歯を移植する「自家歯牙移植」は誰でもできるの?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

歯を失った時に提案される治療法は、

 

・ブリッジ

・入れ歯

・インプラント

 

の3つの方法が一般的です。

 

しかし、「入れ歯は見た目が嫌だ」「ブリッジは健康な歯を削るのがちょっと…」「インプラントは、怖いなあ…」と感じている方もいると思います。

 

上記の3つの方法意外にも、自家歯牙移植(じかしがいしょく)といって、自分の歯を移植して他の歯にダメージを与えない治療法があります。

 

とはいえ、誰でもこの方法ができるわけではなく、いくつかの条件が必須です。

 

そこで今回は、自家歯牙移植ができる条件などについて解説していきます。

目次

1 自家歯牙移植ができる「5つの条件」

自分の歯を活用できる自家歯牙移植をするには、次の5つの条件を満たすことが必要です。

1−1:移植できる歯がある

まず、移植する歯が健康である又は機能していない歯であることが条件になります。

 

例えば、虫歯になっている歯や歯周病になっている歯は、移植する歯として使用することができません。

 

自家歯牙移植は、外科手術が必要になるので、細菌に汚染された歯を使用すると移植した部分が細菌感染を引き起こして、治療が失敗する可能性が高くなるからです。

 

また、機能していない歯とは、歯が噛み合わせに関係していない状態のことです。

 

噛み合っている歯を使用してしまうと、口全体のバランスが崩れて歯や歯茎などにダメージがかかって痛みがでたり、歯並びが悪くなったりする原因になります。

 

噛み合わせのバランスが悪くならないように、親知らずを使用するのが一般的です。

 

親知らずは、上下左右の一番奥の歯に生えてくる歯で、人によって生えてくる本数や生え方が違ってきます。

 

親知らずが健康で、噛み合わせに影響が出ないことが確認できれば、移植する歯として使うことが可能です。

 

なお、親知らずは他の歯と同じような方向で、生えてくるわけではありません。

 

親知らず全体が歯茎の中に埋まっていたり、少しだけ歯茎から頭を出して斜めに生えていたりする状態の時があります。

 

歯茎の中に埋まっている親知らずでも、移植する歯として使用することが可能です。

 

ただ、親知らずが歯茎の中に完全に埋まっていたり、斜めに埋まっていたりするケースでは、埋まっている位置や角度によっては自家歯牙移植ができないと判断する歯科医院もあります。

 

歯を移植するときに重要なのは、歯の根の周りにある歯根膜で、再生能力の高い細胞が多く存在します。

 

通常の歯根膜の細胞は動いてない状態で、外部からの刺激によって細胞が活動する仕組みです。

 

自家歯牙移植では、移植する歯に刺激を与えて再生能力を持つ歯根膜の細胞を活性化させて、歯がない部分の組織を再生させて歯の機能を回復するのが目的です。

 

親知らず全体が歯茎の中に合ったり、多くの部分が歯茎の中に埋まっていたりする状態では、取り出すときに歯根膜を傷つけてしまう可能性があります。

 

歯根膜が傷ついてしまうと、細胞が死滅して歯を失った部分の組織を再生することができず、治療が失敗に終わってしまう恐れがあり、歯科医院によっては、設備が整っている口腔外科に紹介するケースもあります。

1−2:歯の大きさがピッタリ

歯を失った部分に入れる歯が大きすぎたり、小さすぎたりする場合には、移植ができないことがあります。

 

歯が大きい場合には、少し歯を削って調整できますが、小さすぎる歯を大きくすることはできません。

1−3:歯の根が複雑ではない

歯の根は、人によって1本〜4本に分かれています。

奥歯になるにつれて根の本数も増えて、複雑な形になっていることがあります。

 

移植する歯の根の本数が多くて、根の先が曲がっている形になっていると、抜歯をする時には歯根膜にダメージを与えてしまう可能性が高くなってしまいます。

1−4:持病がない

糖尿病や高血圧などの持病があり薬を服用している場合には、自家歯牙移植ができる可能性が低いです。

 

例えば、糖尿病の方は治癒能力が低下していて、外科手術後の傷口から細菌感染をするリスクが高く、移植した歯が安定せずダメになることがあります。

 

他にも、代謝系疾患や免疫性疾患などの持病がある方は、移植した歯が脱落する恐れがあるので、治療ができないと判断されるケースが多いです。

 

ただ、糖尿病や高血圧などの病気は、自身でしっかりとコントロールして、安定した状態であれば自家歯牙移植ができる場合があります。

1−5:喫煙していない

タバコには約200種類以上の、有害物質が含まれていると言われています。

特に、タバコに含まれるニコチンやタールには、歯茎の免疫機能を低下させて、細菌が増殖したり、傷口の治りが遅れたりと移植した歯が安定しない可能性が高いです。

 

すぐに移植した歯が抜けてしまうトラブルを防ぐために、手術を機に禁煙を勧める歯科医院が多いです。

 

禁煙ができない時は、一時的に禁煙する期間をつくることで、自家歯牙移植ができるケースもあります。

 

しかし、治療後に喫煙を再開することで、移植した歯の周辺の組織に十分な酸素や栄養が届きにくくなるため、非喫煙者より歯が長持ちしにくい傾向があります。

2 「根管治療が必要になる歯」と「根管治療がいらない歯」の違い

自家歯牙移植の手術が完了した後、移植した歯の状態によっては根管治療が必要になるケースと根管治療をしないケースがあります。

 

