
- この記事の監修者
- 医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラントについて調べていると、「広範囲顎骨支持型装置」という言葉が登場することがあります。聞き慣れない言葉ですが、一体どのようなものなのでしょうか。
広範囲顎骨支持型装置は、保険適用のインプラントのことを指します。「インプラント=自由診療」のイメージがありますが、限られたケースでは保険適用されるのです。
この記事では、広範囲顎骨支持型装置による治療について、保険が適用される条件やメリット・デメリットなど詳しく解説します。
目次
- 1.広範囲顎骨支持型装置とは
- 2.広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けられる条件とは
- 2‐1.症例
- 2‐2.医療機関
- 3.広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けるメリット
- 3‐1.噛む機能を取り戻せる
- 3‐2.見た目を回復できる
- 3‐3.治療費をおさえられる
- 4.広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けるデメリット
- 4‐1.限られた医療機関でしか受けられない
- 4‐2.治療の難易度が高い
- 4‐3.治療方法の制限が多い
- 5.広範囲顎骨支持型装置は保険適用のインプラント!
1.広範囲顎骨支持型装置とは

インプラント治療とは、病気・事故・虫歯・歯周病などが原因で失った歯を補う治療法です。人工歯根であるインプラント体をあごの骨に埋め込み、人工歯を装着します。
広範囲顎骨支持型装置は、あごの骨が大幅に欠損している場合に使用する保険適用のインプラントのことです。
一部のインプラント治療は2012年3月31日まで、「先進医療」として承認されていました。先進医療とは、厚生労働大臣が承認した将来的に公的保険の導入が期待される医療技術のことで、保険は適用されません。
2012年4月1日からは、ごく一部の症例に対するインプラント治療は、保険診療として認められ、3割負担で治療が受けられるようになりました。
それに伴い従来の保険適用外の診療で入れるインプラントと区別をするために、保険診療で使用するインプラントは広範囲顎骨支持型装置と呼ぶようになりました。
保険診療で行われるインプラント手術は、「広範囲顎骨支持型装置埋入手術」と呼ばれます。
2.広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けられる条件とは

インプラント治療に健康保険を適用するにあたって、症例や治療を受ける医療機関について厳しい条件が設けられています。詳しく紹介します。
2‐1.症例

健康保険は、病気やけがの治療に最低限必要な治療に対して適用されます。そのため、広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けられるのは、下記のようなケースで入れ歯やブリッジなど他の治療法では噛む機能が回復できない場合に限定されています。
【1】腫瘍・顎骨骨髄炎(がくこつずいえん)などの病気・外傷などが原因で、広い範囲(※)にわたりあご骨を失っている。または、失ったあごの骨が骨移植などによって再建されている症例である
【2】生まれつきの病気である先天性疾患や骨の形成不全によって、広い範囲にわたりあごの骨が欠損している
※広範囲の定義
上あご:あごの骨の約1/3以上が連続して欠損している、または上顎洞(じょうがくどう)または鼻腔(びくう)につながっていると診断されている場合を指します。
下あご:あごの骨の約1/3以上が連続して欠損していると診断された、または下あごを切除した場合を指します。
適用される代表的なケースは下記の通りです。
・口腔がんの切除手術であごの骨や歯ぐきなど広範囲の組織を失った
・口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)など先天性の病気であごの骨・歯が欠損している
加齢・虫歯・歯周病などが原因で歯を失った場合、上記の条件を満たさないため、保険は適用されません。保険適用にあたるかどうかは、歯科医師の診断に基づいて判断します。
2‐2.医療機関

広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けるには、下記のすべての条件を満たしている医療機関で治療を受けなければいけません。
【1】歯科または歯科口腔外科を設置している保険医療機関であること
【2】歯科・歯科口腔外科での経験が5年以上ある、またはインプラント治療の経験が3年以上ある常勤の歯科医師が2名以上いること
【3】病院(入院用ベッドが20床以上ある医療機関)であること
【4】夜勤や休日に医師が対応できるよう当直体制が整備されていること
【5】医療機器の保守管理や医薬品に対する安全確保のための体制が国の定めた通りに整備されていること
これらの条件をすべて満たせる医療機関は、大学病院や規模の大きな病院の歯科・口腔外科などごく一部です。インプラント治療に対応していても、一般の歯科クリニックでは受けられません。
「どの病院に行っていいのかわからない」、「この治療は保険適用の対象となるのか」などの悩みや疑問があれば、お近くの歯科医院やかかりつけの歯科医師に相談してみるとよいでしょう。
3.広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けるメリット

保険が適用されるインプラントである広範囲顎骨支持型装置によって治療を行う、主なメリットを紹介します。
3‐1.噛む機能を取り戻せる

広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けられる患者は、あごの骨が広範囲にわたって失われているため、噛む機能も大きく損なわれています。そのため、食事にも制限が生じる場合が少なくありません。
インプラントを入れて噛む機能を大きく回復することで、硬いものや弾力のあるものなど噛む力が必要な食材も避ける必要がなくなり、食べる喜びを十分に味わえるようになります。
3‐2.見た目を回復できる

