インプラントって、歯石つきますか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

インプラントは、歯根の代わりにインプラント体を埋め込み、人工歯を装着して歯を補う治療法です。

 

人工物なので「インプラントには歯石がつかない」「あまりメンテナンスしなくても大丈夫」といったイメージがあるかもしれません。

 

しかし、インプラントにも歯石はつきますし、長持ちさせるには日々のお手入れが不可欠です。ケアが不十分だと、歯石がつくだけではなく、インプラントの脱落など重大なトラブルを引き起こす可能性があります。

 

この記事では、インプラントに歯石がつく原因・歯石によって起きる主なトラブル・歯石がつかないようにする方法について解説します。

目次

1.インプラントにも歯石はつく!原因を解説

結論から言いますと、インプラントにも歯石はつきます。

 

歯石は、歯垢がだ液によって石灰化し、石のように硬くなったものです。歯垢は細菌が食べかすの糖分を餌にして増殖したもので、歯の凹凸のある部分に溜まり、およそ2週間で歯石になります。

 

歯垢が歯石に変化する流れは、下記の通りです。

 

【1】歯磨きなどで取り除き切れなかった汚れが、歯垢となり歯の表面に付着します

【2】歯垢に含まれる細菌とだ液に含まれるカルシウムやリンなどの成分が結合し始めます

【3】歯垢とカルシウムやリンなどが結合し、歯石が徐々にできていきます

【4】歯石がだんだんと固くなり歯の表面に強く付着します

 

インプラントの場合は、上部構造である人工歯の部分や人工歯と歯ぐきの間に歯垢が付着し、歯石に変化します。人工歯によく使用されるセラミックは、耐久性に優れている素材です。しかし、長い間使っているうちに表面に小さな傷ができ、そこに細菌が溜まり歯垢が付着します。

 

歯石は非常に硬いため、通常の歯磨きでは取り除くことはできません。歯科クリニックのクリーニングで、機械的に除去する必要があります。

 

クリーニングでは、インプラント体を傷つけないよう、プラスチックやチタンでできた「プローブ」と呼ばれる器具を使用して歯石の有無を確認します。その後、「超音波用スケーラー」や「手用スケーラー」を使い、歯石を取り除きます。

2.インプラントに歯石がつくことによる悪影響とは

インプラントは人工物なので、歯石がたまっても虫歯のリスクはありません。しかし、下記のような悪影響があるため、歯石がたまらないようケアしましょう。

2-1.インプラント周囲炎によってインプラントを失う

インプラント周囲炎とは、歯周病菌がインプラントの周りの歯ぐきに感染し、炎症を引き起こす病気です。

 

歯周病と良く似ており、最初は歯ぐきに赤みや軽い腫れが出る程度ですが、次第に出血や膿が見られるようになります。炎症が進むと歯ぐきやあごの骨が破壊され、インプラント体を支えきれずぐらつくようになり、最終的にはインプラント体が抜け落ちてしまいます。

 

インプラントには、あごの骨の間にある「歯根膜(しこんまく)」と呼ばれる膜がありません。そのため、天然歯と比べて血液の供給が少なく、免疫力が弱まり、歯周病菌に感染するリスクが高いといわれています。さらに、病気の進行スピードも早い点が特徴です。

 

インプラントには神経が通っていないため、症状が悪化しても痛みなどの異変に気づきにくく、気がついた時には重症化している可能性が高いでしょう。

 

そのため、インプラント周囲炎は、インプラントを失う主な原因の1つだといわれています。

2-2.天然歯の虫歯や歯周病のリスクが高まる

歯石の表面はざらざらしているため、歯石が付着した場所は歯垢が溜まりやすい状態です。また、人工歯に付着した歯石を取り除く際に小さな傷ができるため、さらに歯垢や歯石が付着しやすくなります。

 

一度インプラントに歯石が溜まると、どんどん歯垢・歯石が付着しやすくなる悪循環に陥る可能性が高いでしょう。

 

歯石が溜まっても、インプラントそのものは虫歯になりません。しかし、周りの天然歯は虫歯になる可能性があります。口内の歯垢・歯石が増えることで、虫歯菌や歯周病菌が増殖し、天然歯の虫歯や歯周病のリスクが高まります。最悪の場合は、天然歯を失ってしまうので注意が必要です。

2-3.口臭の原因になる

インプラントについた歯石が原因で、口臭が発生する場合があります。

 

細菌が歯垢をつくる過程で腐敗が起き、硫化水素などのガスが発生します。このガスは「玉ねぎや卵が腐ったような臭い」と例えられる悪臭を放ち、口臭の原因となります。口の中に歯石がたくさんあると歯垢が増えやすくなります。

 

また、歯石が歯ぐきの周辺に溜まることで刺激となり、出血を起こします。歯ぐきが出血すると、血の生臭さとだ液・食べ物の臭いが混ざり、口臭が発生します。さらに、炎症が悪化すると膿が出て、強い臭いがすることも少なくありません。

2-4.噛み合わせが乱れる

インプラント周囲炎や歯周病が原因で歯を支えるあごの骨が破壊されると、噛み合わせが乱れる可能性があります。

 

噛み合わせが乱れると、インプラントに過剰な負担がかかり破損してしまうかもしれません。

 

