部分入れ歯の異物感を少なくする方法

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

歯を失ってしまった場合、多くの方は歯科医師に部分入れ歯の使用を勧められるかと思います。

 

部分入れ歯は保険適用で費用を抑えることができますし、「他の治療を検討している間、とりあえず部分入れ歯で対応するとよい」といったアドバイスを受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

しかしいざ部分入れ歯を使ってみると、口の中の異物感が気になったり、会話や食事の際に舌が入れ歯に触れて不快感を抱いたりすることもしばしばあります。一体どうすれば部分入れ歯の異物感を解消することができるのでしょうか。

 

そこで今回は、異物感を少なくする方法や、それでも部分入れ歯が苦手な方のために「ブリッジ」や「インプラント」の代替的な補綴治療方法をご提案します。

目次

(1)どうして部分入れ歯にすると異物感があるの?

(1-1)部分入れ歯を完全に固定できない

どの場所を部分入れ歯にしているのかにもよりますが、たいていの場合、多少なりとも部分入れ歯は口の中で動いてしまいます。部分入れ歯は、クラスプと呼ばれる金属製のバネで他の歯にひっかけて固定するのが基本的な仕組みです。

 

そのため、喋ったり、食事をしたりするだけでも、部分入れ歯が動いてしまい、結果として異物感を感じてしまうことになります。

 

もちろんその異物感の度合いは個人差があります。人によっては「当初は異物感が気になっていたが、今ではほとんど気にならなくなった」という方もいらっしゃいます。

 

部分入れ歯がどうしても自分には合わないと思ったときは、遠慮なくかかりつけの歯科医師に相談するようにしましょう。再度調整したり、他の部分入れ歯を試したりして、その人に合った最善の方法を模索していきます。

(1-2)固定具の異物感が消えない

クラスプで他の歯に引っ掛けて義歯を固定するタイプの部分入れ歯は、保険適用で費用を安く抑えることができ、製作・調整期間が短くて済むため、多くの患者が抜歯後すぐに使っています。

 

しかしクラスプ型の部分入れ歯は、その仕様上、どうしても異物感を拭いきれないという弱点を抱えています。すぐに順応できる人はほとんど気にせず日常生活を送ることができますが、慣れない人はいつまでも異物感を感じて過ごすことになってしまいます。

 

とくに食事の際に大きなストレスを感じるかもしれません。食べ物を噛むという行為は、歯・顎・下を複雑に動かすことで成立しますから、その際に部分入れ歯のクラスプがその口腔内の運動を妨げてしまう可能性があります。

(1-3)固定具のないノンクラスプデンチャーがズレる

部分入れ歯のクラスプが苦手な方の中には、クラスプがない部分入れ歯すなわち「ノンクラスプデンチャー」を使っている方もいらっしゃいます。

 

ノンクラスプデンチャーは、自然の歯肉のように見える特殊な素材を使用しており、周囲に入れ歯であることを知られにくいというメリットがあります。

 

しかしクラスプのないノンクラスプデンチャーは、固定性に欠けるというデメリットを併せ持っています。強く噛みしめるとグニャグニャと口の中で動いてしまうといったケースも珍しくはありません。

(1-4)入れ歯の厚みがある

一本のみ歯を失った場合は、他の歯に金具やバネを引っ掛けるクラスプ型の部分入れ歯で対応することができますが、連続して3本や4本の歯を一気に失ってしまった場合は、クラスプ型の部分入れ歯を使うことが非常に難しくなります。

 

そういう方は、総入れ歯のように「義歯床」のある部分入れ歯を使う必要があります。保険適用タイプの義歯床入れ歯は素材がプラスチック製で厚みがあり、装着すると違和感を抱きやすいのが欠点です。

(2)違和感を軽減する部分入れ歯

部分入れ歯の異物感は、再調整したり作り直したりすることで、ある程度は解消できる可能性があります。しかしそれでも不便さを感じるなら、その部分入れ歯がそもそも合っていないかもしれません。

 

その場合は、他の部分入れ歯に替えて試してみるのも選択肢の一つです。以下では知名度の高い2つの部分入れ歯「金属床」と「コーヌスクローネ(茶筒式義歯)」をご紹介します。

(2-1)金属床

「異物感が気になる」「食べ物の味が鈍る」「発音がしにくい」といったプラスチックの義歯床の欠点を克服したものが、薄い金属を使った義歯床です。自由診療のため費用が高額になってしまいますが、それに見合ったメリットがあります。

 

