歯科インプラントの素材は何でできていますか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントの素材は、治療の結果を大きく左右します。しかし、「どの素材が良いのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。

 

この記事では、歯科インプラントに使われる主な素材の特徴や選ぶ際のポイントを解説します。ぜひ素材選びの参考にしてください。

目次

1.インプラントの構造とよく使われる金属

インプラントに使われている素材を紹介する前に、インプラントの構造について解説します。インプラントは「インプラント体」「人工歯」「アバットメント」の3つのパーツからできています。

1‐1.インプラント体

インプラント体は歯根の代わりになるパーツです。インプラント体は、歯を失った部分の歯ぐきを切り開き、あごの骨に穴を開けて埋め込みます。インプラント体とあごの骨が数ヶ月かけて結合することで、インプラントはしっかりと固定されます。

1‐2.人工歯

人工歯は被せ物の部分で、「上部構造」とも呼ばれます。失った歯の噛む機能や見た目を補うためのパーツです。外から見える部分なので、天然歯に似せてつくります。人工歯は、ネジまたは歯科用のセメントでアバットメントに固定します。

1‐3.アバットメント

アバットメントはインプラント体と人工歯をつなげるためのパーツです。インプラントの角度を補正し、まっすぐ噛めるようにする役割も担っています。

2.インプラント体によく使われる素材

インプラント体に最も多く使われるのは、「チタン」と呼ばれる金属です。最近では「ジルコニア」が使用される場合もあります。それぞれの特徴を解説します。

2-1.チタン

チタンは骨と強く結合する性質があります。チタンを使用したインプラント体をあごの骨に埋め込むと、チタンの表面に新しい骨の組織がついてきて、細かい部分にまで入り込みます。その結果、インプラント体とあごの骨がしっかり結合し、天然歯と変わらないレベルまで、噛む力を回復できます。

 

また、チタンは、人間の身体の中で安定し有害な影響を及ぼさない「生体親和性」の高い金属です。金属アレルギーを起こす可能性が非常に低く、身体の中で分解されることもあまりありません。

 

他の金属と比べて軽く違和感が少ない、耐久性が高い、錆びにくいといった点もインプラント向きです。

 

インプラント体に使われるチタンは大きくわけて、チタンが99.8%以上の「純チタン」とアルミなど他の金属を混ぜ合わせた「チタン合金」があります。

 

純チタンは、生体親和性が高い・あごの骨と結合しやすい・純度が高いため安定していて経年劣化を起こしにくいといった特徴があります。

 

チタン合金は純チタンよりも強度が高い反面、他の金属が入っているため金属アレルギーのリスクが高い・生体親和性が低い・経年劣化が起きやすいといったデメリットがある素材です。

2-2.ジルコニア

陶器の一種である「セラミック」のなかでも最も硬い素材で、「人工ダイヤモンド」と呼ばれるほどです。チタンと同じく骨と結合する性質があるため、近年はインプラント体に使用するメーカーが増えています。

 

ジルコニアは金属ではないため、金属アレルギーの心配はありません。また、熱や薬品に強く、長年使用しても変色などが起きにくいため、きれいな見た目を保てます。

 

その他、長期間使用しても歯ぐきが下がりにくい・白い素材なので歯ぐきが下がってインプラント体が見えても違和感が少ない・歯垢がつきにくく虫歯や歯周病のリスクが低いといったメリットがあります。

 

ただし、他の素材のインプラント体よりも費用が高い、新しいインプラント素材なので対応できる歯科クリニックが少ないといったデメリットがあります。

3.人工歯の種類

人工歯には、差し歯やブリッジなどと同じようにさまざまな素材が使われます。人工歯は素材によって「オールセラミック」やジルコニア、「ジルコニアセラミック」などの種類にわかれます。

3-1.オールセラミック

内側も外側も全てセラミックを使用している人工歯です。セラミックは、白色で天然歯のようなツヤや透明感がある素材です。さらに、セラミックにはさまざまな色のものがあり、自分の天然歯に近いものを選ぶことで、より自然な見た目に仕上がります。汚れも着きにくく、変色のリスクも低いので、美しさを重視する場合に適しています。

 

さらに、硬さが天然歯に近い・金属を含まないので金属アレルギーのリスクがない・すり減ったり傷がついたりしにくいといった機能面でもメリットがあります。

 

ただし、衝撃に弱いため折れてしまう場合もあります。噛む力が大きくかかる奥歯に使用する場合や、歯ぎしりなどの噛み癖がある場合は要注意です。安い素材ではないので、修理の費用も高額になる傾向があります。

3-2.ジルコニア

セラミックの一種で、非常に耐久性に優れた素材です。真っ白な陶器のような見た目で、オールセラミックほどは透明感がありません。適切なジルコニアを選ばないと、透明感のないインプラントに仕上がり、見た目に違和感が出てしまう可能性があります。

 

そのため、外から見える機会の少ない奥歯の治療に使われることの多い人工歯です。また、天然歯よりも大幅に強度が高いため、何年も使用しているうちに噛み合わせる天然歯がすり減ってしまうリスクがあります。患者の噛み合わせの強さなどを総合的に判断して使用する必要があります。