また、噛み合わせが乱れた状態が長く続くと、顔の左右のバランスが変わるなど見た目に影響する可能性があります。

3.インプラントに歯石がつかないようにする方法

インプラントに歯石がつくことで、インプラント周囲炎や天然歯の虫歯・歯周病、口臭などのトラブルが起きる場合があります。

 

歯石がつかないようにする方法を紹介するので、予防の参考にしてください。

3-1.正しい方法で歯磨きをする

歯石ができるのを防ぐには、正しい歯磨きをして、歯石のもととなる歯垢や汚れを取り除くことが大切です。正しい歯磨きの主なコツは下記の通りです。

 

・親指・人差し指・中指を使いペンのように持つ

・歯ブラシの毛先を人工歯にあてて小刻みに動かして磨く

・歯垢が溜まりやすい歯ぐきと人工歯の境目は歯ブラシを45度に傾けて磨く

・歯の裏側や歯が重なっている部分など歯石ができやすい場所は特に重点的に磨く

 

インプラント治療を受けた歯科クリニックで、ブラッシング指導を受けると、より効率的な磨き方を身に着けられます。

3-2.デンタルフロスや歯間ブラシを使用する

正しい方法で歯磨きをしたとしても、ある程度は歯垢が残ってしまいます。特に歯と歯のすき間の歯垢を取り除くのは難しいものです。

 

そこでおすすめなのが、デンタルフロスや歯間ブラシです。デンタルフロスは細い糸状のケア用品で、狭いすき間の掃除に適しています。歯間ブラシは、持ち手に小さなブラシがついたもので、ある程度広い歯と歯のすき間や歯と歯ぐきの間の溝の手入れがしやすい道具です。

 

歯ブラシだけで手入れをするよりも歯垢を多く取り除け、歯石がつきにくくなります。

3-3.歯垢染色液で磨き残しを確認する

歯垢染色液は、赤色の液体で歯垢を染める効果があります。子どもの頃に、歯科クリニックや学校健診で歯を赤く染めた経験がある方も多いと思いますが、その時に使用した液体が歯垢染色液です。

 

歯垢は歯と同じく白なので、磨き残しがあっても気がつきにくいものです。歯磨き後に歯垢染色液を使用すれば、歯垢が残っている場所(=磨き残しがある場所)がわかります。磨き残しが出やすい場所を意識してブラッシングを練習することで、効率的に磨けるようになります。

 

歯科クリニックやドラッグストアで販売しているので、気になる方は使ってみましょう。

3-4.定期メンテナンスに通う

歯磨きやデンタルフロス・歯間ブラシによる掃除などセルフケアをしていても、全ての歯垢を取り除くことはできません。インプラントの定期メンテナンスに行き、クリーニングしてもらい、歯石が溜まらないようにしましょう。

 

クリーニングだけではなく、インプラントの状態・インプラント周囲炎・噛み合わせなどのチェックも受けられます。

 

多少歯石がついていても、定期メンテナンスに通っていれば、インプラント周囲炎などの予防・早期発見・対策ができます。インプラント体の脱落といった大きなトラブルを防ぐことができ、インプラントを長く快適に使えます。

3-5.禁煙する

タバコをすうと、タール(ヤニ)がだ液の成分と結びついて歯に残ります。タールは粘着性が強く、食べかすや細菌が付着しやすいため、歯垢が蓄積する原因となります。

 

タールは通常の歯磨きでは、取り除けません。タバコを繰り返しすうと、タールが歯に蓄積し、歯石のもととなる歯垢が溜まりやすい口内環境になり、歯石が増えてしまいます。

 

タバコには、他にも傷口の回復を妨げる・免疫力を低下させる・インプラント体とあごの骨の結合を遅らせるなど、インプラントにとって多くのデメリットがあります。インプラント治療を受けるのであれば、禁煙するようにしましょう。

3-6.食生活を整える

細菌のエサとなる糖分を多く含む甘いものを食べすぎると、歯石ができやすくなります。ジュースなど甘い飲み物にも注意が必要です。

 

やわらかいものや粘り気のあるものも、歯石ができるリスクが高い食品だといわれています。歯と歯の間などに詰まりやすく、磨き残しが起き、歯垢がつきやすいためです。

 

また、食事や間食の時間を決めずにだらだら食べ続けると、常に食べかすが口の中にある状態になり、歯石のもとになる歯垢が口の中に溜まりやすくなります。

 

甘いもの・やわらかいもの・粘り気のあるものを控える、食事・間食の時間を決めるなど、食生活を整えましょう。

4.インプラントにも歯石はつく!しっかり対処しよう

インプラントは人工物ですが、天然歯と同じく歯石がつきます。

 

歯石が溜まることによる悪影響は、インプラント周囲炎によって歯を失う・.天然歯の虫歯や歯周病のリスクが高まる・.口臭の原因になる・噛み合わせが乱れるなどです。

 

歯石がつくのを防ぐには、正しい方法で歯磨きをする・デンタルフロスや歯間ブラシを使う・歯垢染色液で磨き残しを確認する・定期メンテナンスに通う・禁煙する・食生活を整えるといった対処法が効果的です。

 

歯石対策をしっかり行い、インプラントを長持ちさせましょう。

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