- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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「サイナスリフト」は、骨を増やす処置のひとつです。インプラント治療では、あごの骨にインプラントを埋め込んで歯根の代わりにします。あご骨の量が不足していると適切に固定するのが難しいため、インプラント治療が適用できない症例も少なくありませんでした。
しかし、歯科医療が進歩し骨量を回復できるようになった結果、近年はあごの骨が少なくてもインプラントを入れられるケースが増えてきました。
サイナスリフト以外の代表的な方法としては、「ソケットリフト」「GBR法」があります。この記事では、それぞれの概要や治療の流れなどを解説します。
目次
- 1.サイナスリフトについて解説
- 1-1サイナスリフトとは
- 1-2.サイナスリフトの流れ
- 1-3.サイナスリフト後の痛み
- 1-4.サイナスリフトの費用
- 2.ソケットリフトについて解説
- 2-1.ソケットリフトとは
- 2-2.ソケットリフトの流れ
- 2-3.ソケットリフト後の痛み
- 2-4.ソケットリフトの費用
- 3.サイナスリフトとソケットリフトの違い
- 4.GBR法について解説
- 4-1.GBR法とは
- 4-2.GBR法の流れ
- 4-3.GBR法の痛み
- 4-4.GBR法の費用
- 5.骨量が足りなくてもインプラントは可能!まずは歯科クリニックへ
1.サイナスリフトについて解説
サイナスリフトは、主に上あごの骨の厚さの不足により、骨量を大幅に補う必要がある症例に適した方法です。概要や治療の流れなど詳しく解説します。
1-1.サイナスリフトとは
サイナスリフトは、上あごの骨の厚みが3~5mm以下である・欠損している歯が多い・広範囲にわたっているなど、全体的に骨が薄く、補う骨量が多い場合に、適応される治療法です。
上顎洞の粘膜を持ち上げ、できたスペースに患者から採取した骨や人工骨などの「骨補填材」を移植して充分な高さ・厚みを確保してから、インプラントを埋め込みます。
上の奥歯を失った場合、上あごの骨の厚み・高さが不充分なことにより、通常のインプラント治療が難しいケースがあります。インプラント体は短いものでも8mmほどの長さがあり、あご骨が薄すぎると入れられません。
また、上あごの奥の骨の上には、「上顎洞(じょうがくどう)」と呼ばれる空洞があります。あごの骨の高さが不充分だと、上顎洞にインプラントが突き出て、細菌に感染し「蓄膿症」になるリスクが高まります。蓄膿症になると、膿・悪臭・頭痛などの症状があらわれるため注意が必要です。
特に、歯を失って時間が経過したり、歯周病にかかっていたりする場合、あごの骨が吸収され骨量が不足しやすいため、サイナスリフトで対応するケースが多い傾向にあります。
1-2.サイナスリフトの流れ
サイナスリフトは、一般的に下記のような流れで行います。
(1)麻酔
外科処置を伴うため、インプラントと同じく、局所麻酔を打ちます。手術に対する恐怖心が大きい、緊張が強いといった方には「静脈内鎮静法」を併用する場合もあります。静脈内鎮静法は、鎮痛剤の点滴により、半分眠ったような状態にし、恐怖心・緊張を和らげる処置です。
(2)あごの骨に窓をつくる
インプラントを埋め込む場所の頬側の歯肉を切り開き、上顎洞の骨を露出させて穴を開け、骨補填材を入れるための窓をつくります。上顎洞を覆う粘膜を傷つけないように処置します。
(3)骨補填材を入れる
あごの骨と粘膜を剥離して、上顎洞を専用の器具で押し上げ、骨補填材を入れる場所を確保します。スペースができたら、骨補填材を詰めて穴をふさぎ、歯肉を元の位置に戻して縫合します。
(4)インプラントを埋め込む
骨補填材を移植した量や患者の体質などによって異なりますが、骨が安定するまで約3~6ヶ月待ちます。骨の回復を確認したら、通常通りインプラント手術をします。
1-3.サイナスリフト後の痛み
手術中は局所麻酔をするため、ほぼ痛みを感じません。歯肉をある程度大きく切開するため、術後に腫れや痛みが出るケースがあります。痛み止めの服用など対処法がありますので、歯科医師に相談しましょう。
1-4.サイナスリフトの費用
サイナスリフトは、自由診療のため病院によって費用が異なります。難易度の高い処置なので高額になりやすい傾向にあります。
2.ソケットリフトについて解説
ソケットリフトは、サイナスリフトと同じく、上あごの骨を増やして厚くする治療法です。ただし、サイナスリフトと比べ、移植する骨量の少ない症例に適しています。
2-1.ソケットリフトとは
ソケットリフトは、あごの骨の厚みが最低3mm以上ある、失った歯が1本のみなど比較的範囲が狭いといったケースに適用されます。全体的には骨の厚みが充分あるものの、インプラントを埋め込む場所だけが薄い場合に適した治療です。
インプラントを埋め込むための穴を開ける際に、上顎洞の粘膜を押し上げて骨補填材を入れるスペースをつくり、骨補填材を充填し、そのままインプラントを入れます。
2-2.ソケットリフトの流れ
ソケットリフトは、一般的に下記のような流れで行います。
(1)麻酔
サイナスリフトと同じく、局所麻酔を打ちます。必要であれば、静脈内鎮静法を併用できます。
(2)あごの骨に穴を開ける
通常のインプラント治療と同じく、あごの骨にインプラントを埋め込むための穴を開けます。特殊なドリルを使うことで、上顎洞の粘膜を傷つけずに骨ごと押し上げます。
