- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療によって新しい歯を手に入れられた後も、適切なケアを行わないと重大なトラブルを引き起こす危険性があります。
とは言え、自分でできるケアは非常に簡単なものです。今回は、インプラント治療後のケアについてご紹介します。
目次
- 1 インプラント治療後のケア、何をしたらいい?
- 1-1 まずはセルフメンテナンスの基礎、歯磨きのコツ
- 1-2 デンタルフロスも効果的
- 1-3 定期的な歯科検診
- 2 インプラント治療後に避けたほうがいいことは?
- 2-1 喫煙
- 2-2 極度に堅いものを食べる
- 3 ケアしないとどうなる?
- 3-1 虫歯リスクの増加
- 3-2 インプラント歯周炎
- 3-3 人工歯が折れる
- 3-4 メーカー保証の対象外になる可能性
- 4 定期的な歯科診療は必ず受けましょう
1 インプラント治療後のケア、何をしたらいい?
インプラント治療後に患者自身ができることは、非常に限定的ですが、どれも手軽に取り組めるものばかりです。
1-1 まずはセルフメンテナンスの基礎、歯磨きのコツ
インプラントの有無にかかわらず、多くの人は朝晩、食後に歯磨きを行っているでしょう。人によっては職場などでも昼食後に歯磨きを行っているかもしれません。
インプラントであっても、メンテナンスの基本は同様に歯磨きです。
歯ブラシは「やわらかめ」~「ふつう」の硬さのものを選ぶことをおすすめします。
「かため」の歯ブラシは歯茎を傷めてしまう可能性が高く、歯肉にダメージを与えた結果インプラントの根本部分を露出させてしまう恐れがあります。
こうなると、インプラント周囲炎へのリスクが高まってしまうのです。
また、歯ブラシは1か月に1度を目安に交換するといいでしょう。
毛先が開いてしまった歯ブラシは歯磨きの効率を下げるだけでなく、雑菌繁殖の温床となっている場合もあります。
価格は高くなってしまいますが、より丁寧に、高いレベルで歯のケアを行いたいのであれば、
超音波歯ブラシを活用するのもいいでしょう。
超音波振動によって歯の表面についたプラークなどを砕いて洗浄するため、非常に高い歯磨き効果が得られます。
歯磨き粉は、研磨剤の荒い粒が入っているものは避けましょう。
インプラントと歯茎の間にスクラブが入ってしまうと、そこから炎症を起こす危険性があります。
「つぶつぶ」などをアピールポイントにしているものは避け、その他の商品を選ぶことをおすすめします。
デンタルリンスは人工歯にも有効で、汚れや歯垢を付着しにくくしたり、殺菌によってインプラント周囲炎のリスクを低減させたりします。
ただし、インプラントをチタン素材で作っている場合、フッ素が高濃度で配合されているものによって腐食される恐れがあります。
どのようなものを使うかは、一度担当の歯科医師と相談しておいたほうが無難です。
1-2 デンタルフロスも効果的
歯と歯の間にナイロン糸を通して掃除する方法があります。
デンタルフロスは薬局などで簡単に手に入るため、まだ使ったことのない人はぜひお試しください。
デンタルフロスは、歯ブラシの毛先が届かない歯の間にたまりやすい食べカスや歯垢を掻き出すために使われます。
インプラントで埋め込んだ人工歯と、元々生えていた歯の間のエリアもきちんと掃除することで、ここからインプラント周囲炎になるリスクを低減することができます。
1-3 定期的な歯科検診
3~6か月に1回程度、定期的な歯科検診を受けることも求められます。
インプラント部の口内環境の悪化について、本人では気付けない部分も多々ありますので、専門家である歯科医師にしっかりと診てもらう必要があるのです。
歯科検診で確認する内容は、以下のようなものです。
・口内環境の確認
インプラントを長持ちさせるためには、インプラント自体の調子の良し悪しだけではなく、口内環境全体が整っていることが必要です。
特に虫歯が起きていたり、歯周病が発生していたりする場合は、口内で雑菌繁殖が進んでいる状態ですので、適切な処置が必要となります。
また、噛み合わせなどが悪くなっていないかをチェックし、インプラントによって全体に悪い影響が出ていないかも確認します。
・歯科衛生指導
歯磨きの状況を確認し、より適切なブラッシングができるように指導をしてもらいます。
歯磨きの質が上がることで、インプラントになっている人工歯以外の歯を守ることも目指せるのです。
・クリーニング
歯石が出ている場合や歯周病の兆候があるような場合には、歯周ポケットに対してクリーニング処置を行う場合もあります。
歯周ポケットの歯垢や歯石を取り、消毒を行うことで炎症を抑え、病気の進行を抑制します。
・レントゲン検査
インプラントを支えている骨の状況を確認し、異常がないかをチェックします。
もし異常が発生している場合は、速やかに新たな処置を講じることになります。
費用については、1回の通院が5,000~10,000円程度です。
インプラント手術自体は健康保険の適用対象外ですが、この定期通院は適用対象となりますので、実質負担額は1,500~3,000円程度と考えていいでしょう。
時間は施術内容によっても異なりますが、30分~2時間程度を見込んでおけば十分かと思います。
混み具合や対応してくれる歯科医師によっても異なるでしょうから、気になる方は直接かかりつけの歯科医院に聞いてみてください。
2 インプラント治療後に避けたほうがいいことは?