 

ジルコニアは高価な素材のため、オールセラミックよりも費用が高くなる傾向にあります。

3-3.ジルコニアセラミック

ジルコニアの表面をセラミックで覆ってつくる二重構造の人工歯です。金属を全く使用しておらず、金属アレルギーの方でも安心して使えます。内側がジルコニアでできているので、衝撃による破損のリスクも低いのが特徴です。

 

表面をセラミックで覆っているため、自然な透明感やツヤがあり、天然歯とほぼ変わらない見た目に仕上がるので、前歯の治療にも適しています。また、セラミックはジルコニアよりも強度が低いため、噛み合わせる天然歯への影響をおさえられます。

 

ジルコニアとセラミックそれぞれの長所を活かした人工歯ですが、オールセラミックなどと比べて費用が高いのがデメリットです。

3-4.ハイブリッドセラミック

セラミックと「レジン」を混ぜ合わせた素材でつくった人工歯です。レジンは、保険診療で広く使用される歯科用プラスチックを指します。レジンは安価なため、ハイブリッドセラミックを使うことで、費用をおさえられます。

 

しかし、レジンは経年劣化が起きやすいため、長年使っていると黄ばんでしまいます。また、レジンはセラミックと比べて強度が低く、摩擦ですり減る・折れるといったリスクが高い点というデメリットもあります。

 

さらに、レジンは汚れが付着しやすいため、虫歯や歯周病など口の中のトラブルに注意が必要です。

3-5.メタルボンド

二重構造の人工歯で、内側が金属、外側がセラミックでできています。表面がセラミックでできているため、経年劣化による変色はほぼありません。内側が金属製のため、強度が高く奥歯に適した人工歯です。

 

しかし、金属アレルギーのリスクがある・金属が中に入っているためセラミックよりも透明感が劣る・歯肉が薄い場合などは金属が透けて黒ずんで見えるといったデメリットもあります。

4.アバットメントによく使われる素材

アバットメントは、インプラント体と比べて素材の選択肢が豊富です。ただし、基本的にインプラント体と同じメーカーかつ同じ規格のものを使用します。

4-1.チタン

アバットメントには、純チタンではなくチタン合金を使用する場合が多い傾向にあります。生体親和性に優れているため歯肉に密着しやすい・さびにくい・強度が高いなど機能性に優れた素材です。

 

ただし、歯ぐきが下がってくるとチタンの銀色が目立ち、不自然な見た目になるリスクもあります。時間の経過とともに歯ぐきがどれくらい下がるのかは個人差があるので、将来的に処置が必要になる場合もあります。

4-2.ジルコニア

白く透明感がある素材なので、歯ぐきが下がってきても目立ちません。金属ではないため、金属アレルギーでも安心して使用できます。

 

ただし、天然の歯よりも硬いため、噛み合わせなど口の中の状態によっては、噛み合う天然歯などに負担がかかるリスクがあります。

4-3.金合金

金を融合させた金属で、硬すぎず柔らかすぎないため、インプラント体と適合しやすい素材です。しかし、歯ぐきが下がると金属が目立ってしまう・金の価格が高いため費用が高額になるといったデメリットもあります。

5.インプラントの素材を選ぶ際の注意点

インプラントの素材を選ぶ際は下記の3点に注意すると、自分に合ったものを見つけやすいでしょう。

5-1.満足度と費用のバランスを考える

機能性や見た目に優れた素材ほど、費用が高額になる傾向になります。しかし、安さにこだわるあまり、機能性や見た目におとるインプラントを入れると後悔する可能性があります。

 

歯科医師とよく相談し、前歯は多少高額でも仕上がりが美しい素材を使うなど、メリット・デメリットを理解したうえで自分に合ったものを選びましょう。

5-2.治療費の総額をチェックする

インプラントは基本的に自由診療のため、歯科クリニックごとに価格設定が異なります。人工歯の価格だけ見ると他のクリニックと比べて安価なのに、総額は高額であるといった場合も少なくありません。必ずトータルの治療費で見積りをとるようにしましょう。

5-3.パッチテストを受ける

「パッチテスト」とは、背中や二の腕に金属などアレルギーの原因となる物質を貼りつけ、異変が起きないか調べる検査です。事前にパッチテストをすることで、アレルギーの原因となる素材を避けられます。

 

インプラント体などに使用するチタンは、金属アレルギーのリスクが低い金属ですが、100%アレルギーが起きないわけではありません。

 

金属アレルギーが起きるとインプラントを除去しなければいけないケースもあるので、事前に確認しておくと安心です。

6.納得のいくインプラント治療には、自分に合った素材選びが大切!

インプラントは、インプラント体・人工歯・アバットメントの3パーツで構成されています。多くの場合インプラント体やアバットメントには、チタンやジルコニアが使用されます。人工歯は使用する素材によって、オールセラミックやジルコニアなどの種類があります。

 

オールセラミックの人工歯は見た目が美しいけれども強度がやや低いといったように、それぞれメリット・デメリットがあるので、歯科医師に相談のうえ自分に合った素材を選びましょう。

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