(3)骨を補充する
上顎洞の粘膜を押し上げながら、空いたスペースに骨補填材を詰めます。
(4)インプラントを埋め込む
充分な量の骨補填材を詰めた後、通常通りインプラントを埋め込みます。上部構造にあたる人工歯は、骨がつくられるまで4~5か月待ってから装着します。
2-3.ソケットリフト後の痛み
ソケットリフトも局所麻酔をするため、手術中はほぼ痛みを感じないでしょう。麻酔の効果が切れた後に、痛みを感じる場合もありますが、痛み止めで軽減できます。サイナスリフトと比べ傷口が小さい治療のため、身体のダメージをおさえられ、痛みが少ない傾向にあります。
2-4.ソケットリフトの費用
ソケットリフトもサイナスリフトと同じく自由診療のため、歯科クリニックによって費用が異なります。
3.サイナスリフトとソケットリフトの違い
サイナ スリフトとソケットリフトはよく似た治療法ですが、適した症例や身体への負担などが異なる点もあります。主な違いを表にまとめました。
サイナスリフト | ソケットリフト | |
あごの骨の厚さ | 3~5mm以上 | 最低3mm以上 |
歯を失った範囲 | 多くの歯を失っている(広範囲) | 1本程度と比較的狭い範囲 |
身体への負担 | 大きい | 小さい |
痛み | ソケットリフトよりも痛みや腫れが強い | サイナスリフトより少ない |
インプラントを埋め込むタイミング | 骨補填材が定着してから
(3~6ヶ月後) |
骨移植後と同時 |
治療期間 | 3~6ヶ月(骨補補填材が定着するまで) +
3ヶ月(インプラント後の治癒期間) |
3~5ヶ月くらい |
4.GBR法について解説
GBR法は、サイナスリフトとソケットトリフトは全く異なるメカニズムで骨を再生する方法です。概要や治療の流れなど詳しく解説します。
4-1.GBR法とは
GBR法は、医療 用の「メンブレン」という膜を使用して、歯肉などがスペースに入り込まないよう保護し、骨の再生を促す方法です。
膜を使用する理由は、歯肉は骨よりもスピーディーに再生されるため、膜を設置しないと、骨が再生する場所が歯肉で埋まってしまう可能性があるためです。骨の再生を誘導する治療のため、「骨誘導再生法」とも呼ばれています。
サイナスリフトやソケットリフトは、上あごの奥歯部分に適用されるケースが多い治療法です。しかし、GBR法は主に下あごの奥歯部分・前歯部分の骨の幅・高さが足りない場合に用いられます。
4~6ヶ月待って骨が再生してからインプラントを埋め込む場合と、GBR法と同じタイミングでインプラントを埋め込む場合があります。
4-2.GBR法の流れ
GBR法の治療は、一般的に下記のような流れで行います。
<骨が再生されてからインプラントを入れる場合>
骨量が大幅に不足している場合は、GBR法によって骨が回復してからインプラント手術を行います。
(1)骨補填材を入れる
局所麻酔を打ち、骨量が足りていない部分の歯肉を切り開いて露出させ、骨補填材を入れます。
(2)メンブレンで包んで歯肉を戻す
骨補填材を入れた部分をメンブレンで包んで固定してから、歯肉を元に戻し縫合します。
(3)骨が回復したらインプラント手術をする
3~6ヶ月ほど経過し骨の回復が確認できたら、通常通りインプラント手術をします。吸収されないタイプのメンブレンを使用している場合は、取り外します。
<GBR法とインプラント手術を同時にする場合>
ある程度骨が残っており、回復させる量が少ない場合は、GBR法とインプラント手術を同時に行います。
(1)インプラントを埋め込む
局所麻酔をしてから、歯肉を切開してあごの骨に穴を開け、インプラントを埋め込みます。骨量が不足しているため、インプラントがおさまりきらず、一部が露出している状態になります。
(2)骨補填材を入れて歯肉を縫合する
骨が足りない部分に、インプラントを支柱にするように骨補填材を入れメンブレンで覆い、歯肉をもとの位置に戻して縫合します。
(3)人工歯の装着
3~6ヶ月ほど経過後にあごの骨の再生を確認してから、上部構造である人工歯を装着します。インプラントを埋め込んだ部分の歯肉を切開し、人工歯とインプラントをつなぐ「アバットメント」という部品をインプラントにつなぎ、人工歯を取りつけます。
自然に吸収されないタイプのメンブレンを使用した場合は、このタイミングで除去します。
4-3.GBR法の痛み
局所麻酔をするので手術中の痛みはほぼありませんが、歯肉の切開などの外科処置を伴うため、麻酔の効果が切れた後に、ある程度の痛みが生じるかもしれません。痛み止めなどで対処できるので、歯科医師に相談しましょう。
4-4.GBR法の費用
GBR法は自由診療のため、歯科クリニックによって費用が異なります。また、回復させる骨の量によっても異なります。
5.骨量が足りなくてもインプラントは可能!まずは歯科クリニックへ
インプラント治療において、あごの骨量は非常に重要です。しかし、たとえ少なくても骨量を増やす治療を受ければ、インプラントを入れられる場合も少なくありません。
骨量を増やす治療の代表例としては、サイナスリフト・ソケットリフト・GBR法があります。それぞれ適した症例・治療期間・費用などが異なるので、歯科医師と相談のうえ、自分に合った治療法を選択しましょう。
骨量を増やす処置を伴うインプラント治療は難易度が高く、対応できる歯科クリニックが少ないのが現状です。歯周病などで骨量が不足している可能性がある場合、骨を増やす処置の症例実績が多い歯科クリニックを選ぶのも方法のひとつです。