メリット ・丈夫で壊れにくい

・床部分が薄いため、プラスチックタイプよりも違和感が低減されている

・しゃべりやすくなる

・熱伝導性が高いため、食べ物の温度を感じとりやすくなる

・ニオイや汚れがつきにくい

・クリーニングしやすい

デメリット ・一度壊れると修復が困難

・金属アレルギーがある人の使用が難しい

・自由診療のため費用が高額

(2-2)コーヌスクローネ(茶筒式義歯)

究極の入れ歯”と評されている入れ歯です。土台とする歯にコバルトクロムの金属を被せ、それを凸パーツとして扱います。そして凹部分を成型した入れ歯を凸にはめ込むことで、がっちりと入れ歯が固定されるという原理です。

 

このようにコーヌスクローネは、あたかも茶筒にフタを被せるかのような原理を応用して入れ歯を固定するため、しばしば日本語では「茶筒式義歯」とも呼ばれています。

 

凹凸の成型は非常に精巧にできているため、はめ込みはスムーズで、取り外しも簡単です。しかもその入れ歯を使っている間は、よほどのことがない限り外れる心配もありません。

 

コーヌスクローネは、部分入れ歯の様々な欠点を総合的に克服した優秀な入れ歯だといえます。

 

メリット ・金属床よりも費用を抑えることができる

・クラスプや人工歯肉の部分がないため、入れ歯であることが周囲に知られにくい

・自然の歯を土台に上から被せて義歯を固定するため、使用時の異物感や違和感をかなり軽減できる

・使用中にズレたり外れたりするトラブルがほとんどない

・周囲の健康な歯に負担をかけない

・食事を楽しめる

デメリット ・土台となる歯はコーヌスを被せるために削らなければならない

・自由診療のため費用が高額になる

(3)合わない部分入れ歯を使い続けることのデメリット

先ほどはクラスプ型に代わる部分入れ歯の治療として金属床やコーヌスクローネをご紹介しましたが、それでも部分入れ歯に慣れない・異物感が拭えないという方もいらっしゃるかもしれません。

 

そんなときは、無理せず他の方法で補綴(ほてつ:失った歯を補う治療のこと)を行うことをおすすめします。合わない入れ歯を使い続けると、以下に挙げるようなデメリットやリスクがあるからです。

(3-1)生活の質が下がる

異物感・違和感のある部分入れ歯を毎日使うとなれば、当然、目に見えないストレスが日に日に積み重なっていきます。食事を素直に楽しむことができなくなりますし、友人と食事や旅行に行く際にも、逐一食べ物を気にかけねばならなくなってしまいます。

(3-2)吐き気に悩まされる

部分入れ歯の異物感を我慢しているうちに、吐き気に悩まされる方も出てきます。入れ歯を“異物”と強く意識すればするほど、吐き気がひどくなってしまうこともあります。そんなときは決して無理をせず、他の補綴治療方法を歯科医師と考えていきましょう。

(3-3)健康な歯に影響を与えてしまう

異物感のある部分入れ歯は、そもそも自分に合っていないか、噛み合わせ調整がうまくいっていない可能性があります。

 

噛み合わせがズレたり、固定の際に他の歯に負担がかかったりして、歯の健康寿命を損ねてしまう恐れがありますので、現状の補綴治療方法を見直す必要があるかもしれません。

(3-4)発音がしにくい

クラスプや義歯床が口や舌の動きを阻害するために、発音がうまくいかないといった問題が生じることもあります。セミナー講師や商談など、人前で喋る機会の多い仕事や、顧客と近い距離で話す接客業に従事している方にとっては死活問題です。

(3-5)歯茎に異常が起こる

「入れ歯が口の中に当たって痛い」「歯茎によく当たる」という状態を放置していると、「義歯性線維腫」や「フラビーガム(摩擦性角化症)」といった歯茎の異常を引き起こしてしまう恐れがあります。

 

症状の程度次第では、切除手術を伴うこともありますので、無理せず合わない入れ歯の使用を続けるのはやめましょう。

(4)部分入れ歯の異物感が苦手な人におすすめの補綴治療

(4-1)保険適用可能で入れ歯よりも嚙み合わせのいい「ブリッジ」

ブリッジは、失った部分の両隣の歯を支えに3本連連なった義歯を被せる補綴治療です。部分入れ歯よりもはるかに高い噛み心地を実現できるため、異物感を感じることなく食事を楽しむことができるようになります。

 

