インプラント治療後は歯ブラシだけではケアが不十分ですか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラント治療後は、メンテナンスが欠かせません。どの歯科クリニックでも、歯磨きをしっかりするよう指導しています。

 

しかし、歯ブラシによるケアだけで本当に十分なのでしょうか。

 

この記事では、歯磨きだけで問題ないのかやケア不足によるトラブルの内容、その他のセルフケア方法、歯科クリニックでの定期メンテナンスなど、インプラント治療後のケアについて詳しく解説します。

目次

1.歯ブラシによるケアだけでは不十分な理由

結論から言いますと、インプラント治療後のお手入れは、歯ブラシによるケアだけでは不十分かもしれません。歯磨きをしていても、歯全体の4割は磨き残しているといわれています。

 

歯ブラシは、歯の表面や歯と歯ぐきの間などの汚れを落とすのには向いていますが、歯と歯の間には届きにくいという欠点があります。

 

汚れが付着したままだと、食べ物に含まれる糖分を栄養にして増殖した細菌の塊である「歯垢」ができます。時間が経つと、歯垢がだ液に含まれるカルシウムなどと結びついて硬くなり「歯石」になります。歯石は非常に硬く、歯磨きなどのセルフケアで落とすのは困難です。

 

細菌の塊である歯垢・歯石をそのままにしておくと、口の中で細菌が繁殖し、さまざまなトラブルの原因となります。

 

歯ブラシで歯を磨くだけではなく、磨き残しがないように徹底的にセルフケアしつつ、定期的に歯科クリニックでメンテナンスしなければいけません。

2.ケアが不十分な場合に起きるトラブル

インプラント治療後のケアが不十分な場合、歯垢や歯石が溜まり細菌が増殖してしまいます。その結果、「インプラント周囲炎」やインプラント周辺の虫歯といったトラブルにつながるかもしれません。

2‐1.インプラント周囲炎

「インプラント周囲炎」は、歯ぐきなどインプラントの周辺の組織が歯周病菌に感染し、炎症を起こすことで生じる病気です。ケア不足で歯垢や歯石が溜まると、歯周病菌が増殖し、インプラント周囲炎のリスクが高まります。

 

インプラント周囲炎は歯周病菌と良く似た病気で、最初のうちは歯ぐきの腫れや赤みといった軽い症状が出ます。徐々に出血や膿が見られるようになり、あごの骨にまで炎症が広がります。

 

重症化するとあごの骨が破壊され、インプラントを十分に支えきれなくなり、ぐらついたり抜け落ちたりしてしまうケースも少なくありません。

 

インプラントは、歯根とあごの骨の間にある「歯根膜」がなく、天然歯と比べると感染に弱いといわれています。また、一度感染すると炎症が早く進み、人工物であるため異変に気がつきにくいので、いつの間にか症状がかなり進行しているケースもあります。

 

インプラントを失わないよう、日ごろのケアを徹底し、インプラント周囲炎を予防しましょう。

2-2.インプラント周辺の虫歯

インプラントは人工物なので、虫歯にはなりません。しかし、歯垢や歯石が多いと虫歯菌が増殖し、周辺の歯が虫歯になる可能性はあります。

 

大切な天然歯を失うリスクがあるので、しっかりケアしましょう。また、インプラント周辺の歯が虫歯になると、インプラントにも悪影響を及ぼすこともあります。

3.インプラント治療後の歯磨き以外のセルフケアとは

インプラント治療後に口の中を清潔に保つには、歯ブラシでのケア以外に、下記のようなケア用品を使ってお手入れするとよいでしょう。

3-1.歯間ブラシ

歯間ブラシは、歯と歯の間に入れやすい小さなサイズの道具で、ナイロンやゴム製のブラシがついています。歯ブラシの毛先が届きにくい歯と歯の間に出し入れして、歯垢をかき出すように掃除します。

 

歯間ブラシは、広い隙間の手入れに向いており、歯の根元に三角形のすき間がある方や歯ぐきが下がり気味の方に適したケア用品です。

 

歯間ブラシは持ち手の形によって、「L字型」と「I字型」があります。L字型は前歯と奥歯どちらにも使いやすく、I字型は前歯に向いています。

 

歯間ブラシを選ぶ際は、歯と歯のすき間に無理なく差し込めるサイズのものがおすすめです。歯科クリニックで選んでもらうか、最初は小さいサイズから試すと、失敗を防げます。

3-2.デンタルフロス

「デンタルフロス」は、歯ブラシ以外のケアのなかでも特に広く使われているものです。非常に細いナイロンの糸を何本も束ねたもので、やや太めの糸のような見た目をしています。歯と歯の間に差し込むと、糸の繊維が広がり歯垢や食べ物のカスなどの汚れをキャッチして取り除きます。

 

歯間ブラシが入りにくい、または歯と歯の間のすき間が狭い場所に向いている道具です。デンタルフロスは大きく、ホルダータイプ・糸巻タイプ・スーパーフロスの3種類があります。

 

(1)ホルダータイプ

ホルダータイプは、フロスに持ち手がついたものです。操作がしやすいため、初めてデンタルフロスを使用する方や糸巻タイプを使うのが難しかった方におすすめです。

 

