インプラント治療後に口の中の健康を維持するには、メンテナンスが欠かせません。メンテナンスを怠ると口内環境が悪化してさまざまなトラブルが起きます。天然歯の虫歯もそのひとつです。

「CAMBRA（キャンブラ）」はアメリカで生まれた新しいメンテナンス方法です。虫歯の再発を予防する効果が高く、日本でも注目を集めています。

この記事では、CAMBRAの概要や流れ、メリット・デメリットについて詳しく解説します。

CAMBRAについて解説する前に、インプラント後のメンテナンスの大切さについておさらいします。

インプラント治療をした後に「人工歯だから虫歯にならない」と安心して、メンテナンスを怠る方がいます。しかし、インプラント治療後のメンテナンスは非常に重要です。

メンテナンスが不十分な場合、せっかく入れたインプラントが「インプラント周囲炎」によって使えなくなる、周囲の天然歯が虫歯になって治療が必要になるといった可能性があります。それぞれ解説します。

インプラント周囲炎は、インプラントが使えなくなる主な理由のひとつです。歯周病菌がインプラント周辺の歯ぐきに感染して炎症を起こす病気で、歯周病と良く似ています。

初期の段階では自覚症状が少なく、軽い赤みや腫れが出る程度です。進行すると歯ぐきが破壊され出血や膿が見られるようになり、あごの骨にまで炎症が広がります。次第にあごの骨が溶けていき、あごの骨に埋めたインプラント体を支えきれなくなり、ぐらつくようになります。最悪の場合は、インプラントが抜け落ちて使えなくなる恐ろしい病気です。

インプラントは、天然歯と比べて血液の供給量が少なく、歯周病菌のリスクが高いといわれています。

また、天然歯の歯根とあごの骨の間にある「歯根膜（しこんまく）」がありません。そのため、細菌があごの骨に侵入しやすく、インプラント周囲炎は歯周病よりも10～20倍もの速度で進行すると言われています。

さらに、インプラントは人工歯のため、異変を感じにくく、気がついた時には重度のインプラント周囲炎になっている場合が少なくありません。

歯周病菌は、食べかすを栄養に増殖した細菌のかたまりである「歯垢」と時間が経過した歯垢が硬くなった「歯石」に多く含まれています。

歯科クリニックでの定期メンテナンスで行うクリーニングによって、歯垢・歯石を取り除くことでインプラント周囲炎のリスクを軽減できます。もしインプラント周囲炎が発症していても、早期治療をすることで、インプラントのぐらつき・脱落を防止できます。

インプラントは、セラミックなどの人工素材でできているため、虫歯にはなりません。しかし、周囲の天然歯が虫歯菌に感染すると、虫歯になる可能性があります。

虫歯菌も歯周病菌と同じく、歯垢や歯石に多く含まれています。そのため、定期的なクリーニングが効果的です。また、歯垢や歯石を取り除くことで、インプラント周辺以外の歯ぐきが歯周病にかかるのも防げます。

CAMBRAは、「リスク評価によるう蝕（しょく）管理法」という予防方法です。う蝕は一般的には虫歯と呼ばれ、歯の表面の硬い部分が溶け、少しずつ歯の内部へと進行し穴を開ける症状です。

人間の口のなかには、虫歯菌が常に存在し、食べ物や飲み物を口にすると糖分が取り込まれます。糖分を栄養源にしようと虫歯菌が集まり、糖分を分解する時に酸を出します。虫歯菌が出す酸には、歯の表面のカルシウムが溶ける「脱灰（だっかい）」を引き起こす作用があります。脱灰は虫歯の始まりであり、脱灰の状態が続くと虫歯が徐々に悪化していきます。

脱灰に対し、だ液には酸で溶けた歯を修復する「再石灰化」作用があります。人間の口の中では、虫歯を起こそうとする脱灰と虫歯を治そうとする再石灰化が常に起こっており、バランスが崩れることで虫歯になるリスクの上昇や症状の悪化につながります。

バランスが崩れる要因は、歯磨きなどのメンテナンス状況・生活習慣・年齢・その人の体質などさまざまです。

CAMBRAでは、これまでの虫歯歴・唾液検査・問診などをもとに、患者一人ひとりの「虫歯リスク＝虫歯になりやすさ」を評価し、評価に合わせた適切な処置をします。その結果、虫歯になりにくい口内環境が整います。

口内環境を改善することで、インプラント周囲炎などのトラブルを予防でき、インプラントを長持ちさせられます。

CAMBRAのおおよその流れは、下記のとおりです。

【1】カウンセリングシートの記入

食習慣や歯磨きの方法、使用しているケア用品、最後に虫歯の治療をした時期など、虫歯リスクを評価するために必要な情報を記入します。

【2】問診

カウンセリングシートの内容をもとに、歯科医師が現在の食生活や虫歯・歯周病治療の有無などをヒアリングします。治療に関する希望なども問診時に伝えます。

【3】検査

下記のような検査を行い、口の中の状態を把握します。

・レントゲン撮影

レントゲン撮影によって、虫歯・歯周病・インプラント周辺のあごの骨の吸収などの状態を把握できます。

・口腔内写真撮影

口腔内の写真を患者に見せることで、歯垢が付着している量や場所、歯ぐきの下がり具合などを視覚的に把握できます。また、過去の写真と比較することにより、状態の変化がわかり、治療へのモチベーションにつながります。

