- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「妊娠してから、口のトラブルが増えた」と感じる方が多いです。
そもそも妊娠は口だけではなく、全身が変換期に突入するような時期です。
体が変化していくのと同様に、口の状態も変わっていきます。
特に妊娠中は、妊娠性歯肉炎という病気になりやすい傾向があります。
妊娠性歯肉炎は、痛みもなく静かに症状が進行していく病気です。
そのため妊娠性歯肉炎だと気づかず、そのままの状態にしておくと、体に様々な影響を及ぼす可能性があります。
とはいえ、妊娠性歯肉炎という病気は、一般的にあまり知られていないので、気づいた時には、症状が深刻化しているケースも少なくありません。
そこで本記事では、妊娠性歯肉炎について詳しく解説していきます。
妊娠中の方は是非一度、この記事に目を通してみて下さい。
目次
- 1妊娠性歯肉炎になる「3つの原因」
- 1-1:女性ホルモン
- 1-2:悪阻による清掃不良
- 1-3:唾液の減少
- 2妊娠性歯肉炎のリスク
- 2-1:早産・早期低体重児出産
- 2-2:歯周病に悪化する
- 2-3:胎児に感染する
- 3妊娠性歯肉炎の予防方法
- 3-1:セルフケア
- 3-2:水分をこまめに取る
- 3-3:唾液腺マッサージ
- 3-4:プロフェッショナルケア
- 4妊娠中に一度は歯科医院へ行こう!
1妊娠性歯肉炎になる「3つの原因」
まず妊娠性歯肉炎とは、妊娠中に発症する歯茎の炎症のことです。
妊娠性歯肉炎になると、歯茎が赤くなってブヨブヨに腫れたり、出血したりします。
妊娠性歯肉炎になる原因は、主に次の3つです。
・女性ホルモン
・悪阻による清掃不良
・唾液の減少
それぞれについて詳しくみていきましょう。
1-1:女性ホルモン
妊娠中は、女性ホルモンが多く分泌される時期です。
女性ホルモンの中でもエストロゲンとプロゲステロンという2つのホルモンが、口の中にトラブルを起こす原因です。
例えばエストロゲンは、特定の歯周病菌(プレボテーラ・インテルメディア)の栄養源になり、菌を増殖させます。
数を増やした菌は歯茎をつくる細胞を攻撃するので、歯と歯茎の間に歯周ポケットという隙間ができたり、歯茎が腫れて血が出たりするようになります。
もうひとつのプロゲステロンは、血管の壁を緩くするのが特徴です。
その影響で細菌が血液中に入り込んで、歯茎が腫れやすくなります。
1-2:悪阻(つわり)による清掃不良
悪阻(つわり)が酷くて、歯磨きができない時期があります。
人によって悪阻の症状は様々で、歯ブラシを口の中に入れるのが辛い方もいるでしょう。
十分な歯磨きができないと、口の中に汚れが溜まって細菌の数も増えていきます。
その結果として、歯茎が腫れたり出血したりする症状がでるのです。
また、普段の口の中は唾液の作用で、中性に保たれています。
しかし悪阻によって胃酸が逆流することで、口の中が酸性に傾きやすいです。
口の中が酸性な状態が続くと、細菌にとっては最高の環境で、さらに数を増やして妊娠性歯肉炎を引き起こしやすくなります。
1-3:唾液の減少
唾液には口の中を潤すだけではなく、食べカスや細菌を洗い流す洗浄作用、菌の増殖を抑える抑制作用の働きをする役割があります。
しかし、妊娠をきっかけに女性ホルモンの影響を受けて、唾液の出る量が減ることがあります。
そうなると口の中が乾燥しやすくなったり、食べカスが残りやすかったりと細菌が増えやすい環境になり、妊娠性歯肉炎が発症しやすいです。
2妊娠性歯肉炎のリスク
妊娠性歯肉炎は、口の中だけの問題ではありません。
妊娠性歯肉炎がきっかけになって、次のようなリスクを引き起こす可能性もあります。
・早産・早期低体重児出産
・歯周病に悪化する
・胎児に感染する
それぞれについて、詳しく解説していきます。
2-1:早産・早期低体重児出産
早期低体重児出産とは、妊娠37週未満で2,500グラム以下の新生児を出産してしまう状態のことです。
妊娠性歯肉炎になっている人は一般的な妊婦さんより、早期低体重児出産のリスクが約7倍になるという研究が1966年にアメリカで報告されています。
妊娠性歯肉炎を発症させると、身体は炎症を抑えようとプロゲステロンを過剰に分泌し始めます。
プロゲステロンが多く分泌されると、プロスタグランジンという女性ホルモンを刺激します。
プロスタグランジンは、出産間近になると子宮で分泌されるホルモンであり、出産開始の合図でもあるのです。
