インプラント周囲炎の治療として、ヤグレーザーを使用

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「インプラント周囲炎」は、インプラントが使えなくなる主な理由のひとつです。そのため、インプラント周囲炎と診断されたら、すぐに治療をスタートしなければいけません。

 

数あるインプラント周囲炎の治療のなかでも、特に注目を集めているのが「ヤグレーザー」と呼ばれるレーザー治療です。

 

この記事では、インプラント周囲炎と一般的な治療法をおさらいしつつ、ヤグレーザーについて詳しく解説します。インプラント周囲炎からインプラントを守るために、ぜひチェックしてください。

目次

1.インプラント周囲炎ってそもそもどんな病気?

インプラント周囲炎とは、インプラントの周囲にある歯ぐきなどの歯周組織が歯周病菌に感染して発症する病気です。歯周病と非常に良く似た病気で、最初は歯ぐきが軽い炎症を起こし、腫れ・赤みが出る程度です。

 

しかし、症状の進行に伴い、歯ぐきやあごの骨が破壊され、出血・膿などが見られるようになります。あごの骨の破壊が進むと、インプラント体を支えきれずにぐらつくようになり、最終的には抜け落ちてしまいます。

 

インプラント周囲炎は、歯周病と比べて進行スピードが非常に早く、気がついた時には手遅れになっているケースも少なくありません。そのため、インプラントが使えなくなる主な原因のひとつにもあげられています。

 

インプラント周囲炎の原因は、細菌のかたまりである歯垢と歯石が時間の経過によって固くなった歯石です。歯垢や歯石が付着したままの状態が続くと、歯周病菌が増殖し、感染リスクが高まります。

 

歯ぐきが破壊されると、歯と歯ぐきの間の溝である「歯周ポケット」が深くなっていき、さらに歯垢・歯石が溜まりやすくなり、インプラント周囲炎が進行します。

 

インプラント周囲炎の治療・予防で大切なのは、歯垢・歯石を取り除き、除菌することです。

2.インプラント周囲炎の主な治療方法

ヤグレーザーについて解説する前に、インプラント周囲炎の一般的な治療法について解説します。

2-1.歯垢・歯石の除去

インプラント周囲炎の治療で一番重要なのは、口の中の歯周病菌を減らすことです。歯科クリニックでクリーニングを受けて歯石・歯垢を除くことで、歯周病菌の数が減り、感染リスクを下げられます。

 

特に歯石は非常に固いため、通常のブラッシングでは取り除けません。歯科クリニックで「スケーラー」と呼ばれる専用の器具を使って除去する必要があります。

2-2.薬による治療

歯周ポケットに存在する歯周病菌を取り除くため、抗菌薬を使用します。また、うがい薬を使って口全体の殺菌も行い、歯周病菌の数を減らします。

2-3.フラップ手術

歯周ポケットの深いところに歯石がたまると、器具が届かない・器具は届くけど除去できないといった状態になります。また、歯石を取り除いても歯ぐきの炎症がおさまらず、歯周ポケットが改善されないケースも少なくありません。

 

そういった場合は「フラップ手術」を行います。フラップ手術とは、歯ぐきを切り開いて歯根やインプラント体をむき出しにし、表面についた歯垢・歯石などの汚れを徹底的に取り除き、健康的な状態にする治療法です。炎症で破壊された歯肉などの歯周組織を取り除く処置も行います。

 

フラップ手術は、一時間程度で終わるということもあり、インプラント周囲炎の治療法として広く行われています。

3.ヤグレーザーとはどんな治療

日本で認可されているレーザーのなかでも、インプラント周囲炎の治療効果が高いといわれているレーザーです。器具の先端から水をスプレーのように治療箇所に噴きつけ、冷却しながら照射します。インプラント周囲炎の患部に照射することで、歯垢・歯石の除去や殺菌、炎症の緩和などができます。

 

ヤグレーザーの光は水に激しく反応する性質を持っていて、人間の身体にあてても熱の発生は少なく痛みをおさえられます。さらに、他のレーザーと比べて組織の深いところまで影響が及びにくいのも特徴です。そのため、歯ぐきを傷つけずにインプラント周囲炎を治療できる安全性の高い治療法です。

4.ヤグレーザーによる治療のメリット

インプラント周囲 炎の治療に、ヤグレーサーを使用する主なメリットを紹介します。

4-1.痛みが少ない

レーザー治療は痛いと思われがちですが、実際にはほぼ痛みを感じません。痛みに弱い患者の場合は輪ゴムで弾かれたような感覚がする場合もありますが、一般的な歯石除去よりも痛みが少ないのが特徴です。

特にヤグレーザーは、光が水に吸収されるため、熱によるダメージを最小限におさえられ、麻酔を使わなくても治療できるほどです。

 

妊娠中や持病があるなどの理由で、歯石除去の痛みが気になるけれども麻酔を打てない患者にとって、メリットが大きいといえるでしょう。

4-2.身体への負担が少ない

フラップ手術の場合、歯ぐきの切開や縫合を行うので、出血や手術後の腫れなど身体への負担があります。

 

