます。

 

金具のゆるみが痛みの原因なのだとしたら、かかりつけの歯科医院に相談し、フィッティングを調整するなり、作り直すなりしてすぐに対応することが可能です。

 

しかし中には、部分入れ歯で痛みが生じたときに、「やっぱり入れ歯は不便なものだ」「自分には合わないんだ」と決めつけ、入れ歯の使用それ自体をやめてしまう方がいらっしゃいます。

 

失った歯を失ったままにしておくのは、あまりおすすめできません。不自然な噛み合わせになり、それがクセになると、肩こり・頭痛・顎関節症・虫歯・歯周病のリスクが高まってしまいます。

 

またその他にも、顔の形が変わったり、口臭がしたりするなど、失った歯を放置していると対人コミュニケーション上のデメリットが生じる可能性もあります。

 

部分入れ歯を装着して痛みが生じたときは、できるだけ早めにかかりつけの歯科医院に相談して嚙み合わせや金具の状態をチェックしてもらいましょう。

(2)入れ歯が馴染むには多少時間がかかる

入れ歯を使い始めたばかりの方にはとくに知っていただきたいのですが、基本的に入れ歯は、「嚙み合わせを何度も調整してフィッティングを行っていく装具」だということです。

 

入れ歯初心者の中には、入れ歯を装着してからすぐに痛みが発生してしまい、それっきり苦手意識を抱いたまま使わなくなってしまう方がいらっしゃいます。

 

しかし、たった一度の調整で完璧な嚙み合わせを実現することは滅多にありません。

 

まずは入れ歯という人工物で食べ物を噛むという行為に徐々に慣れていく必要があります。そして、入れ歯の使用でズレていく嚙み合わせを、再度修正し直さなければなりません。

 

ようするに、入れ歯は使い始めが最も大切な段階なのです。確かに最初は、どうしても入れ歯の違和感や痛みを不愉快に思うことがあるでしょう。しかしだからこそ、そこで諦めずに歯科医師と共にフィッティングを繰り返していきます。

(3)自由診療で「痛くない入れ歯」を作製するのも選択肢のひとつ

みなさんもすでにご存じかと思いますが、「保険診療」と「自由診療」とで、作製できる入れ歯のバリエーションに違いがあります。

 

保険適用対象の入れ歯は、ローコスト&短期間で作製できるため、多くの方に選ばれています。

 

しかし材質やつくりは、自由診療の入れ歯よりも劣ってしまう側面があり、そのために「壊れやすい」「すぐに嚙み合わせがズレる」「見た目がチープ」といったデメリットがしばしば目立ちます。

 

そこで選択肢の一つとしてご提案したいのが、バリエーション豊富な自由診療タイプの入れ歯です。以下におすすめを3つご紹介しますので、保険適用の入れ歯を使用している方は参考にしてみてください。検討する価値は十分にあると思います。

(3-1)コンフォートデンチャー(シリコン義歯)

義歯床が柔らかいシリコンになっているのがコンフォートデンチャー(シリコン義歯)です。

 

痛みの一因である「口内にゴツゴツと当たる」はプラスチック特有の現象ですが、シリコンならその心配もありません。シリコン義歯は、総入れ歯の方にとくにおすすめです。

 

シリコン義歯の概要
メリット ・プラスチック製の入れ歯に比べて圧倒的に痛みが少ない

・装着感がよい

・柔らかいので痛みを気にせず強く噛みしめることが可能

・外れにくい

・金属アレルギーの心配がない

デメリット ・汚れがつきやすい

・一度破損すると作り直す必要がある

・保険対象の入れ歯よりも費用が高くなる

・年に一度はシリコンの張替えが必要

(3-2)ノンクラスプデンチャー

「金具が当たって痛い」という症状に心当たりのある部分入れ歯ユーザーには、金具(クラスプ)を使わないノンクラスプデンチャーがおすすめです。

 

