インプラントのメンテナンス「THP」とは?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

「THP(トータルヘルスプログラム)」は、インプラント周囲炎・歯周病・虫歯の根本的な原因にアプローチし、治療・予防するメンテナンス方法のことです。従来とは異なり、患者の状態に合わせたオーダーメイドのメンテナンスで、高い効果が期待できます。

 

インプラント後にTHPを受けることでインプラントを長持ちさせられるため、大きな注目を集めています。

 

この記事では、インプラントの寿命とメンテナンスの関係やTHPの詳しい内容、メリット・デメリットを解説しています。インプラント後のメンテナンスについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

目次

1.インプラントを長持ちさせるにはメンテナンスが重要

インプラントは、手術後10年以上経過しても、9割以上が使えるといわれており、寿命の目安は10〜15年ほどです。しかし、寿命がどのくらいになるのかは、メンテナンスの状態によって、大きく左右されます。

 

インプラント後のメンテナンスが不十分なことによる代表的なトラブルは下記のとおりです。

1‐1.インプラント周囲炎

「インプラント周囲炎」とは、歯周病菌が原因で歯ぐきなどの歯周組織が炎症を起こす病気です。歯周病とよく似た病気で、最初は歯ぐきの軽い腫れや赤味といった軽い症状があらわれ、少しずつ進行しあごの骨を溶かします。

 

あごの骨量が減ると、あごの骨に埋め込んだインプラント体を支えきれなくなり、ぐらつきや脱落が起き、インプラントが使えなくなってしまいます。

 

歯周病と比べて進行スピードが非常に早く、気がつくとあごの骨の破壊がかなり進んでいるケースが少なくありません。そのため、インプラント周囲炎によってインプラントが寿命を迎えるケースは多いといわれています。

 

メンテナンスが不十分だと口の中に、細菌のかたまりである「歯垢」や歯垢が時間の経過により硬くなった「歯石」が溜まって、歯周病菌が増殖しやすくなり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。

1‐2.インプラントの周囲の虫歯

インプラントの人工歯は、セラミックなどでできているため、虫歯になりません。しかし、周りの天然歯は虫歯になる可能性があります。

 

メンテナンスが不十分だと、細菌が多く含まれた歯垢や歯石が口の中に溜り、天然歯が虫歯になるリスクが高まります。

1‐3.インプラントの破損

嚙み合わせの乱れなどが原因で、インプラントに過剰な力がかかると、インプラントが破損する可能性があります。人工歯の破損であれば、新しいものを作成して交換するだけで良いのですが、インプラント体が破損した場合は除去して再手術をしなければいけません。

 

定期メンテナンスで嚙み合わせやインプラントの状態をチェックすることで、破損を防げる場合もあります。もし破損していても早めに対処でき、トラブルを最小限におさえられます。

2.通常のメンテナンスの内容

最先端のメンテナンスであるTHPについて解説する前に、通常の定期メンテナンスについて解説します。

 

通常の定期メンテナンスの内容は下記のような流れで行います。

 

【1】口の中の状態のチェック

歯垢や歯石が溜まっていないか、歯周病による歯ぐきの炎症がないかなどをチェックします。

 

インプラントを固定するネジのゆるみやインプラントの破損などがある場合は、ネジの締め直しや修理などを行います。

 

【2】かみ合わせのチェック

嚙み合わせが崩れて、インプラントに過剰な負担がかかっていないかを確認し、支障がないように調整します。

 

【3】レントゲン検査

レントゲンで口やあごを撮影し、あごの骨やインプラント体の状態を確認します。インプラント周囲炎などにより、あごの骨が減少していないかなど重要な異変についてもチェックします。

 

【4】歯磨き指導

磨き残しの多い場所を中心に、正しい歯磨きの仕方を教えてもらいます。

 

【5】PMTC

「PMTC」とは、歯科クリニックで専門家が専用の機器と磨剤を使用して行う歯石除去・歯面清掃のことです。

 

歯石除去では、通常のブラッシングでは取り除けない歯石を「スケーラー」と呼ばれる器具で取り除きます。

 

歯面清掃では、歯の表面に付着した歯垢や着色を回転式の器具とフッ化物を配合した研磨剤を用いて除去します。

 

歯科クリニックでしかできないメンテナンスとしては、インプラントに固定されている人工歯を一時的に外し、清掃する処置もあります。

 

定期メンテナンスの頻度は、最初の1年は3か月に1回ペース、次の年からは4〜6か月に1回ペースが一般的です。インプラントが自費診療だった場合は、メンテナンス費用も全額自己負担になります。

 

3.THPとはどんなメンテナンス方法?