まず、根管治療が必要になるのは、根の先がしっかりとある状態の歯です。

 

根が完成している歯に神経がずっとある状態のままでは、神経が壊死して根の先に感染が広がっていきます。

 

最悪の場合には移植した歯がグラグラと動いて、抜歯になる可能性が高いです。

 

そのため、歯を移植してから3週間〜1ヶ月以内に神経を取る治療を行う必要があります。

根管治療を複数回した後は、歯の土台と被せ物を装着して終わりになります。

 

一方で、根管治療が必要ないのは、根の先が未完成な状態な歯を移植した時です。

 

特に年齢の若い方(20歳以下)の親知らずは、歯の頭の部分はあっても根っこが完成していない状態なことが多いです。

 

根っこが完成していない状態で移植しても、時間の経過とともに根っこが成長してしっかりと顎の骨の中で安定する場合がほとんどです。

 

移植した歯の根の先が未完成の場合には、根管治療をせずに噛み合わせの調整のみで治療を終わりになります。

3 移植した歯の寿命は長持ちするの?

自家歯牙移植は自分の歯を使用して移植するので、体が異物と認識して拒否反応を起こす可能性が低く、体に馴染みやすい特徴があります。

 

つまり、移植が完了した後は安定した状態で、過ごせる可能性が高いです。

 

自家歯牙移植の5年生存率は90%以上10年以上の生存率は80%以上と報告されています。

※1自家歯牙移植を考慮に入れた トリートメントプランニング

 

歯を失った時に自家歯牙移植と同じように外科手術が必要になるインプラントの場合では、治療後から5年以上の生存率が95%10年以上の生存率は90%以上です。

 

インプラントの生存率を比べると、自家歯牙移植の方は寿命が短い傾向があります。

しかし、自家歯牙移植でも10年以上使用しているケースは多く存在します。

 

また、自家歯牙移植では、自分の歯を使用しているため歯根膜があることがインプラントとは大きく違う部分です。

インプラントは、人工歯根を顎の骨の中に埋めていく治療法で、歯根膜が存在しません。

 

一方で、移植した歯にある歯根膜には、噛み心地に違和感が出ることがない他に、細菌の侵入を防ぐ役割もあり歯を守ってくれます。

4 自家歯牙移植を失敗しないために必要なこと

自家歯牙移植を失敗しないためには、次の4つのことが大切になってきます。

4−1:実績のある歯科医院で治療をする

自家歯牙移植は、移植する歯にある歯根膜を傷つけずに取り出す必要があるので、歯科医師の高度な技術や知識が必要です。

 

歯科医師に技術があるのかを判断するには、実績を確認するのがオススメです。

ホームページで自分が治療をした症例を、載せている歯科医院も多くあります。

 

また、ホームページで確認できない場合には、担当医に症例写真を見せてもらいましょう。

 

実績は、嘘をつきません。

 

治療を任せられる歯科医院なのかを判断するためにも、治療実績があるのかは大事な要素になります。

4−2:手術後は安静にする

移植した歯に噛んだ時の負担がかかったり、大きく揺さぶられたりすると顎の骨と固定せず失敗に終わる可能性があります。

 

手術の時には、糸や専用の接着剤で移植した歯をしっかりと固定しているのが一般的です。

 

手術後は、移植した部分と反対側で食事したり、歯磨きの刺激を与えたりしないように注意が必要です。

 

また、過度なストレスや睡眠不足などは、傷口の治癒が遅くなる原因なります。

特に移植手術後2ヶ月ほどは、バランスの良い食事や十分な休息を心がけましょう。

 

移植した歯を固定する期間は1ヶ月が目安になり、口の状態によって多少の期間は前後することがあります。

4−3:治療を最後まで受ける

自家歯牙移植は、歯を失った部分に歯を入れたら終わりではありません。

移植する歯によっては、根管治療が必要になります。

 

根管治療が必要なケースでは、移植後1ヶ月以内に神経を除去する処置をしないと、根の先が感染を引き起こして、歯が骨とくっつかずに抜歯になる可能性が高いです。

 

自家歯牙移植の治療をすると決めた時には、担当医と通院するペースや期間などをしっかりと話して納得した上で最後まで治療を受けましょう。

4−4:口の中を清潔に保つ

治療の完了後は、毎日の歯磨きが大切になってきます。

歯垢や歯石が多い口の中では、細菌が増殖して虫歯や歯周病を引き起こしてしまいます。

 

移植した歯を長く使い続けるためには、しっかりと歯磨きで汚れを取り除いて口の中の環境を整えることが大切です。

5 自家歯牙移植は歯を失った時の第4の選択になる

自家歯牙移植をするには、次の5つの条件が必要です。

 

・移植できる歯がある

・歯の大きさがピッタリ

・歯の根が複雑ではない

・持病がない

・喫煙していない(一時的な禁煙を含む)

 

自家歯牙移植は入れ歯やブリッジ、インプラントに続く歯を失った部分を補う治療のひとつです。

 

移植する歯が自分の歯なので、体に馴染みやすく違和感が少なく、今までと同じように噛めるようになるのが魅力的です。

 

ただ、自家歯牙移植をするには、歯科医師の知識や技術などが不可欠です。

 

しっかりと診査・診断を行い、しっかりと治療説明してくれる歯科医院で治療を受けるようにしましょう。

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