インプラント手術による「神経損傷」とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント手術後のトラブルの中でも、重大なトラブルとして多いのが、副鼻腔の炎症、インプラントが上顎洞内に入り込んでしまうもの、そして神経損傷の3つだと言われています。

この中でもトラブル後の治療で症状が改善しにくいのが、神経損傷です。

インプラント手術によって神経損傷すると、痺れやピリピリした痛みが続いたり、逆に感覚が鈍くなったりすることがあります。

この神経損傷は、どのようなことが原因で起こるのでしょうか。

また、神経損傷の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。

目次

1.インプラント手術による「神経損傷」とは

インプラントの手術後に起きる神経損傷というものはどのようなものなのでしょうか。

1-1.神経損傷の起こる場所

まず、神経損傷が起こる場所は、全て下顎の奥歯のインプラント手術の場合です。

上顎にはインプラントを埋め込む場所に神経が通っていることが少ないため、神経を傷つけることは非常に稀だと言われています。

 

しかし、下顎の場合、インプラントを埋め込む箇所である、下顎の骨の中に下顎管というものがあり、その中に“下歯槽神経”と血管が通っています。

その下歯槽神経を手術中、何らかが原因で傷つけてしまうことで、神経損傷が起こります。

また、インプラントを埋める箇所によっては、下歯槽神経終末にある“オトガイ神経”と言われる神経や、“舌神経”を傷つけることもあります。

1-2. 神経に影響を与えるケース

インプラント手術において、神経に影響を与えるケースには以下の2つがあります。

 

・神経損傷

神経損傷はその名の通り、神経を傷つけたり、神経を切ってしまったりすることです。

インプラントだけでなく、親知らず治療で切開をする場合などにも傷つけることがあります。

 

・神経圧迫

神経圧迫とは、直接神経を傷つけていなくても、神経が間接的に圧迫されることを言います。

神経は圧迫されると痛みが出たり、麻痺したりする症状が出ます。

2.インプラント手術による神経損傷の原因

インプラント手術において、神経損傷してしまう原因ですが、そのほとんどがドリルで骨を削った際に、神経に近づきすぎたり、神経に当たったり、神経を圧迫してしまうことによるものです。

 

その他、インプラントを埋め込む際に神経を切ってしまったり、埋め込んだインプラントが神経に当たったりすることで、神経を損傷してしまうこともあります。

インプラントの埋め込み位置がずれたり、角度が合っていなかったりする場合に、そのようなことが起こりやすいです。

また、インプラント体が神経の近くまでくると、直接は傷つけていなくても、神経を圧迫することもあります。

3. インプラント手術による神経損傷の症状

神経損傷の症状としては次のようなものがあります。

3-1.痛み

まずは神経損傷・圧迫が起こっている箇所に、痛みを感じることがあります。

通常、インプラント手術後は神経損傷が起きていなくても、手術箇所に痛みや出血は感じるものですが、徐々に数日経てば痛みは引いてきます。

しかし、神経損傷の場合は、何日経っても痛みが治らない、逆にひどくなってしまうこともあります。

3-2.麻痺

インプラント手術をした箇所やその周辺が麻痺し、手で触っても感覚がないという症状が出る場合もあります。

インプラント手術では麻酔を使うので、手術後はしばらく感覚のない時間が続きますが、呪術から数時間後には麻酔は切れているはずです。

神経損傷の場合は、損傷が原因で感覚が戻ってこないという症状があります。

3-3.痺れ

ピリピリと下唇や舌、オトガイ周辺が痺れるという症状が見られることもあります。

4.神経損傷ではないインプラント手術後の痛みもある

痛みや痺れを感じたからといって、全ての痛みや痺れが神経損傷によるものというわけではありません。

先述もしたように、インプラント手術では手術箇所に痛みを感じるものです。

痛みの程度にも個人差があるので、どの程度痛むものなのか、どのような痛みなのかというのは一概に言えませんが、次のようなケースでは神経損傷ではなく、通常の痛みであると考えられます。

4-1.腫れやあざ、膿が出るのは神経損傷以外が原因であることが多い

インプラント手術後に術部が腫れたり、皮膚にあざができたりすることがありますが、これらの症状は神経を損傷した時に出る症状ではなく、手術後誰にでも起こる症状です。

冷たいもの熱いものがみしみる、歯が押される感覚なども、神経損傷による症状ではありません。

数日経てば、徐々にこれらの症状は改善されることが多いので、様子を見ましょう。

 

また、膿や黒いタンが出るのは、神経損傷ではなく、細菌感染によるものだと考えられます。

術後の細菌感染は歯科医院で適切な処置を受ける必要があります。

神経損傷ではありませんが、早めに病院に連絡して診てもらいましょう。

4-2.一時的な痺れ、麻痺も問題なし

手術中に麻酔を使ったり、何らかの刺激を受けたりしたことにより、一時的に手術箇所やその周辺に痺れや麻痺が起こることがあります。

神経損傷によるものではない痺れや麻痺は、時間経過とともに症状が改善されていくので、心配しすぎる必要はありません。

4-3.症状が改善する場合は大丈夫

以上の痛みや痺れ、麻痺以外にも不安な症状があるかもしれませんが、その症状が時間経過とともに改善されていくのであれば、問題ありません。

インプラント手術後に、誰にでも起こり得る症状といえます。

 