THPとは、患者一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドの治療プログラムで、インプラント周囲炎や虫歯など口の中のトラブルを予防・治療するためのものです。口の中の状態を整えることで、全身の健康状態の改善にもつながります。

 

これまでのメンテナンスや治療では、一時的に口の中がきれいになったり虫歯が治ったりしても、根本的な原因は解決していません。

 

THPでは詳しい検査を行い、根本的な原因を突き止め、原因を取り除くための処置を実施。インプラント周囲炎や虫歯になりにくい口内環境へと整えます。

 

例えば、患者によってインプラント周囲炎や虫歯の原因となっている細菌は異なります。THPでは細菌を特定したうえで、適切にアプローチすることで効果的に細菌を減らし、リスクを軽減できます。

4.THPの流れ

THPのおおまかな流れは下記の通りです。

 

【1】口の中の細密検査

最適な治療をするために、口の中の状態を精密検査します。THPでは、以下のような検査をします。

 

・歯周組織検査

歯ぐきや歯を支えるあごの骨「歯槽骨(しそうこつ)」といった、歯周組織の状態を検査します。インプラント周囲炎や歯周病によってできる「歯周ポケット」と呼ばれる歯と歯ぐきの溝の深さを測る検査などを行います。

 

・位相差顕微鏡検査(いそうさけんびきょう)

生きている細菌や細胞を観察できる位相差顕微鏡を使い、口の中に存在する細菌の種類やおおよその数、活動の度合いなどを把握します。

 

・唾液検査

唾液の量や質、含まれる細菌の数などを調べ、インプラント周囲炎や虫歯などの病気のリスクを把握する検査です。

 

・口臭検査

口臭の主な原因は、インプラント周囲炎や歯周病や舌に付着した白い汚れ「舌苔(ぜったい)」、内臓です。口臭検査によって原因を突き止め、適切な治療につなげます。

 

・口腔内写真の撮影

口の中の写真を撮ることで、歯ぐきがどのくらい下がっているかや健康状態を視覚的に把握でき、治療による改善のプロセスの理解につなげます。

 

・プラーク付着検査

口の中にどのくらいプラーク(歯垢)が溜まっているかを把握することで、磨き残しが起きやすい場所がわかり、より効果的な歯磨きができるようになります。

 

【2】治療・ケア

主に下記のような治療・ケアを行います。

 

・PMTC

PMTCを行い、歯垢や歯石を徹底的に取り除きます。

 

・フッ素塗布

歯の表面にフッ素を塗ります。フッ素には、溶けた歯の表面を元の状態に戻す「再石灰化」の促進・歯の質の改善・虫歯への抵抗力の強化といった効果があります。

 

・口腔機能水による殺菌・洗浄

殺菌効果が高く、安全性の高い「口腔機能水」を使い、口の中の殺菌・洗浄を行います。

 

【3】服薬についての説明

症状によっては、口の中の細菌に作用する内服薬を服用する場合もあります。

 

【4】マウスピース作成のための型取り

3DSとは、マウスピースに薬剤を入れて装着し、歯ぐきに薬剤を浸透させることで、虫歯菌や歯周病菌に直接作用し、徹底的菌する治療です。3DSは自宅でも行え、徹底的に原因の細菌を減らせます。

5.THPのメリット

THPを受ける主なメリットを紹介します。

5‐1.インプラントや天然歯の寿命が伸びる

THPをすることで、インプラント周囲炎・歯周病・虫歯を効果的に予防できるため、インプラントや天然歯が長持ちします。

 

インプラントは感染に弱いため、インプラント周囲炎の進行スピードは非常に早いといわれています。THPによって原因を徹底的に取り除くのは、インプラント周囲炎の予防・治療に非常に効果的です。

5‐2.身体のダメージが少ない

THPは原因となる菌を徹底的に取り除くことで、歯ぐきにメスを入れるといった手術をせずに、インプラント周囲炎や歯周病を治療できます。手術と比べて身体の負担が大幅に軽く、痛みもほとんどありません。

5‐3.治療期間が短い

保険診療での歯周病治療は、治療方法が厳密に決められており、一人ひとりに合った治療は難しいでしょう。THPは、患者の状態に合わせて最適な治療ができるため効率が良く、短期間で治療が終わる傾向があります。

6.THPのデメリット

インプラントの寿命を伸ばせるなどメリットの多いTHPですが、デメリットもあります。

6‐1.対応している歯科クリニックが少ない

THPはまだ新しいメンテナンス方法のため、対応している歯科クリニックが少ないのが現状です。インプラント後のメンテナンスは、手術をした歯科クリニックで行うのが一般的です。インプラント治療を受ける段階で、THPに対応している歯科クリニックを選ぶのをおすすめします。

6‐2.費用がかかる

THPは、約1カ月の間に6〜8回ほど治療が必要です。短期間の治療が終わった後も、3カ月に1回メンテナンスが必要です。

 

インプラントや天然歯を失うリスクを考えると受ける価値は十分ありますが、費用の負担は小さくありません。

6‐3.セルフケアの手間がかかる

THPでは、日頃の歯磨きや3DSなどのセルフケアが非常に重要です。

 

インプラント治療後のセルフケアは、歯磨きやデンタルフロスなどでの清掃が主ですが、THPをすると3DSもしなければいけません。お手入れが苦手な方は、大変だと感じる可能性があります。

7.THPを受けて、インプラントを長持ちさせよう!

THPは、精密な検査に基づいたオーダーメイドのメンテナンスを行い、インプラント周囲炎や虫歯の原因を徹底的に取り除く治療法です。

 

インプラントや天然歯を長持ちさせられる、手術が不要で身体の負担が軽いなど大きなメリットがあります。

 

主なデメリットは、対応している歯科クリニックが少ない・費用がかかる・セルフケアがかかるの3点です。

 

デメリットはあるものの、インプラントと天然歯を守る効果的な方法なので、興味のある方は、対応している歯科クリニックに相談してみましょう。

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