インプラント治療をする際はタバコの「禁煙」が必要ですか?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

目次

1 なぜインプラント治療は禁煙が必要なのか?

インプラント治療で禁煙が必要な理由は、タバコによる口のトラブルが多いからです。

タバコは特に次のようなトラブルの原因になります。

 

歯周病

着色

口臭・口腔ガン

 

それぞれを詳しく解説していきます。

1-1:歯周病

まず、歯周病とは歯茎の病気のことです。

歯周病になる仕組みは、歯周病菌が歯茎の中に侵入して、歯を支えている骨を溶かしていきます。

 

骨が溶けて失われると、歯は支えが無くなりグラグラするようになります。

歯周病が進行している場合には、歯が自然に抜けたり、抜歯をする処置が必要になったりします。

 

では、歯周病とタバコにどんな関係にあるかというと、タバコが歯周病になりやすい環境を作り出しているのです。

 

タバコの成分であるニコチンによって、口の中は渇いた状態になり、唾液が出にくくなります。

唾液には自浄作用の効果があって口の中を綺麗にしたり、細菌が増えたりしないようにする働きがあります。

 

しかし、ニコチンの影響で唾液の量が少ないと自浄作用の効果が発揮されずに、口の中の細菌が増えやすい状態になり、歯周病菌も数を増やして歯茎に侵入していくので、歯周病を引き起こしやすくなります。

 

さらに、タバコの作用で歯茎の反応が悪くなっているので、歯周病になっていることに気づきにくく、異変を感じた頃には、歯周病が進行している場合が多いです。

1-2:着色

タバコのヤニで歯が黒っぽくなるのは、自分の歯だけでなく、インプラントの被せ物も同様です。

ヤニが付着しにくいように、被せ物も工夫していますが付着しない訳ではありません。

 

また、ヤニは歯だけでなく、歯茎にも付着します。

ヤニが色素沈着の原因を引き起こし、黒い色の歯茎になります。

 

ヤニは、付着した歯や歯茎の表面をザラザラした状態にするので、汚れや細菌が溜まりやすい状態を作る原因になるのです。

 

1-3:口臭・口腔ガン

タバコは、口臭や口腔ガンになるリスクを高くします。

唾液が少なくなった口の中は、細菌がどんどん数を増やしていきます。

 

細菌は数を増やしながら、口臭の原因になる物質も一緒に生み出しているので、口臭がきつくなったり、味覚異常を起こしたりすることがあります。

 

また、タバコには発がん性物質が含まれていて、口の中の病気になる可能性があります。

特に歯茎、舌、粘膜などの柔らかい組織にタバコの有害物質が吸収されるため、口腔ガンや粘膜の病気を引き起こす可能性があるのです。

2 タバコによるインプラントの「デメリット」

タバコを吸っていることで、治療中に起こるデメリットが次の5つです。

インプラントの失敗率が高くなる

インプラントと骨の結合がしにくい

インプラント周囲炎になりやすい

細菌感染のリスクが高くなる

治療期間が長くなる

 

それぞれについて詳しく解説していきます。

 

2-1:インプラントの失敗率が高くなる

喫煙者がインプラント治療をすると、インプラントの失敗率が高くなることが論文で発表されています。

数字にすると、タバコを吸っている人は、吸っていない人に比べて約3.7倍の確率で失敗するという結果です。

 

特に、下顎に比べて、上顎の骨の方が柔らかくタバコの影響を受けやすいため、上顎にインプラントを入れた場合の方が、失敗する確率が高くなるという報告があります。

2-2:インプラントと骨の結合がしにくい

インプラント治療は顎の骨の中にインプラントを埋めて、その上に被せ物を取り付けることで歯の機能を回復させる治療法です。

 

インプラント治療で重要なのが、骨とインプラントの結合です。

骨とインプラントが密接にくっつくことで、骨にインプラントが固定され、しっかりと噛むことが可能になります。

 

しかし、タバコを吸っていると、血液の流れが悪くなるので、骨とインプラントの結合が上手くいかないことがあります。

 

最悪の場合には、インプラントと骨が結合せずに、インプラントを撤去することもあるのです。

2-3:インプラント周囲炎になりやすい

インプラントは虫歯にはなりませんが、歯周病にはなります。

それがインプラント周囲炎と呼ばれる病気です。

 

インプラント周囲炎は、インプラントの周りの歯茎が炎症を起こします。

軽い炎症では、歯茎が腫れる程度で済みますが、炎症がさらに進行するとインプラントを支えている骨を溶かしていきます。

また、インプラント周囲炎が重症化した場合には、インプラントが脱落する危険性があります。

 

インプラント周囲炎は一度、発症すると進行が早いことが多いので、注意が必要な病気です。非喫煙者でもインプラント周囲炎になる可能性はありますが、喫煙者の方はさらにインプラントの病気になるリスクが高くなります。

 

それは、タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素によって、歯垢(細菌の塊)が歯や歯茎に溜まりやすくなっているからです。

 

細菌の数が多いほど歯茎の中に侵入しやすくなり、骨を溶かしていきます。

特にインプラントは細菌の侵入に弱く、周囲炎になると一気に進行が早くなります。

 

さらに、歯茎の色が黒く変色していたり、症状への反応が鈍くなったりしているため、インプラント周囲炎になっているのに気づくのが遅れる場合もあり、早期発見が難しいのです。

 

2-4:細菌感染のリスクが高くなる

インプラント治療は、外科手術が必須です。

そのため、傷を治す治癒力や免疫力がある程度、必要になってきます。

 

しかし、ニコチンによって身体の免疫力が低下してしまうので、細菌感染のリスクが高くなります。

2-5:治療期間が長くなる

一般的なインプラントの治療期間は約4ヶ月~6ヶ月です。

しかし、タバコを吸っていると治療期間はさらに長くなる可能性があります。

 

タバコの成分であるニコチンが歯茎の毛細血管を収縮して血液の流れを悪くします。

 

さらに一酸化炭素は、組織に酸素を送ることを邪魔するので、身体に十分な栄養が届かなくなり、傷の回復や、骨とインプラントが結合する時間が遅くなるのです。

 

骨とインプラントがしっかりと結合していないと、次の段階に進めないので、結合が遅くなる分だけ治療期間は、長くなります。

 

3 禁煙はインプラント治療後も必要

ここまで、タバコのデメリットを見て、「インプラント手術の時だけ禁煙すれば良いのでは?」と思う方もいるかも知れません。

 

しかし、インプラントは入れた後が大事になってきます。

なぜなら、インプラントを入れた後の口の中の環境が良いか悪いかで、長く使えるかが決まってくるからです。

 

そのため、インプラント手術の時だけ禁煙をしても、その後も喫煙をする習慣があるなら、口の環境は良くなりません。

細菌感染のリスクやインプラント周囲炎になる確率は、非喫煙者に比べると高いままです。

 

つまり、タバコを吸い続ける限りリスクが減ることはなく、インプラントが脱落する危険性を残したままインプラントを使い続けることになるのです。

4 インプラントを生涯使い続けるために禁煙しよう

インプラントは他の治療に比べて、高い費用や長い期間が必要になる治療です。

大事なお金や時間を使って治療したのに、「すぐに駄目になってしまった。」では意味がありません。

 

せっかく費やしたお金や時間を無駄にしないためにも、禁煙は必要です。

 

また、インプラントは一時的に歯を補充するための治療ではなく、長期的に使い続けることができる治療法です。

 

インプラントを長持ちさせるためにも、禁煙をしてから治療をスタートさせましょう。

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