ただし、数週間経ってもこれらの症状が改善されない、我慢できないほどの痛みが続いている場合は要注意です。

神経損傷の可能性も踏まえ、手術を受けた歯科医院で相談し、診てもらってください。

5.神経損傷の場合の治療法

インプラント手術による神経損傷が疑われる場合には、まず神経が本当に損傷しているのか、しているとしたらどの部分、どの程度であるのかの検査を行います。

その上で、インプラントが関係した神経損傷である場合には、次のような治療が行われます。

5-1.神経修復治療

まずは神経が切れている場合には、神経修復治療が行われます。

神経を縫合したり、移植したりする手術です。

この手術は神経が切れてから時間が経ってしまうとできないことが多いので、早めの治療が大切です。

5-2.インプラントの撤去

インプラントが直接神経に触れていたり、神経に近づきすぎて神経を圧迫したりしている場合には、インプラントを一旦撤去する治療を行います。

インプラントを取り除いたことで痛みの改善がされた場合には、インプラント体の長さが短いものに交換したり、インプラントを埋め込む角度や位置などを調整したりする処置を行うことが多いです。

5-3.神経ブロック治療

神経が損傷している場合、神経ブロック治療という、局所麻酔薬を注射する治療を行う場合もあります。

交感神経に麻酔薬を注射することで、神経の緊張を押さえ、上半身の血流を改善する注射で、早期に対処すると、症状の改善が見られる治療です。

症状が軽い場合には、神経修復薬を服用し、様子を見ることもあります。

服用する薬はビタミンB12製剤やステロイド薬が有効です。

5-4.近赤外線照射・鍼灸療法も

その他、スーパーライザーと呼ばれる機械で近赤外線をあて、血行を改善し症状を緩和する近赤外線照射や、鍼やお灸での治療をする場合もあります。

5-5.治療をしても後遺症が残るケースも

神経の損傷の程度にもよりますが、上記のような治療を行なっても、完全に症状が改善されることがない場合もあります。

治療までに時間が開いた場合にも、治療ができないこともあるようです。

症状が改善されず、後遺症が残るケースもあります。

痛みが術後数日経っても改善されない、麻痺や痺れが残るといった症状があれば、すぐに受診し、対処してもらうことが大切です。

6.インプラント手術の重大トラブルを防ぐために

インプラント手術後、神経損傷が起こり、さまざまな症状に悩まされることがあると思うと、治療を受けるのも心配になりますね。

しかし、このような重大なトラブルは頻繁に起こっているわけではありません。

厚生労働省の資料によると、インプラント埋入手術による下歯槽神経麻痺の発現率は、ごく短期間の軽微な症状も含まれて、0.13%から8.5%とのこと。(※1)

そして、この神経損傷のリスクを限りなく減らすためには、次のような事前の対策も有効です。

6-1.最新機器で検査等を行っている歯科医院を選ぶ

神経損傷のリスクを減らすために、まずインプラントの術前検査で、歯科用CTを使い、三次元で神経の位置を把握してもらえる歯科医院を選びましょう。

今はそのような最新機器を使えば、神経の位置をしっかり把握でき、神経損傷のリスクは減らせる時代です。

 

また、手術の際にも、サージカルガイドというドリルの位置や角度、深度などを正確にぶれないようにするための医療器具を使用する歯科医院もあります。

サージカルガイドを使うと、ドリルの不具合を最小限にとどめ、安全に確実に手術を行うことができます。

インプラント治療を任せると決める前に、そのような設備面で安心できるかどうか、限りなく神経損傷のリスクを減らす工夫をしているかを確認しましょう。

6-2.経験で医師を選ぶ

インプラント治療は、知識や経験が豊富な方が成功率は高いです。

歯科医院選びで迷っている時には、これまでに扱ったインプラント治療の成功症例が多い医師を選ぶのもいいでしょう。

6-3.万が一の時の対応を先に聞いておく

インプラント治療では神経損傷を含め、失敗のリスクが少なからずあります。

万が一何か治療後にトラブルがあった際、どのような保証があるのか、費用負担などはどうなるのかについても聞いておきましょう。

そのような質問にも真摯に対応してくれるかどうかで、その歯科医院の様々なリスクへ対する姿勢が伺えます。

手術前に聞いておき、万が一の時にも安心して対処を頼めるかどうかを見極めておきましょう。

 

(※1)厚生労働省「厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」 歯科インプラント治療のための Q&A」より

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-02.pdf

7.インプラント手術後の神経損傷は重大トラブル!リスクを減らす選択を

インプラント手術後は、誰にでも痛みが起こるものではありますが、その痛みの原因が神経損傷である場合が稀にあります。

重大トラブルの1つであり、治療をしても完全に元通りにするのは難しいもの。

できるだけ神経損傷のリスクを減らすためにも、まずはインプラント治療を任せる歯科医院・医師選びから慎重になるといいでしょう。

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