そのため、プロスタグランジンを刺激されると、身体は出産準備が整ったと勘違いをして陣痛や子宮筋の収縮などを起こし、早産や早期低体重児出産になってしまうのです。
2-2:歯周病に悪化する
妊娠性歯肉炎は一般的に歯肉炎と同じで、歯茎の炎症があっても歯を支えている骨は溶けていない状態です。
歯肉炎の状態をそのままにしていると、歯茎の炎症が悪化して歯周病へと進行していきます。
歯周病は歯肉炎とは違い、歯を支えている骨を溶かしたり、組織を壊したりする病気のことです。
最悪の場合、歯周病が進行すると歯を支えていた骨がほとんどなくなってしまうので、歯が立てずに自然と抜けてしまうケースもあります。
他にも、歯周病の症状が酷くなると同時に、歯周病菌の数も増殖していきます。
数を増やした歯周病菌が出すガスは、ニオイが酷く口臭の原因になります。
2-3:胎児に感染する
歯周病の症状が深刻化した状態は、歯周病菌が多くいることを意味します。
歯周病菌が活発になると、炎症を起こしている歯茎の血管を通して、体中の血管を循環していきます。
血管の中に入り込んだ菌は、血液を通して胎児に感染する可能性もあるのです。
3妊娠性歯肉炎の予防方法
妊娠性歯肉炎の対策としては、次の4つの予防法が効果的です。
・セルフケア
・水分をこまめに取る
・唾液腺マッサージ
・プロフェッショナルケア
順番に確認していきましょう。
3-1:セルフケア
セルフケアは、自宅で行う歯磨きのことです。
妊娠中は口の中の不快感が強く、ゴシゴシと歯ブラシで歯や歯茎を磨いてしまいがちです。
しかし強い力で歯磨きをすると、歯茎を傷つけてしまい痛みが出る原因になります。
歯磨きをする時には、力が入りにくい鉛筆持ちで歯ブラシを持って、歯の表面や歯と歯茎の境目を優しく磨くようにしましょう。
また妊娠性歯周炎は、歯と歯の間の歯茎が腫れやすいといった特徴があります。
歯と歯の間は汚れが残りやすくて、細菌が好む環境です。
デンタルフロスや糸ようじなどを使って、歯と歯の間の汚れを掻き出すようにしましょう。
とはいえ、悪阻が酷い場合には、歯を磨くのも辛い状態です。
悪阻の間は、なるべく体調が良い時に歯磨きをするようにしましょう。
歯磨きが難しい時には、うがいをしたり、砂糖が多く含まれている食べ物(チョコレートやキャラメルなど)を控えたりすることで口の環境の悪化を防ぐことが可能です。
3-2:水分をこまめに取る
口の中が乾燥した状態では、細菌が増えやすくなり、妊娠性歯肉炎を発症させる可能性が高くなります。
水やお茶などの水分をこまめに取るだけでも、口の乾燥を防ぐのに効果があり、菌の増殖を防ぐことができます。
3-3:唾液腺マッサージ
顔にはいくつか唾液が出るツボがあります。
特に、マッサージの3大唾液腺と呼ばれるのが「耳下腺」「顎下線」「舌下腺」の3つです。
気づいた時に唾液腺マッサージを行うだけで、口の中が唾液で満たされて、口の中の粘つきや不快感を防いでくれます。
マッサージの方法は、次の通りです。
耳下腺は、耳の付け根にある腺です。
耳下腺のある部分を、親指以外の指で優しく押しながら10回ほどぐるぐる回しましょう。
顎下腺は、顎の内側の柔らかい部分にある腺です。
耳の下から顎にかけて親指で、優しく押していきます。
5~10回くらい繰り返して行いましょう。
舌下腺は、顎の先の部分の内側、舌の付け根にある腺です。
顎の真下から舌を突き上げるように上方向へ両手の親指でグッと押します。
この時には、喉を押さないように注意しましょう。
回数は5~10回ほどが目安になります。
3-4:プロフェッショナルケア
プロフェッショナルケアとは、歯科医師や歯科衛生士が行うプロの処置のことです。
歯磨きでは落としきれない細かい汚れや、歯石(柔らかい汚れの歯垢が固くなった物)を専用の機器で除去していきます。
口の中をクリーニングすることで、細菌の数を増やすのを抑える効果があります。
また、もし妊娠性歯肉炎になっていた場合には、適切な歯磨き方法を学んだり汚れを除去したりすることで、症状が深刻化するのを防ぐことに繋がります。
4妊娠中に一度は歯科医院へ行こう!
妊娠性歯肉炎が発症すると、自身の体だけではなく、胎児に影響が及ぶ可能性があります。
また、元々持病がある方の場合には、妊娠合併症(高血圧や糖尿病など)を引き起こす確率も高くなります。
「歯茎が腫れたり、血が出たりするのは妊娠しているからしょうがない・・・・・・」と放置していると危険です。
リスクを少なくして安全に出産するためにも、妊娠中に一度は、歯科医院で検診を受けましょう。