「入れ歯」と「インプラント」は併用できる?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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虫歯・歯周病・事故などで歯を失った場合の治療法として、入れ歯やインプラントがあります。入れ歯とインンプラントには、噛む機能や見た目などさまざまな違いがありますが、実はこの2つの治療は併用できます。

 

この記事では、「オーバーデンチャー」と呼ばれる入れ歯とインプラントを併用する治療法の概要やメリット・デメリット、向いている人の特徴など詳しく解説します。

目次

1.入れ歯・インプラント・オーバーデンチャーについて解説

入れ歯・インプラント・オーバーデンチャーそれぞれの概要を紹介します。

1-1.入れ歯

入れ歯は、口の粘膜部分を覆う「床(しょう)」と呼ばれる歯ぐきのような部分に人工歯がついた構造をしています。

 

入れ歯は大きくわけて、一部分のみの歯を補う「部分入れ歯」と上あごまたは下あご全体の歯を補う「総入れ歯」があります。部分入れ歯は、歯を失った部分の両隣の歯に金属製のバネをつけて使うのが一般的です。総入れ歯は、歯ぐきに床をかぶせて装着します。

1-2.インプラント

インプラントとは、歯根の代わりに歯を支える「インプラント体」をあごの骨に埋め込み、人工歯を装着して、歯の機能を補う治療法です。

 

インプラント体を埋め込む際に、治療箇所の歯ぐきを切り開き、あごの骨にドリルで穴を開けるという外科手術が必要です。

 

インプラント体で人工歯を支えられるため、入れ歯よりも噛む機能が大きく回復します。また、天然歯と同じように歯ぐきから歯が生えているように見え、自然な印象になります。

1-3.オーバーデンチャー

オーバーデンチャーは、2~4本のインプラント体で入れ歯を支える治療法です。インプラント体を2~4本あごの骨に埋め込み、インプラント体に磁石や金具を取りつけ、入れ歯を固定します。総入れ歯、部分入れ歯どちらにも対応可能です。

 

オーバーデンチャーで使用する入れ歯は、一般的な入れ歯と同じように取り外しができます。

2.オーバーデンチャーのメリット

オーバーデンチャーの主なメリットを紹介します。

2-1.噛む力を大きく回復できる

全ての天然歯が生えている人の噛む力を100%とすると、部分入れ歯であれば30〜40%、総入れ歯では10〜20%までしか回復できません。

 

しかし、インプラント体で入れ歯を支えると安定感が増し、噛む力を大きく回復できます。一般的な入れ歯のとは異なり、硬いものや弾力のあるものなどが噛めず食事に制約が出るリスクはほぼありません。

2-2.入れ歯の違和感や不快感を軽減できる

一般的な入れ歯は粘膜で支えているだけなので、食事中や会話中に「ずれて痛い」「ぐらつく」など違和感や不快感が出るケースが少なくありません。オーバーデンチャーは、インプラント体とつなげることでしっかり入れ歯を固定でき、食事や会話がスムーズにできます。

 

また、インプラント体で入れ歯を支えているため安定性が高く、一般的な入れ歯と比べ小さなサイズでも問題ありません。サイズが小さい分、違和感が出にくく、快適に使用できます。見た目も通常の入れ歯と比べて自然です。

2-3.インプラントの本数が少なくて済む

オーバーデンチャーは、2~4本程度のインプラント体で入れ歯を支える仕組みです。多くの天然歯を失った場合、通常のインプラント治療と比べ、大幅にインプラント体を埋め込む本数を減らせます。インプラント体を埋め込む本数が少ない分、手術による心身の負担が軽減できます。

2-4.一般的なインプラントよりも安い

治療を受ける歯科クリニックや口の中の状態にもよりますが、オーバーデンチャーは一般的なインプラントより費用がかかります。ただし、オーバーデンチャーにした方が治療費を節約できるケースも多いので、歯科クリニックで見積りしてもらいましょう。

2-5.あごの骨量が足りなくてもできる

あごの骨量が少ないと埋め込んだインプラント体を充分に支えられないため、インプラントができなかったり、インプラントをする前に骨量を回復する治療を受ける必要があったりするケースが少なくありません。

 

オーバーデンチャーで埋め込むインプラント体は、一般的なインプラント治療で使用するものよりも細く、骨量が足りなくても治療できる場合があります。

 

また、インプラント体が細い分身体の負担が少ないため、心臓病や高血圧などの持病があっても治療しやすいといえます。

2-6.骨がやせるのを防げる

骨は刺激が加わらないと、どんどんやせていってしまう性質があります。入れ歯は天然歯と比べると大幅に噛む力が低いため、あごの骨に加わる刺激が減り、年数が経過すると骨がやせてしまう場合があります。

 

オーバーデンチャーは、インプラント体で入れ歯を固定することで、大幅に噛む力を回復できる治療法です。しっかり噛めるため、あご骨に適度な刺激が加わり、骨がやせるのを防止できます。

2-7.手入れがしやすい

オーバーデンチャーは、取り外しができ、一般的な入れ歯と同じような感覚で手入れが可能です。

 

