- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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歯科では大きくわけて保険と自費の2つの治療法がありますが、この2つの違いは「費用」だけだと思っていませんか?
また、保険と自費の違いを知らずに「治療費の安さ」だけで治療を決めていませんか?
「安さ」だけで治療法を選んでしまうと、将来的に後悔するかもしれません。
なぜなら、歯科治療の中でも根管治療を保険で行うのか、自費で行うのかで結果に「大きな差」がうまれるからです。
「安かろう悪かろう」という言葉があるように、値段が安いものはそれなりの品質でしかありません。
そこで今回は、根管治療における保険と自費の違いについてわかりやすく解説していきます。
保険か自費かで治療法を悩んでいる方は、是非この記事を参考にしてください。
目次
- 1 保険治療と自費治療の仕組み
- 1−1:保険治療のメリット
- 1−2:保険治療のデメリット
- 1−3:自費治療のメリット
- 1−4:自費治療のデメリット
- 2 保険の根管治療と自費の根管治療の違い
- 2−1:費用
- 2−2:診査・診断方法
- 2−3:通院回数
- 2−4:治療の精度・使用する薬剤
- 2−5:成功率と再発率
- 3 保険と自費の違いを理解して治療法を選ぼう!
1 保険治療と自費治療の仕組み
まずは、根管治療の話しをする前に、保険治療と自費治療の仕組みについて知っておきましょう。
保険治療は、国民保険や健康保険に加入している国民が一定のレベルの治療を受けられる制度です。
ここでの一定のレベルとは、「ある程度のレベルの治療」「最低限の治療」のことです。
そのため、国民は費用を抑えて治療を受けることができます。
一方で自費治療は、国民保険や健康保険が効かない、患者さんが治療費を100%負担する制度です。
自費治療では、保険治療で認めていない薬剤や器具を使用できます。
ただ、国が認めていないからといって「悪い治療」や「金儲けの治療」というわけではありません。
自費治療で使用する最新の器具、良い材料のものは高額すぎて税金(保険治療)ではカバーできないので、患者さんが費用を負担する仕組みになっているのです。
次からは、保険と自費それぞれの「メリット」「デメリット」について説明していきます。
1−1:保険治療のメリット
保険治療のメリットは、次の2つです。
・治療費が安い
・どこの歯科医院でも費用が変わらない
・治療費が安い
保険治療では、患者さんが最大で3割負担する仕組みになっています。
そのため、患者さんの負担が大きくなりづらいです。
・どこの歯科医院でも費用が変わらない
保険治療の費用は、国によって決められています。
治療の金額が全国で統一されているので、歯科医院を変えても治療費は変わりません。
1−2:保険治療のデメリット
保険治療のデメリットは、次の2つです。
・ある程度のレベルの治療しか受けられない
・健康意識が低くなりやすい
・ある程度のレベルの治療しか受けられない
保険治療で使われる材料や薬剤は、国によって決められています。
そのため、良い材料や良い薬剤といった「コストがかかるもの」は、治療で使用できません。
良いとされる材料や薬剤などが全国的に普及してきたり、大量生産でコストダウン(材料の単価が安くなる)したりからでないと医療保険として導入されないようになっています。
つまり、保険治療では、最先端の医療技術を受けられないのです。
・健康意識が低くなりやすい
保険治療は日本特有の制度で、他の国にはありません。
例えば、アメリカやイギリスなどでは、虫歯治療をする場合に高額な治療費がかかります。
歯科治療をするときには、定期的な検診よりも高い金額を請求されるケースが多いようです。
そのため、アメリカやイギリスでは生命保険のような民間の保険に加入して、治療費を補っている場合がほとんどです。
次の表は、日本、アメリカ、イギリスの3つの国の根管治療費をグラフにしたものです。
国 | 根管治療の費用(単位:円) |
日本 | 5,839(保険治療の場合) |
アメリカ | 108,011 |
イギリス | 92,220 |
※参考資料1 医療・介護給付費推計について
実際の日本の保険治療では、5,839円の3割負担になるので約3千円の治療費で済みます。
一方、アメリカやイギリスは、日本の治療費の2倍〜3倍ほどの費用がかかることがこのグラフからわかります。
他の国では、このように歯科治療となると高額な費用がかかるため、ホームケアや定期的な検診に力を入れています。
また、歯科医院にもこだわっていて、信頼できる医院で治療をするように徹底しています。
その結果、歯に対する意識が高く、高齢になっても自身の歯が多く残っている方が大勢います。
日本はどうでしょうか?