ただし、両端の歯は、義歯を被せる都合上、形を整えるために削らなければなりません。当然、削った歯は元通りになりませんので、注意が必要です。とはいえ、そうしたデメリットを考慮してもなお、ブリッジの快適性には検討する価値があるといえます。

 

ブリッジの概要
メリット ・部分入れ歯よりも噛み心地が良い

・安定感があり、一度装着すれば取り外す必要がない

・義歯であることが周囲に知られにくい

・1~2本の喪失ならば保険適用で対応可能

・自費診療に切り替えれば素材選択のバリエーションが上がる

・外科手術が必要ない

デメリット ・健康な歯を削らなければならない

・土台となる歯の安定性に依存するため、歯周病や老齢化で歯肉が後退したり歯が欠損したりするとブリッジが崩壊する

・削った歯が脆くなるというリスク

・ブリッジと歯肉の隙間に食べかすが詰まることもある

・ブリッジと歯肉の隙間で虫歯菌や歯周病菌が繁殖してしまう恐れも

・安価な保険適用タイプだと素材が壊れたり変色したりしやすい

治療期間の目安 1~2週間
おすすめできる人 ・部分入れ歯の異物感に慣れることができない

・部分入れ歯の使用に不便さを感じる

・部分入れ歯よりも快適で機能的な補綴治療を望んでいる

・周囲に入れ歯であることを知られたくない

・外科手術はしたくない

 

(4-2)まるで自分の歯のように食事を楽しめる「インプラント」

ブリッジよりも更なる快適性やメンテナンス性を求めるなら、顎の骨に人工歯根埋め込んで義歯を完全に固定するインプラント治療がおすすめです。

 

外科手術を伴いますが、丈夫な人工歯根で義歯を支えるため、まるで自分の歯のように自然な噛み心地で違和感なく食事を楽しむことができるようになります。

 

インプラントは、これまで紹介した部分入れ歯やブリッジとは根本的にアプローチが違います。インプラントはいうなれば、歯を失った部分に新しい歯を“生やす”補綴治療。一方で部分入れ歯やインプラントは、他の歯を支えにして喪失歯をカバーする方法です。

 

一度インプラントを埋め込んで義歯を装着すれば、以降は取り外すことなく、普段通り歯磨きをするだけでメンテナンスを行うことができます。人によっては、自分の口の中に義歯があることすら忘れてしまうのではないでしょうか。

 

その意味でインプラントは、精神的な負担をも軽くする側面があります。「歯を失ったことを日常で意識することがないようにしたい」「歯を失う以前の日常を取り戻したい」という方にも非常におすすめです。

 

インプラントの概要
メリット ・噛み心地の再現度が非常に高く、ほぼ違和感なく自分の歯のように食事を楽しむことができる

・周囲に義歯であることがほぼ気づかれない

・歯並びが良くなる

・取り外すなどの面倒なメンテナンスは一切不要

・他の健康な歯に影響を与えない

・精神的に前向きになれる

デメリット ・自費診療のため費用が高額になる

・必ず外科手術を伴う

・治療期間が長い

・稀に「インプラント歯周炎」という感染症にかかることもある

・手術の成功率は歯科医院の技術や経験に左右されやすい

・糖尿病や骨粗鬆症などの持病がある人はインプラント手術を受けられない可能性がある

治療期間の目安 半年~1年(個人差あり)
おすすめできる人 ・歯を失う以前の生活を取り戻したい

・義歯であることを周囲に知られたくない

・歯を気にせず食事を楽しめるようになりたい

(5)まとめ

部分入れ歯の異物感の主な原因 ・部分入れ歯を完全に固定できない

・固定具の異物感が消えない

・固定具のないノンクラスプデンチャーがズレる

・入れ歯の厚みがある

部分入れ歯の異物感を少なくする代替案 ・金属床タイプの部分入れ歯にする

・コーヌスクローネ(茶筒式義歯)にする

 

部分入れ歯以外の選択肢
ブリッジ ・部分入れ歯よりも噛み心地が良い

・安定感があり、一度装着すれば取り外す必要がない

・義歯であることが周囲に知られにくい

・1~2本の喪失ならば保険適用で対応可能

・自費診療に切り替えれば素材選択のバリエーションが上がる

・外科手術が必要ない

インプラント ・噛み心地の再現度が非常に高く、ほぼ違和感なく自分の歯のように食事を楽しむことができる

・周囲に義歯であることがほぼ気づかれない

・歯並びが良くなる

・取り外すなどの面倒なメンテナンスは一切不要

・他の健康な歯に影響を与えない

・精神的に前向きになれる

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