インプラントをするときにはCTは必要?

松川 眞敏
松川 眞敏
この記事の監修者
医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
https://e-implant-tokyo.com/smile-implant/

現在では、インプラントをする前に一般的なレントゲンやCTを撮る歯医者がほとんどです。

しかし、患者さんによっては、「インプラントをするときにCTは撮らなかった」という人もいるかもしれません。

 

そういった話を聞くと、「治療費を余計に取られている」「無駄な検査をされている」と不安に感じる人もいると思います。

 

そこで今回は、CTの必要性について解説していきます。

 

歯医者によっては、CT撮影をしないところもあります。

 

この記事を、インプラントをするときにはCTを撮る歯医者にするのか、それともCTを撮らない歯医者にするのかを、参考にしてください。

目次

1CTとは?

CTとは、撮影した画像を立体的(3次元)に確認できる機器のことです。
CTには、医療用CTと歯科用CTがあり、歯医者では歯科用CTを設置しています。

歯科用CTは、医療用CTとは違い短時間のX線照射で、歪みの少ない鮮明な画像で見ることができます。

 

他にも、あごや歯、口腔領域や関節などを、さまざまな角度で確認できるのがCTの特徴です。

 

このように歯科用CTは、インプラント治療の的確な診断をするために欠かせない検査のひとつになっています。

1−1:歯科用CTは安全?

お口全体を撮影するレントゲンや歯科用CTでは、X線の放射線を使用します。

 

患者さんによっては、放射線による被ばくが体に影響がないか気になる人も少なくありません。

 

下の図では

 

・日常で浴びる放射線の量

・飛行機で日本からニューヨーク間を往復したときの放射線量

・歯科用CTを使用したときの放射線量

 

の3つの放射線量を比べています。

 

日常で浴びる放射線の量 飛行機で日本〜NYを往復 歯科用CTの使用
約1.5~2.4ミリシーベルト 0.2ミリシーベルト 0.1ミリシーベルト

 

日常で浴びる放射線量に比べて、歯科用CTの撮影での放射線量は、約100分の1以下で微量になります。

 

そのため、歯科用CTの放射線が人体に影響することはほとんどなく、安全性が高い機器といえるでしょう。

 

参考資料:東京歯科医師会から引用

2インプラント治療で必要な情報

インプラントは、あごの骨の中に人工歯根(インプラント)を埋めて、その上に被せ物を取り付けていきます。

 

インプラントをあごの骨の中に埋めるには、外科手術が必要です。

そのため、インプラントをするときには、次のような情報が必須になります。

 

・骨の幅

・骨の高さ

・骨の形態・密度

・血管や神経の位置

・上顎洞の位置

 

これらについて、詳しく解説していきます。

2−1:骨の幅

あごの骨には、幅(厚み)があります。
骨の厚みがどのくらいあるかで、使用するインプラントの太さが決まります。

骨の幅が把握できないと、適切なインプラントを選ぶことはできません。

 

骨の幅に対して、太いインプラントを埋めてしまった場合には、骨からインプラントがはみ出てしまう恐れがあります。

2−2:骨の高さ

骨の高さは、インプラントを支えるために必要です。

特に、歯を失った原因が歯周病の場合には、骨が溶けてしまい高さが足りないことがあります。

 

しかし、骨の高さはCT画像でしかわかりません。

 

一般的なレントゲン画像は、引き伸ばされた状態なので、正しい骨の高さを把握することができません。

 

正確な骨の高さを確認せずにインプラントをすると、他の組織を傷つけてしまうことがあります。

2−3:骨の密度・形態

人によって目の大きさや眉毛の濃さなどが違うように、骨の形や密度にも違いがあります。

例えば、骨粗しょう症の人は、骨密度が低く内部がスカスカな状態になっていることがあります。

 

この骨の状態でインプラントを入れると、骨を突き抜けて金属の部分が歯茎に露出する可能性が高いです。

 

また、インプラントを埋めたとしても骨としっかり固定せず、すぐに抜けてしまう恐れがあります。

2−4:血管や神経の位置

歯の周りには、多くの血管や神経が存在しています。
特に、下の奥歯から前歯にかけて下歯槽神経(かしそうしんけい)という管があります。

 

下歯槽神経の正確な位置を把握せずに圧迫したり傷つけたりすると、唇や歯茎などに痺れや麻痺の症状が出ることがあります。

2−5:上顎洞の位置

上顎洞とは、目の下から鼻の横あたりまでにある空洞のことです。
上あごにインプラントをする場合には、上顎洞の位置の把握が重要です。

上顎洞と骨の間には、シュナイダー膜という薄い膜があります。

 

インプラントがこの膜を破って上顎洞内に突き抜けてしまうと、上顎洞炎を引き起こす可能性が高いです。

 

上顎洞炎になると、鼻のあたりに強い痛みが出たり、インプラントを入れた部分から膿が出たりします。

 

特に上あごの歯を失うと、骨が薄くなるスピードが速くなります。

 

上顎洞と骨の厚みが薄い状態で手術をすると、インプラントを失敗するリスクが高くなりやすいです。

3レントゲンでインプラントの診断はできない?