保険治療が安く受けられるからといって、
「痛みが出てから歯医者に行けばいい」
「また虫歯になっても大丈夫」
と考えている方も少なくないでしょう。
もちろん、保険治療が悪い制度とは思っていません。
実際に保険治療があるおかげで、助かっている方もたくさんいるからです。
しかし、実際には保険治療の「安さの理由」を知らずに、費用の安さだけで保険治療を選んでいる方が多い傾向があります。
その結果として、日本は他の国に比べて歯に対する健康意識が低く、高齢になって歯の残っている本数が少ない割合が多いのが現状です。
1−3:自費治療のメリット
自費治療のメリットは、次の2つです。
・最新治療を受けられる
・2次被害に合いにくい
・最新治療を受けられる
自費治療では、国が認めていない(保険治療ではコストが高すぎる)材料や薬剤などを使用できます。
歯科治療は医療のひとつです。
さまざまな術式や材料が研究、開発されて良い治療法がどんどん生まれています。
自費治療では、そういった最新の治療を受けることができます。
・2次被害に合いにくい
保険と自費のどちらで根管治療をしても、また虫歯になる可能性はあります。
しかし、保険の根管治療では、治療した歯に痛みや腫れの症状がでて、再度治療をする可能性が高いです。
なぜなら保険治療では、決められた材料や薬剤しか使えず精密な治療をするのに限界があるからです。
例えば、保険の根管治療では、歯の中の細菌を多く取り残したり、最終的な被せ物が歯に合わず隙間ができたりと、治療の精度が低くなります。
一方で自費の根管治療では、細菌の繁殖を防ぐ薬剤を使ったり、隙間ができにくい精度の高い材質の被せ物を作ったりできるといったメリットがあります。
その結果、治療した歯は虫歯になりにくく、長持ちしやすいです。
1−4:自費治療のデメリット
自費治療のデメリットは、費用が高額になりやすいことです。
基本的に治療費は、患者さんの全額負担になります。
しかし、自費の根管治療は医療費控除の対象になります。
医療費控除とは、医療費が10万円を超えた場合に医療費控除をすると所得税の一部が控除されて、戻ってくる制度です。
医療費控除をすると多少ですが、費用を抑えることが可能です。
2 保険の根管治療と自費の根管治療の違い
保険の根管治療と自費の根管治療の違いは、主に次の5つになります。
・費用
・診査・診断方法
・通院回数
・治療の精度・使用する薬剤
・成功率と再発率
それぞれについて、詳しく説明していきます。
2−1:費用
保険の根管治療費は、2千円〜3千円が一般的です。
自費の根管治療は、約7万円〜15万円の費用がかかります。
自費の根管治療の場合には、治療をする部位によって設定金額を変えている歯科医院が多いです。
例えば、前歯は根の数が基本的に1本なので、根の中が複雑になっていないケースがほとんどです。
そのため前歯の場合には、7万円ほどの治療費で済むことがあります。
奥歯は根の数が多く、根の形や中の状態が複雑になっていて、感染している部分を徹底的に取り除くのが難しくなります。
奥歯の根管治療には、精密さや正確性が欠かせないため、治療費が高額になりがちです。
2−2:診査・診断方法
保険治療では、口の状態やレントゲン写真を見てどれだけ虫歯が進んでいるか、治療法などを判断をしていきます。
しかし、通常のレントゲン写真では、2次元的に歯や周囲の組織を写しだすことしかできません。
例えば、レントゲン写真に根っこの数が2本写っていても、実際には3本の根っこが存在するケースがあります。
つまり、レントゲンを撮る人の技術力や角度によっては、写る情報が違ってくるのです。
歯科医師がそのことに気づかず治療を終えてしまうと、根っこの中に多くの細菌を残したままになり、再発する確率が高くなります。
一方、自費の根管治療ではレントゲン写真の他に、CT画像を含めて診査、診断するのが基本です。
CTとは、3次元的に撮影できる機器です。
歯の根の数や顎の骨の状態、神経や血管の位置などが、立体的に写し出されて正確な位置を把握できます。
そのため、患者さんに適した正確で詳細な診断が可能です。
CT撮影をすることで根の数や隠れた病気などを見逃すミスを防いで、治療の確実性を高めます。
2−3:通院回数
保険の根管治療では通院回数が10回以上になる傾向があります。
保険治療は、1回の治療時間や処置内容が国によって決められています。
1回の治療時間が短いぶん、通院回数が多いです。
人によっては、根管治療が終わるまで半年かかったというケースもあります。
自費の根管治療の場合は、2回〜3回の通院回数で終わることがほとんどです。
前歯の場合には根の数が少ないので、1回で根管治療が終わることもあります。
また、自費の根管治療は1回の治療時間が60分〜90分と長いため、通院回数が少ないです。
2−4:治療の精度・使用する薬剤
保険治療では、使用する薬剤や材料が決められているので、根管治療のときには次のような欠点があります。
・唾液が根の中に侵入して細菌感染を引き起こしやすい
・細菌感染している部分を取り残しやすい
・根管治療の精度が低く、密封力の弱い薬剤を使用している
・唾液が根の中に侵入して細菌感染を引き起こしやすい