ヤグレーザーであれば、出血が非常に少ないため、負担を最小限におさえられます。さらに、歯ぐきや天然歯へのダメージもほぼなく、安全性の高い治療法です。

 

切開を伴わないため治療時間が短く、治療した場所の回復も比較的早い点もメリットです。

4-3.インプラント体の複雑な構造に対応できる

インプラント体のあごの骨に埋め込む部分は、ネジのような構造をしており、骨と結合しやすいよう表面がザラザラしています。そのため、歯垢・歯石が一度付着すると、なかなか取れません。

 

ヤグレーザーは、歯石除去に使用するハンドスケーラーよりも深い場所まで届き、歯垢・歯石もしっかり落とせます。また、ザラザラした部分に入り込んだ細菌もしっかり除去できます。

4-4.殺菌作用がある

ヤグレーザーには殺菌作用があり、歯周病菌をはじめとする歯周ポケット内の細菌を取り除くことができます。歯周病菌が分泌する毒素を除去することで、炎症や痛みがおさまります。

 

インプラント周囲炎の原因である歯周病菌の数を大幅に減らせるため、治療を続ければ歯ぐきが健康を取り戻していきます。また、傷の治りを促進する作用もあるため、消炎剤や抗生物質などの薬剤の使用をおさえられます。

 

また、殺菌作用により今後のインプラント周囲炎や虫歯を予防できるのも大きなメリットです。

4-5.不快な音や振動がない

歯のクリーニング時の音や振動が苦手な方も多いのではないでしょうか。ヤグレーザーは、他の治療法と比べ治療中の音や振動が少ないため、不快感があまりありません。歯科治療に恐怖心や苦手意識がある患者も、快適に治療を受けられます。

5.ヤグレーザーによる治療のデメリット

ヤグレーザーはメリットの大きい治療法ですが、気をつけるべきデメリットも存在します。代表的なものを紹介します。

5-1.治療できる歯科クリニックが限られている

ヤグレーザーは、比較的新しい治療法のため、導入している歯科クリニックはまだまだ少ないのが現状です。そのため、治療できる歯科クリニックを見つけるのに苦労するかもしれません。

 

また、インプラント治療後の定期メンテナンスは基本的にインプラント手術を受けた歯科クリニックで行います。インプラント手術を受けた歯科クリニックがヤグレーザーに対応していない場合、定期メンテナンスとインプラント周囲炎の治療を別の歯科クリニックで受けることになり、通院などの手間がかかります。

5-2.重度のインプラント周囲炎は治療できない

ヤグレーザーは、歯周ポケットのある程度深い位置までアプローチできる治療法です。しかし、入り組んだ場所の場合はレーザーの光が届かず、殺菌しきれない可能性があります。

 

その場合はフラップ手術などの外科的な治療や破壊された骨を再生する「骨造成」などの治療が必要です。

5-3.副作用のリスクがある

ヤグレーザーは安全性が高い治療法ですが、副作用のリスクもあります。代表的な副作用として知られているのが、「知覚神経麻痺」です。下あごを通る神経は熱による影響を受けやすく、レーザーによる熱に刺激され、顔の皮膚や口の中の粘膜、さらに人間の五感である視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の働きに麻痺が起きる可能性があります。

 

ただし、ヤグレーザーは他のレーザーよりも熱によるダメージが少ないため、リスクは低めです。

 

万が一、知覚神経麻痺を起こしたとしても、薬物療法などの治療法があるので、心配な方はあらかじめ歯科医師と相談しましょう。

 

また、レーザーの出力が大きすぎる・冷却のための注水スプレーが不十分であるといった場合は、歯ぐきや天然歯の歯根面が損傷するリスクがあります。

 

適切にレーザーを照射するには、専門的な経験・知識が不可欠です。ヤグレーザーによる治療実績が多い歯科クリニックで治療を受けましょう。

5-4.治療を受けられないケースがある

「クロルへキシンアレルギー」「​無カタラーゼ症」の患者は、けいれんや意識障害、口の中がひどく荒れる、壊死するといったリスクがあるため、レーザー治療を受けられません。

 

また、光による視覚的な刺激に異常な反応を示す光感受性発作の患者も、レーザー治療は不可です。

6.ヤグレーザーでインプラント周囲炎を治療するメリットは大きい!

インプラント周囲炎は、歯周病菌がインプラント周辺の歯ぐきに感染することで起こる病気です。重症化するとあごの骨が破壊され、インプラント体が抜け落ちて使えなくなってしまうケースもあります。

 

インプラント周囲炎の主な治療法は、歯のクリーニングによる歯垢・歯石の除去、薬による治療、フラップ手術です。

 

ヤグレーザーは、痛みや身体的な負担が少ない・インプラント体の複雑な構造に対応できる・殺菌作用があるなどメリットが大きい治療法です。治療できる歯科クリニックに限りがあるなどのデメリットはありますが、効果的な治療法なので、検討する価値は十分あります。

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