天然の歯よりインプラントの方が、歯周病になりやすい?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「歯周病」は、歯ぐきが細菌感染し、炎症が起きる病気です。歯周病が悪化すると、歯が抜け落ちてしまう場合があります。

 

インプラントは、チタンなどでできた人工物であるインプラント体をあごの骨に埋め込み、人工歯を装着する治療法です。人工物のため虫歯にはなりませんが、歯周病になるリスクはあります。さらに、インプラント後の歯周病は、インプラントが使えなくなる主な原因のひとつでもあるのです。

 

この記事では、インプラント後の歯周病について詳しく解説しています。予防方法も合わせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

目次

1.歯周病ってそもそも何?

最初に歯周病がどのような病気なのか解説します。歯周病は、口の中にある歯周病菌が歯ぐきに感染し、炎症が起きることで起こる病気です。

 

歯周病菌はもともと口の中にいる細菌で、細菌や代謝物のかたまりである「歯垢」や歯垢とだ液が混ざって硬くなった「歯石」に大量に住みついています。

 

「歯周ポケット」と呼ばれる歯と歯の間の溝に歯垢や歯石が溜まり、歯周病菌が感染を起こし、炎症が発生します。最初は自覚症状がほぼありません。初めのうちは軽い赤みや腫れが見られる程度で、進行すると歯ぐきが破壊され、出血したり歯周ポケットが深くなったりします。

 

さらに進行すると「歯槽骨(しそうこつ)」と呼ばれる歯を支えるあごの骨が溶けていき、歯を十分支えられなくなり、最終的には歯が抜け落ちてしまう恐ろしい病気です。

 

8020推進財団が2018年に行った「第2回永久歯の抜歯原因調査」によると、歯を失う原因の上位3位は下記のとおりです。

 

・1位:歯周病:37.1%

・2位:う蝕(虫歯):29.2パーセント

・3位:破折(歯の割れ・折れ・ひび割れ)

 

厚生労働省によると、45歳以上の人の過半数が歯周病ポケットを持ち、全年齢層の人の約5割の人に歯ぐきからの出血が見られました。

 

歯周病は歯を失う最大の原因であるうえに、誰でもかかる可能性があるため、要注意です。

2.天然歯よりインプラントの方が歯周病になりやすい

インプラントは天然歯と比べて、歯周病のリスクが高いといわれています。インプラントの周囲の組織が歯周病菌に感染して起こる歯周病は「インプラント周囲炎」と呼ばれます。

 

インプラントが歯周病になりやすい理由は、「歯根膜(しこんまく)」がないからです。歯根膜とは、歯根と歯槽骨の間にある膜で、血液の供給などの役割を持っています。

 

インプラントは歯を失った部分に歯根の代わりとなるインプラント体を埋め込み、上から人工歯をかぶせて装着する治療法です。失った歯を補えても、歯根膜を補うことはできません。

 

インプラントには歯根膜がないので、天然歯と比べて血液の供給が少なくなり、歯肉の細菌への抵抗力が低下します。その結果、歯周病菌の感染リスクが高くなり、歯周病にかかりやすくなるのです。

3.インプラント後に歯周病になるとどうなるのか

インプラント後に歯周病になると、インプラントの周りの歯ぐきに軽い炎症が生じ、赤みや腫れが出ます。

 

症状が進むと炎症が強くなり、歯ぐきや歯槽骨が少しずつ破壊されていき、痛み・出血・膿などの症状が出ます。歯槽骨の量が減ることで、インプラント体を支えきれなくなりインプラントがぐらつくようになり、最終的には抜け落ちてしまいます。

 

抵抗力が低い分、進行スピードも早く、インプラント後の歯周病は通常の歯周病と比べ、10~20倍の速度で悪化するといわれるほどです。

 

また、インプラントは人工物なので歯周病が発生しても、痛みなどを感じにくく、気が付いた頃には、歯槽骨が大きく破壊されているケースもあります。

 

インプラントの平均寿命は、10~15年ほどと言われています。しかし、歯周病になった場合は、それよりもずっと早くインプラントが使えなくなるかもしれません。

4.インプラント後の歯周病の治療法

インプラント後に歯周病にかかった場合、そのままにしておくと、インプラントが抜け落ちて使えなくなってしまうので、早めに治療を受けましょう。主な治療法は下記のとおりです。

4-1.クリーニング

歯周病は感染症なので、まずは細菌を取り除き炎症をおさえる治療をします。なかでもじゅうようなのが、クリーニングです。

 

歯周病の原因となる歯垢・歯石を取り除くため、歯のクリーニングを徹底的に行います。歯周病菌が増えないよう、通常の歯磨きでは手入れが難しい歯周ポケットの中まで洗浄します。

4-2.口の中の殺菌・消毒

歯周ポケットに薬剤を入れて洗い流したり、殺菌・消毒効果のある薬剤でうがいしたりすることで、口の中の細菌を減らし、炎症の原因を取り除きます。

4-3.抗生物質

抗生物質とは、細菌の増殖をおさえたり殺したりする薬剤のことです。歯周ポケットに抗生物質を注入することで、炎症をおさえます。また、抗生物質を一定期間にわたり飲む場合もあります。