根管治療を成功させる大事なポイントのひとつとして「細菌がいない状態で根の治療をする」があります。
そもそも根管治療は、根の中で細菌感染している部分を取り除いていく作業です。
保険の根管治療では、唾液が根の中に入らない対策をせずに治療をする場合がほとんどです。
そのため、治療中に唾液が根の中に入ってしまい、根の中がキレイにならず細菌が繁殖しやすい状態になります。
その結果、治療期間が延びたり、再発したりする可能性が高くなります。
一方で自費治療の場合には、「ラバーダム」を使うのが基本です。
ラバーダムは、ゴムの素材でできているシートのことです。
口全体をラバーダムで被せて、治療する歯だけを露出させた状態で歯を削ったり、根管治療をしたりします。
この方法では唾液が根の中に入らないので、新たに細菌感染を引き起こす心配がなく、根の中を確実に清掃できます。
・細菌感染している部分を取り残しやすい
根管治療では、「リーマー」という器具を使用します。
リーマーは針のように先が鋭く、表面がギザギザの凹凸状になっていて根の中にこびりついた細菌を取り除く役割があります。
保険の根管治療で使うリーマーは、ステンレスでできていて、硬いのが特徴です。
しかし、ステンレスのリーマーは硬すぎて、根の先まで届かないことがあります。
根の形は人それぞれで違い、根の先が曲がった形をしているケースも少なくありません。
ステンレスのリーマーでは、複雑な根の形に沿って曲がらないので、根の先までキレイに細菌を取り除くのが難しくなります。
その結果、細菌を根の中に取り残して痛みや違和感が取れない状態が続いたり、治療後に再発するリスクが高くなったりしやすいです。
一方、自費の根管治療では、「マイクロスコープ」と「Ni-Tiファイル」の2つを使用します。
マイクロスコープは歯科用の顕微鏡のことで、視野を4倍〜20倍に拡大して治療が可能です。
根の中は暗くて狭い構造になっていて、肉眼で見える範囲には限界があります。
マイクロスコープでは、細くて暗い根の中の状態を鮮明に確認でき、複雑な根の形を把握できます。
もうひとつの道具、Ni-Tiファイル(ニッケルチタンファイル)は、ニッケルとチタンという金属からできています。
ニッケルチタンファイルは、丈夫で柔らかくしなる性質があり、根の先端までキレイに感染部分を除去できるのが特徴です。
そのため、細菌感染した部分を確実に取り除いて、効率よく治療を進められます。
・根管治療の精度密封力の弱い薬剤を使用している
根管治療根後には、根管充填(こんかんじゅうてん)といって、細菌が繁殖しないように薬を詰めていく処置をします。
保険の根管充填では、「ガッタパーチャ」というゴムの材料を根の中に詰めていくのが一般的です。
このガッタパーチャには、「殺菌効果がない」「密閉力が低い」などの欠点があり、歯科医師の技術によっては隙間ができることがあります。
隙間から細菌が繁殖して、細菌感染を引き起こすケースがあります。
自費の根管充填の場合は「MTAセメント」を使用する歯科医院が多いです。
MTAセメントは、「細菌の繁殖」や「虫歯菌の活動を抑える」効果があります。
他にも「封鎖力が高い」といった特徴があり、キレイにした根の中に細菌が入らないようにしっかりと密封でき、細菌感染を防ぐことに繋がります。
2−5:成功率と再発率
保険と自費の根管治療では、「成功率」と「再発率」に大きな差があります。
次の表は、保険と自費の根管治療の成功率について表しています。
引用:歯内療法ウィキぺディア
高い精密度とは、自費の根管治療をした場合です。
また、自費の被せ物の精度は、歯との隙間ができにくい材質を使って作製した被せ物になります。
Case1は精度の高い自費の根管治療と精密な被せ物をすることで、治療の成功率が90%以上になっています。
一方、Case4では、保険の根管治療と保険の被せ物の組み合わせの場合、治療の成功率が約18%になっています。
この結果から、それぞれの再発率は以下の通りになることがわかります。
・自費の根管治療の再発率:約9%
・保険の根管治療の再発率:約82%
このように自費と保険の根管治療では、成功率と再発率に大きな差ができるのです。
3 保険と自費の違いを理解して治療法を選ぼう!
保険と自費の根管治療では、次のような違いがあります。
保険の根管治療 | 自費の根管治療 | |
費用 | 2千円〜3千円 | 7万円〜15万円 |
診査・診断方法 | レントゲン:正確な診断が難しい | CT:正確な診断が可能 |
通院回数 | 10回〜半年 | 2回〜3回 |
使用する薬剤・器具 | 無菌化で治療するのが難しい | 無菌化で成績の良い薬剤、精度の高い器具を使用できる |
成功率 | 18%以下 | 90%以上 |
再発率 | 82%以上 | 9%以下 |
何度も同じ歯に根管治療をすると歯が弱くなり、最終的には根管治療ができず抜歯になることもあります。
抜歯になれば口の中のバランスが崩れて、さまざまな問題が出てくるようになります。
そのため、なるべく歯の治療を何度もしない、再発する可能性が低い治療法を選ぶのが歯を守ることに繋がります。
保険や自費の治療は「費用」だけに注目するのではなく、歯に優しく長持ちするベストな治療法を選ぶのがオススメです。