金具によって残存歯に固定するのが従来の部分入れ歯ですが、ノンクラスプデンチャーは柔らかい特殊素材で固定します。

 

またそれに加え、ノンクラスプデンチャー歯肉に近い色合いを再現。プラスチック製の部分入れ歯よりも見た目が自然で、人目を気にすることなく使用することができます。

 

このように審美的なメリットもあることから、前歯付近の目立ちやすい部分の歯を失ってしまい、「人前で話す機会が多い」「接客業に従事している」というシチュエーション下で部分入れ歯の使用を余儀なくされている方には、ノンクラスプデンチャーがおすすめです。

 

ノンクラスプデンチャーの概要
メリット ・金具不使用なので装着/使用の痛みがない

・歯茎や歯肉の色を再現しているので目立ちにくい

・柔らかい特殊樹脂製なのでものを噛んでも痛まない

デメリット ・残存歯の状況によっては使用できないケースできない

・消耗しやすいので定期的に作り直す必要がある

・2~3年ごとに費用負担がかかる

・壊れたら修理できない(作り直しの発生)

 

(3-3)インプラントオーバーデンチャー

総入れ歯の方で「入れ歯の取り外しが煩わしい」「食事や会話の最中にズレるのが嫌だ」「入れ歯の付け心地や噛み心地に満足できない」というお悩みやご不満があるなら、入れ歯を完全に固定するインプラントオーバーデンチャーがおすすめです。

 

インプラントオーバーデンチャーとは、いわゆる「インプラント」の一種。あごの骨に数本の人工歯根(インプラント)を埋め込み、そこに総入れ歯を連結させて固定します。

 

入れ歯がしっかりとホールドされるため、噛み合わせのズレや違和感を大幅に軽減することが可能です。あごの力を入れ歯に伝えやすくなりますので、これまでもよりもはるかに自然な噛み心地を再現できます。

 

インプラントオーバーデンチャーの概要
メリット ・抜群の安定感でズレにくい

・食事を楽しめる

・発音しやすくなり会話が自然に

・取り外し容易でメンテナンス簡単

・少ないインプラントの埋め込みだけでOK

・インプラントにするよりも費用が安い

デメリット ・外科手術を伴う

・糖尿病などの持病があると手術ができない

・費用が高額になる

・人によっては装着の違和感がある

 

(4)噛みやすさを求めるなら「インプラント」という選択肢も

これまで解説してきたように、入れ歯が痛むときは、噛み合わせを調整したり、作り直したりすることで対処できます。

 

より快適に入れ歯を使用したい方は、やはり保険対象の安価な入れ歯ではなく、コンフォートデンチャー(シリコン義歯)・ノンクラスプデンチャー・インプラントオーバーデンチャーといった自由診療で作製するのがよいでしょう。

 

とはいえ入れ歯は自分の歯に比べると噛む力は弱くなってしまいます。

もし「自分の歯のように噛めるようになりたい」という点にこだわるのであれば、インプラントがおすすめです。インプラントは人工歯の中で最も噛む力に優れています。

 

まずは一度、かかりつけの歯科医師に相談してみてください。

(5)まとめ

入れ歯が痛む理由 ・入れ歯が変形して口の形に合わなくなっている

・嚙み合わせがズレている

・金具がゆるんでいる

対策方法 ・定期的に歯科医院に通って検診・フィッティングをする

・自由診療で「痛くない入れ歯」を製作する

・インプラントにする

 

今回は、入れ歯が痛む理由や原因を解説しつつ、その対処方法や選択肢について取り上げました。

 

「入れ歯は痛むもの」という固定観念は誤りです。「入れ歯は使い続けると嚙み合わせが合わなくなる装具」だという考え方で入れ歯と向き合い、定期検診を利用しながら上手に付き合っていくことが大切です。

 

もちろん、入れ歯だけが唯一の選択肢ではありません。噛みやすさを求めるならインプラントがおすすめです。ぜひ一度検討してみてくださいね。

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