ホルダーの形は「F字型」と「Y字型」があり、F字型は前歯に、Y字型は奥歯に向いています。

 

(2)糸巻きタイプ

自分で糸をカットして、両端を左右の小指に2~3回巻きつけピンと張り、歯と歯の間に入れて前後に動かして使用します。使うのにコツがいりますが、ホルダーがない分費用が安いのがメリットです。また、どの部分の歯でも使用できます。

 

糸をワックス加工しているものと、加工していないものがあります。ワックス加工されているものは滑りが良く、歯と歯の間に糸を通しやすい点が特徴です。加工していないものは、糸の繊維が広がるため、歯垢や食べ物のカスを効率的に落とせます。

 

(3)スーパーフロス

スーパーフロスは、歯を通しやすいように先端部分が硬くなっていて、中央部分にスポンジ状がついているフロスのことです。あらかじめ、40~50cmほどの長さに切られています。

 

何本かの人工歯が連結しているタイプのインプラントの場合、通常のフロスを連結部分から通して掃除することはできません。スーパーフロスは一部分が硬いため、通常のフロスでは入りにくい場所にも使えます。

 

また、スポンジ部分で歯垢などの汚れをしっかりかき出せるため、効率的にケアできるのも魅力です。

3-3.タフトブラシ

タフトブラシは、通常の歯ブラシと同じような長い柄に、小さな毛束がついた歯ブラシです。通常の歯ブラシの3分の1ほどの毛束で、ヘッドが小さいため小回りが利きます。

 

歯と歯の間や歯と歯ぐきの境目など掃除のしにくい部分であっても、汚れをしっかり落とせます。インプラント周辺の仕上げ磨きにも適しています。

 

インプラント後に使用する場合は、歯ぐきを傷つけないよう、毛の柔らかいものがおすすめです。

3-4. マウスウォッシュ

歯磨きなどのセルフケアの仕上げに、殺菌力の高いマウスウォッシュを使うと、細菌の繁殖を効果的に防げます。口の中の構造は人それぞれなので、手入れをしても、磨き残しが生じる可能性があります。マウスウォッシュを使用することで、口の中全体をすみずみまでケアできます。

 

ただし、マウスウォッシュだけでは、歯垢などの汚れを十分に落とすことはできません。歯ブラシ・歯間ブラシ・デンタルフロスを併用して、しっかりお手入れしましょう。

4.歯科クリニックでの定期メンテナンスとは

インプラントを長持ちさせるには、セルフケアだけでは不十分です。歯科クリニックでの定期メンテナンスを必ず受け、トラブルを防ぎましょう。定期メンテナンスの主な内容は下記の通りです。

4-1.定期健診

歯科医師が診察し、歯垢の量やインプラントの状態、インプラント周囲炎や虫歯の有無、噛み合わせなどをチェックします。また、X線撮影を行い、他の歯やあごの骨の状態を確認し、炎症や骨量の減少がないかを調べます。

 

定期健診をすることで、インプラント周囲炎などの異常を早期発見・早期治療でき、インプラントを長持ちさせられます。

4-2.歯のクリーニング

専用の薬剤や道具を使用し、徹底的に口の中を清掃します。特に歯石は、通常の歯磨きではほぼ落ちません。そこで定期メンテナンスでは、歯科医師や歯科衛生士が、「スケーリング」と呼ばれる歯垢・歯石を取り除く治療をします。

 

日ごろのセルフケアに加えて、歯科クリニックでのクリーニングをすることで、口の中を清潔に保て、細菌の増殖を防げます。

4-3.ブラッシング指導

インプラントを長く快適に使用するには、日ごろのお手入れが重要です。正しくブラッシングすることで、磨き残しがなくなり、常に口の中をきれいに保てます。

 

歯の磨き方の癖は人それぞれで、磨き残しが起きやすいポイントも異なります。口の中の状態を確認し、ブラッシングの改善方法を指導してもらうことで、より良いケアができるようになるでしょう。

 

また、歯間ブラシやデンタルフロスなど、歯ブラシ以外の道具によるケアについても教えてもらえます。お手入れ方法に悩んでいる場合は、定期メンテナンス時に相談するのもおすすめです。

5.歯ブラシによるケア以外も取り入れて、インプラントを長持ちさせよう!

インプラント治療後のお手入れは、歯ブラシによるケアだけでは不十分な可能性があります。ケアが不十分な場合は、歯垢や歯石が溜まると細菌が増殖し、インプラント周囲炎やインプラント周辺の虫歯といったトラブルが起きる可能性があります。

 

歯磨きに加え、歯間ブラシやデンタルフロスなどを使用したケアをすれば、口の中を清潔に保て、リスクを軽減できます。

 

また、歯科クリニックでの定期メンテナンスとセルフケア、どちらも欠かさず行うことで、よりインプラントを長持ちさせられます。

 

インプラント治療後のセルフケアが不安な場合は、歯科医師に相談しましょう。口の中の状態などを考慮し、自分に合ったお手入れ方法を提案してくれます。

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