また、天然歯が残っていて部分的にオーバーデンチャーにした場合も、取り外せるためブラッシングしやすいという特徴があります。

 

口の中に汚れがたまると歯周病菌が繁殖し、歯周病と似た病気である「インプラント周囲炎」にかかるリスクがあります。インプラント周囲炎は、インプラントを入れた場所の周りの組織である歯肉などに炎症が起きる病気です。

 

重症化すると、歯肉やあごの骨を破壊します。あごの骨量が減ることで、インプラント体を支えきれなくなり、ぐらつきや脱落につながる可能性があります。天然歯が残っている場合は、虫歯や歯周病のリスクが高まります。

 

オーバーデンチャーにして口の中を清潔な環境にすることで、インプラントと天然歯を長持ちさせられるでしょう。

3.オーバーデンチャーのデメリット

一般的な入れ歯よりも噛む力を大きく回復でき、違和感や不快感も少ないインプラントですが、気をつけるべきデメリットもあります。主なものを紹介します。

3-1.外科手術が必要である

オーバーデンチャーは、他のインプラント治療と同じように、インプラント体を埋め込む際に歯ぐきを切り開く・あごの骨にドリルで穴を開けるといった外科手術が必要です。そのため、入れ歯と比べて心身の負担が大きいでしょう。

 

局所麻酔を打つため手術中の痛みはほぼありませんが、手術後は痛みや腫れが出ます。また、糖尿病など全身疾患がある場合は、傷の治りや骨の結合に時間がかかる・細菌感染のリスクが高いといった理由で、オーバーデンチャーを受けられない場合もあります。

3-2.入れ歯と比べて費用と時間がかかる

オーバーデンチャーは他のインプラント治療と同じく、原則的に保険適用外です。

入れ歯であれば保険適用となり、1割負担または3割負担で治療できます。

 

また、一般的なインプラント治療と同じく、埋め込んだインプラント体とあご骨が結合するまで待つ必要があるため、今ある入れ歯を使用する場合は最短で2~3ヶ月、新しく入れ歯をつくるのであれば6~8ヶ月かかります。

 

一般的な入れ歯であれば、1ヶ月程度で治療が終わるので大幅に時間がかかるといえるでしょう。

3-3.時間が経つと入れ歯が合わなくなる場合がある

オーバーデンチャーをすると、インプラント体を埋め込んでいる場所はしっかり噛めますが、それ以外の場所は同レベルの強さで噛むことはできません。

 

そのため、インプラント体を入れている場所はあご骨が充分残っているのに、それ以外の場所の骨がやせてしまう可能性があります。その結果、あご骨のバランスが崩れ、入れ歯が合わなくなるリスクがあります。

4.オーバーデンチャーが向いている人

オーバーデンチャーは、メリット・デメリットを踏まえると、下記のような人に向いていると考えられます。

4-1.高齢で歯を多く失っている人

歯を多く失っている場合、人工歯をブリッジのようにつなげてインプラント体に装着する方法もありますが、手入れが大変です。

 

高齢の人の場合は、今は自分で管理できても、何年か後に自分で管理することが難しくなるかもしれません。オーバーデンチャーであれば、普通の入れ歯と同じように手入れでき、比較的管理しやすいでしょう。ただし、ブリッジ部分を入れ歯と交換してインプラントにする方法もあります。

 

また、失った歯の本数が多い場合、一般的なインプラントよりも埋め込むインプラントの本数を減らせ、手術による身体の負担を軽減できる点も高齢者向きです。

4-2.すでに入れ歯を入れている人

すでに入れ歯を入れていて、食事や会話のしにくさを感じたり、違和感や不快感に悩んだりしている場合は、オーバーデンチャーにすることで解決します。

 

また、長年使って劣化が激しい、かみ合わせが乱れているといったトラブルがなければ、入れ歯を再利用できるので、その分費用が安くなります。

4-3.30~50代で入れ歯になった人

一般的な入れ歯の場合、噛む力が不充分なため、次第にあご骨がやせてしまいます。30~50代と比較的若いうちに入れ歯になると、骨がやせてしまい、後からインプラントにするのが難しくなるリスクがあります。早めにオーバーデンチャーにして、骨量が減るのを防ぎましょう。

5.オーバーデンチャーはメリット多数!まずは歯科医師と相談しよう

入れ歯とインプラントは、どちらも失った歯の噛む機能や見た目を回復する治療法です。入れ歯とインプラントを併用する方法として、入れ歯をインプラント体に固定するオーバーデンチャーがあります。

 

オーバーデンチャーには、噛む力を大きく回復できる・入れ歯の違和感や不快感を軽減できる・インプラントの本数が少なくて済むなどのメリットがあります。

 

外科手術が必要である・入れ歯と比べて費用と時間がかかるといったデメリットもありますが、検討の価値は充分です。

 

特に、高齢で歯を多く失っている人やすでに入れ歯を入れている人、30~50代で入れ歯になった人には向いている治療法なので、一度歯科クリニックで相談してみるのもよいでしょう。

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