- この記事の監修者
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医療法人社団「朋優会」理事長。歯科医師・インプラント専門医。国際インプラント学士会(I.C.O.I.)メンバー。米国インプラント学会(A.O.)アクティブメンバー。欧州インプラント学会(E.A.O.)メンバー。O.S.I.アドバンスドトレーニングコース 講師。
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インプラント治療を受ける際に「なるべく早くインプラントを入れたい」と考える方は多いのではないでしょうか。一般的にインプラントは抜歯から数ヶ月経過後に埋め込みますが、場合によっては、その日のうちにインプラントを入れる「抜歯即時インプラント」ができます。
この記事では、抜歯即時インプラントの詳細や抜歯即時インプラントができる人・できない人の違いなどを解説します。
目次
- 1.抜歯即時インプラントとは
- 1‐1.抜歯即時インプラントの概要
- 1‐2.抜歯即時インプラントの流れ
- 2.抜歯即時インプラントのメリット
- 2-1.術後の腫れや痛みが少ない
- 2-2.治療期間の短縮や費用の節約ができる
- 2-3.その日のうちに歯の機能を回復できる場合がある
- 2-4.歯槽骨の減少を防げる
- 3.抜歯即時インプラントのデメリット
- 3-1.適用できないケースが多い
- 3-2.感染リスクが高い
- 3-3.対応できる歯科クリニックが限られている
- 4.抜歯即時インプラントができる人の特徴
- 5.抜歯即時インプラントができない人の特徴
- 5-1.重度の歯周病
- 5-2.周辺のあごの骨の量が少ない
- 5-3.抜歯する部分に重度の感染がある場合
- 5-4.抜歯後の穴のサイズが適合しない場合
- 6.抜歯即時インプラントは負担を減らせるけれど、できない人も多い
1.抜歯即時インプラントとは
「歯が折れてしまった」「歯がぐらぐらする」といった理由でこれから抜歯する場合、通常のインプラント治療ではなく、抜歯した後すぐにインプラントを入れる抜歯即時インプラントという選択肢があります。
ここでは、抜歯即時インプラントの概要や治療の流れを解説します。
1‐1.抜歯即時インプラントの概要
通常のインプラント治療では、歯根を支えるあごの骨である「歯槽骨」や歯肉が回復してから、インプラントを埋め込みます。インプラントを埋め込むタイミングは、抜歯から3ヶ月~6ヶ月ほどです。
抜歯即時インプラントは、抜歯をした直後にインプラントを埋め込む治療法です。歯槽骨などの状態が良好な場合は、その日のうちに人工歯や仮歯を装着します。
以前は難しかったのですが、インプラント技術の進化や高品質のインプラント体の誕生などを背景に、近年は抜歯即時インプラントができるようになりました。
1‐2.抜歯即時インプラントの流れ
抜歯即時インプラントの一般的な治療の流れは、以下の通りです。
(1)検査・診断
抜歯即時インプラントができるかどうか判断するために、骨量や歯周病の有無など詳しく検査します。抜歯即時インプラントは適用範囲が狭く、抜歯してもできない場合が多いので、慎重に判断します。
(2)抜歯
抜歯せざるを得なくなった歯を、可能な限り周囲の骨を残し、歯茎などの組織を傷つけないように丁寧に抜きます。細菌感染を防ぐために、抜歯によりできた穴を丁寧に消毒します。
(3)インプラントの埋め込み
抜歯によりあごの骨にできた穴に、可能な限りサイズがあったインプラントを埋め込みます。サイズが合わない場合は、抜歯即時インプラントができない可能性があります。
(5)インプラントの固定
抜歯によりできた穴とインプラントは、サイズが微妙に異なるため隙間ができます。人工骨などの骨補填材を入れ隙間を埋めて、インプラントを固定します。状態が良好な場合は、インプラントを入れた後すぐに仮歯を入れます。
(6)人工歯の装着
インプラントと骨が結合するまで3〜4ヶ月ほど待ってから、人工歯の土台と人工歯を取りつけ、治療終了です。
2.抜歯即時インプラントのメリット
抜歯即時インプラントの主なメリットは以下の通りです。
2-1.術後の腫れや痛みが少ない
一般的なインプラント治療では、歯肉を切り開いてインプラントを埋め込みます。抜歯即時インプラントの場合、抜歯してできた穴を利用するため、歯肉をほとんど切開せずに埋め込めます。
また、通常は抜歯とインプラントの埋め込み合計2回の外科手術が必要ですが、抜歯即時インプラントでは1回で済みます。
切開が最小限で外科手術回数も少ないため、身体へのダメージがおさえられ、術後の腫れや痛みを軽減できる治療法です。
2-2.治療期間の短縮や費用の節約ができる
抜歯即時インプラントであれば、通常のインプラント治療で必要な抜歯からインプラント手術までの待機期間がありません。3~4ヶ月ほど治療期間が短くなり、通院回数も減らせるため、患者の負担を軽減できます。
また、1回の外科手術で済む分、治療費も安くなるでしょう。
2-3.その日のうちに歯の機能を回復できる場合がある
抜歯したその日のうちに仮歯を装着できる場合もあり、すぐに歯の機能を回復できるのがメリットです。通常のインプラント治療の場合、抜歯からインプラントの埋め込みまで3ヶ月~6ヶ月かかるため、どうしてもその期間は不自由な状態が続きます。