4-4ブラッシング指導

歯科クリニックでクリーニングしても、歯磨きなど毎日のお手入れが不十分だと、口の中に汚れが溜まり、歯周病の原因となります。歯科クリニックでブラッシング指導を受けて正しい歯磨きを身につけ、汚れをしっかり落とせるようになりましょう。

 

また、ブラッシング以外にも、食生活・睡眠・運動などに関して生活指導を受ける場合もあります。生活を整えることで、口内環境が良くなったり抵抗力が高まったりして、歯周病が改善する場合もあります。

4-5.切除療法

クリーニングなどを行っても症状が改善しない場合、汚れを取り除くために「切除療法」をすることがあります。切除療法では、薬剤でインプラント体の表面を消毒・殺菌し、専用の器具でインプラント体の表面を磨き、炎症している組織を切って取り除きます。

4-6.インプラントの除去・再治療

重度の歯周病により歯槽骨の破壊が進んでいる場合は、インプラントを取り除かなければいけません。そのまま骨の破壊が進むと、再びインプラントを入れることができなくなる可能性があります。

 

インプラントを再度埋め込む場合は、「再生療法」を行います。再生療法は歯周病によって失った歯ぐきや歯槽骨を回復する治療です。再生療法で歯ぐきや骨量を回復してから、再度インプラントを埋め込みます。

 

もし、症状が進みすぎてインプラントを再度埋め込めない場合は、入れ歯やブリッジといった他の方法で歯を補います。

5.インプラント後の歯周病を予防する方法

インプラントは天然歯と比べて歯周病にはかかりやすく、重症化すると撤去せざるを得なくなる可能性があります。主な予防方法を紹介するので、しっかり対策しましょう。

 

ここでは、代表的な予防法を紹介します。

5-1.インプラント手術前に歯周病治療をする

インプラント前にすでに歯周病が発症している場合は、まずは歯周病治療からスタートします。歯周病患者の口の中では歯周病菌が活発に活動しているため、治療をせずにインプラントを入れると周辺の歯ぐきに歯周病菌が感染し、炎症を起こすリスクが高いからです。

 

また、インプラント手術でできた傷口から細菌が侵入し、腫れ・痛み・膿などの症状が出る可能性もあります。

 

もし歯周病にかかっている場合は、歯科クリニックで歯垢・歯石を取り除くクリーニングなどの治療を受け、改善してからインプラント治療を始めます。

5-2.歯科クリニックで定期メンテナンスを受ける

歯周病は自覚症状があまりなく、発症しても初期のうちは気が付かないケースが少なくありません。また、インプラント後の歯周病は進行スピードが非常に早く、気が付いた時は歯ぐきやあごの骨の破壊が進んでしまっている可能性があります。

 

歯周病を早期発見・早期治療できるよう、インプラント後は、歯科クリニックの定期メンテナンスを必ず受けてください。

 

また、定期メンテナンスでは歯のクリーニングも行うため、歯周病の原因となる歯垢・歯石を取り除けます。特に歯石は通常の歯磨きで落とすのは難しいので、定期メンテナンス時に除去することが非常に重要です。

 

虫歯やインプラントの破損など歯周病以外のトラブルへの早期対応にもつながるので、定期メンテナンスは必ず受けるようにしましょう。

5-3.歯磨きなどのセルフメンテナンスを徹底する

口の中の汚れは日々蓄積されるため、歯周病を予防するにはセルフメンテナンスが非常に大切です。正しい磨き方・頻度で歯を磨くようにしましょう。

 

また、デンタルフロスや歯間ブラシで、通常の歯ブラシでは届きにくい歯と歯の間の隙間を掃除するのも効果的です。デンタルフロスは糸状なので狭い歯の隙間に、歯間ブラシは広めの歯の隙間に適しています。

5-4.禁煙する

喫煙は歯周病に大きな影響を及ぼすので、なるべく避けましょう。タバコに含まれる成分が原因で、歯垢や歯石が付着しやすくなり、歯周病にかかりやすくなります。また、タバコの有害成分によって免疫力が低下し、感染リスクが高まったり炎症の進行が早くなったりします。

 

さらに、タバコに含まれるニコチンの血管収縮作用によって、歯周病の症状である歯ぐきの腫れや出血が生じにくくなり、歯周病の発見が遅れるのも大きなリスクです。

 

歯周病以外にもインプラントとあごの骨の結合を妨げるなど、タバコはインプラント治療にさまざまな悪影響を及ぼします。インプラント治療を決めたタイミングで、なるべく禁煙するのをおすすめします。禁煙が難しい場合は、吸う本数を減らす・禁煙外来に通うといった方法もあります。

6.インプラントは歯周病になりやすい!しっかり予防して長持ちさせよう

歯周病は、歯周病菌が感染して炎症が起こる病気で、悪化すると歯ぐきや歯槽骨が破壊されます。

 

インプラントは、天然歯であれば歯根と歯槽骨の間に存在する歯根膜がないため、歯周病のリスクが高いといわれています。インプラント後に歯周病になった場合、クリーニングや抗生物質の服用、切除療法などの治療をします。しかし、最悪の場合はインプラントを撤去しなければいけません。

 

インプラント後の歯周病を予防するには、歯周病を治療してから手術を受ける・歯科クリニックで定期メンテナンスを受ける・歯磨きなどの定期メンテナンスを徹底するといった方法があります。

 

しっかり予防してインプラントを歯周病から守り、長持ちさせましょう。

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