インプラントのケアの1つに口内にダメージを与えにくい生活習慣への改善が挙げられます。
2-1 喫煙
喫煙は歯肉を痩せさせる原因となる生活習慣です。
ニコチンは歯茎の毛細血管が収縮させ、血流が悪化することで歯周病になりやすくなるなど、そもそも口内環境に悪い影響を与えます。
インプラントに対しても、手術前後で骨との癒合(インテグレーション)を阻害したり、手術後もインプラント周囲炎のリスクを高めたりと、決してプラスには働きません。
インプラントを受けているのであれば、禁煙・減煙を進めていくことをおすすめします。
2-2 極度に堅いものを食べる
氷などの堅いものを噛み砕くような行為は控えましょう。
気を付けたいのは、キャンディーや固焼きの煎餅の咀嚼、ピスタチオの殻などを歯で噛んで割る行為などです。
インプラントは天然の歯とほとんど変わらない感触でものを食べることができるため、つい普通の歯で行っていたように色んなものを食べたくなってしまいますが、あまりにも堅いものを噛むと、コーティングが破損する恐れがあります。
こうした食品を食べる際には口の中である程度ふやかすなどの工夫が必要です。
また、ナッツの殻を割るなどの行為は、手で行うようにしましょう。
3 ケアしないとどうなる?
上記のようなケアを怠ると、どのような事態になってしまうのでしょうか。
3-1 虫歯リスクの増加
健康な歯への虫歯リスクが増加します。
インプラント自体は人工物ですので、虫歯のように溶けたり痛んだりするようなことはありませんが、インプラント以外の歯に対する悪影響は当然あります。
特にインプラントに隣接した歯との隙間は汚れがたまりやすく、デンタルフロスなどを利用しての掃除を強化しておかなければ、これまで以上に虫歯になってしまうリスクは高まります。
3-2 インプラント周囲炎
インプラント部に対する悪影響の中でも深刻なのが、インプラント周囲炎です。
インプラントが骨に固着している部分に向かって炎症が進行し、細菌の活動によって骨が溶かされることで、インプラントが緩んで、最悪の場合ネジごと抜け落ちてしまいます。
インプラント周囲炎になってしまった場合、初期であれば歯垢の除去や炎症箇所の消毒などによって充分対応していくことも可能ですが、重篤になると、インプラントを一度抜いて適切な処置を施し、再度インプラント埋入を行わなくてはいけなくなります。
インプラントの再埋入は、費用面でかなりのコストがかかるだけでなく、肉体的なダメージも大きくなってしまいます。
3-3 人工歯が折れる
不衛生な状態が続いたり、人工歯へのダメージが蓄積していってしまうと、人工歯が折れたり欠けたりする可能性があります。
インプラントの歯は骨に埋まっている部分は金属であるものの、外側はセラミックなどの樹脂でコーティングされていることが一般的です。
このコーティング部分が折れてしまう危険性があるのです。
人工歯がダメージを負った際には、インプラントの修理を行う、人工歯部分を入れ替えるなどの処置が必要になります。
なお、人工歯のセラミック樹脂などは、寿命がおおよそ10~15年と言われています。
そのため、インプラントにした人の多くが、いずれかのタイミングで人工歯の交換を行うことになることは避けられません。
口内の衛生状態を良くしておくことで、寿命になるまでの時間を延ばすことができる、という風にお考え下さい。
人工歯は1本あたり4~20万円と、素材ごと、クリニックごとに大きな差があります。
これも大きな出費ですので、なるべくは現状で使っている人工歯を長く大事に使いたいものです。
3-4 メーカー保証の対象外になる可能性
インプラント治療には、インプラントや人工歯のメーカー保証が付くことがあり、術後数年間に異常が起こった場合は無償で修復、買い替えなどを行うことができます。
ただし、この保証には「定期メンテナンスのための通院を行っていること」が条件として付されていることは少なくありません。
メーカー保証については歯科医から必ず説明があるはずですので、聞き逃さないように注意しましょう。
また、現在術後で、すでにどのような保証があったのかについて記憶がない方は、手術を受けた歯科医院に連絡を取ってみてください。
過去の診療記録から保証内容が分かるケースもあります。
4 定期的な歯科診療は必ず受けましょう
日々できるセルフメンテナンスは、基本的に「適切な歯磨きを行うこと」に集約されます。歯間を清潔に保つためにデンタルフロスなどのサポート用品を使うこともおすすめです。また、喫煙習慣のある人は禁煙・減煙を行い、極度に堅いものは噛まないように気を付けましょう。
こうしたセルフメンテナンスを行うことはもちろんですが、現状の口内環境に対する判断は専門家に診てもらうのが最も正確です。
歯磨きの方法などについても、自分はこれで大丈夫と思っている方法が、実は磨き残しの多い方法であった、という場合もあります。
定期歯科健診でインプラントを含めた口内環境を確認してもらうことが重要です。
また、歯科衛生指導で受けた内容はしっかりと反映させ、日々のメンテナンスに活かしていきましょう。