しかし、抜歯即時インプラントであれば、その日のうちに噛む機能や話す機能、見た目がほぼ回復し、快適に生活できる場合もあります。
2-4.歯槽骨の減少を防げる
抜歯した部分の歯槽骨は、時間の経過とともに徐々にやせていきます。歯槽骨が減少すると、歯茎がやせる・陥没する、インプラントを支える力が弱まるといった悪影響があります。
抜歯即時インプラントは、すぐにインプラントを入れるため歯槽骨が減少するリスクが少ない治療法です。
抜歯からインプラント手術の間が空くと、歯槽骨がやせた結果、骨移植や再生療法で骨量を増やさないとインプラントを入れられなくなる場合があります。骨移植や再生療法を行うと、その分、治療期間や治療費の負担は大きくなります。
特に骨量が不足しがちな上顎前歯の抜歯の場合、抜歯即時インプラントのメリットは大きいでしょう。
3.抜歯即時インプラントのデメリット
抜歯即時インプラントの主なデメリットは下記の通りです。
3-1.適用できないケースが多い
抜歯即時インプラントは、歯槽骨の量が充分である、歯周病にかかっていないといったさまざまな条件をクリアしていないと適用できない治療法です。
そのため、抜歯後即時インプラントの予定でも、抜歯後に歯科医師がすぐにインプラントを入れられないと判断し、通常のインプラント治療に切り替えられる場合もあります。
3-2.感染リスクが高い
抜歯をした部分の感染をしっかり除去できていないと、埋め込んだインプラントが感染源になり、歯肉や歯槽骨、他の歯などが細菌感染するリスクがあります。通常のインプラント治療よりも感染リスクが高いため、注意が必要です。
3-3.対応できる歯科クリニックが限られている
抜歯即時インプラントは通常のインプラント治療よりも歴史が浅く、症例実績のある歯科医師は少ないといわれています。
通常のインプラント治療とは異なる注意点も多く、質の高い抜歯即時インプラント治療ができるスキルや経験を持つ歯科医師を探すのは簡単ではありません。
4.抜歯即時インプラントができる人の特徴
抜歯即時インプラントができる人の特徴は、歯肉や歯槽骨の状態などが良好で、抜歯後すぐにインプラントを入れても、しっかり歯槽骨と結合し、トラブルが起きないと考えられる人です。
抜歯即時インプラントができる人の主な条件は、下記の通りです。ただし、他の要因で抜歯即時インプラントができないケースもあるので、まずは歯科医師に相談しましょう。
・インプラントを入れる部分や周辺に歯周病や虫歯などの異変がない
・インプラントを埋め込むのに充分な量の歯槽骨がある
・あごの骨が大きく欠けているなどの異変がない
・治療直後からインプラントと歯槽骨が物理的にしっかり固定できる可能性が高い
5.抜歯即時インプラントができない人の特徴
以下の項目に当てはまる人は、抜歯即時インプラントができない可能性が高いと考えられます。
5-1.重度の歯周病
重度の歯周病の場合、歯肉がやせ歯槽骨が溶けた状態なので、インプラントを埋め込んでも安定しない可能性が高いでしょう。
また、歯周病菌がインプラントの周囲の歯肉に感染することにより、歯周病によく似た病気である「インプラント周囲炎」になるリスクがあります。
インプラント周囲炎は、歯周病よりも早く進行し、歯茎や歯槽骨などの組織を破壊するため、せっかく入れたインプラントが脱落する原因となります。
そのため抜歯即時インプラントをせずに、歯周病治療してからインプラントを入れなければいけません。
5-2.周辺のあごの骨の量が少ない
周辺のあごの骨の量が少ないと、インプラントを入れてもしっかりと固定されず、定着しない可能性があります。
その場合は、再生療法であごの骨の量を充分に回復させてから、インプラント手術を行う必要があります。
5-3.抜歯する部分に重度の感染がある場合
抜歯する部分に重度の感染がある場合、埋め込んだインプラントが感染源となり歯周組織の感染を引き起こす可能性があるので、抜歯即時インプラントには適しません。まずは感染部分を治療して、状態が落ち着いてからインプラントを埋め込みます。
5-4.抜歯後の穴のサイズが適合しない場合
抜歯即時インプラントは、抜歯でできた穴にインプラントを埋め込む施術です。抜歯をしてできた穴がインプラントのサイズと適合しない場合、抜歯即時インプラントができない可能性があります。
このように、抜歯即時インプラントは、適応範囲の狭い治療法です。無理に抜歯即時インプラントを行うと成功率が下がるので、通常のインプラント治療の方が良い場合が多いでしょう。
6.抜歯即時インプラントは負担を減らせるけれど、できない人も多い
抜歯した後にそのままインプラントを埋め込む抜歯即時インプラントは、手術回数が少ない分、身体的・金銭的・時間的な負担をおさえられるインプラント治療です。
しかし、あごの骨の骨量が充分である、重度の歯周病にかかっていないなど、さまざまな条件をクリアする必要があります。
また、比較的新しい治療法で高い技術が要求されているため、対応できる歯科医師は多くありません。
抜歯即時インプラントを希望する場合、実績のある歯科クリニックに相談し、自分が適応するか見極めてもらう必要があります。
残念ながらできない場合も多いですが、メリットの大きい治療法なので、希望する方は一度相談してみましょう。