歯医者で撮る一般的なレントゲンだけでインプラントができる、できないの判断をするのは難しいです。

なぜならレントゲンでは、拡大した状態で画像に変換されるので、神経や血管などの位置を正確に把握するのが難しいからです。

 

そもそも一般的なレントゲンは、2次元の画像で確認できるのが特徴です。

CTのように立体的ではなく、レントゲンは平面的にしか画像表示できません。

 

そのため、インプラントを入れる周辺の骨の厚みや密度などを、確認することはできません。

 

他にも、2次元で撮影すると、歯が影になって骨が溶けている部分が隠れてしまうなど、診断に必要な情報を見逃してしまう恐れがあります。

 

特に、インプラントは外科手術をするので、正しい診断が安全性や正確性に大きく関わってきます。

 

正しい診断をするには、詳細な情報が必要です。

 

しかし、レントゲンでは、インプラントを安全にするだけの情報を得ることはできません。

3−1:インプラントの成功率とCTの関係性

インプラントの成功には、CTは欠かせないのが現状です。

 

2007年に発表された論文では、インプラントの手術前にCT撮影をすることで治療の正確性が高くなると結論付けています。

 

つまり、CTはインプラントの成功率を高めるのに効果的だということです。

 

また、厚生労働省の歯科インプラント治療のためのQ&Aでは、安全にインプラント治療をするための画像検査として、CT撮影は有効だと発表しています。

4インプラントはCTを撮らなくてもできる?

インプラントは、CTを撮らなくても治療をすることが可能です。

しかし、その場合には、歯科医師の経験や勘で治療を進めることになります。

 

それでインプラントが成功すればいいかもしれませんが、同時に失敗するリスクが高くなります。

 

現在では、歯科用CTを導入している歯医者が多く、インプラント治療をする前にCT撮影するのが一般的です。

 

歯科医師の経験や勘に頼りすぎた、正確性や安全性に欠けるインプラント治療をしているケースは、少なくなっています。

5インプラントをするときにCT撮らないリスク

インプラントをする前にCT撮影をしない場合には、次のようなリスクがあります。

 

・インプラントが失敗しやすい

・後遺症が残る可能性がある

 

それぞれについて、解説していきます。

5−1:インプラントが失敗しやすい

CTで失った歯の周りを確認せずにインプラントをすると、失敗に終わるケースも少なくありません。

例えば、前歯にインプラントをする場合には、インプラントを埋める角度が少しでもズレていたり、インプラントの太さに対して骨の厚みが足りなかったりすると、歯茎から金属の部分が露出することがあります。

 

その結果、見た目が悪くなるだけでなく、細菌感染しやすい状態になります。

最悪の場合には、インプラントが自然に抜け落ちる可能性が高いです。

 

また、CTを撮らない場合には、手術時に思っていたより骨が足りない、レントゲンには写っていなかった病巣があったといったトラブルが起きたときにすぐに対処できず、失敗することもあります。

 

事前に骨の量や周辺の状態が正確に把握できていれば対処でき、インプラントを安全に成功させることにも繋がります。

5−2:後遺症が残る可能性がある

レントゲンでは、画像が拡大して表示されるので、正確な位置や角度を確認することはできません。

例えば、下あごの前歯の骨の中には、オトガイ神経が存在します。

 

この神経をインプラント手術時に傷つけてしまうと、痺れや麻痺を引き起こす可能性があります。

 

痺れや麻痺の症状が出た場合には、専門の治療をすることで改善します。

 

しかし、症状の改善には個人差があり、人によっては長期的に治療が必要になったり、麻痺が残ったりすることもあります。

6インプラントをするときはCT撮影が必要

CTは、インプラントの成功に欠かせない検査のひとつです。
特に、インプラント治療で必要な次のような情報は、CTでしか得ることができません。

・骨の幅

・骨の高さ

・骨の形態・密度

・血管や神経の位置

・上顎洞の位置

 

インプラントは外科手術が必要で、手術に対して不安な人もいると思います。

 

不安を少しでも減らして、安全にインプラントをするためにも、事前にCTを撮るのがおすすめです。

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