・だ液検査

だ液量やだ液に含まれる細菌数、「だ液緩衝能」を調べます。だ液緩衝能とは、だ液が脱灰を防ぐ働きのことです。だ液が少ない・だ液緩衝能が低い場合は、脱灰が進行しやすく虫歯のリスクが高い状態です。細菌数が多いほど、虫歯が発生しやすくなります。

・虫歯歯周病検査

虫歯や歯周病の状態を検査・診断します。

【4】検査結果の説明

ヒアリングシートの回答・検査結果・診断結果をもとに、総合的に患者の虫歯リスクを評価します。虫歯リスクは、ロー・ミドル・ハイ・エクストリームハイの４段階であらわされます。

・ローリスク:虫歯になる可能性は低いです。

・ミドルリスク：虫歯になる可能性は高くはないものの、要注意です。

・ハイリスク：虫歯になる可能性が高いです。

・エクストリームリスク：虫歯になる可能性が非常に高く、要注意です。

虫歯リスクの評価に合わせて、歯科医師が一人ひとりに合った予防プランを提案します。虫歯になりにくい口内へと整えるため、歯磨きをはじめとするセルフケアや食生活などのアドバイスをします。

【5】ケアの実施

セルフケアやプロによるケアによって、口内環境を改善し、虫歯リスクを軽減します。虫歯が進行している場合は、虫歯治療をします。

・セルフケア

セルフケアのメインは、歯磨きやデンタルフロス・歯間ブラシによるお手入れです。歯垢を溜めないようにし、虫歯を予防します。お手入れの際は、フッ素入りの歯磨き粉や洗口剤を使用し、歯の再石灰化を促進します。さらに、糖分の多い食品を控えるなど食生活を整え、虫歯菌が増えすぎないようにします。

・プロによるケア

専用の器具や薬剤を使用したクリーニング・再石灰化を促すフッ素の塗布・ブラッシング指導などを行います。特に歯石は通常の歯磨きでは取り除くのが難しいため、歯科クリニックでのお手入れが必要です。

CAMBRAの主なメリットを紹介します。

医学的根拠に基づいて現在の虫歯リスクを正しく把握することで、適切なケアにつなげます。

特にこれまで何度治療しても虫歯が再発していた場合、何らかの根本的な原因があるにもかかわらず、これまでのケアや治療では解決できていない状態です。CAMBRAを受けることで、根本的な原因を解消し、虫歯を予防できます。

医学的根拠に基づいたケアをすることで、虫歯リスクを軽減でき、残っている天然歯を長持ちさせられます。

インプラントは、噛む機能や見た目を天然歯と変わらないレベルまで回復できる治療法ですが、天然歯をずっと使い続けられるのが一番です。

特に虫歯で歯を失ってインプラントを受けた方は、虫歯リスクが高い可能性があるので、CAMBRAを受けるメリットは大きいでしょう。

オーダーメイドの予防方法と聞くと、手間がかかるイメージがあるかもしれません。しかし、CAMBRAはヒアリングシートの記入や検査などをすることで、簡単に虫歯リスクや最適な予防方法が分かるシステムです。定期健診の項目が増えるような感覚で受けられます。

虫歯予防に効果的なCAMBRAですが、デメリットも存在します。代表的なものを紹介します。

CAMBRAの費用は保険適用にならないため、全額自己負担です。歯科クリニックによって費用が異なるので、まずは見積りをしてもらいましょう。

ただし、虫歯になった場合の治療費を考えると、CAMBRAを受けた方がトータルでは費用をおさえられる可能性が高いでしょう。

アメリカで生まれた比較的新しい予防方法のため、まだ日本では導入している歯科クリニックが少ないのが現状です。住んでいるエリアによっては、近くにCAMBRAに対応している歯科クリニックがないかもしれません。

CAMBRAは虫歯リスクを正しく把握したうえで、一人ひとりに合ったケアをすることで、虫歯を防ぐ方法です。歯科医師の指示を守らなかった場合、虫歯リスクを下げられない可能性があります。

特に薬剤の用法・用量を守らないと、十分な効果を得られないかもしれません。フッ化物や洗口剤を使うタイミングなど、注意しましょう。

CAMBRAは先進的な歯科治療を行っているアメリカで生まれた、新しい虫歯予防方法です。ヒアリングシート・検査・検診の内容をもとに、虫歯リスクを評価し、一人ひとりに合わせたケアをします。

虫歯の再発を防ぐ効果が高い・天然歯を長持ちさせられる・簡単に受けられるなど、メリットの多い予防方法です。ただし、保険適用外のためある程度の費用がかかる・導入している歯科クリニックが少ない・歯科医師の指示をしっかり守る必要があるといったデメリットもあります。

虫歯などで歯を失ってインプラント治療を受け、残った天然歯を大切にしたい方にとっては、効果的な予防方法です。興味がある方は、対応している歯科クリニックに相談しましょう。