インプラントの大きなメリットのひとつは、天然歯と同じように歯ぐきから歯が生えているように見えるため、自然な仕上がりである点です。
広範囲顎骨支持型装置埋入手術やあごの骨を再建する手術などを受けることで、見た目を大幅に回復できるでしょう。広範囲にわたるあごの骨の欠損がある患者は見た目に関する悩みが起きやすいので、広範囲顎骨支持型装置による治療は非常に効果的です。
3‐3.治療費をおさえられる

保険が適用されない場合、インプラントは1本あたり30万~40万円かかります。広範囲顎骨支持型装置埋入手術の対象となる患者は、多くの歯が欠損しており、必要なインプラントの本数も多い傾向にあります。そのため、保険適用になる前の金銭的な負担はかなり大きかったと考えられます。
広範囲顎骨支持型装置埋入手術が保険適用になる前は、民間の医療保険に任意で付加する「先進医療特約」の保障対象になっており、給付金が払われていました。
しかし、民間の保険に全ての患者が加入しているわけではありません。金銭的な理由から、広範囲顎骨支持型装置埋入手術を諦めた患者も多かったと考えられます。
保険適用になったことで、3割負担で手術を受けられるのは、非常に大きなメリットだといえるでしょう。
4.広範囲顎骨支持型装置埋入手術を受けるデメリット

噛む機能や見た目を大きく回復でき、自由診療のインプラント治療よりも金銭的な負担が少ない広範囲顎骨支持型装置埋入手術。しかし、気をつけるべきデメリットもあります。
4‐1.限られた医療機関でしか受けられない

自由診療のインプラントの場合、インプラント対応ができる医療機関であれば、どこでも治療が受けられます。規模の小さい歯科クリニックでも治療してもらえるため、選択肢が豊富です。
しかしご紹介したように、インプラントの保険適用は、さまざまな条件を満たした医療機関で治療を受けないと認められません。患者が住むエリアによっては、遠方の病院に通院しなければならないなど、大きな負担となります。
4‐2.治療の難易度が高い

インプラントが保険適用になる患者は、広い範囲のあごの骨・歯・歯ぐきなどが欠損しているため、広範囲顎骨支持型装置埋入手術以外にもさまざまな処置が必要になる可能性が高いでしょう。そのため、一般的なインプラント治療と比べて、難易度が高い治療になりやすい傾向にあります。
広範囲顎骨支持型装置埋入手術に伴い、必要となる代表的な処置には、「骨造成」があります。インプラントは、あごの骨に埋め込んだインプラント体とあごの骨が固く結合することで、高い安定性を実現する治療法です。しかし、広範囲顎骨支持型装置による治療を受ける患者のなかには、あごの骨量が不足している人も少なくありません。そこで、骨造成によってあごの骨量を十分に回復してから、インプラント体を埋め込みます。
骨造成を受ける場合、外科手術が必要である・治療期間が長くなる・治療費がさらにかかるといったデメリットがあります。
広範囲顎骨支持型装置による治療を受ける場合は、治療方針や詳しい内容をしっかり説明してもらい、納得したうえで進めましょう。
4‐3.治療方法の制限が多い

保険診療は、病気やけがから回復するための最低限の範囲の治療のみ行うという原則があります。そのため、治療方法・薬剤・使用する素材などに対し、厳しいルールが定められています。
例えば、検査は必要最小限の回数で行う・厚生労働大臣が決めた医薬品以外は使えない・広範囲顎骨支持型装置をつくる際に決まった素材しか使用できないといった決まりがあるのです。
保険診療で定められているよりも精密な検査を受ける場合や、より質の高い素材で広範囲顎骨支持型装置をつくる場合などは、保険適用になりません。治療費は、全額自己負担になります。
症状や希望の仕上がりによっては、全額自己負担で治療を受けた方が満足のいく結果になるかもしれません。歯科医師とよく話し合って見積もりを出してもらい、自分にとってベストな治療法を選びましょう。
5.広範囲顎骨支持型装置は保険適用のインプラント!

保険適用の治療で使用するインプラントは、広範囲顎骨支持型装置と呼ばれます。保険適用にできるのは、先天性・後天性の病気やケガなどであごの骨が大幅に欠損していて、入れ歯やブリッジでは機能を回復できない症例に限られています。虫歯・歯周病による歯・あごの骨の欠損など、ほとんどの場合は保険適用になりません。
広範囲顎骨支持型装置による治療は、費用負担をおさえつつ噛む機能や見た目を大幅に回復できます。しかし、ごく一部の病院でしか対応できない・治療の難易度が高い・治療方法の制限が多いといったデメリットがあります。
保険適用で治療ができるかは、実際に歯科医師の診察を受けないとわかりません。まずはかかりつけの歯科医師や近くの歯科クリニックに相談し、必要に応じて保険診療に対応できる病院を紹介してもらうとスムーズです。









